TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~ 作:SUN_RISE
あ、少しだけ残酷描写注意です。……人によっては、少しだけに感じないかもですが。
では早速ですが、本編を始めていきましょう。
『嵐の前の静けさ』
……自分で言うのもなんだが、今の状態を一言で言い表すならこの言葉がしっくりくる。
第二ラウンド開始だ、と威勢よく言い放ってはみたものの……さて、どうしようか。一度ヒートアップしかけた頭を冷静に冷やしてみると、今の
確実に、
……そして、弱点だと思っていたコイツの頭が途轍もなく固い事を、先ほど身を以って思い知った。ついでに、石頭を使った
こうなると、頭を狙うのはあまりにもリスキーすぎる。百害あって一利なし……とまではいかないが、こうまでハイリスク・ローリターンだと行動の選択肢には到底含められない。
……となると、次に狙うのは何処にしよう?
尻尾は……今はやめとこう。なんだか、頭と同じように伸びてきそうな気がする。
なら、次に狙うのは……
(……どうした、威勢が良いのは口先だけか……?)
(おいおい、そんな安い挑発に乗るとでも思ってるのか?)
(………)
(まあいいさ。どうせ、こちらから打って出ないと戦いが進まないから……な!!)
左真横に一足飛びで回り込む。
真横なら反撃を受けにくいと考えたのもあるが、実はもう一つ理由がある。
それは、この
言い換えれば、筋肉の鎧が薄い左後脚を狙えば大きなダメージが期待できるという事だ。
だから
(その脚、もらった!!)
(……ぐっ、やはり速い……!!)
自慢の右刃翼ブレードを、そのひ弱な左後脚にお見舞いしてやるために!!
(ガキン!!)
…ッ!! やはり固い、しかしまともに入った。
手応えは十分だが、どうだ!?
(……くうっ……!!)
むっ、やはり傷は浅いか。筋力が弱い分、衝撃に耐えられなかったみたいでよろめいてるが。
……だったら。
(もう一発食らっとけ!!)
(……ぐっ、させるか……!!)
ん? 腹が青色に光って……?
……なっ、真上に跳んだだと、しかもメチャクチャ高い!? !
どんくさいクセに、ジャンプだけダイミョウザザミみたいな跳躍しやがって!!
(……死ね……)
(そんな簡単に死んでたまるか!!)
ちっ、水滴がウザったい!!
ああくそっ、バックステップで何とか間に合え……!!
(ドガァァァン!!)
(うおっ!! ……危ねえ、間一髪だったな)
(……外したか……)
微妙にホーミングしてきたが、なんとかバックステップで攻撃を避け事なきを得た。結構無茶したけど、本当に
……それにしても、凄まじい着地の衝撃だったな。もう少し遅かったら、潰されてペシャンコになっていたかもしれない。もしそうなっていたらと思うと……
うわ、ゾッとしねえな。
(……ふん、油断は命取りだと言っただろう……?)
(重たい体してるくせに、随分と足腰が強いんだな……いや、体が重たいから足腰が強くなったのか?)
(……どちらでも同じ事だろう……)
(どうだか。そんなチグハグな脚してたら、どう考えても後者じゃないのか?)
(………)
それにまあ、
(………)
(………)
……よく分からないが、空気が一気に張り詰めてきた。もしかして、よほど脚の事を気にしてたのか? 確かに、パッと見は甲羅とか表皮とか煌びやかなのに、よく見た時の残念感は半端ないが。
まあ、俺が意図しない内に放った安い挑発に見事に乗ってくれたようだ。だから、今は少しあいつを怒らせてみるとしようか。おちょくるのにはちょうどいい攻撃方法もあるしな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(……くっ、ちょこまかと……!!)
(おいおいどうした? そんなスピードで俺に付いてこれるとでも思ったのか? ほれ、もう一丁!!)
(……そんな攻撃は効かぬ……!!)
まあ、
……まあ、それはともかくとして。
棘攻撃が鬱陶しいのか、
あと、どうやらダイヤトータスの弱点は頭や尻尾ではなかったようだ。
頭の根元や脚の根元といった、甲羅と体の
それに気付いた後は、なるべく
ただ、一見
(強がっても、
(……!! 何を訳の分からない事を言っている……!!)
(俺をごまかすには、いささか演技力が足りないな。ほれ、もう一丁!!)
(……ぐぅ……!!)
焦りと苛立ちを助長させるようにちょくちょく挑発をしてはいるが、正直なところ効果は薄い。
まあ、どれだけ苛立ってもそこは知性ある魔物、
だから頭を狙った時は簡単に肉薄できたし(咆哮で怯んでいた、という理由もあるにはあるが)、脚を狙ったときも簡単に横へ回り込めた。今も、距離を離した状態での俺の棘攻撃に対して成す術が全く無い状態でもある。
しかし逆に、
頭は固くて刃翼攻撃がまるで通らず、脚への攻撃もよろめかせる事は出来たが殆ど効いていない。棘攻撃にしても、継ぎ目の表皮を削っているだけでダメージは雀の涙ほども与えれていない。
そして、
……やはり、あれだけ固い装甲に斬撃を走らせても効果は薄いようだ。そう、
こういう強敵相手に大きな隙を晒す事は出来れば避けたいが、こちらには最高の
固い奴ほど、打撃や衝撃には脆いものだ。ダイヤモンドだって、硬度(傷付きにくさ)は高いが粘度(割れにくさ)は低い。あの甲羅も、尻尾で普通に叩くくらいじゃ流石にビクともしないだろうが……。
(あ~あ、つまんねえなあ)
(……何がだ……?)
(何で俺は的当てなんてやってんだろうな。弱点に当たれば『大当たり』ってか? だんだん空しくなってきたよ)
さて、このまま挑発を続けても隙を見せてくれないなら、
さっきまでの倍ぐらいの距離を取って、
(……なら、貴様が的になれば良いだろう……?)
(笑えない冗談だな。お前が今の百倍ぐらいのスピードで動けるなら、考えてやってもいいがな。それ、もう一丁食らっとけ!!)
(……ぐっ、馬鹿の一つ覚えみたいに……!?)
さっき、目に攻撃が当たらないと言った。
あれは嘘では無いが、目を
棘を大量に飛ばせば、な。
時間長めに尻尾を回し、力を溜める。ゲームでもナルガがやっていた、大量棘飛ばし攻撃。それを囮に、一気に接近する。
(馬鹿の一つ覚えって言葉、そっくりそのまま返してやるよ)
まだ回す。大体3割くらい力を溜める。
(……いつまで尻尾を振っている……!?)
まだ回す。大体5割くらい力が溜まる。
(俺の気が済むまで、だ)
大体8割くらい力が溜まった。しかし、まだ回す。
(……一体、何をする気だ……?)
もうそろそろ限界、か。
棘を飛ばしたら、すぐに飛びかかれるように準備しておこう。
(これを見れば分かるだろう……ぜっ!!)
溜めていた力を、一気に解放した。さっきまでに比べて十倍以上の数の棘が、
(……!? 何だ、この棘の数は……!?)
よし、完全にこっちを見失っているな。こちらからも
(……くそっ……!!)
棘の飛ぶ速度に合わせて、真っ直ぐに
(ガギギギギギ!!)
飛ばした棘が、大量に
だが……
(隙を見せたな)
(……!! 何だと……!?)
それが悪手だったと気付くのが、少しばかり遅かったようだな。俺は既に脚に力を込め、尻尾を高く振り上げている。
後は、『
(これが、俺の奥の手だ……!!)
脚に限界まで力を込め、180度振り返る。
同時に、同じく限界まで引き絞った尻尾を
(……くっ、避けられない……!?)
(最初から、避けさせる気なんてないんだよ!!)
勢いよく振り下ろされた、棘の生えた黒く凶悪な尻尾が。
(バガアァァァン!!)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(………)
一旦、バックステップで距離を取る。頭に攻撃を直撃させたおかげで尻尾が地面に刺さらず、隙は最小限で済んだ。
遠目に、倒れ込んだ
頭には、棘が当たった部分なのであろうへこみがところどころ目に付き、血が出ている部分もある。
(……やったか?)
いや、まだ安心するのは早い。もしかしたら、頭に強烈な打撃を食らって
確認が必要だな。もしまだ生きているのであれば、倒れ込んでいる今のうちに仕留めてしまいたい。
(………)
様子を探りながらゆっくりと、しかし確実に距離を縮めていく。
……こういうのって、緊張するな。勝ちを確信した時にこそ、何かが起こるか分からないし。
目の前まで来た。動く気配は無いが、呼吸はしているようだ。どうやら、まだ生きているらしい。
それにしても……うわ、こうして見てみるとなかなかエグイな……。
へこんだ部分は表皮が割れ、血が
尻尾叩き付け攻撃の直撃を受けて、この程度で済んでいるなんてな。最初に会った『飛ぶ巻貝』は粉々になったというのに、コイツ皮も骨も本当に頑丈だな。……まあ、分かりきっていた事か。
生きているなら、残念だが止めを刺さねばなるまい。確実に息の根を止められるよう、少し気は引けるが首を刎ねる事にする。
左に回り込み、狙いを
だが、それももう終わりだ。
体勢を低くし、右の刃翼を引く。
……じゃあな、さような――
(――まだ、終わってはいない……!!)
――なに?
(ガキーン!!)
なっ、まだ動けるのかコイツ!?
くそっ、左脚で攻撃を止めやがって……!!
(……隙だらけだぞ……!!)
……なんだと?
(バキン!!)
なっ、おい嘘だろ!? コイツ、頭突きで刃翼を横から叩きやがった!? 割れ目が広がって血が出るのもお構いなしかよ!?
(……お返しだ……!!)
目の前が、青く光って……!? マズイ、ボディプレス攻撃だ!!
くっ、右脚を叩かれて体勢が崩れて……!!
(ちっ、水滴が鬱陶しい……!!)
って、喋ってる場合じゃない!! このままだと、頭を潰されてしまう!!
仕方ない、何とか左脚だけで前に跳ぶ!!
攻撃を避けられないかもしれないが、頭を潰されるよりはマシだ!!
(……うおおぉぉぉ!!)
よし、何とか移動でき―――
(グシャアァァン!!)
……うあ?
右後脚の感覚が無い……?
一体どうなって……あ、右後脚が
(がっ、あああああああ!!!!)
くそっ、間に合わなかったか!! なんとか急所は避けたが、脚をやられた!!
(……ふん、油断するからだ……)
ちっ、皮肉の一つも返してやりたいがそれどころじゃない!!
(くっ……いつまで上に乗ってるつもりだ!?)
運よく、頭の前に
そのまま、尻尾で
この程度の攻撃、本来なら効かないんだろうが……ひび割れて血が出ている今の状態なら、少しの衝撃も
(……ぐう……!!)
案の定、頭を走る痛みに
地面への圧力が弱まった隙に、脚を引き抜く。
そのまま、残りの三本の脚で跳び距離を取るが……飛距離が出ない。ナルガ二匹分の距離を取るのに二回も跳んでしまった。
それでも、何とか距離を取り
……完全に骨がいかれた、か。
いや、むしろ当たり所が良かったのか骨が皮膚を突き破っていない。痛みはひどいが、まだ何とか耐えられるレベルだ。
どうやら、ナルガの体になった事で痛みへの耐性も付いたらしいな。もし人間の時のままなら、痛みに耐えられず悶え転げてただろう。
しかし、当然ながら右後脚の踏ん張りは全く利かない。残った三本の足で動き回らなければいけない以上、スピードは大幅に落ちるだろうな……。
(まさか、油断の代償が右脚一本になるとはな)
(……調子に乗るからだ……)
(ふん、そちらこそ逃げの戦法をとった結果が
(………)
油断のせいで痛み分けになってしまったが、俺の方がまだ軽傷で済んでいるのは幸いだ。まあ、スピードは死んでしまったが……。
(………)
(………)
気付いたら、だいぶ日が傾いていた。まだ夕方には遠いみたいだが、随分と早く感じるな。
……思えば、この距離で向かい合うのも三度目になるのか。もっとも、最初や二度目とはだいぶ状況が変わったが。
互いに負った傷を考えれば、これが最後のぶつかり合いになるかもしれないな……。
読んで頂き、ありがとうございます。
…戦いが終わるなんて誰も言ってませんよ?
では、次話もお楽しみに。