遊戯王ARC-Ⅴ 混沌統べる覇者 -舞網チャンピオンシップ・バトルロワイヤル編-   作:咲夜泪

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07/覇王と覇者

 

 

 ――二人の決闘者とのデュエルを堪能した後、近くで異質な気配を感じた。

 

 最早懐かしいまでの強い気配に惹かれ、赴いてみれば――濃密な憎悪、悲哀、激情を溶岩の如く滾らせた、負の感情に完全に飲まれた少年の決闘者が居た。

 

『……ふむ、これまた見事な闇堕ちだね。まぁあれぐらいの年頃の少年には良くある事だが……何か違和感があると思ったら――まだ物語が完結してないのか?』

 

 ――その一際強い光と闇を見て、彼こそがそうなのだと悟る。

 

 だとすれば、初めて自分のような存在を直接覗き込んでしまった者は1d10/1d100ぐらいのSAN値チェックが起こっていたのかもしれない。

 

 『三幻神』『三邪神』『邪神』『大邪神(歩く猥褻物))』『三幻魔』『破滅の光』『超融合で12次元滅ぼしかけたヤンデレ』『自分の伏せカードも見通せない自称神(笑)』『地縛神』『デュエルマッスル全開の超官』『機皇帝』『時械神』『バリアン』『何かスケールだけでかい小物神様』『《伝説のD-ホイーラー》で《チームサティスファクション》のメンバーで《シグナー》で《ダークシグナー》で《イリアステル三皇帝》の一人で《バリアン七皇》の一人で《伝説のタッグデュエリスト》のデュエルマシーン』と一度でも相対した事があるのならば、自分など良くある存在の一つなのだが――何とも言えない気持ちになる。

 もし、そうならば発展途上の決闘者に物凄く可哀想な事をしてしまった気がする。

 

 ふと気づけば、あの鬼気迫る少年の近くに見事なデュエルマッスルの男と小さな幼女がおり――。

 

「なっ、何だ御主は……!?」

 

 先に気づいた白い学ラン姿の男が語りかけてくる。

 決闘者相手にまともな会話になる事は極めて異例だが、最初から諦めて努力を怠る訳にもいかない。『混沌』は会話フェイズに乗り出した。

 

『通りすがりの決闘者さ。それ以上でもそれ以下でもない。……まぁ私が何なのかはどうでも良い話だ、何でD-ホイールと合体しないのかぐらいの些細な疑問だ。――ちょっと均衡が崩れていて危険な状態かな? あのままでは周囲どころか本人が保たないだろう』

 

 暴走寸前の少年に指差し、白い学ラン姿の男は表情を歪ませる。

 見た処、二つの心どころか正体不明の三つ目の心があるように見える。あれでは心の均衡が壊れて自滅する勢いだが――。

 

「どうすれば良いのだ!? この男、権現坂、友の為ならば何でもする所存だ!」

「わ、私も、ダーリンの為なら何でも……!」

 

 ――友の為に身を挺する覚悟を受け取り、なればこそ鏡に過ぎない『混沌』は打開策を述べる。

 

『あの少年の怒りの全て受け止めれば良い。思う存分発散させれば風船が萎むように元通りになるだろう。――だが、今の少年なら何もかも破壊してしまいそうだね。全て壊した後に元通りになっても救いは無いな……ふむ、そうさな、そういう趣向のデュエルは初めてかな?』

 

 『混沌』が前に出てデュエルディスクを構える。

 とんでもない邪気を発する少年の一片の光無き暗黒物質じみた眼が、人の形しかしていない『混沌』を捉える。

 

『確かこうだったかな――戦いの殿堂に集いし決闘者達が』

 

 横槍が入って中途半端なデュエルになってしまったが、あの時、自分を追い詰めた少女は確か、最初にこう言っていた筈だと『混沌』は口にし、その言葉に反応したのか、トマトみたいな色合いの髪をした少年は続きを口にする。

 

「――っ、モンスター共に地を蹴り、宙を舞い、フォールド内を駆け巡るッ!」

『見よ、これぞ、デュエルの最強進化系、アクション――!』

 

 

『――デュエルッ!』

 

 

 先行は『混沌』が取る。

 ……悪くない手札だが、そもそも目的が違う。

 このデュエルでの達成条件は単なる勝利ではない。

 

『――私の先行。私はモンスターをセットし、ターンエンド』

 

 ???

 LP4000

  伏せカード

 魔法・罠カード

  無し

 

 凡そ下策、その出だしは後攻1ターンキルして下さいと言わんばかりの不準備さだった。

 

「なっ、伏せカードも無しか……!?」

『まぁ何とかなるんじゃないかな?』

 

 白い学ランに赤い鉢巻、リーゼントで下駄という時代を間違えているような男が心配そうにするが、『混沌』は「大丈夫だ、問題無い」と答える。

 

「――オレのターン、ドロオオオオォー!」

『お、満足式ドロー』

 

 次元を超えた満足式ドローに感動を覚えつつ、トマトみたいな髪の色をした少年はその瞳にあらん限りの負の感情を漲らせて、感情に突き動かされるままデュエルする。

 

「オレはッ、スケール4の《EMトランプ・ウィッチ》とスケール8の《竜穴の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル5から7のモンスターが召喚可能ォ!」

 

 物凄く邪悪な笑顔でのプレイングに、白い学ランの男と幼女はぎょっとするが、『混沌』の方は本日二度目のペンデュラムに期待を寄せていた。

 

「――揺れろ、魂のペンデュラム。天空に描け、光のアーク! ペンデュラム召喚! 現れろ、我が下僕のモンスター達よ!」

 

 大きく揺れる天空のペンデュラムから現れた光は二つ。

 

「《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! 《星読みの魔術師》ッ!」

 

 レベル7とレベル5のモンスター……初めて場に召喚されたペンデュラムモンスターという事以外は、何ら共通点が無さそうに見える。

 レベルも同じじゃないのでエクシーズも出来ないし、チューナーモンスターがいないのでシンクロにも繋げれない。

 何か別のギミックでもあるのだろうか、と『混沌』は訝しむ。

 

『……うーむ、さっきも一度だけ見たが、手札消費が激しすぎる気がするんだが、このペンデュラム召喚。ペンデュラムスケールにセッティングするカードにドロー効果が付くようなカード無いんかね?』

「暢気に分析している時ではない! この流れはまずいぞ……!」

 

 2体のモンスターを特殊召喚するのに4枚もかかっていてはやれる事もたかが知れる。

 はたまた、こんなアド損を補える何かがあるのか――あの邪悪な嘲笑からは、何か絶対あるだろうと『混沌』は身構える。

 

「ペンデュラムゾーンにセッティングされている《EMトランプ・ウィッチ》のペンデュラム効果、1ターンに1度、自分フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

 これまた先程デュエルした少女と同じように融合魔法を使わずに融合召喚が可能なモンスターであり――。

 

「――神秘の力操りし者、眩き光となりて龍の眼に今宿らん! 融合召喚! 出でよ! 秘術振るいし魔天の龍! 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

 先程のオッドアイズの赤い竜の面影を色濃く残した、背中に金色の円環を背負った竜が猛々しく咆哮する。

 

『ペンデュラムから融合……! って、ちょっと待った。なんで融合素材に使ったカードが墓地に行かず、エクストラデッキに行っている?』

「――ペンデュラムカードはフィールドにカードとして存在している状態から墓地に送られる場合、代わりにエクストラデッキに表側表示で加えられる……!」

 

 それに答えたのは隣で観客となっている白い学ラン姿の男であり、『混沌』の方はその独自裁定に『墓地に行かずエクストラ? アイエェェェ、ナンデ!?』とジェネレーションギャップからの混乱の極地に陥る。

 

『何だと? ……あれ、これってもしかして表側表示でエクストラデッキに行ったペンデュラムモンスターは――』

「ペンデュラム召喚で何度でもフィールドに召喚される! だが、今は……!」

 

 なるほど、もしそうならば幾らでも融合し放題であり、尚且つ場からモンスターが一掃されても容易に立て直してくる類のデッキなのかと分析し――。

 

「《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》はフィールドのペンデュラム召喚されたモンスターを素材として融合召喚に成功したターン、相手の効果を受けない。更に、レベル5以上の魔法使い族モンスターを素材にした事により、《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は1度のバトルフェイズに3回までモンスターに攻撃出来る!」

 

 その効果を聞いた『混沌』は『あ、超やべぇ』と内心焦る。

 更にトマトみたいな赤と緑色の髪の色をした少年は竜の背中に乗り、どしどしと地を蹴る竜が疾走し、遺跡エリアの人の手の届かぬ高所の配置物に置かれていたアクション魔法カードを見事に拾って即座にデュエルディスクに差し込む。

 

「アクション魔法『フレイム・パワー』発動! 自分フィールドのモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで400アップさせる! またこのターン、対象のモンスターが戦闘で守備表示モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの守備力分のダメージを相手に与える!」

 

 ……そのアクション魔法は本来火山エリアに配置されていたものだが――何処かの誰かが馬鹿げた『神』を召喚した為に、こんな遠方の遺跡エリアまで飛翔していたという事実に、その張本人たる『混沌』は知るよしもない。

 

「――バトル! 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で伏せカードを攻撃ッ!」

『……リバースオープン《サイバーポッド》効果発動、このカードがリバースした時、フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。その後、お互いにデッキから5枚めくり、その中のレベル4以下のモンスターを全て表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。それ以外のカードは全て手札に加える』

 

 物凄く嫌々という感じに裏守備表示にしていたモンスターを明かす。

 このカードは普段では禁止カードの名に相応しいパワーカードだが、現在は1ターンキルを招きかねない最悪の一手だった。

 

「なっ! 今の『フレイム・パワー』の効果を得た《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》には最悪の一手……!?」

『《サイバーポッド》の効果で破壊されない上に、モンスターが相手ならば残り2回攻撃可能、裏守備表示で特殊召喚しても大ダメージは避けられないし、1体も特殊召喚出来なかったら相手側の特殊召喚されたモンスターのダイレクトアタックが決まるね。うん、高確率で死の川を渡る事になる』

 

 後半の説明には自棄っぱちの色しかなく、それでも『混沌』は勢い良く自身の生死を決めるラストドローになりかねない5枚を全力でドローする。

 

 

『5枚ドロー!』

 

 

 『混沌』の引いたカードの中には召喚出来るモンスターが1体もいなかった。

 

『私の引いたカード5枚にレベル4以下のモンスターは1体も居ない。よって5枚全てを手札に加える!』

「オレが引いたカードの五枚にレベル4以下のモンスターは《EMヘイタイガー》と《EMアメンボート》! よってこの2体を攻撃表示で特殊召喚し、3枚手札に加える!」

 

 榊遊矢

 LP4000

 手札5→6→4→2→5

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000→3400/守2000

 《EMヘイタイガー》星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守500

 《EMアメンボート》星4/水属性/昆虫族/攻500/守1600

 魔法・罠カード

  無し

 ペンデュラムゾーン

 《EMトランプ・ウィッチ》PS4

 《竜穴の魔術師》PS8

 

「むぅ、1ターンキルを免れたが、1ターン目から2200ダメージ……!」

 

 アクション魔法『フレイム・パワー』の効果を得た《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の連続攻撃で死の川を渡る未来は避けれたが――。

 

「――やれェッ! 《EMヘイタイガー》と《EMアメンボート》でダイレクトアタック!」

『相手の直接攻撃宣言時、手札から《バトルフェーダー》を特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる』

「――っ、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 榊遊矢

 LP4000

 手札5→4

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3400→3000/守2000

 《EMヘイタイガー》星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守500

 《EMアメンボート》星4/水属性/昆虫族/攻500/守1600

 魔法・罠カード

  伏せカード1枚

 ペンデュラムゾーン

 《EMトランプ・ウィッチ》PS4

 《竜穴の魔術師》PS8

 

 最初から《バトルフェーダー》を握っていた『混沌』はほっと一息付く。

 確率は低かったが、あの効果で低級モンスターが召喚されていた日には即死する未来も大いに在り得た。

 

「……はぁ~、危なかったぁ……!」

「……背筋が凍りついたぞ」

 

 二人の反応はまさに今、負の感情が剥き出しになっている榊遊矢とデュエルする当人のものであり――。

 

『ひやひやドキドキ、一手一手で心躍らせるのがデュエルの本髄さ。私のターン、ドロー!』

 

 ???

 LP4000

 手札4→9→10

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 魔法・罠カード

  無し

 

 引き当てたカードをちら見し、『混沌』はどうでも良い事を口にする事にした。

 メインフェイズ前の自分語りフェイズである。

 

『さて、退屈な昔話を聞かせよう。――私はこうなる前の私の事を断片的にしか覚えていない。何故こんな人外に成り果てているのか、それすら思い出せない』

 

 何か決定的な選択の機会はあったような気がするが、今となってはそれすら思い出せない。

 気づけば、名前も外見も過去も忘れ去り、人外極まる体になって数多の次元を彷徨う身となっていた。

 

 ――嘗てあっただろう絆も愛も何もかも、『混沌』には無かった。

 誰も自分を知らないし、誰も『混沌』が誰だったのか知り得ないだろう。致命的なまでに『混沌』は世界から断絶していた――。

 

『本当に最初は『人間』だったのかさえ今ではあやふやだ。本人のモノと認識出来ない記憶なんて最早意味を成さないからね』

 

 ――次元の狭間を一体どれほどの歳月を孤独に彷徨っただろうか。

 人ならぬ身に宿るは人ならぬ精神、時間感覚さえ失いながらも光を求めて彷徨い続けた。求めた光の正体さえ忘れたまま、一切の救いすらなく――。

 

『――故に、この身にあるのは最初から持っていた魂のデッキと、成り果てた後の戦いの記憶だけだ。私と戦い、私に敗れ、私に勝った決闘者とのデュエルこそ今の私を構築する全要素だ』

 

 ――そう、それだけは『混沌』に成り果てた決闘者の胸に残る、確かなモノ。

 鮮烈なまでに刻まれた戦いの記憶こそ、盲目暗愚の空洞に過ぎぬ『混沌』を突き動かす原動力、希望の力であり――。

 

 

『――燃え滾る怒りと憎しみに眼を曇らせる少年に声を高らかに伝えよう。デュエルはそんなものではないと、デュエルは心から楽しむものだと――』

 

 

 表情すら無い『混沌』は、今、確かに――優しく微笑んだような気がした。

 

『私は魔法カード『苦渋の選択』を発動、デッキから5枚カードを選び、相手に選択させた1枚を手札に加え、残り4枚を墓地に送る。私の選択するカードはこれだ』

 

 《混沌の黒魔術》

 《混沌の黒魔術》

 《混沌の黒魔術》

 《クリッター》

 《黒き森のウィッチ》

 

「――っ、オレは《黒き森のウィッチ》を選択する!」

 

 瞬時にこの5つのカードの危険性を察した榊遊矢は最も被害が少ないであろう《黒き森のウィッチ》を選択し、残りの4枚は墓地に落ちてしまう。

 

『墓地に落ちた《クリッター》の効果発動、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。私は《エフェクト・ヴェーラー》を選択する』

 

 命綱兼このデッキ唯一のチューナーモンスターを手元に確保しつつ――。

 

『――手札から魔法カード『死者蘇生』を発動。《混沌の黒魔術師》を蘇生させる。特殊召喚された《混沌の黒魔術師》の効果発動、召喚に成功した時、墓地の魔法カード1枚を手札に加える。私は『死者蘇生』を選択する』

 

 墓地に落ちている《混沌の黒魔術師》は3体、勿論、この程度では終わりはしない。

 

『『死者蘇生』を発動、2体目の《混沌の黒魔術師》を蘇らせて『死者蘇生』を回収、発動して3体目の《混沌の黒魔術師》を復活させて『死者蘇生』を回収する』

「『死者蘇生』によるループコンボだと!?」

 

 ???

 LP4000

 手札4→9→10→9→10→11

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 魔法・罠カード

  無し

 

 瞬く間に星8の最上級モンスターが3体並ぶ。攻撃力2800と並大抵のモンスターでは太刀打ち出来ない数字だが、《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は3000、些か打点不足である。ならば――。

 

『そして私はレベル8の《混沌の黒魔術師》2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。現れろランク8《No.107 銀河眼の時空竜》!』

 

 嘗ての彼のデッキでは理不尽なパワーカードで対処する処だが、今は違う。星を束ねて更なる力へ進化する事が出来る。

 それは彼のデッキにとって在り得ざる可能性、過ぎたる力の果てに世界から否定され、徹底的に略奪された進化の可能性だった。

 

 ???

 LP4000

 手札11

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 《No.107 銀河眼の時空竜》ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500 ORU2

 魔法・罠カード

  無し

 

 攻撃力3000、そのドラゴンは《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力と並ぶ。

 

「エクシーズ使いだったか……! だが、『No.(ナンバーズ)』……?」

 

 白い学ランの男、権現坂昇は聞き慣れぬカテゴリーに首を傾げる。

 

『更に、《No.107 銀河眼の時空竜》1体でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! エクシーズ・アーマーチェンジ! ランク8《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》!』

 

 ???

 LP4000

 手札11

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 《混沌の黒魔術師》星8/闇属性/魔法使い族/攻2800/守2600

 《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3500 ORU3

 魔法・罠カード

  無し

 

「一気に攻撃力4000……!」

 

 一瞬にして『ギャラクシーアイズ』は《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力を抜き去って行く。

 

『《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》の効果発動、1ターンに1度、オーバーレイユニットを使って相手フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する。私は《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を選択する』

 

 おまけに破壊効果と驚愕する間も無く、《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が体を仰け反って遊矢を飛ばし、弾丸じみた勢いで駆け抜けた遊矢の手には、アクションカードが握られていた。

 

「――アクション魔法『ミラーバリア』発動! フィールドのモンスター1体はカードの効果では破壊されない!」

 

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の周囲に透明なバリアのようなものが現れ、《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》の破壊効果は遮られ、忌々しげに威嚇する。

 

『……不発に終わったか。まぁ良い。魔法カード『死者蘇生』を発動、オーバーレイユニットとして墓地に落ちた《混沌の黒魔術師》を蘇生させ、また『死者蘇生』を回収して2体の《混沌の黒魔術師》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろランク8《No.22 不乱健》!』

 

 ???

 LP4000

 手札11→10→11

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3500 ORU3→2

 《No.22 不乱健》ランク8/闇属性/アンデット族/攻4500/守1000 ORU2

 魔法・罠カード

  無し

 

「1ターンで攻撃力4000と4500のエクシーズモンスターが並ぶだと……!?」

『まだまだ! 更に《ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン》をオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップエクシーズチェンジ! ランク9《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!』

 

 ???

 LP4000

 手札11→10→11

 《バトルフェーダー》星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

 《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》ランク9/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守0 ORU3

 《No.22 不乱健》ランク8/闇属性/アンデット族/攻4500/守1000 ORU2

 魔法・罠カード

  無し

 

 攻撃力こそ4000と変わっていないが、守備力は0となり――ドラゴンとして異形の姿はまさに、攻撃一辺倒で全てを費やしたが故の形状だった。

 

『《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果発動、オーバーレイユニットを一つ使い、このターン、1度のバトルフェイズで2回までモンスターに攻撃出来る!』

 

 さっきのお返しとばかりにオーバーレイユニットを使用した《ダークマター》はその真価を発揮しようとしていた。

 

「『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と同じように複数回攻撃効果だと……!?」

「それじゃダーリンのLPは――!?」

 

 遊矢の場には攻撃表示のモンスターが3体、攻撃力3000、1700、500、2体のモンスターの攻撃が通ってしまえば合計ダメージは1500+2300+3500の7300のオーバーキル、逆に1ターンキルである……!

 

『――バトル!』

「罠カード『エンタメ・フラッシュ』! このカードは自分フィールドに『EM』モンスターが存在する場合に発動出来る。相手フィールドの表側攻撃表示モンスターは全て守備表示になり、そのモンスターは次のターンの終了時まで表示形式を変更出来ない!」

 

 《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》と《No.22 不乱健》が守備表示になってしまい、守備力0と守備力1000という防御の低さを晒す事となる。

 

 ――此処で『混沌』が4500打点とした認識していない《No.22 不乱健》の効果、手札を一枚墓地に送ってこのカードを守備表示にする事により、選択したカードの効果をエンドフェイズまで無効化する事が出来るが――このデュエルの趣旨に合わない。

 

 力をより強大な力でねじ伏せても、あの少年の闇は払えまい。ならばこそ――。

 

『……ふむ、攻撃出来るモンスターがいないな。バトルフェイズを終了する』

 

 1ターンキルにならなかった事に安堵すれば良いのか、それともあの状態の遊矢を早急に倒せなかった事を悔やめばいいのか、権現坂昇と方中ミエルは僅かに困惑した。

 

『そして私は通常召喚権をまだ使っていない。私は《バトルフェーダー》と《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》と《No.22 不乱健》、3体のモンスターを生贄にし――モンスターを裏側守備表示でセット。《バトルフェーダー》は自身の効果で墓地には行かず除外される。カードを4枚セットしてターンエンドだ』

 

 ???

 LP4000

 手札11→10→6

  裏守備表示の伏せカード

 魔法・罠カード

  伏せカード4枚

 

「3体のモンスターのリリースによるアドバンス召喚だと? しかもそれを裏側守備表示に――あのカード、何かある……!」

 

 裏守備表示にも関わらず、3体のモンスターをリリースしてアドバンス召喚されたあのカードから発せられる邪気を権現坂は感じ取り――。

 

「オレの、ターンッッ!」

 

 榊遊矢

 LP4000

 手札4→5

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 《EMヘイタイガー》星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守500

 《EMアメンボート》星4/水属性/昆虫族/攻500/守1600

 魔法・罠カード

  無し

 ペンデュラムゾーン

 《EMトランプ・ウィッチ》PS4

 《竜穴の魔術師》PS8

 

 同様の何かを感じつつも、身に渦巻く憎悪のままに遊矢は攻撃宣言をする。

 

「バトルッ! 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で攻撃ッ!」

 

 最大限の攻撃で正体不明のカードに攻撃し、されども《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は弾かれ――。

 

 

『――私が召喚していたのは《邪神ドレッド・ルート》だ』

 

 

 そして姿を現したのは暴虐を形にしたような白い悪魔の化身、『三幻神』を諌める為にペガサスが創造したという『三邪神』の一柱だった。

 

 ???

 LP4000

 手札11→10→6

 《邪神ドレッド・ルート》星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000

 魔法・罠カード

  伏せカード4枚

 

「攻撃力・守備力が4000のモンスターだと!?」

「あ、あれ、ダーリンの《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力・守備力が……!」

 

 攻撃力3000だった《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は――。

 

「1500!? そんな、半減……!?」

 

 榊遊矢

 LP4000

 手札5

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000→1500/守2000→1000

 《EMヘイタイガー》星4/地属性/獣戦士族/攻1700→850/守500→250

 《EMアメンボート》星4/水属性/昆虫族/攻500→250/守1600→800

 魔法・罠カード

  無し

 ペンデュラムゾーン

 《EMトランプ・ウィッチ》PS4

 《竜穴の魔術師》PS8

 

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》だけではなく、遊矢の場にいる全てのモンスターの攻撃力・守備力が半減する。

 

『――このモンスターは特殊召喚出来ない。自分フィールドのモンスター3体を生贄にした場合のみ通常召喚出来る。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる』

 

 まさに『神』としか形容しようのない桁外れの永続効果が明らかとなり――。

 

『――これが『三邪神』の一柱。今、この場を支配するのは『神』への恐怖ッ! この《邪神ドレッド・ルート》を戦闘で叩き割るなら攻撃力8000以上必要だ』

 

 ただ我武者羅に力を振るっていた遊矢の顔に、初めて焦燥感が灯った。

 

「ぐぅぅぅ……!?」

 

 榊遊矢LP4000→1500

 

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃が跳ね返り、まさかの2500もの反射ダメージが遊矢に入る。

 即座にバトルフェイズを打ち切り――考える。あの規格外としか言えない《邪神ドレッド・ルート》をどう攻略する……?

 

 このターンさえ凌げば――愚鈍なる力への反逆者、遊矢の持つエクシーズモンスターで戦闘破壊可能となり、一気に畳み掛けれる。

 

「――揺れろ、魂のペンデュラム! オレのモンスター達よ!」

 

 エクストラデッキから《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《星読みの魔術師》が守備表示で特殊召喚され――。 

 

「……《EMヘイタイガー》を守備表示に変更し、ターンエンド……」

 

 相手の攻撃対象にされた時にこのカードを表側守備表示にして相手の攻撃を1回無効にするEMアメンボート以外は守備表示に変更する。

 

 榊遊矢

 LP4000→1500

 手札5

 《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000→1500/守2000→1000

 《EMヘイタイガー》星4/地属性/獣戦士族/攻1700→850/守500→250

 《EMアメンボート》星4/水属性/昆虫族/攻500→250/守1600→800

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500→1250/守2000→1000

 《星読みの魔術師》星5/闇属性/魔法使い族/攻1200→600/守2400→1200

 魔法・罠カード

  無し

 ペンデュラムゾーン

 《EMトランプ・ウィッチ》PS4

 《竜穴の魔術師》PS8

 

 




 本日の事故要因カード

 邪神ドレッド・ルート
 効果モンスター
 星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
 このカードは特殊召喚できない。
 自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。
 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 このカード以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

 三邪神の一柱。近年稀に見るほど特殊裁定がややこしいカード。
 今まで書き上げるのに時間がかかったのはコイツの裁定のせい。
 召喚妨害・除去・破壊・除外、なんでもござれの環境では一瞬足りても生存出来無い癖に特殊召喚出来ない。
 だが、その半減能力は最終的に効果がかかる永続効果であり、あるカードと組み合わさる事で最高にちんぷんかんぷんな裁定になる。

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