ある冬の日のこと、束先輩とくーちゃんと珍しくゆったりお茶を飲んで過ごしていた。
「あー、お茶が美味しいね!」
「いつになくゆったりしてますよね……こたつなんてラボにあったとは」
「ううん、作ったんだよ?」
「えー、ならこの布団はどうしたんですか?」
「押し入れの中から取ってきました」
「掛け布団じゃないの、これ? こたつ用じゃないよね」
そのわりにはやけにピッタリだけど……いや、束先輩が布団に合わせてこたつを作ったのか。
「基本的に束先輩の技術力は、無駄遣いされてる気がしてならない」
「下らないものもたびたび作られますしね、ビームサーベルでパンを切れば切ったときに既に焼けるよ! と言われて作られたものもありましたが……」
「消し炭になって終わったね、パンとついでに机が」
「こ、コアは役立ってるよ! ISコアは! 世界中に束さんが追いかけられるくらい大人気さ!」
でも束先輩からしたらめんどくさいだけじゃ……束先輩が楽しくて周りに迷惑かからない発明って宇宙船以外に見たことがない気がする。
「さながら天災のごとく世界を掻き乱しましたよね。いえ、それは世界が勝手に兵器として扱ったからなんですけど」
「仕方ないですね、世界なんてそんなものです……」
「すごいくーちゃんが悟ってるよ!?」
「背伸びしたい年頃なんです」
「そんな台詞を自分で言えてる時点で、くーちゃんは既に背伸びする時期通りすぎてそうだよ」
おれも背伸びする年頃な気はするんだけど……そんなことしてる暇なかったよね! 背伸びとかして見栄張ってたら今ごろ捕まってただろうし!
「ただ料理に関しては皆、背伸びせずコツコツやろうね」
「チマチマやるの束さん苦手なんだけどなぁー」
「使えない消費期限切れた食材を平然と使おうとする時点でコツコツとか関係ないですよね?」
「手探りでつかみ出した食材で闇鍋もどきも駄目です、あれは死人が出ます」
「特におれとくーちゃんは束先輩ほど頑丈じゃないんですからホント死にますよ?」
そう言うと束さんはいじけて三角座りをして、床をゴロゴロしてるがさすがに食中毒とかなると命に関わるので、そのまま反省しておいてほしい。
数日したら忘れてそうな気もするけど。
束先輩以外……おれとくーちゃんは台所の惨状を改めて思い返すと、いつか惨劇を生み出しそうなことに今更ながら気づき台所の掃除へと向かった。
この頃、皆掃除サボってたからなぁ。正月って駄目だね、色々やる気でなくて。
そうして台所へたどり着いたんだけど、だけど……これは酷い。
「な、なんだコレ。正月だからサボってたけどここまで汚れるかな……? ここは台所じゃない、腐海だよ」
「臭いもします、腐海というか不快です。あ、束様逃げないでください、束様も手伝ってください」
「抜け駆けは許すまじ! 束先輩も手伝って、ていうかこの惨状に心当たりありませんかね?」
「ね、ね……ね、年末年始だからってはしゃいでたら冷蔵庫開けたまま忘れてたなんてことないよ!」
「……軒並み束先輩のせいなのが確定」
珍しく束先輩も飲んでたからなぁ、そして正月だから食事はおせちで数日過ごしてて冷蔵庫とか見てなかったし。
まあ取り敢えずそのことは置いといてちゃっちゃと片しましょうか。
「はいはい、取り敢えず消費期限切れてる食材捨てましょうよ!」
「干からびた野菜などもあるのですが……腐ってるものもあります」
「ふやけたカップ麺もあるよ!」
「平然とそんなもの出さないでください! いつのですか、というかふやけたカップ麺って冷蔵庫開けっぱなしなの関係ないですよね!?」
「本当にここは台所なんでしょうか……?」
いや、ごみ処理場とかごみ屋敷の一室って言われた方がしっくりくるよね……。もう食材全般ダメになっていたので処分することとなった。
今年の目標は食べ物を無駄にしない、にしようかな。
「まあ、逃亡するときに食品とか基本的に捨て置いてるから無理そうなんだけど。追手の人たちが美味しくいただきました、とかやってくれてたらいいのに」
「微塵もその可能性がないことを束さんは知ってるのさ……基本逃亡したあとのラボって爆発させてるし」
「むしろ爆発させてるなら追手の人が心配ですよ。まあ束先輩のことだから、そこらへんは上手くやってるんでしょうけど」
「めんどくさいから最大火力でやっちゃってるよ! フハハハ! まあ皆IS装着してきてるし無傷だよ……きっとたぶん」
「もう束様が、きっと、多分などというと心配でならないのですが……」
ジト目でくーちゃんと束先輩の方を見てると下手な口笛を鳴らしつつ顔を逸らした、ホントに大丈夫ですよね?
いや、なんだかんだで束先輩は大丈夫になるように考えてるんだろうけど……たまに抜けてるからなぁ。
そうして駄弁りながら台所の掃除を終えたけど、劇的ビフォーアフターみたいな感じで綺麗になった。まあ、あるもの全部捨てて拭いただけなんだけど。
「やっぱり掃除はサボると駄目ですね、特に束先輩と過ごしてると」
「唯一散らかすのは束様ですしね、そして一番散らかすのも束様。かーくんさんと私は普通に片付けてますし」
「汚れるとこに束先輩あり、か」
なんとなく黄昏た風にそういうと、また束先輩がいじけ始めた。でもホントに散らかってる中心によく居るんだから仕方ないじゃん。
「ラボの持ち主は束さんなんだし散らかしてもいいと思います! ……いや、ごめんなさい束さんが悪かったからそんな目で見ないで!?」
束先輩が開き直ったけど、おれとくーちゃんは残念な子を見る目で見てるとすぐに折れた。今日は束先輩が情緒不安定だなぁ。
「理不尽で我が道を行くのが束先輩なのはわかってますが……」
「ルール無視ゴーイングマイウェイなのが束様なのはわかってますが……」
そう言ったあとくーちゃんと言葉が被る。
「冷蔵庫開けっぱなしで食べ物腐らしたり、散らかしたものを片付けないのはいい歳してどうかと思います」
「録な大人じゃないんだ、ごめんよ!」
「わかってますから開き直らずに直そうとしてくださいよ」
「をう……わかってるって言われた!?」
「んー、束様が悪いです」
ガーン! と口に出しつつ束先輩はショックを受けた振りをしてる。
――いつの日か束先輩に掃除を癖付けられる日は来るんだろうか……?
ここまで読んでくださった方に感謝を!
大体気づかれてると思いますが、『あいうえお作文』で書いてました。無理やりなところなど結構あったので次いつかやるときには直したいです。