俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
文実の初回会議の場所である会議室へ入ると既に何人かの奴らが来ており、その中に相模とか言う俺のパートナーの奴がいたが友人と駄弁っていた。
「ゆっこも文実でよかったよ~。なんかあたしがやれっていう空気になっちゃってさ~」
「あたしもじゃんけんで負けちゃってさ~。面倒くさいよね」
「あ、南ちゃんって呼んでいい?」
「うんうん! 全然いいよ~。あたしも遥って呼ぶし。あたしもやる気はなかったんだけど葉山君にお願いされちゃってさ~」
「そっか。南ちゃん、葉山君と同じクラスだもんね!」
相模が口火を切ればそれに反応するように二人もマシンガンの様にいかに自分が不幸か、いかに自分が押し付けられたかをこれ見よがしに喋っていく。
不幸自慢をした奴は大体、そこまでだ。ソースは小学生時代の俺のクラスの奴ら。学級崩壊の所為で授業が遅れたのはそいつらの所為なのに土曜日に補習授業があるのをあたかも先生が悪いかのような言い方で他の奴らに自慢していた。
一応言っておくが隼人はお前にお願いしたんじゃない。
「でも南ちゃんのクラスって」
「うん。あいつがいるんだよね~。金髪不良。あいつのせいであたし、文実やらされたもんだし」
「怖いよね、なんか。よくあんなのがうちに入ってきたと思うもん」
「あ、それ分かる!」
テンションがどんどん上がってきたのか相模達の話声が会議室に木霊する。
そいつらと出来るだけ離れた場所の席に座り、ポケーッと窓の外を見る。
…………果たしてあの大怪獣・陽のんは襲来してくるのだろうか。ここの卒業者だから案内みたいなのは送られているだろう…………別にあの人が来たからって所詮は過去の人間だ。俺達にそんな大きなダメージは与えないだろうが問題は雪乃に対するダメージだ。あいつは姉に必死にはいつくばろうと姉と同じことをし、それ以上の業績を上げようと1人で抱え込む悪い癖がある。もしもそれで体調なんか壊せば本末転倒だ。だから
「俺が護ればいいんだろうけど」
この中で彼女のことを一番理解しているであろう俺がやらなければ誰がやる。彼女が無理をしない様に俺が支えてやればそれで万事解決だ。
そんなことを考えていると徐々に会議室に入ってくる人数も増えてきたが突然、会議室が静かになり、周囲を見渡してみると全員の視線は入り口の扉に釘つけになっていた。
雪ノ下雪乃―――彼女が入ってきたからだ。
ある奴は相変わらず可愛いと言い、ある奴は綺麗だと言い、そしてある奴は冷たいというその彼女が会議室に入ってきて俺の方を見てそのまま他の奴らなど目もくれずにこちらへ向かってきて俺の隣に座る。
「八幡が文実をやるなんて珍しいわね」
あの雪ノ下雪乃が男子を名前で呼んだことに全員が一様に大きく驚く。
………………先制パンチ、かましておくか。
「そうだな…………まあ今回は特別回なんだよ、雪乃」
俺が彼女を雪乃と呼んだ瞬間、さらなる衝撃が全員に覆い被さり、教室の連中の視線が俺達に釘つけになるがどこかそんな状態を晴れやかな気持ちで受け止めている俺がいた。
流石にもうこんなことはしないが…………この中では俺しかないステータスだな…………。
だがそれと同時に俺に対する奴らの評価が気になってきて連中の顔をチラチラと見ていってしまい、ため息をついて視線を降ろす。
何やってんだ俺は…………決めただろ、もう外面は気にしないって。
そんなことを考えていると入り口の扉がガラッと開かれ、体育教師の厚木といつもの白衣姿の平塚先生、そして書類の山を持った生徒たちの集団が入ってきた。
書類の山を持った数人の生徒が1人の女生徒の顔を見た。
するとその女生徒が頷きを返すと数人の生徒が書類の山をそれぞれ配布していく。
…………もしかしてあいつら生徒会か。
書類が流れ切ったのを見た女性とはすっと立ち上がる。
「それでは文化祭実行委員会を始めまーす」
そんなほんわかとした声が広がる。
肩まであるミディアムヘアーは前髪がピンでとめられており、見えているお凸は綺麗だ。
「生徒会長の城廻めぐりです。皆さんの協力で恙なく今年も文化祭を開けるのが嬉しいです。皆で最高の文化祭にしましょー……え、えっとみんなで頑張ろう~。おー」
最後は適当ともとれる挨拶の直後、壁際で待機していた数人が拍手を送り、それにつられて会議室から拍手がポツポツト彼女に送られる。
ああやって人の前に立つ仕事も大変だな……俺は勘弁願いたいが。
「じゃあさっそく委員長の選出に入っちゃおー。誰かしたい人! はい! ほらほら。誰か誰か…………いない?」
勢いよくスタートダッシュをしたつもりだったらしいのだが誰も手が上がらないことに不安を抱き、周囲をキョロキョロと見渡すが全員が一様に、城めぐり先輩から目を逸らす、もしくは視線を下にして彼女とあわないようにする。
俺も最初は実行委員長をやって評判を手に入れようとしたけどよくよく考えればそんな大きな責任を今まで負ったことも無い俺が負えるはずもないと言う事で委員になったわけだ。委員長をやるにはそれ相応の地盤が必要でそれが俺にはない。いきなり地盤が必要なものを地盤なしに行えば真っ逆さまに堕ちて一貫の終わりだ。
「なんじゃおい。お前ら自身の文化祭だろうが。覇気が足らんぞ覇気が。お前たち自身の行事をお前たちが盛り上げんでどうするんじゃ!」
体育教師の厚木の野太い声が教室中に響き渡るがそれでも誰も手をあげようとはしない。
鋭い目つきで会議室にいる連中を見渡していくがその無遠慮な視線が雪乃とぶつかり合った瞬間、厚木の全てが雪乃に向けられる。
「お! お前雪ノ下の妹か!? 前の文化祭は凄かったからのー! またあんな凄い文化祭期待してるけえの!」
「すみません。それはないんじゃないっすか」
「八幡」
雪乃に停められるがそこは止めない。
「なんで姉貴が凄い文化祭をやったからってその妹が委員長をやることが当然みたいな言い方するんすか」
「お、おぅ?」
「先生は両親が教師をやっていたから教師をしたんすか? 違うっすよね。だったら」
「比企谷」
平塚先生のその一言に俺は撃沈させられ、それ以上は何も言わなかった。
ざけんなよ…………なんで陽乃さんが凄かったからって雪乃に同じ、もしくはそれ以上のことを望むんだ…………だから何も知らない奴らが雪乃に大きすぎる期待をするんだ。その大きすぎる期待が雪乃に、はたまた周りにどんな影響を与えるかも知らないで…………。
「え、えーっと委員長をやったらいろいろいいよ? 指定校推薦でも書けるし、何より周りの人との繋がりがいっぱいできるよ。ね? ね? 指定校狙ってる人とかは一回考えてみて」
城廻先輩もそうは言うがその視線は雪乃に注がれている。
雪乃もやっぱりかといったため息をついたその時。
「あ、あの誰もやらないんだったらあたしやってもいいです」
「ほ、ほんと!? あ、自己紹介やってくれるかな?」
「は、はい……さ、相模南です。うち、こういうのをやるのは初めてなんですけど頑張りたいです。自分のスキルアップを目指したいっていうか…………みんなに迷惑かけるかもしれないですけど出来たら手伝ってくれたらうれしいって言うか……と、とりあえずなんとか頑張りますのでよろしくお願いします」
「おぉー! いいよいいよ~。拍手拍手!」
城廻先輩に押され、チラホラと教室から拍手が漏れ出す。
…………いきなり委員長やるって大丈夫か?
「委員長も決まったし、今度は各役割を決めます。議事録に簡単な紹介文は書いておいたので見て決めてください。5分後くらいに希望を取ります」
議事録を見てみると有志統制、宣伝広報、物品管理、保健衛生、会計検査、記録雑務の役割名が書かれており、一瞬で俺がやりたいものが決まった。
記録雑務…………素晴らしいじゃないか。俺は記録雑務になる!
「どうしよ~。ノリでなっちゃったけど大丈夫かな」
「南ちゃんなら大丈夫だって。私たちも手伝うし」
「そうそう。だから南ちゃん頑張って!」
静かな会議室にそんな大きな声が響く。
お涙ちょうだいというか温かいハートフルストーリーだな……俺は嫌いなタイプのお話しだが。
「もういいかな~? じゃあ、相模さん。あとはよろしく」
「え、も、もうですか?」
相模の戸惑いの質問に城廻先輩は笑みを浮かべながら頷いたので断り切れなかった相模は嫌そうな感じを全身から醸し出しながら壇上に立ち、全員を見渡すと一瞬、身じろいだ。
そりゃいきなり慣れもしない人の前に立てば身じろぐのも無理はない。意外と大人数って前に立っている奴のことを見るからな。
「そ、それじゃあ決めていきます」
今にも消えそうな相模の声はギリギリ、静かなこともあって聞こえてくるが恐らく、この静けさは失笑の嵐の前触れなのだろう。大体、何かをバカにしようとするとき、人は考えて黙るからな。
「せ、宣伝広報が良い人」
後ろの席なのでよく見えるが相模がそう聞いても誰の手も上がらない。
「宣伝だよ? いろんなところに行けちゃうよ? ラジオだったりテレビだったり」
城廻せんぱいの補足説明でようやく行きたいと思うやつが出てきたのかチラホラと手が上がり、人数と氏名を確認されて次の役割決めへと向かう。
「え、えっと次は有志統制」
その瞬間、先程とは比べ物にならない数の手が上がり、相模は処理しきれずに古いパソコンみたいにフリーズを起こしてしまい、動かなくなってしまった。
「多い多い! じゃんけんじゃんけん!」
その言葉で生徒会の1人が動き出し、手を上げていた連中を後ろの方へ連れて行き、そこで静かにジャンケンさせ、勝った奴の名前をメモ用にしかいて戻ってきた。
流石は生徒会。仕事の流れをよく理解してますな。
その後も相模が言って城廻先輩が補足説明をしてという形式が続いていくが保健衛生を決めるあたりで遂にそれが逆転し、城廻先輩が主導権を握って会議が動き出す。
相模はおろおろとしながらボーっと突っ立っているだけだ。
もちろん俺と雪乃は考え方が同じなので記録雑務にちゃっかりと入っている。
が、やはりそこは人間。同じ考えの奴らが集まってしまったのかなんかもうすさまじい空気を発している墓場みたいな場所になってしまっている。
「…………」
沈黙の中、どうにかして軽い自己紹介と記録雑務のリーダーを決めるジャンケンを行い、それが済んだら即時解散。俺と雪乃はいの一番に教室を出た。
「ねえ、八幡」
雪乃を家へ送る最中、後ろに乗っている彼女からそう呼ばれた。
「ん?」
「…………そ、そのさっきはありがとう」
さっき……あぁ、厚木の時のことか。
「いや、まあ俺もなんか熱くなりすぎた…………あそこは何も言わないのが正解だったな」
俺の反応の所為で一時的とはいえ、会議室の空気は氷点下にまで下がった。あの時の正解は何も言わずにただ単に心の中で怒っておくのが正解だった。
俺もまだまだ子供だってことだな。
「そうね。確かにあれは正解じゃなかったかもしれない…………でも私は嬉しかったわ」
俺の腰回りにまわされている雪乃の腕の力が強くなり、背中に雪乃の温もりがより一層強く感じる。
片手で自転車を運転しながら俺は雪乃の手を軽く握りしめた。
「ま、まぁ…………おう」
「ふふ」