束先輩が藍色のバニーガール姿で突撃してきた。胸がたぷたぷ揺れててグッド、魔女っぽいミニスカート姿で連れられて来たくーちゃんも少し照れ気味で可愛いよね。
「トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうよ!」
あぁ、そういや今日ハロウィンでしたね……机の上に置いてあるお煎餅を束先輩に渡す。
「では、お疲れさまでしたー」
「あれ!? 終わっちゃった!?」
「束様の急に仕掛ければかーくんさんは何も準備できてずにイタズラされるしかない計画が頓挫しましたね」
「くーちゃんそれ言ったら駄目だよ!」
また、なんとも束先輩らしい計画を……くーちゃんにもお煎餅とお茶をあげる。
しかし、くーちゃんの魔女っ子はともかく束先輩はなんでバニーガールなんですかね? もうちょっとあったでしょうに。
「このウサ耳をつけたまま出来そうな仮装がこれしか思いつかなかったのさ!」
「天災と呼ばれてるのにそれしか思いつかなかったんですか……痴女のコスプレですかね?」
「バニーガールってさっきかーくん自身言ってたじゃん!?」
「というよりも束先輩は普段からコスプレしてるようなものですよね」
「そう言われるとそうですね」
メカチックなウサ耳に不思議の国のアリスを思わせるドレス。子供心忘れない格好で、賢さという点を除けば頭のなかも子供心忘れない感じな束先輩だし。そんなところが、とても“らしくて”いつも楽しいと思う。
「うぎぎ、貶されてる気もするけどそう言われるとなんとも言いにくい」
「言葉を選ばなければ社会的に不適合ですもんね、私たちは」
「むしろこれが普通だとすれば大変な世の中に……」
「くーちゃんはともかく束さんやかーくんがいっぱいと考えるとこれは酷い」
微塵も譲らず我を通そうとする性格と、面倒事からは即行で逃げる性格しかいない世界。なんて世紀末?
そんなことを話してると警報ではなくチャイムが鳴る。
人が来たときに常に警報だと侵入者とややこしいので、知り合いが来るとチャイムが鳴るよう改造したらしい。
というのも、
「トリックオア――ファンタ!」
マドッチが何故か当然のようにラボを見つけて訪ねてくるからだ。たまにくーちゃんや俺も教えたりするけど、明らかに教える前に来たりする。
「むしろファンタオアファンタだ! ファンタくれなきゃ泣くぞ」
「イタズラじゃなくて泣くの?」
「目の前で女子高生に泣かれてみろ、気まずいぞ?」
「くーちゃん、倉庫からファンタ取ってくるわ」
「マドカさんが何気にキツいイタズラを考えてたことに驚きです」
全くだよ、ことファンタになると本気度が変わるよね。
そんなマドッチの仮装はポップなドレスに、カボチャの髪飾り。ハロウィン風なお洒落って感じだ、どこかの外に出られない格好してる先輩も見習ってほしい。
マドッチにファンタを一箱渡し、ついでに茶菓子も出して駄弁り始める。
「因みに一夏にも仕掛けてきた、ファンタが出てこなかったので泣いてやったら……うん、いつもの専用機持ちたちにあらぬ疑いをかけられ鬼ごっこが始まっていたな」
「いっくんもまた不憫な……」
「菓子は出てきたのだがファンタを出さない一夏が悪い」
「お菓子出てきたのにマドッチ泣いたの!? 余計にいっくんが可哀想だ……!」
これに関しては束先輩の言う通りだ……マドッチはファンタじゃないと駄目なんだ! ってプリプリ怒ってるけど一夏には黙祷を捧げとく。強く生きてね、今度また遊ぼう。
「でもどうしてハロウィンはカボチャがよく飾られるのでしょうか?」
「んー、それはね」
バニー姿な束先輩のハロウィン講義が始まった。こんな姿な人が先生だとPTAから抗議が来そう。
さて、なんでもハロウィンの発祥は、古代ケルト人らしい。もともとは秋の収穫や悪魔祓いの儀式として行われていて、当初はカボチャではなくカブだったらしい。
けど、ハロウィンがアメリカに伝わったときに当時のアメリカはカブに余り馴染みがなかった。
じゃあ、代わりにたくさん獲れていたカボチャを使っちまおうってことでカボチャを使うようになったそうな。
「うーん、無駄な雑学」
「聞いといてそれ!?」
「だが、馴染みがないので剰ってるものを使ってしまえというのはなんともアメリカ人らしいな」
「日本人ならもう少し似た代用品を使うか、それ自体を作り始めそうですね」
「束さんなら元を越えるものをつくるね!」
大きなカブとかつくって農家のおじいさんを困らせそうですもんね。まだまだカブは抜けませんってアレみたいな。
「それで収まればまだまだ可愛いよ、我ながら!」
「自分で言うことじゃない……!」
「言われる前に言ってしまえの精神だよ!」
この頃束先輩が開き直ってきて大変。俺やくーちゃんが大変なんじゃなくて、世界が大変になる。
と、マドッチの携帯がヴィーヴィーと震える。無視しようとしたマドッチだが携帯が震え続ける。メールかな?
めんどくさそうにマドッチは携帯を見る、すぐに床に置いた。
「どうしたの?」
「なんでもない、ただの一夏からのヘルプメールだ!」
「そんな迷惑メールだみたいに言わずに、助けてあげようよ」
「このファンタを飲みきったらな」
「一箱あるんですが……帰った頃に織斑一夏はミイラ男の仮装になってそうです」
「仮装ですむかなぁ?」
束先輩が心配そう、俺も少し心配だけどマドッチ曰くたまによくあるらしい。たまになのか、よくあるのかどっちかわからない。
「フルメンバーに追われることがたまにで、個人に終われることはよくあるな。一夏は気は利くくせして鈍感なのが駄目だ」
「さらにいっくんはモテるからねぇ」
「ギャルゲーなら操作する人がいて、そろそろルートに入って誰かと結ばれる頃合いなのだが……」
マドッチのたとえが逸脱だけど、現実はそうもいかない。
よくメールが送られてくるけど女の子に興味がないわけでもなさそうなのだ。胸が当たって照れるとか言ってたし許さん。
「かーくん本音漏れてる」
「男の子ですもん、仕方ないです」
まぁ、頻繁にそんなこと言われればなんか、羨ましさ通りとして呪いかなにかかと思うけどね?
「一夏はギャルゲーというかRPGのキャラの特性にモテモテがあるかわりに、デメリットで解除不可の鈍感がある感じじゃないかな?」
「厄介すぎるぞ」
と、ハロウィンからだいぶん話が逸れたけど何でだっけ?
「おお、メールで『へろぶ、はぁんたやるからたふけてうれ!』と来たぞ」
「マジもんのピンチの予感……!」
「全部ひらがなだよ……」
「そしてこの誤字のしかた入っては画面を見てる余裕すら無くなってきてますね」
「女の涙は武器とはホントだったのだな」
「こう意味じゃないと思うよマドッチ」
たしかにかなりの武器になってるけどさ。一夏の周りの専用機持ちの子は7人だっけ? マドッチ一人の涙で国ひとつ滅ぼせる戦力が動いてる。こう考えると凄いや。
「さて、ファンタも貰えるようなので一夏を助けにいくとするか」
「ういじゃあね、一夏によろしく」
「ああ! ファンタありがとう!」
そう言ってマドッチは帰っていった。
「まどっち、確実にいっくんからファンタ引き出すためだけに泣いたよね」
「半端じゃない執念です……」
逆にファンタのためだけに助けにいくのもマドッチらしいけどね。
「よし、じゃあちょっとハロウィンらしくお菓子でもつくってみますか。俺たちでもシフォンケーキとかならつくれる……はず」
「ネットでレシピ調べてくるよ!」
「じゃ、調理器の準備を」
「お手伝いします」
このあとシフォンケーキを炊飯器で作ろうとしたのだけれど、束先輩が最後の最後にナニか入れた。
結果、元の体積の数十倍になったケーキが炊飯器から溢れ返ったり、束先輩の方を見るとテヘペロしたりしてたけど楽しいハロウィンを過ごすこととなった。
「片付けが大変ですよね、これ」
「というより食べきれません」
「ちーちゃんたちに配りにいこうか!」
――IS学園がケーキで溢れかえるまであと少し。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
夕方にハロウィンなことを思い出しせっかくなので書いてみました……久々の上代、ちょっと違和感ありますが楽しんでいただければ幸いです。
ハロウィン半分に一夏の受難半分みたいな話になってしまって申し訳ない。
新しく、一夏がナニか振り切ってる作品二話目投稿したのでよかったらご一読。