「根」の女   作:蒼彗

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今回から波の国編です。

……書く度に、文字数が増えて行ってる気がします。コレ、マダラさんが出てくる頃には字数制限一杯まで詰め込んでいそうな気も((((;゚Д゚)))))))

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波の国編
ババアと大工


光があれば、闇が出来る。

輝かしい太陽の下ですらそうならば、薄闇の中の闇はどれほど色濃く染まっているのだろうか。ましてや、闇に溶けて生きる忍の隠れ里ならばその闇は口にするのも恐ろしいに違いない。此処、木ノ葉にも闇はある。青々と葉を広げる木ノ葉(大樹)を支えるのは、何時も隠れた「根」()なのだ。解体されようが、光ある限り闇は残るものだ。

 

今日も深い奥底で、闇が蠢く。

 

 

「はーい、第一回「根」に欲しいモノ主張大会を始めます!」

 

気怠そうに手を挙げた狐面に、その場にいた面々は溜息をつく。無駄な感情を捨てよ、と教えられる暗部の「根」に於いて、狐面の少女は感情豊かだった。それでも、彼女の実力は折紙付きで「根」の長・志村ダンゾウからも一目置かれているのだから不思議だ。

 

「日夜、木ノ葉の為に働く我らの為にダンゾウ様直々に願いを叶えて下さるそうです。自由と平穏と賞与、休暇以外で何かありますか?」

 

上がっていた手がバラバラと落ちていく。表だろうが裏だろうが、忍に休みなどある筈がない。それでも、一縷の望みに掛けた猛者達の断末魔がそこかしこに聞こえた。

 

お休み欲しい。睡眠時間が欲しい。任務変わってほしい。

 

「彼女が欲しい!」

 

「他人と目を合わせて話せるようになってから出直せ……はい、次」

 

「彼氏が欲しい」

 

「さっきの奴と付き合え……はい、次」

 

「嫁が画面の向こうから出て来てくれません」

 

「それはお前の嫁じゃない。私のです。あと、サイに頼めば未来が見えます……はい、次」

 

テンポ良く、狐面は司会進行していく。そのどれもが欲望に塗れた願いである。感情を抑えた故の弊害だとしたなら悲しい話だ。

 

そんな中、一人黙っていたフーが真っ直ぐ手を挙げた。

 

「我々「根」の者は後ろ暗い仕事が多い。何かと血生臭い、嫌な事ばかりだ」

 

暗殺。謀殺。流言飛語で世論操作し、木ノ葉の為に暗く働く。まさに忍という存在が「根」で有る

 

だからこそ、今、力を込めて言う!

 

「専用の風呂が欲しい!」

 

フーの意見に隣のトルネが拍手をした。何せ、怪しい実験室や何が入っているかも分からないホルマリンプールは沢山あると言うのに、おざなりなシャワー室が一つあるだけだ。それも至る所にカビが生えているし、男女分かれてないせいで三つあるシャワーは大体女性優先で入っている。

 

つまりだ、大多数の男性陣は血塗れだろうが水塗れだろうがナニに塗れていてもシャワー室に立ち入れない、ということだ。まかり間違って中に入り、女性が何処かでシャワーを浴びていたら死より恐ろしい目に遭わされる。というか、先日無謀な若者がリアル刀の錆になったので同じ轍は踏みたくないのだ。

 

「普通の風呂屋でも血だらけは嫌がられるし、そもそも我らは保育士でもある。孤児院の風呂なんか使えるか!」

 

「……一理あるな」

 

フーの言葉に頷いたのは、一人の子供。狐面の膝の上でくつろぎ、偉そうに踏ん反り返っている様に見える男の子だ。短い黒髪を狐面に撫でられ、抱き締められている。

 

彼こそが忍の闇と恐れられている男、志村ダンゾウである。偉そうではなく、実際偉いのだ。踏ん反り返っているのはお腹の辺りを後ろから抱えられているから。時折、狐面のささやかな膨らみが頭に触ってしまうのは公然の秘密だったりする。ちなみに、当の本人である狐面としては変化の術様々で気にしていない。好きな女に抱き締められる為には変化の術で子供にならねばいけないという複雑な男心も、嬉しそうな狐面の姿を見てしまえば俄かに消え失せてしまうから不思議だ。

 

つまり、今、志村ダンゾウは満足していた。暗部であれば上層部が狐面の女に弱いのを知っていたし、特に普段気難しいダンゾウが狐面一人与えるだけでこんなにもご機嫌でいられる。おねだりには丁度良いのだ。

 

「では、今は使われていない第20実験室のホルマリンプールを……」

 

「却下!ダンゾウ様、オレらはまだ死んでません!」

 

否定の声にダンゾウは頬を膨らませた。どうせ何時かは入るのだから予行練習で使えばいい、と言わんばかりだ。幼子が頬を膨らませる様はとても愛らしいが、中身を思えば恐ろしい。

 

そんな恐怖などどこ吹く風で、狐面が口を開いた。

 

「いっそ、里の外れに宿でも作りましょう。従業員用の風呂を大きく作れば使えますから」

 

宿を作る、とは言葉通りの意味だ。引退した忍の雇用先であり、情報を仕入れるのに宿屋は最適なのだ。そして、外貨を稼ぐ手立てにもなり得る。里が人員を管理すれば抜け忍をしにくくなるというものだ。

 

「お風呂屋さん作ってもいいですけど、里内だと既に幾つかありますし。既存の銭湯の営業利益を守る為にはお宿の方がいいかなーと思ったんだけど、ダンゾウくんはどう思う?」

 

「コハルやホムラを巻き込むとしよう」

 

「うん、じゃ、宿のコンセプトや見積り立てておきますね」

 

狐面はダンゾウの身体を抱き直す。可愛くて仕方ないようだ。それを周りは生暖かく見守る。今日もこうして「根」は平和なのだ、六道仙人辺りにでも感謝しておこう。

 

この狐面が暗部の一員になってから12年ほど過ぎた。長期任務で居なかった時もあったが、狐面の女が来てから暗部は劇的に変化したと言える。

 

まず、孤児院。

大戦や九尾の件で身寄りをなくした子供達を丁重にお迎えした。親兄弟、一族郎党失った子供を今までの様なおざなりな養育ではなくちゃんと育てる様にしたのは一つは治安維持の為。もう一つは戦力の維持の為である。

 

戦時下或いは、里内での混乱状態に於いて子供は一番狙われる対象になる。他里や希少な血族の子供を狙う人攫いが横行し、実験に使う血肉として狙われるのだ。純粋で弱く抵抗出来ない子供だから価値があり、狙われる。

 

時には、子供同士で徒党を組み抵抗をするかもしれない。生きる為には喰わねばならない。どんなに嘆いても涙を流して叫んでも、生きている限り腹は減るし、喉は渇く。餓える子供らが食べ物を得るには手段を選べないのだ。治安悪化の悪循環は止まらない。それを防ぐ為に、食べ物と清潔な寝床が必要なのだ。

 

次にしたのが、雇用の確保だ。

基本的に忍は己が身体一つが資本であり、怪我や病気で働けなくなったらおしまいだ。これが日向や奈良の様な有力な一族なら後進の育成や持てる技で生計を立てる事も出来るだろうが、一般家庭出身なら死を覚悟で戦場に行くか、さもなくば仲間か情報か、他里に売るか。忍を辞めても生業があれば抜け忍も減るというもの。おまけに里の内外の店に元忍を置くことで、情報収集も前より楽になった。

 

孤児院の再編と雇用先の斡旋の共に言えるのが、戦力の確保である。

 

子供とて数年経てば大人になる。かつての子供が大人になり、子供を育む。こうして生命は繋がれて行く。ヒトであれ、動物であれ、その流れは変わらない。だが、戦時に備えた場合、一定数が死ぬとして想定すると次代へと繋ぐ人員や後方支援の非戦闘員を確保が課題になる。

 

金の工面は如何様にでも出来る。だが、兵卒の頭数を揃えるのはそう簡単に出来る事ではない。練度も関係してくるのだから、尚更。勿論、それだけが目的ではないが。

 

現に、暗部「根」に所属していた殆どが孤児院出身で、表向きは孤児院の職員という事になっている人間が多い。フーやトルネの様に有力氏族出身者が暗部「根」にいるのも、少しでも里の団結を高めるため。

 

全ては里の為だ。

 

ちなみに、狐面は暗部でも仮面を外さない上に上層部も仮面を外すような任務に当たらせないので素顔を知る人間はいない。噂では、初めて暗部の一員になってから全く姿が変わってない事から実年齢はダンゾウよりもずっと高く、六道仙人の御代より生き延びているとかなんとか。その所為で密かに「夜の女帝」「闇ババア」呼ばわりされていたりする。まあ、あたらずともいえど遠からずと言ったところだ。

 

喧々諤々、様々な意見が飛び交い、入り乱れる。それを半ば聞き流していた狐面が手を叩いて静止させた。

 

「では、そろそろ纏めます。専用のお風呂は、まず里の外れに宿を作り、その中のを利用しましょう。計画が上手く行くまで、うちは居留区の風呂を使わせて貰えばいいでしょう」

 

そう告げれば、軽い笑い声がした。スッと手を上げて答えたのは、微笑みを絶やさない悪意のヒト(サイ)だった。

 

「うちは自治区?そんな処に勝手に入ってもいいのかな?ところで、千、さっきからキミの貧相な胸がダンゾウ様の頭に擦ってるよ。もしかして、欲求不満なの?」

 

「きちんとお金を払えば、彼らも嫌とは言えない筈です。先立つモノは必要ですから。あと、三次元のCカップはこんなもんです。サラシで潰してますし、乳袋なんぞムリに作らないと出来ません……現実を見ろ、コミュ障」

 

「へー欲求不満は否定しないんだ」

 

狐面の嫌味にも負けずに、サイは呟く。片目をまん丸にして見上げるダンゾウ他一同、顔を赤らめて一点を見つめる。狐面はその耳を仮面の眦と同じ朱に染めて、押し黙った。今は何を言っても逆効果に思えたのだ。狐面は膝からダンゾウを下ろすと、小さな煙と共に消えた。今までいた狐面は影分身の術だったのだ。戦略的撤退である。

 

ダンゾウが元の姿に戻るまで、騒然とした空気は変わることなかった。

 

 

 

 

「だから!オレってば、こんな任務じゃなくて、もっとスゲーのがしたいんだってばよ!」

 

毎日のネコ探しや雑草取りと言った雑事に飽きたナルトの叫びだ。その元気な声に、イルマは微笑む。生まれたばかりで、オムツを変えたりミルクをやったりしていたナルトがこんな言葉を言える位大きくなったのだ、感慨も一入(ひとしお)である。カカシなどは冷や汗をかいているが、よくよく見るとサスケもサクラも内心はナルトと同意見の様で雑事にうんざりしているようだ。

 

第7班は里でも特殊な存在ばかり集められている。九尾の人柱力のうずまきナルト、うちは一族の生き残りであるうちはサスケ、お目付役としては写輪眼のカカシにうちはイルマと来ている。春野サクラという精神安定剤がなければ濃すぎるメンバーだ。原酒はそのままだとキツイだけである。

 

その第7班を上手く育てれば里の戦力として大いに役立つし、失敗すれば惨憺たる結果を残す事になるだろう。その運用は全て三代目火影の手に掛かっているとも言えよう。

 

一方、三代目火影は悩んでいた。

忍の任務はランク分けされており、ぺーのぺー、下忍成り立てのナルト達はDランクの雑事が相応しいのだ。そも、Dランクと馬鹿にしてはならない。家事手伝いで身体を鍛え、子どもの面倒に慣れる事で、要人のご家族であれ丁重に扱える様になる。心持ちが変われば、全ては修行になるのだ。

 

しかし、「可愛い子には旅をさせよ」とも言うし、ナルト達の成長は凄まじいものを感じさせる。それに何よりイルマがいる。最近流行りのモンスターペアレントならぬモンスターババアの、過保護でいて忍術や体術に関しては厳しい師匠になるイルマが。

 

猿飛ヒルゼンが幼少の砌には隠れ鬼や鬼ごっこ等をして遊んだものだが、隠れ鬼は隠遁する時の経験になり、鬼ごっこは追手の撒き方、撒かれない追跡の仕方を学んだ。他にもウサギや鳥の仕留め方など遊びから学んだ方法はその後の人生に強く影響を与えている。

 

幾度となく大戦を経験しているとは言え、磐石な里に生まれ育ったヒルゼンと生まれてからずっと人を殺す事を叩き込まれて、それを実行してきたイルマ世代とは覚悟も何も土台が違う。きっとイルマは平和な時代に生まれたナルト達の平和そうな様子に喜びを覚える半面、もっと鍛えねばと危機感を覚えているだろうから。

 

「あーーあ!じいちゃんはいつも説教ばっかりだ」

 

座り込み、抗議の体勢にはいるナルトは憤懣を隠す事なく声を上げる。

 

「けど、オレってばもう……!いつまでもじいちゃんが思っているようなイタズラこぞうじゃねェんだぞ!」

 

他人との接点をイタズラでしか結べなかったナルトが、言ったのだ。イタズラで自分を表現する事しか出来なかった子どもが己の成長を求め、立ち上がっている。喜ばしいことだ。イルマならば感涙ものであるし、実際カカシの影で涙を拭っている。

 

この分ならば、大丈夫そうだ。三代目は微かに唇を緩めると、未だ紫煙(くゆ)るパイプをふかした。

 

「分かった。お前がそこまで言うならCランクの任務をやってもらう……ある人物の護衛任務だ」

 

ワクワクしてたまらない子ども達に、頬を赤く染めるイルマが涙目で口元を抑えている。

 

三代目はその反応に手応えを感じた。

 

最近はダンゾウばかりがイルマを占領し可愛がられているが、ヒルゼンとてイルマに褒められたいのだ。上層部の老人の殆どが同じ気持ちだと言うのは知っているが、純粋な付き合いの長さで言えばイルマとヒルゼンは一番長い。可愛がられて来た年季が違うのだ。

 

「そう慌てるな。今から紹介する!入って来てもらえますかな」

 

任務受付の部屋の戸がガラリと開けられた。途端に酒の臭いが部屋一杯に広がる。

 

「なんだァ?超ガキばっかじゃあねーかよ」

 

現れたのは、酒瓶を片手にねじり鉢巻を巻いた古典的な酔っ払いだった。背中に背負う荷物やその筋肉のつき方、手指に残る傷跡がその男の職業を物語っている。

 

大工。

それもかなり腕の立つ大工だ。

 

「……とくにそこの一番ちっこい超アホ面、お前それ本当に忍者かぁ!お前」

 

その言葉にナルトが憤るも、その疑いも当然だろう。忍だのチャクラだの言われても端からみれば子どもに違いない。だからこそ、忍は怖いのだ。それを男は分かっていない。

 

男は懸命にナルトをたしなめるカカシと宥めるイルマを一瞥し、先程より幾分マシな態度で話し掛ける。

 

「中々強そうな忍と、可愛いネェちゃんも一緒か。アンタらが主力って事か?よろしくな」

 

男の差し出す手をマジマジと眺めて、イルマはその手に触れる事なく一礼した。

 

「ごめんなさい、私は一族のお墓の管理がありますので今回は行けません。本来の四人一組で任務に当たると思います」

 

「……えっ」

 

「えっ」

 

カカシの戸惑う声に、イルマも戸惑いの声を上げる。

 

「えっ?なんで?イルマのネェちゃん」

 

「え、イルマさん、なんで?」

 

戸惑いの声が次々上がる中、サスケは一人遠くを眺めたまま呟いた。

 

「また、シスイさんかよ……」

 

その声には悔しさと諦めが滲んでいた。

 





三代目!
それ喜んでんじゃなくて、分身の情報帰ってきて羞恥心に身悶えしているだけだから!

ちなみに、イルマさんの中では
シスイさん≧ナルト≧サスケ含め子ども≧かつて子どもだった上層部他≧その他
が庇護対象です。身長が自分より高くても全力で可愛がるのがモットー。

シスイさんは血縁だから、ナルトは気分的に祖母感覚だから。サスケにはイタチも両親も居たからちょっと愛情表現控えめにしてます。

暗部「根」は普段こんな風に和気藹々とやってたらイイなーと思って書きました。そのうち、闇の闇たる所以や、闇ババア関連の噂に尾鰭や胸鰭ついて勝手に泳ぎ出している様を第三者の口から語らせたいです。

しかし、忍里なのに孤児を冷遇するなんて変な話ですよね。人口増加と食糧供給を常に思案しないと戦争や戦闘員なんてやってらんないだろうに。三国志的には、魏は屯田と未亡人の再婚斡旋で兵力と食糧供給を解決させていたけどNARUTO世界だとどうなんだろう。

「お前が死んだら子どもは孤児院で冷遇されるけど、任務だから仕方ないよね☆」
なんて言われた日にゃ、ソッコーで抜け忍になりそうです。

この世界の福祉はどうなっているのか。
年金や保険も怪しいもんだし、怪我している間の食い扶持はどうやって稼ぐんだろう。自分一人ならまだいいけど、家族居たら大変だし。





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