遊戯王ARC-Ⅴ 混沌統べる覇者 -舞網チャンピオンシップ・バトルロワイヤル編- 作:咲夜泪
そうとも限らないようです。修正。
《No.22 不乱健》の効果が空撃ち出来ず、エクシーズ素材の《混沌の黒魔術師》を墓地に落とせなかったのでエクシーズ召喚されたモンスターをドン・サウザンドが《神竜騎士フェルグラント》に書き換えたのだ。
何だ、ドン・サウザンドって良いヤツじゃん!
遊矢のフィールドに並べられているのは5体のモンスター。
攻撃してしまった《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と敢えて守備表示にしなかった《EMアメンボート》――後者のモンスターは攻撃力250で攻撃表示、何かダメージもしくはバトルを無効にするような効果があると思われる。
単純に《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を《邪神ドレッド・ルート》で殴れば終わりだが、これまたこのデュエルの趣旨には合わないし、どうせアクション魔法で回避されるだろう。
――故に『混沌』が構築するべきは、遊矢の中に渦巻く憎悪すら凌駕する極限の絶望。
足りない。まるで足りない。今のままでは全く足りない!
『混沌』は信じて、自らのデッキのトップに手を掛ける。何故かそのトップのカードが――権現坂昇と方中ミエルの眼には光り輝いているように見えた。
『――私のターン、ドロー!』
全身全霊を賭けて引き当てたカードは――。
『フィールド魔法『ブラック・ガーデン』発動、このカードはこのカード以外の効果でモンスターが召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスターの攻撃力を半分にし、そのモンスターのコントローラーから見て相手のフィールド上に『ローズ・トークン』(植物族・闇・星2・攻/守800)1体を攻撃表示で特殊召喚する』
フィールド上に黒き薔薇の茨が駆け巡り、遺跡エリアを侵食して彩る。
キーカードは見事引き当てた。後は――全てを破壊するまでである。
『魔法カード『死者蘇生』と《混沌の黒魔術師》の効果でループし、3体の《混沌の黒魔術師》を並べて『死者蘇生』を手札に加える』
???
LP4000
手札6→7→6
《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800→1400→700→350/守2600→1300→650
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800→1400→700→350/守2600→1300→650
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800→1400→700→350/守2600→1300→650
魔法・罠カード
伏せカード四枚
フィールド魔法『ブラック・ガーデン』
「な、何で攻撃力2800の《混沌の黒魔術師》の攻撃力が350に……!? そのフィールド魔法の効果で攻撃力2800が半減して1400になり、《邪神ドレッド・ルート》の効果が適用されて700になるんじゃないのか!?」
権現坂昇の驚愕はまさに全員の意見そのものだった。――そう、全員、使っている張本人である『混沌』も含めてである。
『《邪神ドレッド・ルート》の効果は永続効果、『ブラック・ガーデン』は召喚・特殊召喚時に発動する誘発効果――物凄くややこしいのだが、効果処理的に《混沌の黒魔術師》が特殊召喚され、《邪神ドレッド・ルート》の永続効果で半分の1400になり、それから『ブラック・ガーデン』の効果が入り更に半分の700、攻撃変化が起きた事で《邪神ドレッド・ルート》の永続効果が更に適用されて半分の350となる』
『は?』と、誰もがその謎の裁定に頭を傾げる。
『……《邪神ドレッド・ルート》と『ブラック・ガーデン』がフィールドにある状態で召喚・特殊召喚したら元の攻撃力が8分の1になるという認識で良い。更に攻撃力変化が起きたら足した後に《邪神ドレッド・ルート》の半減効果が最終的にまた入る、永続効果だからね――小数点以下になった数字は四捨五入する事となる』
つまりは《邪神ドレッド・ルート》と『ブラック・ガーデン』が同時に存在する時、攻撃力2800のモンスターすら攻撃力350となり――此処で魔法カードとかで攻撃力を500アップさせたとしよう。350+500=850、其処から永続効果の半減が入って425となる。半分の250あがって600にはならないのである。
「ま、まるで意味が解らないぞ!?」
『大丈夫だ。私も良く解らない! 使う度に頭が痛くなるんだよなぁ、これ――』
仮に――遊矢が《邪神ドレッド・ルート》の攻略の決め手としていた《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》をエクシーズ召喚したら――邪神の効果で攻撃力2500→1250、黒庭の効果で625、攻撃力変化した事で再び邪神の永続効果が入って313(小数点を四捨五入して切り上げ)、此処から《ダーク・リベリオン》の効果発動し、《邪神ドレッド・ルート》の攻撃力半分を吸収すると《邪神ドレッド・ルート》の攻撃力は2000だが、《ダーク・リベリオン》の攻撃力は313+2000=2313からの半減で1157になる……!
『伏せカードオープン、魔法カード『貪欲な壺』発動、墓地のモンスターカード5枚をデッキに戻し、2枚ドローする。私は《クリッター》《No.107 銀河眼の時空竜》《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》《No.22 不乱健》をデッキに戻し、2枚ドローする』
???
LP4000
手札6→8
《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻350/守650
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻350/守650
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻350/守650
魔法・罠カード
伏せカード4→3枚
フィールド魔法『ブラック・ガーデン』
先程の1ターンの内に消費した4枚のエクシーズモンスターが全てエクストラデッキに帰還してしまい――。
『私はレベル8の《混沌の黒魔術師》2体でオーバーレイ、ランク8《No.107 銀河眼の時空竜》、エクシーズチェンジ《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》! 効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を破壊する!』
「っ、《ルーンアイズ》ッ!」
今度はアクション魔法を拾う間も無く、《ギャラクシーアイズ》の破壊効果が成立してしまい、呆気無く破壊される。
『ランクアップエクシーズチェンジ、ランク9《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》』
わざわざ《ダークマター》まで上乗せしたのは攻撃の為ではない。元より4000→2000→1000→500まで弱体化している《ダークマター》で2回攻撃したところで、攻撃力400の《ローズ・トークン》にすら200ダメージしか食らわせられない。
此処で重要なのはこの《ダークマター》の属性が『ギャラクシーアイズ』系の派生に関わらず、闇属性である事。その一点に尽きる。
『魔法カード『死者蘇生』を発動! オーバーレイユニットとして墓地に落ちた《混沌の黒魔術師》を復活させて『死者蘇生』を回収する。私の場にモンスターが特殊召喚された事により、君の場に『ローズ・トークン』が1体特殊召喚される』
《ルーンアイズ》の後釜に『ローズ・トークン』が一体生える。だが、これで場にレベル8のモンスターが2体並んだ。
『そして2体の《混沌の黒魔術師》でオーバーレイ! 現われろランク8《聖刻神龍-エネアード》!』
現れるは燃え盛る炎纏いし黄金の龍、全てを灰燼にしかねない見た目は見た目だけでは無く――。
『《聖刻神龍-エネアード》の効果発動、1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、自分の手札・フィールド上のモンスターを任意の数だけ生贄にし、生贄にしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する。私は《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》と《聖刻神龍-エネアード》と手札の《黒き森のウィッチ》と《異次元の女戦士》の4体を生贄に、《EMヘイタイガー》と《EMアメンボート》と《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《星読みの魔術師》を破壊する!』
???
LP4000
手札8→6
《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
魔法・罠カード
伏せカード3枚
フィールド魔法『ブラック・ガーデン』
「なっ――!?」
榊遊矢
LP1500
手札5
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻800→400/守800→400
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMトランプ・ウィッチ》PS4
《竜穴の魔術師》PS8
自分の身さえリリースして焼き尽くされた場に残ったのは《ローズ・トークン》一個だけであり――。
『《黒き森のウィッチ》の効果発動、墓地に落ちた時、守備力1500以下のモンスターをデッキからサーチする。私は守備力1000の《ダーク・アームド・ドラゴン》をサーチする』
また全ての《混沌の黒魔術師》が墓地に落ち――『混沌』の展開はまだ終わらない。
『『死者蘇生』と《混沌の黒魔術師》、蘇生ループを三回繰り返して《混沌の黒魔術師》3体並べて『死者蘇生』回収、君の場に新たに『ローズ・トークン』3体を特殊召喚し――2体の《混沌の黒魔術師》でオーバーレイ、《神竜騎士フェルグラント》。これで君の場は『ローズ・トークン』で埋まった』
榊遊矢
LP1500
手札5
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻800→400/守800→400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻800→400/守800→400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻800→400/守800→400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻800→400/守800→400
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMトランプ・ウィッチ》PS4
《竜穴の魔術師》PS8
???
LP4000
手札6→7
《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800→1400→700→350/守2600→1300→650
《神竜騎士フェルグラント》ランク8/光属性/戦士族/攻2800→1400→700→350/守1800→900→450 ORU2
魔法・罠カード
伏せカード3枚
フィールド魔法『ブラック・ガーデン』
一瞬にして遊矢の場のモンスターゾーンが《ローズ・トークン》に埋め尽くされる。
――何だ、この状況は。
遊矢の中に渦巻く憎悪さえ、この絶望を前に足踏みする。
5体ものモンスターで迎撃準備を整えていたのに関わらず、1ターン掛からずに全滅し、更には攻撃力400のトークン5体に占領される?
ペンデュラムモンスターは倒されても墓地にではなく、エクストラデッキに行き、次のターンでのペンデュラム召喚でフィールドに舞い戻れる。だが、モンスターゾーンが埋まっていては呼び戻せるものも呼び戻せない……!
『――バトル。《邪神ドレッド・ルート》の攻撃』
「ア、アクション魔法『回避』発動ッ! フィールドのモンスター1体を対象にし、そのモンスターの攻撃を無効にする!」
先程から拾っていたアクション魔法のカードで《邪神ドレッド・ルート》の即死級の一撃を回避し――バトルフェイズを終了させる。
『――ボチヤミサンタイ、私の墓地に闇属性モンスターは《サイバーポッド》《黒き森のウィッチ》《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》のみ。よって《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚する』
本来は場に出ただけで相手の場を最低三体破壊出来るフィニッシャーだが、今回の役割は其処ではない。
『《神竜騎士フェルグラント》の効果発動、1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを一つ使い、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動。このターン、対象のモンスターの効果が無効になり、このカード以外の効果を受けない。私は《神竜騎士フェルグラント》を選択する』
どうでも良い事にオーバーレイユニットを消費し、《混沌の黒魔術師》を即座に墓地に落とす。
『――『死者蘇生』、《混沌の黒魔術師》を復活させて『死者蘇生』を回収。そして2体の《混沌の黒魔術師》でオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。現われろランク8《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》!』
骸骨に成り果てた騎士が登場するも、これまた今回のデュエルの趣旨に合わなかったが故にただの生贄要員として浪費される事となる。
『――《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》と《神竜騎士フェルグラント》と《ダーク・アームド・ドラゴン》の3体を生贄に、モンスターを裏守備表示でセット。ターンエンドだ』
???
LP4000
手札7→6→5
《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
裏守備表示の伏せカード
魔法・罠カード
伏せカード3枚
フィールド魔法『ブラック・ガーデン』
榊遊矢
LP1500
手札5
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
《ローズ・トークン》星2/闇属性/植物族/攻400/守400
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《EMトランプ・ウィッチ》PS4
《竜穴の魔術師》PS8
権現坂昇と方中ミエルが絶句する中、遊矢は膝を折り崩して地につけ、目の前の『絶望の化身』を見上げた。
「……これでどうしろ、と……? こんなの、デュエルじゃない――! オレの信じるデュエルは……!」
何たる無慈悲、何たる横暴・暴虐、こんな非道極まるデュエルが、許されて良い筈が無い……!
それは今までの怒りと憎悪に支配されたものとは違う、別の種類の絶望の怨嗟だった。
『――これがデュエルさ。敵のフィールドを徹底的に蹂躙し、無慈悲に叩き伏せて勝利を掴み取る。その過程は無数にあれども手段は選ばなくて良い』
――けれども『混沌』は否と語る。
――《混沌帝龍》で一掃してから《クリッター》か《黒き森のウィッチ》でサーチした《八咫烏》でダイレクトアタックしてなぶり殺しにするのも良し。
――《魔導サイエンティスト》で特殊召喚した融合モンスターを片っ端から《カタパルトタートル》で射出して爆殺するのも良し。
――サモサモキャットベルンベルンDDB DDB。
――《氷結界の龍 トリシューラ》を3体並べて相手フィールドを全て除外したり、《シューティング・クェーサー・ドラゴン》を3体並べて大満足するのも良し。
――1ターン目で《封印されしエクゾディア》五枚揃えたり、エラッタ前の『冥府と現世の逆転』で相手デッキを全破壊したり、ガエルドライバーで全射出したり、《他力本願竜》と『黒庭』を使って相手の場にローズ・トークン五体揃えてから《重爆撃禽ボム・フェネクス》で爆殺したり、20ターンかかる筈の『終焉のカウントダウン』で1ターンキルしたり、満足したり――幾らでも酷い事を出来るのがデュエルである。
『――さぁどうする? この布陣、生半可な力押しでは敵わないぞ。怒りと憎しみで思考放棄してないで必死に考えろ、そして創造しろ、己の勝利の道筋をッ! 君が立ち向かうのは過去最大の試練だ。考え得る限り最強最悪の敵だ。全力を発揮しても尚余る『最凶』が相手だッ! さぁかかってこい! 全てを打ち破って挑んで来い! ――まだドローもしてないのに膝付いて諦めるなど、それでも決闘者かッ!』
『混沌』は全力で吼えて叱咤する。鼓舞する。切望する。
何がこの『混沌』を突き動かすのだろうか、無貌なる身で何をそんなに憤っているのか、見るからに怒っているのか、遊矢にはまるで解らない。
――そう、『混沌』はいつだって決闘者に『期待』する。
『――勇気を持って一歩踏み出し、どんなピンチでも決して諦めず、あらゆる困難にチャレンジする。私を前に倒した決闘者はそれを『かっとビング』と言っていたかな?』
――『混沌』はそれを我が事のように誇らしげに語る。
決闘者にとって敗北とは惨めで覆せない汚点なのに、大切な宝物を披露するように――。
『混沌』はいつだって『期待』している。
禁止制限の全てを無視した最強デッキ、これを打ち倒してくれる決闘者が必ずいると――世界から否定されてデュエルする事すら出来なくなり、世界から忘れ去られたカード達と、戦って勝ってくれる決闘者がいると『期待』する。
――そうして『混沌』に勝利した決闘者はまさに、『混沌』の希望として今もその胸に色褪せずに光輝いている。
「かっと、ビング……?」
勇気を持って一歩踏み出す。
どんなピンチでも決して諦めない。
あらゆる困難にチャレンジする。
それが『かっとビング』というのならば――遊矢の心に、深く染み渡った。
『――さぁ見せてみろ、少年。君の可能性を、君が信じる『デュエル』を……! 私は信じている。君はこの程度の『絶望』など簡単に吹き飛ばしてくれると。これほどの『逆境』、これほどの『絶体絶命の窮地』を乗り越えられたのならば――それは絶対に『面白い』に違いない! これを乗り越えた先に掴んだモノは、最高なまでに『楽しい』に違いない!』
――その言葉を聞いた瞬間、遊矢は何で縮こまって膝を折っていたのだろうと、さっきまでの自分自身に呆れを抱いた。
何とも絶望的な状況だ、自分のフィールドは『ローズ・トークン』に埋め尽くされてろくに動けない。
相手のフィールドには他のモンスターの攻撃力は半分にする癖に攻撃力4000の最上級モンスターがいる。
この状況は誰がどう見ても絶体絶命であり――これを覆したのならば、それは間違い無く最高の『エンターテイメント』に違いない!
「――Ladies and gentlemen! お待たせしました、これより榊遊矢によるエンターテイメントデュエルをお見せします!」
自らの闇を振り切り、遊矢は笑顔を取り戻す。
その瞳に宿っていた狂気の色は完全に消え失せていた。
「おぉ、遊矢……!」
「ダーリン……!」
途中までは人選を間違えたかと後悔さえしたが、見事遊矢は正気を取り戻し――それを見た『混沌』は優しく微笑んだ気がした。
「ご覧の通り、私の場のモンスターゾーンは全て『ローズン・トークン』に埋め尽くされ、後続を召喚する事も出来ない有り様。この絶体絶命の窮地から奇跡の大逆転を行ってみたいと思います!」
回りに回って、全身全霊を籠めてデッキのトップに手を添えて――。
「それでは――ドロー!」
そして引いたカードは、逆転の一手に成り得るカードだった。
「来たっ! まずはそのフィールド魔法『ブラック・ガーデン』を文字通り吹き飛ばしてご覧に入れましょう! 速攻魔法『サイクロン』発動!」
フィールドに巻き起こる竜巻が全てを絶望の茨に拘束する黒庭を吹き飛ばし、強風で散った黒薔薇の花弁は風の赴くままに咲き誇るように散りばめられて黒い花吹雪となる。
「おぉ!」
「綺麗……!」
たださくっと除去するだけで此処までの演出に――『混沌』もまた権現坂昇と方中ミエルと同じように見惚れる。
『……これで面倒な計算は無くなったか。――ふっ、このフィールド魔法を除去しても、君の場には『ローズン・トークン』が5体、それでどう展開するつもりだっ!』
前半部分は心底安堵しながら小声で呟き、後半部分は敢えて意図的に説明調で言ってフラグのお膳立てしておく。
「さぁさぁ、お立ち会いあれ! これより行われますのは伝説のエンタメ決闘者・榊遊勝の息子、私め榊遊矢による奇跡のショーです!」
そして遊矢は走る。《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と駆け巡った時に、この場所に配置されたアクション魔法のカードはほぼ把握している。
その中にこの状況を一転させるカードは一枚だけ存在している――!
遺跡エリアの古びた柱に突き刺さっているアクションカードを、遊矢は走り抜けながらキャッチする。
このカードは本来ハズレ枠、アクション魔法のカードを一枚しか手札に加えれない以上、こんな使えないカードを手札に引いてしまっては次のアクションカードを引く事すら不可能になってしまう。
だが、今はこの効果が何よりも恋しい――!
「アクション魔法『マッド・ハリケーン』! 自分フィールドのカードを全て持ち主に戻す! ――1、2、3!」
一斉に5体の《ローズン・トークン》が、ペンデュラムゾーンに居た2体のペンデュラムモンスター達も吹き飛び――デッキに戻っていく。行き場の無いトークンは消滅するだけである。
『――そんなアド損でしかない魔法でこの状況を一気に片付けるとはね……!』
これで場は切り開けた。あとは自らの手で開いた道を押し通るだけである……!
「そしてぇ! スケール3の《相克の魔術師》とスケール8の《相生の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」
ペンデュラムゾーンに二人の魔術師が立ち上っていく。
「これでレベル4~7のモンスターが召喚可能! ――再び揺れろ、魂のペンデュラム! ペンデュラム召喚! 現われろ、オレのモンスター達よ! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、《星読みの魔術師》、《EMシルバー・クロウ》、《EMラクダウン》!」
榊遊矢
LP1500
手札5→6→5→3→1
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500→1250/守2000→1000
《EMシルバー・クロウ》星4/闇属性/獣族/攻1800→900/守700→350
《EMラクダウン》星4/地属性/獣族/攻800→400/守1800→900
《星読みの魔術師》星5/闇属性/魔法使い族/攻1200→600/守2400→1200
魔法・罠カード
無し
ペンデュラムゾーン
《相克の魔術師》PS3
《相生の魔術師》PS8
手札から新たに2体、そしてエクストラデッキから2体がフィールドに帰還し、あれだけ焼き尽くしたフィールドに、モンスターの群れが一気に立ち並ぶ。
『ほぼ全滅した状況から一瞬で立ち直るとは、中々に魅せてくれるね。――だが、《邪神ドレッド・ルート》の効果は健在、君のモンスター全員の攻撃力は半減、これでどうやって攻略してくれるんだい?』
だが《邪神ドレッド・ルート》の攻撃力は依然4000のまま。到底超えられない壁として立ち塞がっている。
「――お楽しみは、これからだぁっ!」
「オレは、レベル4の《EMシルバー・クロウ》と《EMラクダウン》でオーバーレイッ!」
『ペンデュラムからエクシーズ……!』
なるほど、確かにペンデュラム召喚ならば同じレベルのモンスターを一気に並べるのは容易極まる事。
だが、融合とは違ってオーバーレイユニットにしたモンスターはペンデュラムモンスターとしてエクストラデッキにはいかず、無名のカードとして墓地に落ちる。
墓地を使わずにエクストラデッキを第二の手札として活用するペンデュラム主軸のデッキには相性の悪い筈だが――。
「――漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ! エクシーズ召喚! 現れろ! ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
現れたのは激戦区のランク4、何処か《オッドアイズ》と似通った外見を持つ黒き竜だった。
「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い、相手フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値分の攻撃力をアップする! トリーズンディスチャージ!」
『――何だとぉっ!?』
《ダーク・リベリオン》の両翼が開かれ、《邪神ドレッド・ルート》から力を吸収して膝をつく。
全てのモンスターの攻撃力・守備力を半減させた『邪神』の攻撃力が半分の2000になるのは皮肉以外の何物でもない。
『――《邪神ドレッド・ルート》の元々の攻撃力は4000、効果で半減して2000、そして永続魔法『ブラック・ガーデン』が無い今、《邪神ドレッド・ルート》の全てのモンスターの攻撃力・守備力を半減する永続効果はあらゆる攻守変動効果の処理を行った最後に適用される……!』
「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の元々の攻撃力は2500、其処から2000足して4500、それから半減しても2250! これで《邪神ドレッド・ルート》を上回った!」
『邪神』は苦悶の相を浮かべ、『ダーク・リベリオン』は狂気喝采する。今こそ愚鈍なる力に反逆し、誓いを果たす時――!
「――バトル! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で《邪神ドレッド・ルート》を攻撃!」
『……後出しされた《邪神アバター》の他に《邪神ドレッド・ルート》を殴り倒せる脳筋がいるとは驚きだが――甘いぞ、少年!』
バトルフェイズ、に入る前に、『混沌』は伏せカードをオープンする。
『速攻魔法『月の書』発動! フィールドの表側表示のモンスター1体を裏側守備表示にする! 私は《邪神ドレッド・ルート》を選択! これで《邪神ドレッド・ルート》の攻撃変動は無くなったぞ。……いや、それどころか今度は守備状態のコイツを攻略しなければなるまい。――例えオーバーレイユニットを二つ補給してさっきの効果を発動しても守備状態の《邪神ドレッド・ルート》を突破するには程遠いぞ!』
これでこのターン、《邪神ドレッド・ルート》を撃破する事は出来ない。――遊矢はにやりと笑う。
「――それはどうかな?」
今はバトルフェイズ前のスタートステップ、そのタイミングで『混沌』が速攻魔法の『月の書』を使った以上、相手側の遊矢にチェーンするタイミングがある。
遊矢は自身の足元を全力で踏み抜き、その途端、足元にあったアクションカードが高く舞い上がり――宙に浮いたカードをキャッチした遊矢はそのまま発動させた。
「アクション魔法『透明』発動! 自分フィールドのモンスター1体を選択して発動する。このターン、そのモンスターは相手の効果の対象にならず、効果も受けない!」
『何だと、それじゃ……!?』
「《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃力は《邪神ドレッド・ルート》がリバースしても4500のままだ! 反逆のライトニング・ディスオベイッ!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》は透明になりながらも、紫の稲妻を迸らせて突進し、《邪神ドレッド・ルート》を正面から撃破するに至る。
戦闘において無類の強さを誇る《邪神ドレッド・ルート》がまさかの戦闘破壊される事態に、誰よりも心躍らせたのは『混沌』だったに違いない。
『――見事だ、少年。それと元に戻ったのかな?』
「あ、ああ、……アンタは、一体何なんだ……?」
『何、通りすがりの決闘者というヤツさ』
いや、通りすがりの決闘者でも人外はそういないと突っ込もうとした処で止める。
『さて、このデュエルでの目標は達成出来た。――だが、勝敗は別だ。此処からは本気でやらして貰うぞ?』
その『混沌』の宣言に、遊矢も負けじと笑う。
「何かおかしくなりかけたのを止めてくれた事は感謝するけど、それとこれは話が別だっ!」
『当然さ、全力で来い! ……それで、続けて攻撃するかね? しても良いんだよ?』
「……うわぁ、絶対さっきのと同じような厄介なモンスターだよな、その裏守備表示っ!」
遊矢は笑い、『混沌』もまた表情すら作れないけど確実に笑う。
勝負はこれからだと二人の決闘者は更なる可能性に手を伸ばし続けたのだった――。
「――あれ?」
目が覚めると、いつの間にか夜中であり、何で自分が倒れていたのか、遊矢にはまるで解らなかった。
「遊矢っ! 目覚めたか……!」
「ダーリン! 良かったぁ~!」
「権現坂!? ミエルまで……? あれ、オレは――」
誰かとデュエルした。したのだが、それが誰だったか、覚えていない。
あんなにも鮮烈な誰かを忘れるなんて在り得ないと思いたいが――思い出せないものは思い出せなかった。
「あの仮面の決闘者達三人とデュエルした後、遊矢は倒れていたんだ」
「――三人とのデュエル? あ、あれ、ちょっと待ってくれ。その後に誰かとデュエルしていなかった?」
権現坂昇と方中ミエルはお互いの顔を見合い、等しく首を傾げた。
「? いや、遊矢が何処かに向かおうとしている最中、遺跡エリアの柱が唐突に倒壊してな、寸前に庇ったのだが――」
そんな筈は、と言おうとした処で、記憶に靄が掛かったような感触に襲われ、何とも釈然としない。
だが、意識を失っていない二人が言うのだから間違いは無く――考えている内に遊矢はその違和感を忘却するのだった。
『――楽しかったぁ。伏せていた《邪神イレイザー》は大して活躍せずに消し飛んだし、更に繰り出した《邪神アバター》は観戦していた決闘者の乱入で普通に殴り殺されるとはねぇ』
時代は進んだものだと、人間など存在出来ない『超空間』の只中にて、人の形しかしていない『混沌』は噛み締めるように呟く。
フィールドに存在する全てのモンスターより必ず攻撃力が100上になる《邪神アバター》を殴り殺せるモンスターなど、後出しした《邪神ドレッド・ルート》ぐらいだと思っていたが、攻撃力よりも守備力の方が高く、尚且つ表側守備表示のまま攻撃出来て守備力を攻撃力扱いとして計算する《超重荒神スサノ-O》には目を疑ったほどだ。
そして要の『死者蘇生』をそのカードの効果で除外されてしまい、非常に苦しく楽しい展開になったものだ。
『しかし、偶には役に立つもんだね《ラーの翼神竜 球体形》――ん? ドヤ顔しているお前じゃないぞ。さっさと不死鳥形態実装しろや』
その後もてんやわんやだった、珍しく儀式召喚を使う幼女も参戦するわ、今度は二番目に戦った女の子二人に忍者二人(何方も双子だろうか?)、胡散臭いエンタメ決闘者に自意識過剰の(自称)エンタメ決闘者、この世界には絶滅種と思われたD-ホイーラー、果てには先程倒したエクシーズ使いと融合使いも乱入だ。あれほど混迷極めた愉快なデュエルはそう無いだろう――。
――『混沌』は元々世界から否定された存在。一度世界から立ち去れば、『混沌』の存在を覚えていられる者は誰も存在しない。
そして『混沌』が干渉した事象は全て無かった事にされ、世界は正しく修正される。その度に『混沌』は自身が異物である事を強く自覚する。
その事だけは規格外の存在極まる『混沌』の力を持ってしてもどうにもならない。
……少しだけ悲しくなるが、それでも『混沌』の虚ろな胸には数々の決闘者との戦いの記憶が一切色褪せずに残っている。
『――おや、今度のカードは……なぁにこれぇ? 『四征竜』と『魔導書の神判』? そりゃこんなぶっ壊れ性能、禁止制限に叩き込まれて当然じゃないか――泣くな泣くな、自業自得とは言え、使い手は選べないからなぁ……しかし、これ、私のデッキに入れれるだろうか?』
数々の決闘者から貰った『希望』を胸に、『混沌』は同じく世界から否定されたカード達を拾い集めながら夢を見る。
『――また遊びに行こうか。今度はちゃんと物語の終了後だ――』
いつしか楽しくデュエル出来る事を待ち望んで、禁止制限になった強大なカード達をも倒せる決闘者との遭遇を切に望んで――。
遊戯王ARC-Ⅴ 混沌統べる覇者――完。