TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~   作:SUN_RISE

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どうも、SUN_RISEです。

暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
体調には十分気を付けて、快適な小説ライフをお過ごし下さいね。

……冬にコレを読んだ方は、前半部分を適宜読み替えて頂ければ幸いです。

では本編、始めていきましょう。



第8迅:大地に眠る、死の瘴気

……痛い。

 

腕と脚の痛みで目が覚めた。……最悪とまではいかないけど、まあ良い目覚めとは言えないな。

空を見上げてみれば、もう太陽が真上まで昇っている。随分と寝過ごしてしまったみたいだ。

 

(……腹、減ったな)

 

つい、独り言が漏れてしまった。

……昨日の激戦以降、何も口にしていないからなぁ。そりゃお腹も減るよな……。

 

よし、とりあえず食事(狩り)に行こう。

……今までちゃんと『頂きます』『ご馳走様』って言ってなかったような気がするから、これからは毎回ちゃんと……!?

 

(うおっ……と)

 

危ない危ない、力が入らなくてバランスを崩しかけた。

……腕も脚もボロボロなのは分かってたが、まさかここまでとはな。潰された右後脚だけでなく、風迅を放った影響か両前脚にもあまり力が入らなくなっている。

 

まあ、ここは弱いモンスターばかりだし、こんな状態でも余程の事が無い限り負けはしないだろう(次に金剛亀(ダイヤトータス)クラスの奴が来たら、流石に死ねる)。

 

けど、なぁ……。

 

これじゃ満足に移動もできやしない。

ナルガ()は、ここの魔物に恐れられてるのに……逃げていく獲物を追う事も出来ない。

 

棘はどうか、とも思ったが……飛ばせない。弾切れ状態は相変わらず継続中だ。

風迅? 論外だな、刃翼ごと前脚が吹っ飛んじまう。それ以前に、こんなヒビだらけの刃翼じゃ斬りかかっただけで砕けそうだ。矢尽き、刀折れるとはまさにこの事か……。

 

せめて譜術が使えれば、まだ良かったのだが。なんで精神世界でシルフに、もう少し話を聞いておかなかったのか……。

 

……まあ、過ぎた事をうじうじ考えてても仕方ないか。満足に動けないなら、動けないなりの狩りのやり方がある。万全の状態でなくとも、最低限生きれるぐらいの食糧が確保できてこそ一人前の魔物(?)だし……それに。

 

今ちょうど、面白い方法を一つ思い付いたしな。

よし、善は急げだ。早速試しにいくとしよう。狙いは当然、オタオタだ!!

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

……ご馳走様でした。ふう、旨かった。

やっぱりオタオタは最高だな。火が苦手じゃなかったら、是非ともバーベキューで食べてみたかったが……まあ、贅沢は言うまい。上々の収穫を得て、高台まで戻ってくる事ができたからな。

 

シルフと話したおかげか、体から溢れる風の音素(フォニム)の流れを制御できるようになった。だから、近づく前に感知される事も無くなった。

おまけに、新しく思い付いた攻撃方法が何気に便利で、相手が逃げ出す前に不意討ちで仕留められるようになったのは大きいな。

 

……ん?

まともに動けない状態で、どうやって不意討ちしたのかって?

そりゃ、超高速遠距離攻撃に決まってるだろう。いわゆる狙撃ってヤツだ。

 

……え?

今は、棘を飛ばせない状態なんじゃないのかって?

それなら、棘()()を飛ばせば問題は無い。

 

じゃあ、何を飛ばしてるのかって?

石とか太めの木の枝とか、その辺に落ちていた丈夫そうな物だ。

ついでに、刃翼に風の音素(フォニム)を纏わせられないのなら、拾った物にそれを纏わせて飛ばせば威力も上がって良いんじゃないか?……と考えた訳だ。

それで、尻尾で石とかを掴んで、風の音素(フォニム)を乗せて回転させながら撃ち出せば……新技『迅竜砲』の完成だ。

例えるなら、ナルガ()版ジャイロボールだな。

 

まあ()のようなプロと違って、至近距離でも狙った所に四割も行かない残念過ぎる命中率だが……威力は十分、射程も十分。弱い魔物相手なら余波だけで目を回させれるから、狩りでは結構重宝した(……実を言うとなかなか当たらなくて、途中から手当たり次第に乱射してたんだが黙っておこう。『俺』の悪い癖だな)。

まあ、当然ながら距離が離れるほど命中率は下がるし、隙も大きいから戦闘では威嚇ぐらいにしか使い道は無いが。

 

……とまあ、そんなこんなで遠距離からの不意討ち攻撃ができたから、何とか餌にありつけた。おかげで、棘をまた飛ばせるくらいまでには回復した。

……棘に風の音素(フォニム)を纏わせたら、百発百中になるのか? 機会があれば試してみよう。

 

さてと、今日はここまでにして早めに寝るとしよう。まだ空は明るいが……ゆっくり休めば、脚の治りも早くなるだろうしな。

 

とりあえず、今日の所はお休みなさい……。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

(……バシャ……バシャ……)

 

……ん?

これは、水を蹴る音……?

 

(……バシャ、バシャ、バシャ……)

「ったく、靴の中水浸しじゃねえか」

「文句を言わない。ここを通らないと、国境線まで行けないんだから」

「あ~!! 分かってるよ、いちいちうっせーな……ん?」

 

……!

これは、ルークとティアの声か。

もう来たのか、ルーク一行。もう少し後だと思ってたんだが、予想よりも動きが早いな。

 

距離は直線で大体600メートルくらい、中州の向こう辺りにいるようだが……とりあえず様子見を……!!

 

痛っ……まだ右後脚が治りきってないか。でも前脚はほぼ完治したようで、刃翼のひび割れも既に治っている(刀身部分のギザギザが残っているが、どうしようもないので放っておく)。

昨日ちゃんと食事をしたからか、だいぶ状態が良くなってきてるみたいだ。さすが、ナルガ()の自然治癒力は高いな。

 

おっと、そんな事を考えてる場合じゃない。()()()()()()に備えて、準備を始めなければ。

 

そう、突然地面から瘴気が噴出してアリエッタが気絶する、あのイベントだ。

 

ここで万が一アリエッタが死んでしまうような事があれば、ナルガ()にとっても歴史的にも、色々と困った事になる。

()()()では、アリエッタは死ぬ事は無かった。当然か、彼女はキーキャラクターの一人なのだから。

しかしここは現実の世界、しかもナルガ()という存在がいる。ゲームと同じ展開になるとは限らない。

アリエッタに後遺症が残るかもしれないし、最悪ここでジェイドに殺されてしまうかもしれない。

 

そういう意味では、本当はルーク一行とアリエッタが鉢合わせる広場に直接赴きたかった。しかし後脚が本調子でない以上、それはあまりにもリスキー過ぎる。

 

だから、ここは次善策を採る事にする。風の音素(フォニム)を制御できるようになった事で可能になった、ナルガ本来の隠密行動だ。

実はこういう状況に備えて、広場がよく見える位置に(あらかじ)め陣取っておいたのだ。人の足では登りにくい高台、しかも崖ギリギリまで木が生えているので、身を隠すのにももってこいの場所だ。

 

そして、この場所から広場まで直線で150メートルほど。これなら十分に、棘飛ばし攻撃の射程範囲内に収まる(棘に風の音素(フォニム)を纏わせる事も考えたが……今はやめておく。誤爆と余波が怖いから)。万一の時は、これ(棘攻撃)で横槍を入れさせて貰う。

 

ガイが加わってはいるものの、前回(チーグルの森)と違ってジェイドは大幅に弱体化しているし、ミュウも正式にパーティに加わっているし、物理的な距離もある。最悪見つかったとしても、状況はそれほど悪くはならないはずだ。

 

「見つけた、ママの仇!!」

 

考えている間に、アリエッタが来たか。

さて、遠くからで申し訳ないが精一杯援護させてもらうとしようか。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

……結論から言おう。

 

結局、()()ゲーム通りの展開になった。ジェイドが槍を持ってアリエッタに近付いた時は緊張したが……イオンが止めに入って、事なきを得た。ついでにその後、ルーク一行がアリエッタを(彼らが言うところの)安全な場所に移動させたのも同じ流れになった。

 

……ただし、二つほど気になる事があった。やり取りの中でアリエッタが(しき)りに、ナルガ()の存在を匂わす発言をしていた事が一つ。そして二つ目は、それを驚いた様子も無くルーク一行が聞いていた事だ。ジェイドなどは、『また黒い魔物ですか……』などと(のたま)ってたし。

 

多分、タルタロス脱出イベントやら、セントビナー六神将集結イベントやらで、ナルガ()の事をアリエッタが口走ったんだろうな。

……うーん、チーグルの森でアリエッタと顔合わせして、ルーク一行の事を教えたのは悪手だったか? 予想以上にルーク一行の警戒心が高くなってるし、これで簡単に顔合わせ出来なくなったな……。

 

……まあ、それならそれでいいか。

例え中身が人間()だとしても、結局ナルガ()の見た目は魔物だ。アリエッタやミュウが例外なだけで、本来人間と魔物は殺し合う存在同士。(いささ)か寂しい考え方だが、それがこの世界のルールなのだから仕方がない。

 

もちろん、だからといって積極的に敵対するつもりは無いがな。必要ならば協力するし、逆に邪魔する事もあるだろうし。もちつもたれつ、今日の味方は明日の敵、呉越同舟という奴だ……ちょっと違うか。

 

それにまあ、悪い話ばかりでも無い。

 

なぜなら、ナルガ()の存在がこの世界の歴史に与える影響は、実は大した事がないという事も分かってきたからだ。……冷静に考えれば、大して行動もしない魔物一匹の存在ごときで歴史が揺らぐはずもないのだが、『俺』はどうにもナルガ()を過大評価していたらしいな。

 

今回みたいに、ルーク一行にナルガ()が直接何かした訳でもなければ、アリエッタとまともに会話したのも一回きりという状況では、このイベントも会話が多少変わる程度で終わっている。

 

もし今後、ルーク一行や六神将やヴァンと関わる機会が増えたなら、歴史も大きく変わっていくのかもしれないな。

……『俺』の前世の記憶、というアドバンテージがあまり活かせなくなるから非常に困るのだが……ある程度は、仕方がないか。

 

 

まあ、そういう訳だから。

今、気絶しているアリエッタの近くにいるのも、その『ある程度』に含まれると考えておこう。

 

……なんでそんな所にいるのかって?

 

個人的に思うんだが……ココ(広場)って、本当に安全か?

 

魔物は近くにいるし、瘴気が出てる場所からそんなに離れてないし、どう考えても安全とは思えないんだが。いくらアリエッタとはいっても、初対面の魔物から襲われないとも限らないし(そもそも、気絶してたら意志疎通とか図れない)。

 

ここにいないフレスベルグが、どこかで監視しているのかとも思ったが……気配は感じない。他に配下の魔物がいるのかとも思ったが、周囲の音から察するにそれも無い。

 

そういう訳で、余計なお世話かもしれないが、しばらく監視しようと思い立ったのがナルガ()がココにいる理由だ。

 

……まあ、アリエッタともう一度会話しておきたい、っていうのが本音ではあるけれども。ここならチーグルの森の時と同じように、他の六神将に邪魔される事も無いだろうし。

後は、アリエッタが目覚めるのを待つだけなんだが……。

 

……本当に、瘴気って危険なんだな。今も、二人ともなんだか苦しそうな顔をしてるし……。

 

ゲームだと、メインキャラが何故だか平気そうな顔してるからイマイチ伝わってこないんだが……よくよく考えると、ライガ(成体)すら昏倒させるって相当な危険度だよな。

 

ナルガ()も、瘴気には気を付けないといけないな……。

 




読んで頂き、ありがとうございます。

……アニスを忘れてないかって?
ちゃんとフーブラス川を渡って行きましたよ。ナルガ()が狩りを終えて、高台で寝ている間に。

次は幕間を予定しているので、その辺りも含めて詳しく書くつもりです。

……結構間が空いてるから、長くなりそうだ。

では、次話もお楽しみに。

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