我輩は逃亡者である   作:バンビーノ

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番外編 友達コレクション

 かーくんさんが束様に連れられてきてから、もうずいぶんとたつ気がする。

 しかし思い返せば私は彼についてほとんど知らない。楽しいことが好きだといった漠然としたことは知っている、けど嫌いなものや趣味や生まれもなにも知らないのだ。

 もしかしたらバッタ系みたいな改造人間でも、私みたいな生まれかもしれない。まぁ、それでも驚きませんが。なんと言ってもかーくんさんですから。

 

 

「といったことを考えたのですが束様はかーくんさんが好きなものや苦手なことは知りませんか?」

「そうだねー、ラーメン屋をまわってたりしてたみたいだけどその割には食べるとこ見たことないよね……」

「今思えばかーくんさんって謎だらけです」

 

 私にとっては束様より不思議まみれなかーくんさん。もはや珍獣ならぬ珍人の域です。

 

「よし! なら調べてみよう! さー、くーちゃん行くよ!」

「え、あのかーくんさんに聞いたり、束様が得意なパソコンで調べたりはしないんですか?」

「かーくんのことがネット上で集まるデータだけでわかる気がしないんだよ……取り敢えずかーくんの知り合いあたりに聞いて回ろー!」

 

 それもそうですね、かーくんさんというより人間、データでわかる情報なんて些細なことが多いものです。では、かーくんさんの謎を暴きにいざ行きます!

 ――かーくんさんには少し出掛けると書き置きを残しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 と言うことでやってきました、IS学園。この頃はマドカさんも入学したらしいですし織斑一夏もかーくんさんとやりとりしていると聞きます。

 マドカさんは亡国にも顔を出してるみたいですが織斑千冬には黙認されてれているとのこと、まあ正直あの方たちなにもしてませんしね。

 そんなこんなでマドカさんの部屋へ到着。

 

「待て、お前たちなんで普通に入ってきてるんだ」

「束さんにそんな疑問を持つなんて……まどっちはどうしたんだい?」

「なんだ、私が悪いのか……?」

「いえ、むしろ束様がおかしいだけです」

「ガーン!?」

 

 束様がどんよりした空気をまとわせていじける……また失礼なことを言ってしまったのでしょうか? こればかりはどうにも直せそうにありませんね。

 

「まあ、それはともかく今日は聞きたいことがありまして……」

「うん、なんだ?」

「かーくんさんについて少し考えたのですが改めて考えると知っていることが少ないなと……それでマドカさんはなにか知らないかと聞きに来ました」

 

 何でもいいんです、好きなものとか嫌いなものとか。

 

「そうだな……自由が好きで追われるのが嫌いだとは言っていたがそれは知っているだろう?」

「はい、そうですね」

「正直、私がお前たちの知らないことを知ってるとは思えんぞ?」

「ですがそうなると、かーくんさんのことを詳しく知っている人がいなくなりますね……」

「改めて考えるとかーくんは束さん以上に、ISのコア並みに謎だらけだよ……!」

「いや、そこまでではないだろ」

 

 出自もわからず家族構成も聞いたことがありません、好き嫌いもわからず、趣味も何もわからない。わかっていることと言えば性別と身長くらい……あと恥の感情が家出してましたか。

 

「やはり本人に聞くのが一番いいのではないか?まあアイツのことだからそんなことはないだろうが、自分のことをコソコソ他人に聞いて回られるのは気持ちよくないと思うぞ」

「そうですね……」

「う……まどっちが正論を言っている」

「失礼だな、私はいつも常識的な方だと思っているぞ?」

 

 その通りですね、少なくとも束様とかーくんさん、私と比べると月とスッポンです……学園の専用機持ちもTheメシマズや典型的にズレた日本知識を持った軍人娘、あり得ないくらいにモテるのに一切気付かない兄。中々濃い面子に囲まれてますねマドカさん。

 

「じゃあ、やっぱりかーくんに直接聞くよ!お邪魔したねまどっち!」

「おい、なにナチュラルにクロエを小脇に抱えて窓から出ていこうとしてるんだ」

「お気にさらず、束様ですので。それではまた、失礼しましたマドカさん」

 

 私がそう言い残すと同時に束様は窓から飛び出し、何処からともなくやって来た人参型ロケットに飛び乗りました……相変わらず織斑千冬に負けず劣らずの身体能力です。

 

 ……それにしても人づてに、かーくんさんのことを知ろうとして聞ける人間が一人とは。なかなかどうして、かーくんさんの友好関係の狭さが伺えますね。中学の頃の友人の名前をしっかり覚えていないと聞いたときには涙を禁じ得ませんでしたし。

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

「それでおれの詳しいことを聞こうと? もとから聞いてくれたら答えたのに」

「それじゃ面白くないと思ってね!」

 

 あとはなんとなく聞きにくかったのです。かーくんさんは自分からあまりそういうことをお話にならないので。

 

「うーん、そう言われればそうかな? いや、おれの話とか面白いことないし……」

「で、実際のところはどーなのさ? 束さんもしっかりとは調べてないから、かーくんのこと知らないこと多いんだよね」

「束先輩が調べたことといえば、おれの指名手配書をつくるのに必要な情報ですねわかります」

「テヘペロ☆」

「……まぁ、いいんですけど」

「えっ、じゃあその間と冷めた目はなにさ……?」

 

 束様がウザ可愛く片目をつむり舌を出して、テヘペロとしてますがかーくんさんでなければ怒ってそうなものです。主に束様の妹や織斑千冬なら刀を片手に三枚におろしに来そうです。

 

「じゃあ、一つ目の質問! デデン! ズバリ家族構成はどうなの?」

「あー……細かいこと省きますけど施設で」

「軽いノリで聞いてごめんなさい!」

「気にしてないんでいいですよ? それこそ『他の世界線ならこの施設ってのは研究施設のことで、実はかーくんはその施設で作り出されたクローン人間だったのかー!?』とか言っていいんですよ?」

「言わないよ!? 私だってさすがにこれくらいの空気読めるようになってるよ!?」

「束様は身内限定ですけどね、いえ私もですが」

 

 それにかーくんさんの言うような発言をしてたら、さすがに束様相手でも怒ってますよ?

 

「本人が気にしてけりゃいいんですよ。ってことで施設暮らしだったこと弄ってもいいよ、バッチ来い!」

「そんな宣言されたの初めてだ!?」

「束先輩の友達があまりにも少なくて、一歩間違えればボッチなことをおれが弄るようなもんです。ぶっちゃけ友達って千冬さんだけで、箒さんは妹、一夏は親友の弟ポジションですよね?」

「くーちゃんやかーくんがいるし……」

「おれ後輩、くーちゃんは娘では?」

「ぐふぅっ……! 人間関係が狭いことはなんとも思ってないけど、思ってたよりも友人のカテゴリに入る人が少なくて何故かショック……!」

 

 私に関しては束様が娘と呼んでくださってるだけで……あ、かーくんさんに関しても束様から先輩と呼ぶようにおっしゃってましたね。

 

「かーくん、くーちゃん! 先輩後輩、親娘なんて些細なことだよ。友達になろう……!」

「どうしましょうか、このままでは束様が友達をつくるための部活でも立ち上げそうな勢いです」

「ごめん、正直弄りすぎた……束先輩、俺たち友達だよ! 束先輩がそう言ってくれるなら先輩かつ友達!」

「いえーい!」

「いえーい! 友達増やして友達コレクションしましょう!」

 

 ああ、またおふたりがいつものテンションに……楽しいのですが私は少し着いていけない勢いです。

 

「よっし! そうと決まれば次は……まどっちだ! カモン人参ロケット!」

「えっ、マジで行くの!? コフッ!?」

 

 束様がそう言い、指をならせばまた何処から来たのかわからない人参型のロケットがやって来て、私とかーくんさんを小脇に抱えた束様が飛び乗りました。

 ……マドカさんのところへは先程行ったばかりなのですが気にしないとしましょう。マドカさんなら何だかんだで許してくれます。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 マドカさんなら許してくれます、そう思っていたときもありました。ええ、実際のところマドカさんは許してくださいました。

 

 ですが、束様が飛び込んだマドカさんの部屋に、織斑千冬がいると誰が予想したでしょう。ハイテンションなまま飛び込んだ束様がフリーズし、無言で口の端から吐血するくらいには予想外でした。

 

「それでなんだ? 束、お前は友達コレクションしに来たと?」

「……はい」

「阿呆か……お前そもそもコレクション出来るほど、友人と呼べる間柄の人を区別してないだろ」

「ちーちゃん、かーくん、くーちゃん、まどっち」

「四人か、偉く簡単にコンプリート出来そうでよかったな? おい、上代。お前もこいつを変な方向にノせるな面倒だ」

「申し訳ないです」

 

 全面降伏と背後に見えそうなほどの土下座をするかーくんさんでした。ちなみに束様も私も正座中です。

 

「次にこんな下らんことで学園に侵入してみろ。そのコレクションからひとり居なくなると思え」

「ごめんなさい!」

 

 全面降伏と背後に見えそうなほどの土下座をする束様でした。ちなみに私は正座中です、かーくんさんは土下座続行中です。

 

「はぁ……今回はこれくらいにしてやる。上代、お前晩飯がまだなら一夏に付き合ってやってくれ。たまには男同士で気兼ねなく過ごさんとアイツもしんどいだろうからな」

「了解です。何だかんだ弟思いのいい姉ですよね、と思いつつも口に出すと視線だけで殺されそうなほど睨まれるので心に留めます」

「かーくんさん、全部口に出てます」

「チッ、一夏の奴は部屋にいるだろう……学園内をお前だけで歩くのは不味かろう、すまんがマドカ」

「わかった、クロエも行くか?」

 

 ええ、同行させていただきます……が束様はどうなされるのでしょうか?

 

「束さんも行ーー」

「束、お前はこっちだ。どうせ暇だろう? 上代たちが帰るまで学園の防衛システムの強化でもしていけ」

「ぎゃー! 束さんもくーちゃんたちと行きたいー!」

 

 そうですか……では、三人でいきますか。

 そして三人で部屋から出るときに見えた、織斑千冬と束様の顔は少し意地悪そうな笑みと嫌そうにしかめっ面をする対比的な表情でしたが――何処かお互いに楽しそうな表情でした。

 きっと、あれが親友というものなのでしょう。いつか私もかーくんさんやマドカさんと形は違えど、あのような関係になりたいものです。

 

 

 

 …………あれ、結局かーくんさんの家族についてしか聞けてません。もしかして、うまく流されました?




ここまで読んでくださった方に感謝を。
逃亡者ではお久し振りです。一作品落ち着いたので久々にとクロエ視点で書かせていただきました。
今さらですが番外編はあんまり時系列を気にされないでいただけるとありがたく。

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