TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~ 作:SUN_RISE
今更ながら気付きました。手頃な強敵がいないなら、自分で勝手に作ってしまえばいいと。もちろん、テイルズの常識を逸脱しない範囲で、ですが。
さて、本編を始めていきましょう。
第5迅:主来たりて、川荒々し
地平線の彼方まで続く、青く雄大な空。雲一つ無い空から降り注ぐ太陽光が、
若草色の絨毯が敷き詰められた草原には色とりどりの花が咲き、見る者を楽しませてくれる。
ルグニカ平原は、こんなにも広いのか。さすが、大陸の半分近くを占める大平原なだけはあるな。空以外の全てが緑系の色で埋め尽くされてる。
こんな大自然の恵みを一身に受けたエンゲーブの食材が、不味いわけ無いよな。なんか、妙に納得した。
……ただ、そんな中でもやっぱり魔物はいるんだな。猪みたいな奴か、ちょっと手強そうだ。
よし、森で同じような奴ばかりが相手で飽き飽きしてたところだ。実戦経験も兼ねて、一丁叩き潰してやりますか。
(迅竜戦闘中…?)
……忘れてた。ルグニカ平原の魔物って、一般人にさえ「家畜に毛が生えた程度」なんて言われるほど弱かった事を。
さっきも、猪の突進を刃翼で止めようとしたらそのまま真っ二つにしてしまったし。どんだけ防御力無いんだよ……しかも不味そうだし。
これは、長居しても殆ど意味は無いな。なるべく街道に出ないよう、森沿いを伝ってさっさとフーブラス川へ移動するとしよう……。
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何事も無く、フーブラス川へと辿り着いた。途中、街道を横切る時は緊張したが……誰も通らなくて幸いだった。アクゼリュス寄りに進路をとったお陰だろうか。
ついでに、セントビナーのやたら高い石壁が目印になってくれたお陰で、川に迷わず辿り着く事ができた。目の悪い
さてと……ここがフーブラス川か。確か今は乾季で、人が徒歩で渡れるほどに水量が少ないんだったな。
確かに、所々踏み石みたいなのが顔を覗かせてるし、細長い中洲らしき場所も見える。
まあナルガは水に強いし、ここには確か強い魔物も出ないはずだし、問題無く渡れそうだな。とりあえず、あの中洲らしき場所まで行ってみるか……。
(迅竜滑空中…)
よし、滑空も板に付いてきたな。小さい中洲の端に、ピンポイントで着地できた。もっとも、小さいと言っても
……それにしても、さっきからウロウロと視界内を行ったり来たりしてる魔物が
……なんか、
よし、ちょうど腹も減ってきたし試しに食べてみますか。
いただきます。
(迅竜狩猟中…)
生きてて良かった……。そう思えるぐらいに、オタオタは非常に美味かった。
この世界に来てまだそんなに経っていない
そして、やっぱり尻尾は絶品だった。柔らかくて、舌の上で脂がとろけて優しい甘味がサーっと広がる。火を通したらもっと旨味が増しそうだ。ここに肉焼きセットがあれば完璧だったのになぁ。
……あ、向こうに陸亀が見えるが放っておこう。マ○ル……じゃない、オタオタで十分満足したし、余計な物を口に入れてこの余韻をぶち壊したくない。
さてと、次の滑空で一気に川の向こうまで行けそうだ。確かそこで、ルーク一行にアリエッタが追い付いて一悶着あるんだったな。よく覚えてはいないが、アリエッタの叫びやら、ティアの新しい譜歌やら、瘴気の噴出やら……。
…………なんだ? この重々しい足音は。水の中から聞こえてきてるみたいだが……?
結構な重量だな。キログラムどころか、下手するとトンはあるぞコレ。
ん? あの亀、逃げてくぞ? なんか、いるのか……って。
おいおい、やけに眩しいと思ったらピカピカしたのが中洲の反対端近くの水面から出てるぞ。もしかして、
しかも……でかい。山みたいに巨大な金剛石の原石がどんどん大きく……。
……は? 大きく?
鉱石が勝手に成長するわけ……。
……って、何だあのバカでかい亀は!?
うわ……なんか中洲の地面がズシンズシン、っていってるし。ドボルベルクみたいな奴だな。
……あ、亀だけあって動きはノロマだな。全然こっちに近付いて来ない。
よし、なら一旦落ち着こう。想定外の出来事が起こった時こそ、深呼吸して次の一手を考えるべし……。
スー、ハー……よし、落ち着いて状況を整理してみよう。
こいつはもしかして……川の主、という奴だろうか? ゲームには全く出ていなかったが、多分そうなのだろう。
まあ、これだけ広い川ならそういう存在がいても不思議じゃないが……流石にデカ過ぎだろ。何食ったらそんなにデカくなるんだよ。
……もしかして、鉱石でも食べてるのか?
今も中洲に落ちてる岩をくわえて、ガリガリ噛み砕いてるし。
陸亀……『トータス』は、本来は鉱石を食べる種族じゃないはずだが……周辺環境に適応して鉱食になったか、あるいは突然変異か……。
いずれにせよ、ちょうど下流にはアクゼリュスがあるし、川にも鉱石資源が豊富なのだとしたら……あり得なくも無いな。
それにしても、見事な金剛石の甲羅だ。食べた鉱石に混ざっていた金剛石を、装甲に再利用したのか。こいつに名前を付けるなら『ダイヤトータス』、モンハン風に言うなら『金剛亀』といったところか。
……斬りつけたら刃翼の方が負けて、刃こぼれを起こしそうだ。重量も、多分
完全なるパワー型、至近での打ち合いは危険……か。幸い動きは鈍いみたいだから、ヒットアンドアウェイか遠距離攻撃で戦うのがセオリーになりそうだ。
……流石に今回は、逃げずに戦う。というのも、今こいつを退けておかないと、後でここを通るであろうルーク一行が襲われて魔物への警戒度を上げさせてしまう。……正直、会う前にそれは困る。
だからここで最低でも撃退、できれば撃破したいところ。
……そのためには、あの硬そうな装甲をどうにかするか、弱点を突くしかない。亀の弱点は、頭か足か尻尾か腹と相場は決まってるが……。
おいおい、頭まで金剛石で覆われてやがる、っていうか表皮が全部金剛石で出来てるんじゃないか? 足も尻尾もキラキラ輝いてて、なんだか硬そうだ。
腹を狙うにしたって、どうやってあいつをひっくり返せと? 重すぎて無理だろ。ディアブロスじゃあるまいし、
……結局は正攻法、コイツ相手ならヒットアンドアウェイと遠距離攻撃しか無い、か。まあ、戦ってる間に何か掴めるかもしれないし、それでいきますか……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【三人称視点】
川底に居てさえ伝わるほどの、地上からの圧倒的な威圧感。それは、温厚で危機意識の低い
金剛亀は
風の
金剛亀は畏れていた。
今はまだ大した脅威とならぬ黒き獣の、
ゆえに、金剛亀は戦う。
脅威の芽を、摘み取る為に……。
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(……お前か、地上でとんでもない量の
ん? こいつ喋れるのか。……という事は、一定以上の知能があるって事だな。
面白い、どんな性格か少し様子を探ってみるとしようか。
(ああ、そうだが?)
(……ふん、どうやら制御できていないようだな……)
(ああ、そうだが?)
(……ああそうだが、以外には喋れないのか……?)
(ああ、そうだが?)
(……はぁ、もういい……)
おいおい、溜め息
(まあ、冗談はおいといて。あんた何者だ?)
(……我か……? 我は、川の主と呼ばれている……)
あー、やっぱり川の主だったか、この亀。……一人称が『我』って部分にはツッコまないぞ、俺は。
それにしても、随分と遠慮無く睨んでくるな。こっち見んな
(川の主、か。強いのか?)
(……試してみるか……?)
(やる気満々だな。まあ、その方がこちらも遠慮無く戦えるからありがたいがな)
バチバチ、と互いの目線がぶつかり合う。流石は川の主と自称するだけあって、なかなかの威圧感だ。
こちらも、負けてはいられないな。開戦の合図は、モンハンでは
(グワアァァァオォォォォ!!)
(……つっ……!?)
ふん、金剛亀もこの咆哮に怯んだか。ならば、先手はもらう!!
がら空きの頭に刃翼の一撃でも、
(食らえ!!)
(……くっ……甘い……!!)
まともに入ったが……やはり硬いな、傷一つ付かない。バサルモスみたいな奴だな。
……でも、刃こぼれは無いな。毎日こっそり刃翼の手入れをした
(……お返しだ……!!)
おっと、頭を伸ばして左右に振る攻撃か。当たらん当たらん、そんな鈍い攻撃、ちょっと後ろ跳びすればすぐ避け……
って、頭長っ!?
(うおっ)
危ない、耳を掠めたぞ。なんかブンッて恐ろしい音も聞こえたし。トータスってこんなに頭伸びたか!?
(ろくろ首かよ、どこまで伸びるんだソレ!?)
(……ろく……? よく分からないが、油断は命取りだぞ……)
くそ、強敵との実戦経験が無いのはやっぱり痛いな。強敵だと頭で分かってはいても、どうしても無意識に相手を格下に見てしまう。
……でも、
油断すれば、死ぬ。……そんな自然界では当たり前の事も、
(なんの、戦いはこれからだろう?)
だからと言って、縮こまるつもりは毛頭ないがな。
油断して下手うてば、死ぬ。逆に言えば、油断せず相手を観察すれば突破口は見つかるって事だ。
……戦闘経験が無いなら、経験すればいいだけの話。ここで金剛亀と戦って、生き延びて、それを糧にすればいいだけの事。最初から戦闘経験豊富な奴なんていないのだから。
(せっかくだから、色々と試させて貰うぞ)
それに、金剛亀の物理攻撃に対する守りの堅さは、おそらくこの世界でトップクラスだ。なら、こいつに通じる物理攻撃はこの世界の殆どの魔物に通じるって事。試さない手は無い。
(……『試す』とは、随分と余裕のある物言いだな……。その余裕、無くさせてやろう……)
(やれるものなら、やってみろ!!)
さあ、第二ラウンド開始だ!!
読んで頂き、ありがとうございます。
次話に戦いは続きます。オール一人称で戦闘描写はなかなかキツイですが、練習だと思って頑張って書きます。
では、次話もお楽しみに。