泣き虫な僕が大切な友達の為にできること 【完結】   作:豚汁

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感想を下さった方ありがとうございます。

では、もしよろしければ今回も正也君の物語を見て行ってあげて下さい。



4話 夕焼け色に染まる木の上で

 穂乃果ちゃんがこういう風に、新しいことをやろうと言い始めるのは今回に限った話ではない。隣町への探検や、近所に新しいお店が出来た時にはそこを見に行ったりと言い出せばキリがない。

 

 その度に僕と海未ちゃんとことりちゃんは、穂乃果ちゃんに巻き込まれる形でそれに付き合わされるのだけど、毎回必ずと言っていいほど酷い目に合う。探検に行っては迷子になったり、お店の中を見て何も買わずにいたら、冷やかしだと言われて店員さんに怒られたり……

 

 だったら、穂乃果ちゃんに付いていくのをやめれば良いのでは、と誰かに言われたこともあるけど、僕たちにそんな気はなかった。

 

 迷子になっても、親切に道を教えてくれたおばちゃんが僕たちにくれた飴は美味しかったし、見に行ったお店の綺麗な内装に感動したりと、なぜか僕たちは穂乃果ちゃんに巻き込まれた時に、後悔だけはしたことが無かった。

 だから僕たちはいつも穂乃果ちゃんの突然の提案に巻き込まれ続けるのだが……今回は少しレベルが違った。

 

 

「「ええーーー!?」」

 

「……む、無理ですー!」

 

 

 穂乃果ちゃんの提案に、僕とことりちゃんは驚き、海未ちゃんは早々に拒否の意思を示す。

 それは無理もない、穂乃果ちゃんが登ろうと言っているその木は、僕たちが登るにはあまりにも高かった。

 

 

 しかし、そんな僕たちの声を無視して穂乃果ちゃんは木に登り始めてしまった。

 

 

「どうしたのー?みんな早くー!」

 

 

 穂乃果ちゃんはそう言って、木を登りながら僕たちに呼びかける。

 

 

「……よし、僕行くよ」

 

「ええっ!?大丈夫なの正ちゃん?」

 

「本当に行くんですか…?」

 

 

 僕の決意に、驚くことりちゃんと海未ちゃん。でもここは行くしかない、何故なら

 

 

 怖いけど、これを乗り越えれば『カッコいい男』に近づけるかもしれない……

 

 

 という思いが僕の中にあったからだ。

 そして僕も穂乃果ちゃんの後を追って木に登り始める。

 

 ことりちゃんと海未ちゃんはどうするか悩んでいる様子だったけど、結局置いて行かれるのが嫌だったのか、僕の後に続いて木をゆっくり登り始めた。

 

 

 そして僕たちは一生懸命に木を登り続け、ついに穂乃果ちゃんの居る高さの木の枝までたどり着いた。

 

 

「あ、みんな着いた!?見て見て!きれいだよー!」

 

 

 僕達より先に到着していた穂乃果ちゃんが、やっとのことでたどり着いた僕たちを見て、興奮したようにそう呼びかける。

 

 

 

 

 しかし、僕たちはそれどころでは全くなかった。

 

 

 

 

「た、高いっ……!」

 

 

 僕はあまりの怖さに、立ちながら身動き一つ出来なかった。

 

 

「わーん!怖いよ~~!」

 

「ひっ…!こ、怖いですーー!」

 

 

 ことりちゃんと海未ちゃんはそう言って座り込んで互いに抱き合って泣いていた。

 木を登っている時には登ることで頭が一杯で、全く下を見ていなかった僕たちは、目的地に着いてはるか下の地面を見て思ったのだ……落ちたら死ぬと。

 そう思えるぐらいに、小学生である僕たちにとってはその高さはあまりにも恐怖だった。

 

 

「みんなどうしたの?ほら見て!きれいだよー!」

 

 

 む、無理だよ穂乃果ちゃん!怖いよ!

 …そう言おうとして僕は穂乃果ちゃんの方を向こうとした。

 

 

 その時、眩しいオレンジ色の光が目の端に映る。

 その輝きが気になって前を向くと、そこには美しい夕日の姿があった。

 

 

「…きれい……」

 

 

 僕はそう言って言葉を失う。

 

 それはとてもすごい光景だった。高いところから見る町並みが、沈みかけの夕日によって鮮やかな茜色に染められていて、視界全体が綺麗な茜色の輝きを放って僕を感動させた。

 

 

「ふわぁ……すごい…」

 

「きれいです……」

 

 

 ことりちゃんと海未ちゃんも、目の前の綺麗な景色に心奪われたのか、すっかり泣き止んでいた。

 

 

「ね、きれいでしょー」

 

「…うん!すっごくきれいだよ穂乃果ちゃん!」

 

 

 自慢げな顔をする穂乃果ちゃんに、僕は目を輝かせながらそう返す。

 

 ここに来て穂乃果ちゃんが何故木を登ろうと言い出したのかの理由がやっとわかった。きっと穂乃果ちゃんは僕たちにこの景色を見せたかったに違いない。

 

 でも……なんでいきなり? その考えが僕の中で浮かんだ。

 

 

 すると穂乃果ちゃんが僕の方を向いてこう言った。

 

 

「正ちゃん……今日はいろいろあったけど元気出して!ぜったい正ちゃんならできるよ!だって穂乃果達が味方だもん!がんばって…ううん、ファイトだよ!」

 

 

「穂乃果ちゃん……」

 

 

 穂乃果ちゃんの言葉が、飛び箱の事を指していることに僕はすぐに気付いた。

 

 そして僕は穂乃果ちゃんの本当の目的に気づく。僕たちにこの景色を教えたいという気持ちはもちろんあったに違いないけど、それ以上に穂乃果ちゃんは僕を元気づけたかったのだということに。

 

 

「正ちゃん、大丈夫!ことりも応援してるよ!」

 

 

 こっちを向いて、笑顔でそう言うことりちゃん。

 

 

「……正也なら絶対にできます。がんばって下さい」

 

 

 そう言って優しい笑顔を僕に向けてくれる海未ちゃん。

 

 

「ひっく…グスッ……ありがとう……ありがとうみんな…」

 

 

 いつの間にか僕は泣いていた。

 こんなにも優しいみんなが僕の友達でいてくれて良かったと、僕は心から思う。

 

 

「あー正ちゃん!また泣いてるー!本当に正ちゃんは泣き虫なんだからー」

 

 

 さっきボールの事で笑われたお返しのつもりか、そう言って僕をからかう穂乃果ちゃん。

 

 

「な、泣き虫なんかじゃないよ!これは嬉し泣きだから泣いてるうちに入らな……入るかも……」

 

 

 僕は木の上でガックリと肩を落とす。

 

 

「あはははは!正ちゃんおかしいー!」

 

「ふふっ……ごめんね正ちゃん……ことりも限界…」

 

「二人とも……笑ったら正也に悪いです……ふふふっ」

 

「もー!みんなして笑わないでよー!」

 

 

 あれ?さっきの公園での穂乃果ちゃんみたいになってないか僕!?……まぁ、いいか、みんな楽しそうだし

 

 

 僕はそう思うと同時に、次の体育の時間に対するリベンジ心が湧いてくるのを感じた。

 

 

 うん…みんなにこれだけ励まされたからには、絶対次の体育の時間では飛び箱を飛んでみせる!そして、絶対あのガキ大将や他の男の子達をギャフンと言わせてやる!

 

 

 公園で落ち込んでいたままでは、絶対こんな気持ちにはなれなかっただろう。

僕は改めてこの三人の心優しい友達に感謝した。

 

 

 本当に……三人ともこんな泣き虫な僕にはもったいないぐらいの最高の友達だよ。

 

 

 

 

「さて、正ちゃんも元気になったことだし、そろそろ帰ろー!」

 

 

 

 

 そして思いっきり笑った後、穂乃果ちゃんはそう言った。

 

 その言葉に、僕と海未ちゃんとことりちゃんは現実へと戻される。

 

 

「「「あ………………」」」

 

 

 綺麗な景色を見て、僕たちはすっかり忘れてしまっていたんだ

 

 

 

 ここがとっても高い木の上だってことに

 

 

 

 しまった……降りることなんて全然考えてなかった……

 

 

 この落ちたら死んでしまうかもしれない高さから降りなければいけない、僕はその事実に震えた。

 

 僕は木の幹側にいる海未ちゃんとことりちゃんに目を向ける。

 

 

「無理です……絶対無理です……」

 

「怖いよ……お母さん……お父さん……」

 

 

 どうやら二人とも僕と同じ気持ちのようだった。

 

 

「どうしたのみんな?早く降りようよー」

 

「穂乃果ちゃん……高いよ……降りれないよ……穂乃果ちゃんが先に降りて」

 

 

 僕は震えながら穂乃果ちゃんにそう言う。

 僕も海未ちゃんもことりちゃんも降りれないからには、穂乃果ちゃんに先に降りてもらって、誰か助けを呼んでもらうしかないと僕は思ったからだ。

 

 

「えーこのぐらいへっちゃらだよ?よーし、見てて……」

 

 

 そう穂乃果ちゃんが言った瞬間だった。

 

 

 

 ミシミシ……ベキッ!!

 

 

 

 僕たちに不幸をもたらす音が鳴り響く。

 

 

 

「「「「えっ……」」」」

 

 

 

その音と同時に、僕たちの足場である丈夫な木の枝が……折れた。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございました。

正也君にもアニメのような綺麗な夕日を見せてあげたいと思った親心で、木の強度をアニメより強くしました。
でも結局は折れてしまったんですが……

では物語もそろそろクライマックスです。
もしよろしければ最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。

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