TALES OF THE ABYSS ~ Along With the Nargacuga ~   作:SUN_RISE

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どうも、SUN_RISEです。

今更ですが、いつもたくさんのご感想ありがとうございます。
まだ小説に不慣れな部分もある中、多くの方に読んで頂いているのは非常にありがたい事です。なるべく早く、丁寧に返信をしていきますので、今後とも感想を頂けたらありがたいです。
……ん? 前も似たような前書きを書いた事があるような?

……まあいいか。

では本編、始めていきましょう。



第11迅:故きを温め、新しきを知る

大老樹(マスタートレント)との距離は、目測で約20メートル。それはナルガ()からすれば一回の飛びかかりで十分詰められる距離であり、相手の攻撃を見切るのには十分過ぎる間合いでもある。

 

だからこそ、すぐには攻めない(……ガリ……)

 

『まずは様子見だな』

『……? あの、あれだけ相手を怒らせておいて……様子見ですか?』

『ああ、こういう手合いは怒らせて判断力を奪っておけば、攻撃が単調になりやすいからな』

『なるほど、そのほうが戦いやすいという事ですか』

『ああ』

 

……とはいえ、正直ここまで挑発が上手くいくとは思っていなかった。

コイツ歳食ってる癖に、とことん沸点が低い奴だな。魔物とはいえ一応歳を重ねてるんだから、もう少し落ち着いた方が長生きできると思うんだが……。

 

『私が言うまでもない事だとは思いますが……』

『知ってるよ。相手の事を気にする前に、まずは自分の心配をしろ……だろう?』

『はい、分かっておられるのなら大丈夫です』

 

シルフの言う通りだな。強敵(大老樹)を前にして余所事を考えるなど、自惚れもいいところだ。いくら相性が良さそうとはいえ、戦いに絶対は無い。

じっくりと相手を観察し、攻撃を全て見切り、隙を逃さず的確な反撃を加える。この基本を強敵(大老樹)との戦いの中で、確実に体に覚え込ませていかねば(…ガリ……)

 

冷静さを欠いた(であろう)相手にそれぐらいできないと、いざ挑発が通じない相手と戦いになった時に一方的にやられてしまう事にもなりかねないからな。

 

 

……さてと、この大老樹(マスタートレント)は一体どんな攻撃を繰り出してくるのだろうか(ガリ……)

 

長い枝を使った叩きつけか? しかし、いくらなんでもこの距離では届きそうに無い。

植物だけに、状態異常系の攻撃を仕掛けてくるか? しかし、何らかの方法で毒素的な物質をナルガ()まで届かせなければならないから、確実に予備動作、あるいは予兆があるだろう。

頭に生い茂った葉の中から、固い果実的な物を放って攻撃してくるか? なるほど弾速が速いなら厄介だが、それならそれでやはり(ガリ…)予備動作が大きくなるだろう。

ならば譜術? 見た目からして、地属性の譜術が得意そうだ。金剛亀(ダイヤトータス)の時は詠唱に気付かなかったから、これは要注意だな。

 

 

……それにしても、さっきからガリガリと何の音だ? しかも、徐々に音が大きくなっている。

攻撃の予兆か? 地中から聞こえたような気がしたが、だとしたら一体どんな攻撃だ?

 

 

(ガリガリ……)

 

 

……間違い無い、音は地中から聞こえてきている。しかも、さっきより確実に音が大きくなっていることから、おそらく音源がどんどんナルガ()へ近付いているのだろう。

それにしても、この土と何かが擦れるような音を()()()()()()()()……!!

 

あ、なるほどそういう事か。年季が入ってるだけに、なかなか面白い攻撃方法をしてくるな。

 

(おいおいどうした? 攻撃もしないで、俺をどうやって(ガリガリガリ…)後悔させてくれるんだ?)

 

……音を隠す気が無いのか? それとも、聞こえていないとでも思っているのだろうか?

まあいい、とりあえず気付かないフリだけしておくとしようか。ポーカーフェイスポーカーフェイス……。

 

(随分と余裕じゃな。|しかしその余裕も、残念ながらここまでじゃよ《ガリガリガリ》!!)

 

遂に真下から大きな音がし始めた。

それと同時に、一瞬大老樹(マスタートレント)がニヤついたのを見てとった。

 

音源が、一直線に地中を上へと上がってくる。

 

 

 

(はいはい、まあ流石は木のモンスターだな……っと)

 

その瞬間、小さくバックステップした。

 

 

 

(……なっ!?)

 

 

 

予想通り、地面から枝……いや、これは根か? 根が生えて、さっきまでナルガ()の頭があった場所を勢い良く貫いた。

地質の固そうなデオ山(山の名前が分からなかったので、記憶を辿り適当に名付けておいた)の地面を掘り進むだけあって、根の先は鋭く尖っている。

 

さっきのガリガリ音は、やはり根が地中を少しづつ掘り進む音だったらしい。これで掘り進む音がもっと小さくて、かつ表情に出ていなければ、もしかしたら攻撃に当たってたかもしれないな。

いくら冷静さを欠いてるとはいえ、お世辞にも目の良くないナルガ()でさえはっきりと分かってしまうほどに表情が変わるんじゃダメだろ……。

 

(くう、避けたか。ならば……)

 

驚愕の後、悔しそうな表情に変わる大老樹(マスタートレント)だが、残念ながら根を引っ込めるまで黙って見ていてやる義理は無い。

他に根が伸びてきていない事を確認して……。

 

(……遅い!!)

 

飛びかかり斬りで、その根に深い切り傷を付けてやるとしよう。

……せっかくだから、刃翼に風の音素(フォニム)を纏わせて斬りつけてみるか。まだ扱いに慣れなくて加減が利かないが、それはこれから回数を重ねて慣れていけばいい。

 

 

それっと!!

 

(ヒュッ、スパーン!!)

(ぐっ、ぐおお!!)

 

おっと、勢い余って二メートルほど伐採してしまった。この固そうな赤土を掘り進むのだから、もう少し固い根かと思ったんだが……意外にすんなり刃が通ってしまった。ちょっと風の音素(フォニム)を乗せすぎたか? 言葉で説明するのは難しいが、普段刃翼で斬る時は『ズバッ』って感じだが今回は『スパッ』って感じだったから、切れ味が少々良すぎたのかもしれない。

 

『あ、少し風の音素(フォニム)の扱いに慣れてきましたか?』

『いや、まだ加減がうまくできなくてな。風迅を撃てば刃翼が壊れるし、棘迅竜砲は風切り音が凄まじいし、まだ譜術は使えないし……』

『後は慣れだと思いますよ。使い続けていれば、そのうちきっと……』

 

(おのれ、よくも!!)

 

おっと。

シルフとの会話に意識を割いている間に、大老樹(マスタートレント)反撃の素振り(息を大きく吸い込む)を見せている。危ない危ない、集中集中っと……。

 

(黙って当たってやる筋合いは無いな)

 

予備動作から見て、おそらく毒の息的な何か危険な物質を含んだ霧でも吹きつける気なのだろう。

少しでもかかったら面倒なので、今度は後ろではなく横に大きくサイドステップし、距離を取りつつ側面に回り込む。

 

さて、俺の予想は当たっているのだろうか?

 

(ポン!! ドスン!!)

 

あれ、毒霧じゃなくて種飛ばしだったか。いずれにせよ、後ろに下がらなくて正解だったかな。

大きく横に移動したナルガ()に攻撃は当たらず、真っ直ぐ突き進んだ種が遥か後方に着弾して……!!

 

(…にょき…にょき)

 

おいおい。

なんだあの異常に生命力の強そうな種は、着弾した傍からこれでもかと根を伸ばしてる。あんなのが直撃したら体中が根だらけにされてしまう……どころじゃないな、どこのポケ○ンのやどり○のた○だよアレ。

 

(ふん、どうじゃ?)

 

……ちっ、予想外の光景に一瞬足が止まったのが災いして、こちらに向き直られてしまった。その場での旋回速度は意外と速いんだな、この○さポ○モンもどきは。

 

(どう、と言われてもな……確かに厄介だが当たらなければどうということはない、と返すしか無いんだが?)

(強がりを、素直に驚いたと言えばどうじゃ?)

 

そんな事で勝ち誇られてもなぁ……。 実際問題として、攻撃そのものは見事に外れてるしな。

でも、表情を窺うに幾分冷静さが戻ってきているようだな。少し状況も落ち着いた事だし、念のためもう一度挑発して怒らせておくとしようか。

 

(その台詞、俺に攻撃を当ててからもう一度吐いてみろよ。まあ、鈍間(ノロマ)な老いぼれ間伐材には一生かかっても無理だろうがな)

(ふん、戯言を。その減らず口を、今度こそ叩き潰してくれる!!)

 

我ながら安い挑発文句のオンパレードだと思ったのだが……それでも激昂してくれるのは、自分に対する過剰なまでの自身がなせる業か。

いや何というか、本当に楽な相手だな。

 

(その台詞、そっくりそのまま返させてもらうとするよ)

 

さてと、根も一本伐採してやったし……リスクは高くなるが、そろそろこちらからも積極的に動いていくとしよう。

まずは、あのやたら生い茂った邪魔な枝葉でも剪定してやろうか。

 

(さて、ここからが本番だ。頼むから、俺をがっかりさせてくれるなよ?)

(それこそ儂の台詞じゃな、どこからでもかかってくるがいい!!)

 

距離は初期状態から開いて、約25メートルほどになっている……が、やはりナルガ()にとっては短い距離。両脚に力を込め、一気に距離を詰める準備を整える。

 

 

 

 

 

……と、そこまでして()()()()()()()()

 

『なあ、シルフ』

『はい、何でしょうか?』

『刃翼に風の音素(フォニム)を纏わせられるのなら、脚にも音素(フォニム)を纏わせられるんじゃないか?』

 

我ながら、良い案だと思うのだが。風の音素(フォニム)を脚に纏えば、今よりも格段に速く移動する事が出来るようになるはず。

それができれば、ナルガの長所をさらに伸ばす事が出来るのではないだろうか? せっかくの機会だし、是非試しておきたい所だ。

 

『高速移動が目的ならば、十分に可能でしょう。おそらく脚への負担もそれほど無いとは思います。ただ……』

『……? ただ?』

『その……速くなり過ぎて、制御が難しくなるかもしれません』

 

なんだ、そんな事か。

 

『よし、なら試しに一回やってみるか!!』

 

刃翼や棘に風の音素(フォニム)を纏わせるのと同じように、脚にも風の音素(フォニム)を纏わせる。

明らかに体が軽くなったのが、確かな実感として湧いてくる。

 

『ちょっ、待って下さ……!!』

 

なぜだか、一気に気分が高揚してくる。オタオタを捕食した時や、『風迅』を放った時でさえここまで気分が盛り上がった事は無いのにも関わらず、だ。

精神は人間だとしても、やはり体はナルガクルガ。迅竜にとっては美味しい食事をするよりも、速く(はや)く移動する事こそが最大の幸福……なのかもしれない。

 

『待てないな、行くぞ!!』

 

その状態のまま、一気に脚に力を込めて跳ぶ。

 

 

瞬間、岩壁が近付いてきて……!!??

 

(うおっと、危ない!?)

 

そのまま岩壁に激突しそうになって、咄嗟に身を翻し脚から着弾した(この表現、わりかし間違いではない気がする。それほどに速かった)。

……病み上がりの脚がビリビリと痛む。風の音素(フォニム)を纏ったままだったので衝撃はかなり減衰されたが、それでも痛いものは痛い。

 

着弾点を確認すると、そこは広場から100メートル近く離れた場所にある高い崖の中腹。崖は垂直ではないものの、気を抜けば滑り落ちてしまいそうなくらいには傾いている。とりあえず今は、岩の出っ張りに刃翼や足を引っかけるようにして張り付く事にした。

そういえば、広場に残した大老樹(マスタートレント)はどうしているのだろうか?

 

(……なっ、どこに行きおった!?)

 

どうやらナルガ()の動きを目で追えなかったらしく、大老樹(マスタートレント)は慌てて周りを探しているようだ。口調から明らかな焦燥感が読み取れるあたり、相当な衝撃度合(精神的な)だったのだろうな。

 

……だが、何度もこちらの方を向いたのにも関わらずナルガ()がココにいる事を把握できていない、というのはどういう事だ? 直線距離は110メートルもなく、静止視力の良くないナルガ()でさえも大老樹(マスタートレント)の姿は十分認識できているのだが……大老樹(マスタートレント)ナルガ()に輪をかけて目が悪いご様子(もう年、だからなのだろうか?)。そんな状態で、一体どうやってナルガ()の位置を正確に感知していたのやら……。

 

(まあ、そこは植物だから俺とは違う感知体系とか、なんか色々あるんだろうな)

 

どうせシルフしか聞いていないであろう独り言を呟いてから、再度足に風の音素(フォニム)を纏わせていく。

目線は一際太く大きな枝、人間で例えるなら右腕に当たる場所を見据える。

 

『えっ、ちょっ、また失敗しますよ!?』

『大体の感覚は掴めたから、もう失敗はしない。この体のおかげか、スピードへの順応は早くてな』

 

幸い、超高速の移動の中でも十分に視覚は利いた。やはりナルガクルガの動体視力は非常に優れているらしい。

ついでに言うなら、空気抵抗も殆ど感じなかった。この黒い毛と流線型のフォルムが、空気抵抗を大きく軽減してくれているらしい。

 

これなら、風を切って跳ぶ中で正確に標的を狙う事ができそうだ。

ちょうど良い具合に、脚の痺れもとれてきた。今度はすれ違いざまに、あの厄介そうな右腕(枝だが)を斬り落としてくれる。

 

『よし、今度こそ行くぞ!!』

 

再び力を込め、一気に跳ぶ。

 

辺りの景色が、まるで新幹線からの車窓を眺めているかのように流れていく。それでも風景がぼやける事はなく、どこに何があるのかを正確に把握する事ができた。

そして……

 

(もらった!!)

 

右腕の真上を通り過ぎる瞬間、真下にあるであろう太い枝に向けて刃翼を思い切り振り抜く。脚に注力した分、刃翼には音素(フォニム)を纏わせられなかったので多少引っ掛かる感触はあったが……。

 

(……!!)

 

胴体と別れた大老樹(マスタートレント)の太い枝が、空を舞っていったのを目で捉える。ついでに、大老樹(マスタートレント)の驚愕極まった表情も。

そのまま、空中で身を翻し地面に着地する。今度はうまく勢いを殺す事ができた

 

(ぬ、ぬぐぅ……!!)

 

痛みに悶える大老樹(マスタートレント)が、血走った目でナルガ()を見てきた。

……へえ、なかなか怖いな。生憎ナルガ()はその程度では(おび)えも(ひる)みもしないが、こうして見るとやはり長い年月を生き抜いた魔物なのだな……と実感する。

 

(どうだ、右腕を失った感想は?)

(ぐ、貴様……一体、どこから……!!)

(答える義理は無いな。唯一言えるのは、今のが見えなかったって事 = あんたじゃ俺には勝てない……って事だけだ)

(くっ……ぬかせ!!)

 

度を越えた痛みでアドレナリン(魔物、しかも植物にそんなものがあるのかは不明だが)でも出ているのか、或いは自身に迫る『死』の匂いを感じ取ったのか……明らかに大老樹(マスタートレント)(たかぶ)っている。

なるほど、これが『手負いの獣は怖い』という事か(植物だが)。モンハンでも瀕死になると怒りやすくなるモンスターが比較的多かったが……その法則は、どうやらこの世界でも当てはまるらしい。

 

よし、ならば俺は冷静に攻めていくとしようか。

大老樹(マスタートレント)の攻撃は一層激しさを増すだろうが、それは隙が増えるという事の裏返しでもある。枝が一つ無いのであれば、尚更そうであろう。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

……結局、そこから先は一方的な戦いだった。

元々大した速度を持たなかった事に加え、太い枝を失い完全にバランスを崩した事で大老樹(マスタートレント)の動きは鈍っていた。そしてそれにも関わらず、無理な体勢から強引な攻撃を繰り返した事で致命的な隙をナルガ()に晒していた。

 

そこを突き、背後に回り込んでは一撃を加え、側面に回り込んでは風を纏わせた刃翼の一撃を加え、脚に風の音素(フォニム)を纏わせて突貫し……固そうな茶色の樹皮の表面に、深い傷が着実に増えていった。

その過程で、いろんな事を試した。徐々に、今の自分がどんな事ができて、どんな事が出来ないのかがはっきりしてきた。

 

脚に風の音素(フォニム)を纏わせる事で、超高速移動と大跳躍が可能になる事。必然的に滑空で移動する事の出来る距離も長くなり、移動の手間が大幅に軽減された。

刃翼に風の音素(フォニム)を纏わせる事で、攻撃力を高められる事。切れ味が増し、より硬いものを斬る事ができるようになった。もう少し慣れたら、『風迅』もローリスクで放てるようになる……かもしれない。

 

もちろん、現時点でできないと分かった事も沢山ある。

 

体の複数個所に、同時に風の音素(フォニム)を纏わせる事は不可能である事。今のナルガ()では某鋼の龍や嵐の龍のように、体全体を覆うように暴風を纏う事はできないようだ。

譜術が使えない事。これだけ音素(フォニム)の扱いに慣れていても、譜術だけは何故か使えない。未だに理由は分からない。

 

……そして、それらに気付かせてくれたのは間違いなく大老樹(マスタートレント)のおかげだ。彼がじっけんだ……ゴホン、相対してくれたおかげで、ナルガ()はまた強くなる事ができたようだ。

一つ残念な事があるとすれば、大老樹(マスタートレント)が本領を発揮する前に仕留めてしまった事(俺が本領を発揮できないようにした、とも言えるが)。それさえ発揮できれば、大老樹(マスタートレント)ナルガ()にとって十分な脅威となりえたのだろう。

 

『……自分が倒した敵(大老樹)の死体の前で、よくそんなに冷静に考察できますね……』

『犠牲は無駄にしない、それが俺のポリシーだからな。命を奪った以上は、それを糧にする義務が俺にはあるんでね』

『そんなポリシーがあったんですか?』

『「いただきます」と「ごちそうさま」は、ちゃんと言ってたような気もするけどな』

『……??』

 

シルフには伝わらなかったか……まあ、その事は別にいい。

 

 

大老樹(マスタートレント)との戦いは確かに圧勝だったが、辛勝だった金剛亀(ダイヤトータス)との戦いと同じくらい、多くの成果を得る事ができた。

これで、より自信をもって軍港強襲イベントに……あ。

 

『急がないと、マズイか?』

『はい、おそらく』

 

いつの間にか、陽は西の空に傾いていた。夜目は利くので夜間の移動に関しては問題はない(というより、そちら()の方がむしろナルガクルガのホームグラウンド)が、移動時間を考えるとそろそろタイムアップも近い。急がなければ、軍港襲撃イベントに間に合わなくなってしまう。

 

『急いでいる割には、思い切り寄り道していましたよね……』

『分かった、分かったからそれ以上言わなくていい』

 

まあせっかくだから、新しく習得した高速移動術を駆使させてもらうとしよう。これなら、当初の予定よりも圧倒的に早く目的地に到達できるはずだ。

 

風の音素(フォニム)を脚に纏わせ、天高く跳ぶ。風を切って昇っていく感覚が、妙に心地いい。

そのまま滑空し、一気に山を下っていく。ここを越えれば、もうそこはキムラスカ領となる。果たして、この先には一体どんな困難が待ち受けているのやら……。

 




読んで頂き、ありがとうございます。

圧倒的な守備力と瞬間火力を誇る金剛亀と、抜群の生命力と多彩な攻撃方法を持つ大老樹。金剛亀と大老樹は、方向性が違うだけで戦闘能力的にはほぼ互角の相手です。

……でも、実際に蓋を開けてみればナルガ()の圧勝。
ナルガ()が終始大老樹を圧倒出来たのは、やはり『相性』と『初手』こそが大きな要因でした。

どんな厄介な攻撃も、事前に察知されてしまえば比類無き速度を持つ迅竜には当たらず。逆に速度と手数に優れる迅竜を相手にしては、鈍重な動きと緩い防御は致命的な弱点になります。
『相性』というのがどれほど大事なファクターなのか、金剛亀と大老樹との戦いを経たナルガ()も身を以って分かった事でしょう。

また、大老樹が初手で挑発に乗ってしまいナルガ()の思い通りの展開へ持ち込まれてしまった事も、ナルガ()圧勝の要因となっています。これでもう少し冷静であれば、攻撃の予兆を表情に出す、などという愚を犯す事も無かったのでしょうが。






……もちろんそれは。
いつか来るであろう戦いを避けられない場面において、相手との相性が良いとは限らない……という事を示している訳でもありますが。

では、次話もお楽しみに。

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