俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
雪乃にはおかゆを作り、俺は適当なインスタント食品を食べ、今は雪乃が風呂に入っている。
俺は先に風呂を済ませたのでソファに座っているがどうもシャワーの音のせいで若干の興奮を覚える。
雪乃が家に泊まったことはあるけど俺が雪乃の家に泊まったことは無いな……雪乃はこのマンションに1人暮らし……つまり俺たち以外の人間はいない……い、いかん。変なことを考えるな。
煩悩を必死に振り払っているとリビングの扉が開いた音がし、振り返ると髪の毛が濡れたパジャマ姿の雪乃の姿が見え、それと同時に心臓が鼓動を大きく上げた。
…………い、いかん。興奮してくる。
「八幡」
「お、おう?」
「髪……乾かしてくれる?」
「あ、あぁ」
雪乃からドライヤーを預かり、弱い温風を雪乃の綺麗な黒髪に当てながら乾かしていく。
……雪乃の髪の毛サラサラだな……なんかそれに風呂から上がったばかりだからかシャンプーの良い匂いも……っていかんいかん。興奮をねじ伏せなければ。
どうにかして興奮を心の奥底に押し込み、雪乃の髪の毛を乾かしていく。
「八幡、上手いわね」
「たまに小町にもやってるしな」
髪の毛も乾いてきたのでドライヤーを止めて手櫛で雪乃の髪を整えていくがこそばゆいのか時折、雪乃の肩がピクッと軽くビクつく。
俺も俺でたまに雪乃のうなじなどに触れてしまう度にドキッとしてしまう。
「こ、これでいいか?」
「ええ。ありがとう。八幡」
ドライヤーをテーブルの上に置き、視線を戻した時に雪乃とパチッと視線が合ってしまい、何故かたがいに視線を離せなくなってしまった。
風呂から上がってからそんなに経っていないせいか頬が少し赤く染まっており、雪乃の綺麗な瞳に俺は全てを鷲掴みにされたような感じを覚えるとともに見惚れていた。
俺はこんなに可愛い女の子と幼馴染なのかと……俺はこんなに可愛い女の子に好意を寄せられているのかと……そしてこの子に恋をしているのかと……そんな考えが頭をグルグル回る。
「っっ」
頭で考えるよりも体が勝手に動き、雪乃をその腕の中に収め、彼女の体温を感じる。
今すぐにでも子の胸の内に秘めている気持ちを吐露したい……でもそれをしてしまうと自分で決めたことを破ってしまう。
「は、八幡」
「……どうした?」
「そ、その……ベッドに行きましょ」
その一言は俺にとっても彼女にとっても凄まじい威力だった。
ベッドに移動したのはいいものの喋るネタがないし、互いに緊張しまくっているので互いに見合った状態でベッドに横になっていても一言も話さずにいた。
部屋には静寂が広がり、時計の音がやけに大きく聞こえる。
「寒いのか?」
雪乃が布団を被ったのでそう尋ねると小さく頷いた。
そんな姿にさえ興奮を覚えてしまうほど高まっている俺はもう普段の思考など働くはずもなく、彼女に体を寄せるとギュッと抱きしめた。
一瞬、雪乃はピクッとするがすぐに落ち着き、俺の腰回りに腕を回す。
「…………雪乃」
「な、なに?」
「…………陽乃さんに勝ちたいのは分かるけどさ……自分のことも考えろよな」
雪乃の頭を優しく撫でながらそう言う。
昔から雪乃は陽乃さんがやったことを超えようと全てを一手に引き込み、自分の中に押し込める悪い癖があり、それは今回の様に彼女の体調を崩すほど大きくなってしまう。
「昔は俺たちだけだったけど……もう今は俺たちだけじゃないんだ。お前のことを見ているのは」
昔は雪乃のことを見ている奴は俺と隼人くらいだったけどもう今はそこに由比ヶ浜という存在もいる。今まで長い付き合いの中で流せていたことも由比ヶ浜がいることで流せなくなっているんだ。
それが雪乃にとってどんな影響を与えるかなんてのは考えなくても分かる。
「そうね…………」
「今はゆっくり休んでくれ」
「…………ええ」
そう言い、雪乃はいつもの微笑を浮かべた。
翌日の放課後、生徒会室に向かって廊下を歩いていた。
雪乃にはまだもう一日ゆっくり休んでおけと言い、どうにかして学校を休ませ、その間に俺はやるべきことをするために行動を開始した。
このままいけば確実に何らかの作業は文化祭当日にまで食い込む。だからそれまでに打つべき手を打っておく必要がある。
雪乃とはもう二度と自分を犠牲にしないと約束したからな。
生徒会室の扉を軽くノックすると中から会長の了承の声が響いたのでドアを開けて中へ入ると役員の人達が忙しそうに書類整理に追われていた。
「あ、比企谷君」
「どうも……忙しいなら後にしますが」
「大丈夫だよ! みんなちょっと休憩しよう!」
めぐり先輩のその一言から全員が大きく息を吐き、椅子に座り込む。
「それで用って?」
「このまま行けば文化祭開催が近い状況で遅れた作業を完璧に取り戻すのは無理だと思うんです」
そう言うと先輩も薄々そう思っていたのか表情を暗くした。
「はぁ……やっぱりあの時相模ちゃんの提案、ダメって言っておくべきだったな~」
「まあ、過ぎ去ったことはどうしようもないですよ……それでなんですが」
俺は考えていたことを会長に話した。
もし仮に文化祭当日までに決定的なデメリットが発生した場合に行うべき処置をめぐり先輩に提案すると一瞬だけ、不満そうな顔をするがそれも致し方ないと結論付けたのか最終的には首を縦に振ってくれた。
「分かったよ。こっちで必要なものは準備しておくね」
「ありがとうございます」
「うん。じゃ、私は仕事があるから」
そう言ってめぐり先輩は生徒会室へと戻った。
俺は次なる場所へと向かう。
「珍しいな。比企谷が私に会いに来るなんて」
「そうっすか?」
「大体、ここへ来るときは変な作文を書いたときくらいだからな……ところでどうした?」
「……実はっすね」
事後報告になってしまうが先生にめぐり先輩に伝えた提案とその提案を使用した際に起こりえる結末を平塚先生に話す。
俺の話を聞き終わった先生が浮かべていた表情はあまり芳しくないものだった。
「ダメっすか?」
「ん~……教師としてはあまり一人の生徒を追い込むような提案を飲みたくないのが本心だが…………君だけにしか知りえないというのであれば許そう」
「分かりました。じゃ」
先生からも許可を貰えた……あとは……文化祭の準備を仕上げるだけだ。
それから翌日の放課後、会議室には久しぶりに全文実が集まっており、その中には復調した雪乃の姿もあるがそれと同時にアドバイザーとして陽乃さんの姿もある。
俺のところにも連絡が回ってきたけどどうやら今日の定例ミーティングで文化祭のスローガンを決めるらしく、そのために卒業生の陽乃さんをアドバイザーとしてもって来たらしい。
「相模さん。始めようか」
「あ、はい。ではこれから定例ミーティングを始めます。今回は文化祭のスローガンを決めます……え、えっと何か意見はありますか?」
相模が戸惑い気味に全体にそう尋ねるが高校生諸君が積極的に挙手して発言することなんてのはゲームで言うレアキャラに遭遇するくらいにないからな。
まあかくいう俺もないんだけど。
「相模さん。用紙を配った方が良いのでは?」
「あ、う、うん。私もそう思ってたところ」
嘘をつくなとツッコミたいがとりあえずぐっとこらえる。
生徒会の役員によって小さな用紙が配られ、各々文化祭のスローガンとなるものを考えるがそんなものをバカ正直に考える奴は片指の本数くらいしかおらず、大体はネタで書いて友達と笑っているくらいだ。
かくいう俺もあまり考えていない。どうせこういう時は友情・努力・勝利のどっかの少年誌みたいに三要素がある奴が採用されるんだ。俺みたいなやつが考えたって採用されない。
ちなみに俺が考えたのは頼らない文化祭……こんなもんだしたら相模に睨まれること間違いなし。
5分ほどで時間は切られ、メモ用紙が回収されて雪乃が開票を行うが一瞬だけ、彼女に見られた。
あ、絶対に今の俺が書いた奴見つけた顔だわ。
かぶっている奴が多い順に相模が雪乃から貰ったメモ用紙を見てホワイトボードに書いていくがやっぱり三要素が1つ、もしくは2つ含まれている。
「じゃあ、最後にうちらから一つ」
自信ありげにそう言う相模がホワイトボードに書いたのは『絆~助け合う文化祭~』。
…………今ちょっとイラッと来たぞ。何が助け合うだ……助け合うどころかほとんどまかせっきりにしている奴はどこのどいつだ。雪乃が風邪になったのだって…………まあそこは俺も責任があるから全部相模の所為だとは言わないが相模があんなお触れを出さなかったら文化祭の準備は今以上に進んでいたはずだ。
「はいは~い」
「な、なにか?」
やはりまだ陽乃さんのテンションになれないのか相模は引き気味に陽乃さんをあてる。
「お姉さんからも一つあるんだけどいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
立ち上がった陽乃さんはペンを手に取り、ホワイトボードの余白にやたらでっかく書いていく。
『千葉の名物、踊りと祭り! 同じあほなら踊らにゃsing a song!』
…………本当にこの人の思考回路は分からない。
「ねえ? これどう?」
「あ、え、えっと普通のと違っていいかなって」
「でしょー!? これでいいと思う人ー!」
陽乃さんの高いテンションに当てられたのかは知らないが俺と雪乃以外の人物がチラホラと手を上げていき、結局そいつらに連れられてほとんどの奴が賛同の挙手を上げた。
「委員長ちゃん。これでいいよね?」
「は、はい」
完全に舐めてるな……ま、俺には関係ないし、本題は次だ。
「じゃ、じゃあこれで今日は」
「ちょっと待った!」
会議室にめぐり先輩の声が響く。
「ちょっとだけ時間とらせてくれるかな? アンケートを取りたいから。はい、これ相模さんのね」
めぐり先輩が相模に用紙を直接渡し、生徒会役員が他の奴らにアンケート用紙を配る
そこに書かれているのは俺とめぐり先輩で考えた質問がたった一つだけ書かれている。
そこに俺は自分が思っている正直のことを書き連ねる。もちろん他の奴も。
3分ほどで区切られ、アンケート用紙が回収され、この日の会議は終わった。
「ねえ、八幡?」
「ん? どうした」
「さっきのアンケートはいったい何だったの?」
「言ってしまえば保険だ。最悪の事態を回避するためのな」
「……そう」
あの質問と俺の発言で答えを導き出したのか雪乃はそう言うだけで何も追及してこなかった。
ただその代りに俺の腰回りに回している腕の力を強めた。
”貴方は文化祭が現委員長では進行することができない問題が発生した場合、補佐役に会長を一任することに賛成ですか? 反対ですか?”