我輩は逃亡者である   作:バンビーノ

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番外編 豆まき

いつも通り唐突に束先輩が脈絡ないことを言い始めた。

 

「かーくん、くーちゃん。豆まきやろうよ」

「急になんですか?じゃあ束先輩が鬼でやりましょうか」

「まく豆がないので納豆で代用しましょう。ささ束様、鬼のお面です」

「なに二人とも自然に納豆持ってるのさ!?代用にしてもそれは酷いよ!」

「束先輩が納豆でヌルヌルに……」

「束様が納豆でベトベトに……」

「「すごく…臭そうです」」

「二人とも絶好調過ぎないかな!?……取り敢えずその手にもって全力でかき回してる納豆をどうにかしようか」

 

ふむ、ネタと勢いで開けてしまったけど食べるしかないか。うーん、美味しいけど口のまわりがベトベトになるし拭かないと。そういや昔ティッシュで拭いたらそのまま唇にティッシュが張りついたな。

 

「ごちそうさまでした」

「うん、でなんの話してたか覚えてるかな?」

「納豆と豆腐って名前逆じゃないかって話ですよね?」

「大豆と小豆は同じ種類の豆なのにどうしてあんなに違うのかって話ではありませんでしたか?」

「両方違うよ!豆まきだよ、豆まき!」

 

あ、そうだった。納豆食べてたもんで納豆に関係した話だと思い違いを……別にしてないけどなぜ豆まき?

 

「やりたくなったからさ!じゃあそれぞれ交代で鬼やろうか!」

「じゃ、束先輩よろ……豆ないし豆腐でいいや、これも大豆だよね」

「束様からどうぞ……豆ないので豆乳でいいですよね、これも元は大豆です」

「豆ならあるから!持ってくるから仕舞って!てかどこから出してるのさ!?」

 

なんだ、あるなら始めから出してくださいよ。せっかく気をきかして大豆関係のもの用意してたのに、ソォイJOY!とか。

 

「もはや加工済み!?……はぁ、豆はこれだよ。じゃあ束さんが始めに鬼やるから豆を蒔いてね。それ蒔いたら交代で」

「わかりました束様、私は初めてなのですがやり方はどうやればいいのでしょうか?」

「あ、それじゃあくーちゃんは豆を蒔きながらおれに続いて言ってくれたらいいよ。自分も初めてだけどやり方はわかるし」

「それじゃあ始めよっか、鬼のお面被ってと……」

 

そう言いながら束先輩はいかにも安そうな鬼のお面を被りこちらへ向かってきた。じゃあ豆蒔いて鬼を追い払いますか。

 

「がおー!束さん鬼だぞー!」

「出ていけ鬼ぃぃ!出てけ出てけ!お前みたいなやつの居場所はない!帰っれ!帰っれ!」

「出ていきなさい鬼!かーえーれ!かーえーれ!」

「う、うわぁぁぁぁん!違うよ!合ってるけどなんか違うよ!」

「え?鬼を払う行事じゃなかったですっけ?」

 

たしか、そんな感じのイベントだった。外に出てけとか言いながら豆蒔けばオッケーだったと思うのだけど。

 

「鬼は外福は内って言うんだよ!さっきのじゃまんまイジメじゃん!」

「まさに泣いた赤鬼ですね……あの話って良い話のようでなかなかバッドエンドですよね」

「知らないよ!?てか鬼が泣く前に束さんが泣きそうだったよ!」

「束様がかーくんさんに説明を任せるから……」

「あれ?くーちゃん束先輩が悪いかのように言いつつおれの責任にしてる?」

 

まあ、気を取り直してやりますか。ほらほら束先輩お面着けて、下がって下がって。

 

「あそこまでやられてまだ束さんが鬼のまま!?かーくん交代!」

「仕方ないですね、鬼の執念見せてやりましょう……青鬼、見てるかい?おれは頑張ってるよ」

「執念いらないから、なにいきなり泣いた赤鬼のアフターみたいな台詞言ってるのさ」

「ただのノリですよ、さあバッチこい!」

「鬼はー外ー!福はー内ー!」

「お、鬼はー外ー、福はー内ー」

 

束先輩が豆を蒔いてきて、それに続きくーちゃんも豆を蒔いて来る。――が、しかし

 

「アッハッハ!その程度では当たらんよ!」

「か、かわした!?そういうものじゃないから!鬼が豆を避ける遊びとかじゃないからね!?」

「か、かーくんさんに当たりません!」

 

ときに跳びはね、ときにしゃがみつつ豆を避けていく。なんか素直に当たるのが悔しい気がしたんだ。

 

「鬼をそう簡単に退治できると思うなよ束先輩、くーちゃん!」

「むー……仕方ない、くーちゃんちょっと下がってね。束さんが少し本気で鬼を退治するから」

「えっ?た、束様?」

「ん?……え?」

「化物を倒すのはいつも人間なんだよ!せいっ!!」

「ごっぱぁ!?」

 

嫌な予感がして止めようとしたが時すでに遅し、意地になってきた束先輩が力を込め豆を投げる。

細胞レベルで天才の束先輩が、肉体面でもブリュンヒルデに匹敵する束先輩が力を込め豆を投げる。

 

――そしてそこからは、とても、とてもゆっくりと見えた。

束先輩の投げた豆は手から離れると同時に砕けて粉末状となり、しかしそのまま巻き散るとこなく寧ろ体積を増やしたまま緊急回避をしようとしてたおれへと向かい直撃した。まるで衝撃波に叩かれたかのような感覚であった、その後身体が浮き吹き飛んだところまではわかった。しかしそこで、おれは意識を失ったのだった。

 

俺の人生、完!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってなこともなく普通に目が覚めた。うん、時計を見るかぎり小一時間気を失ってたみたいだ……数日たってるとかのオチがないかぎりね。まわりを確認すれば束先輩がくーちゃんに怒られてるのでそんなオチは無かったようだ。

 

「あっ!かーくん、目が覚めた!?ごめんよ束さんついムキなっちゃって!」

「……あなたはだれですか?」

「ぎゃあああああ!?かーくんの記憶が無くなってる!?」

 

束先輩は取り乱してあたりを駆け回っている、くーちゃんと目があったので手を振っておく。

 

「束先輩ー、嘘です。ばっちり覚えてます……ってか記憶喪失心配する勢いで投げたんですか」

「嘘なの!?ホントよかったよ!……テヘペロ!かーくんじゃなきゃヤバかったぜ!」

「投げた豆がきな粉になっておれに襲いかかってきましたしね」

「束様は気をつけてください!かーくんさんだから何とかなりましたが他のかただったら大変でしたよ!」

「うう、ごめんよ」

 

二人ともおれだったからって言うけど二人のなかでおれってどういう位置にいるのだろうか?

 

「人以上、人外以下?」

「ナニソレコワイ。いやもうおれのことはいいや、最後にくーちゃん鬼やる?」

「はい、せっかくですので」

 

くーちゃんはそう言いながら鬼のお面をつけたけど……ふむ、これは何と言うかあれですな。

 

「投げにくいね束先輩」

「うん、愛娘であるくーちゃんに外へ行けと言いながら豆を投げると思うとね」

「お二人とも考えすぎですよ、普通にやりましょう」

 

それもそうか。結局くーちゃんが鬼のときだけようやく普通に鬼は外福は内ーとか言いながら豆まきができたのであった。

 

 

 

「さて、蒔いた豆掃除しましょうか」

「ルンバが勝手に掃除してくれるしほっとけばいいよ!それより歳の分の豆食べよう!」

「そういやそんなこともするんでしたっけ」

「そーそー、かーくんは16歳だよね。ほい」

「どうもです。そういやくーちゃんは何歳?」

「実年齢か設定の年齢かどっちでしょう?前にも言いましたが私は試験管ベイビーなので実は生まれてからで考えるとかなり若いんですよ」

「ああ、そっか。設定の方でいいんじゃない?少なすぎても何か悲しいし」

「そうですね、束様。では設定の方で」

「何か軽い!?は、はい」

「ありがとうございます、生まれのことはここで気にしても仕方ないので」

 

くーちゃん自身が言う通りここにいる面子には、って言っても束先輩とおれだけなので特に生まれについて気にしてない……どころかたまにネタにしてくるくらいだ、IS合体とか。

 

「さあさあ、束先輩も年齢の分の豆ですよ。はい」

「おっ、ありが……ちょっ!なんで袋ごと渡すのさ!?」

「足りませんでしたかね?」

「寧ろ多すぎるよ!」

「では束様は心の年齢、若々しさ的に15個あたりですか?」

「褒められてるような気がするけど貶されてる気もする!」

「まあまあ、袋の中から自分で出してください。正直年齢しらないから袋ごと渡しただけなんで」

「あ、そっか。教えてなかったもんね、よしそれじゃあ食べようか」

 

――その後3人揃ってちゃぶ台を囲い、豆をポリポリ食べた。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を!
か季節ネタとして豆まきをしましたが書き終えてから気づいたこととしては5月の季節ネタをしろよと。
あとはIS学園巻き込んでやりたかったですが風呂敷が畳めないので断念。

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