騙された気がするゼロの使い魔   作:真暇 日間

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2015年クリスマス

 

 才人があのいかれた世界に召喚されて、そして俺があの世界から連れ戻してから数か月。無事に子供も生まれ、すくすくと成長している。

 俺はそんな才人達との生活を守るためにしっかりと働いてそれなりにいい金額を稼ぎ、新しく一戸建てを買ってそこで暮らし始めていた。

 一戸建てとはいっても場所は俺の実家のすぐ近く。それはつまり才人の実家のすぐ近くでもあり、ぶっちゃけ道を挟んだ斜向かいとも言える場所でもある。俺の稼ぎははっきり言ってなかなかのものであり、このご時世でもこのくらいの買い物をポンッとできてしまうのだ。いい仕事に就いたもんだ。

 まあそれも俺に特殊技能があってこその高給取りであり、現状この世界で俺以外に同じことができる存在がいないからこそ成り立っている仕事なのだが、俺がそれをすることができることには変わりないため問題らしい問題はない。

 ……世の中のブラック企業に勤めている者たちから見れば天国のような職場かもしれない。毎日出勤はするがそこまで忙しいわけでもなく、職場全体で仕事の能率がいいため定時に帰ったところで文句を言うものも存在しない。毎日普通に昼休憩が取れるし、企業の大きさからいえば中小企業程度だが儲けの量が凄まじいので給料は大企業のそれにも匹敵。それどころか半年に一度のボーナスもなかなかに多く、有給もよほどのことがなければ普通に通る。そんな職場だ。

 ……まあ、俺は色々あってそんな職場の中でもかなり特殊な場所にいる。魔法を使って全員のステータスを底上げし、さらに体調が悪かったりすれば回復したり、不眠症だと言う奴がいれば状態異常を回復させた上で寝かしつけたり、金の無心をしてくるやつに金の代わりに仕事の斡旋をしたり、仕事がしたいけど雇ってくれる場所が無いと相談してくる奴に色々と叩き込んだ上で会社の下っぱとして人数が必要なところに放り込んだりすると言う仕事で、結構面倒だったりする。

 まあともかく、大切な家族がいる俺としては最高の仕事だったわけだ。まともな人間だったら過労死しかねない仕事量なんだが、俺は元々の身体能力が凄まじいし回復もできる。問題らしい問題はない。

 

 そんな職場だからこそ、こうしてクリスマスに定時で帰ってクリスマスパーティを開くなんてことができるわけだ。いやぁ本当にいい職場だ。

 

「ただいま」

「うはwww帰ってきたwwwおかえりwwwwww」

 

 即座にドアを閉めて場所と表札を確認。……うん、間違いなく俺の家だ。俺と才人の愛の巣だ。うん。少なくとも内藤の家でもなければアホ王弟のいるあの王宮でもない。俺があの世界に呼ばれた訳でもない。

 となると、考えられる結果は幻覚か来訪。幻覚の方が正直嬉しいんだが、あらゆる耐性が一般的な人間の2の50乗倍ある俺がそういった幻覚を見るとは考えづらい。つまりあれは恐らく現実だ。

 そうなると『どうやってこの世界にやって来たのか』と言う話になるが、それはジョゼフが居ればどうとでもなるだろう。俺が置いてきた例の祈祷書には『世界扉』の呪文もあったわけだし、使おうとすれば使えるはずだ。

 それに虚無魔法はかなりファジーな呪文。全く同じ呪文を唱えても目的地をイメージすることで規模や移動場所などをある程度調整することができる。だったらジョゼフが『世界扉』を使えば問題なく来れるはずだ。

 ……つまり、俺が今さっき見たうざいのは幻覚ではない可能性が高い、と……そう言うわけだな。正直幻覚であってくれたほうが嬉しかったりするんだが、そうもいかないらしい。畜生。

 

 もう一度ドアを開けると、そこにはさっき見たばかりのうざい顔と、悪戯が上手く行った時の悪ガキのようなにんまりとした笑顔を浮かべたジョゼフの姿があった。才人に言われたのかどうかは知らないがちゃんと靴は脱いであり、ついでにその靴の数からしてこの二人だけではなくもう数人来ているようだ。

 

「wwwおwwwかwwwえwwwりwwwwww」

「ジョゼフ。なんでこいつを連れてきた。言え」

「家族サービスというやつだ。ちなみにシャルロットは仕事が忙しいから来れないぞ。『王なんてなりたくてなるものじゃない』と言いながら必死に書類に目を通しておったわ」

「手伝ってやれよ」

「手伝ったぞ。半分。『加速』して三秒も使わず終わらせてやったわ」

「……その時のあいつの表情が目に映るようだよ」

「おそらくあっているだろうな」

 

 まあ、ここでそんな話をしていても仕方ないので家に上がる。と言うか元々俺の名義で勝った家なのになんで俺が玄関で立ち話なんぞせにゃならんのだ。

 中に入ってみれば、そこには朝出かける前に準備しておいたクリスマス空間がそのまま出来上がっており、才人がにこにこと笑いながらジップロックに入ってワイン付けにされたおよそ二キロから三キロくらいだろうと思われる牛肉の塊を鍋から引き揚げていた。家庭で簡単に作れるローストビーフの作り方だと聞いたが、こういった祝い事の時にしか使わないな。祝い事で使えるのだから意味がないわけではないが。

 

「ただいま、才人。ケーキ買ってきたぞ」

「おかえり、マサ。こっちも大体準備はできてるよ。なんだかちょっと増えちゃったけど」

「ああ、人数分な。と言うかこれだけ増えたのによく準備できたな?」

「『加速』は便利」

「把握した。まあ、こっちの都合も考えずいきなりやってきたんだからそのくらいのことはさせんとな」

 

 才人と軽く口付けを交わし、それからベッドで寝ている俺の子を覗き込む。どうやら眠っているようだが、きっと暫くすれば起きることだろう。

 ……さて、それじゃあ俺は着替えて、それから才人の手伝いでもしないとな。才人にだけ任せっぱなしというのは性に合わないし、何より暇だ。日本人は仕事中毒だという話があるが、やることがないと暇で暇で死にたくなってくるんだ。仕方ないだろう。隣に才人がいてくれるなら何日でもそのまま過ごせる自信はあるけどな。

 

 まあ、奴らも来てしまったものは仕方ない。色々と手伝いをしている奴もいるようだし、食材に変な混ぜ物をするような奴もいないし、この際しっかりと楽しんでしまえ。もう色々面倒になってきたし、それでいい。

 さっきから才人に色々と教えられながらこの世界の調理器具を相手に四苦八苦しつつこっちの世界の調理法を学んでいるシェフィールドに、家にあった科学の本を食い入るように見つめているイザベラ。テンションがいつも通りおかしいシャルルに、異様におおらかになったジョゼフ。これだけ人数がいるのだから、今日のパーティは楽しいものになるだろう。

 

「……ってか、シャルル。お前さん嫁はどうした」

「シャルロットの手伝いだってさwwwよくできた嫁さんだよwww」

「草生やすなうぜえ」

「草を生やす魔法wwwそんな魔法無い無いwwwなwwwいwwwなwwwいwwwwww」

「……うぜぇ」

 

 こいつ本当にうざい。しかもこっちの限界見極めてやがるから質悪い。ポイント制にしてある程度たまったらぶん殴る方式にするか。

 

「そんなことよりマサ!準備できたよ!」

「ん、おう、わかった」

 

 大量の料理が並べられ、その場にいた全員がコップを持って机の周りに並ぶ。酒は……日本だからな、ここ。

 

「それじゃあ、前略中略後略、乾杯!」

『乾杯!』

 

 俺たちのクリスマスパーティはこれからだ!

 


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