ババアだって、いいじゃない。
活躍するおばあちゃんなんて、チヨバア位だし。
カッコイイ老婆が見たかったので、書いてみました。ただし、某擬人化が見た目若者をじじい呼びするなら、こっちは合法ロリで。
恋愛要素は果てしなく高齢者相手です。もしくは、死者です。誰得です。
「生存者一名!どうやら子供のようです!」
四代目火影が死んだ。
人柱力であるうずまきクシナと共に、赤子であるナルトに九尾を封じて、里を守ったのだ。それを三代目火影・猿飛ヒルゼンは結界越しに一部始終見ていた。見ていたからこそ、この生存者が恐ろしく思える。
途中、子供が九尾を制御していたのも見ていた。まだ幼子ながら写輪眼を開眼していたのも知っている。そして、何よりその顔が三代目のよく知っているうちはの者によく似ていたのだ。
後にその子供は、うちはに預けられる事になる。写輪眼に対抗出来るのは、写輪眼以外にない。
*
ごろり、と布団の中でまどろむ。
それでもカーテンの隙間から光は忍び込んでくるもので、シスイは身体に纏わり付く眠気を無理やり打ち払い、おぼつかない足取りで窓を開けた。朝特有の澄んだ空気が肺腑を満たす。其処で漸く、シスイは朝が明けたのを感じられるのである。
それは毎朝の恒例行事みたいなものだった。
「おはようございます、シスイさん」
手袋をしたエプロン姿の少女がシスイを起こしに来る。それも大体毎日の事だ。
「んっ、おはよう。イルマ」
シスイが手を上げて、軽く答えるだけでもイルマはにこにこする。何も知らない人間が見たならば兄妹か年の離れた許嫁に思ったかもしれない。しかし、血こそ繋がっているが、イルマとシスイはそんな甘い関係ではなかった。
うちはイルマはシスイの大伯母だった。つまりは、シスイの祖父カガミの姉に当たる。イルマは姪孫としてシスイを可愛がってはくれるが、忍としては厳しい人なのである。
「今日の目玉焼きは偶然双子でしたよ!」
いそいそとベーコンエッグを持ってくるイルマの見た目は十代前半。パッと見で言えば、ぴちぴちのアカデミー生だ。本来ならば、三代目火影よりもずっと年上なのだから100近くてもおかしくないのに、シスイよりも若い見た目なのは無茶な忍術の使い方をしたかららしい。
「へぇ、なんだか面白いな」
らしい、と言うのはイルマが詳しい事をシスイに教えてくれず、シスイには検討がつかないからだ。時空間忍術も時間を操る類の忍術であるが、印から印へと跳ぶ点や空間を歪めての移動という点から横の移動とも言える。だが、イルマは言うなれば縦の移動をして来た。
無論、負担がない訳ではない。
幼くなった姿も練り込んだチャクラを行動出来る最低限まで吐き出した結果である。また、イルマは左腕の肘から先を失っているのもその弊害だったのではないかと密かにシスイは思っている。イルマ自身は「好いた相手が寂しくないように、上げた」などと嘯いていたがそんな殺伐とした恋愛話など好みではないので、敢えて聞かない。
シスイとイルマの奇妙な生活は今年で既に7年目。家族のないシスイにとって、コレはコレで楽しい日々だった。
「今日は…まぁ、遅くなるかもしれないから」
シスイはそう言うと味噌汁を呑んだ。暗部の仕事は詳しく言うことが出来ない。例え、イルマ自身が暗部の一員だとしても告げられないのだ。
イルマは頬杖をつくと、シスイを見つめた。
「実は昨日、志村の聞かん坊から結婚を前提としたお付き合いを申し込まれました」
「そっか」
シスイは味噌汁の具を口にする。今日は大根と油揚げだ。鰹節の香りと味噌の香ばしい香りがとても食欲をそそる。そして、飲み干した。きっとイルマと結婚出来る男は幸せなんだろう、なんてシスイは益体もない事をぼんやり思った。
ーーそして、時は動き出す。
衝撃は常に遅れてくるものなのだ。
「ハァ?結婚?いや、何言ってんの?ってか、誰と誰が?」
「私と、志村さん家のダンゾウくんが」
シスイは目の前のイルマを見る。中身は兎も角、見た目から言えば、将来的にはーーこの場合、かつては、かもしれないがーー大きくなるだろう胸に細い手足とあどけなさの残る顔立ちは何処からどう見ても子供だ。
志村ダンゾウといえば、泣く子も黙る暗部の「根」の創始者にして忍の闇を模した様な男である。そんな男がイルマ相手に求婚とは、里内外が大騒ぎになるに違いない。
「私を知らない人から見れば、少女趣味の
イルマは紅茶をかき混ぜていたスプーンをシスイに突き出した。やり場のない感情が込められているせいか、ただのスプーンがシスイには怖い。
「第一、私は……今となっては未亡人になってしまったかもしれませんが婚姻関係継続中で、こうして無謀にも後世へ飛んで来たのにはちゃんとした目的があるのに!一体、どうやってお断りすれば良いのでしょう」
「うちはマダラから木ノ葉を守りたいって言えば良いだろう」
シスイは着々と朝ご飯を食べ進め、デザートのヨーグルトに手を出し始めた。甘酸っぱいブルーベリージャムが白いヨーグルトに掛かっているシンプルな物で、凄く美味しそうである。このままデザートに集中出来れば、シスイにとって素敵な朝ご飯は素敵なままで終わるというのにイルマの悩みも放っておけなかった。やはり、シスイにとってイルマは家族なのである。
「その主張は二代目にもしましたし、うちはマダラの死体が燃え尽きるところを見るまで安心出来ないって言っていたんですけどね。安心と安定の「うちは病」扱いです。実弟にまで憐れみの眼差しで見られた位ですから」
ーーまぁ、死んだ筈のマダラと会って生きているのは私位でしょうし。
そう締めて、イルマは頭を抱えた。断りたくても断れない様にダンゾウから条件を付けられているのかもしれない。それでも、シスイにとっては今現在生きているかどうか分からないうちはマダラよりも、何時クーデターを起こすかどうか分からない今のうちは一族の方が怖い。
イルマは常々、「うちは一族のみが滅びるならばそれも致し方なし!」とか「膿は出さないと」とうちは一族の立場には立たぬから良いが「強硬派に里創設期とうちはマダラの所業を幻術で見せて目を覚まさせてやる」とも言っていたので、何か思う事があるのだろう。体外的には、九尾襲撃時に孤児になり、うちはに養子に来た事になっているのもきっとそれに拍車を掛けているかもしれない。
「なら、
忍はいつ死ぬか分からない因果な商売である。故に、若くして結婚して子供を持つ者も少なくないが、シスイはまだ十代だ。十年頑張っても、二十代。伴侶を得るには十分に若い。一方、志村ダンゾウがどんなに狡猾で用心深く生き永らえたとしても寄る年波には勝てぬが道理。死なずに70過ぎてイルマに同じ事を言えたならば、交換日記から始める事を前提にシスイも認めるだろう。
それに、イルマが気にかけているのは何もシスイだけではなかった。
「うずまきナルトの面倒をみているのも、イルマなんだ。もっと堂々とすればいい。なんだったなら、
ちなみに、ナルトは、まだ十代にもなってない。シスイから見れば素晴らしい時間稼ぎだ。
「暗部の仮面被ってますけどね……ハァ、言うのが五、六十年前なら微笑ましいのに。昔は可愛かったのになーー子猿に嫉妬して頬っぺた膨らませちゃって」
「そういうのは、オレのいないところでやってくれ……今のダンゾウがソレやってんの想像して気分悪くなってきた」
シスイは席を立つと、任務に向けて支度を整える。イルマお手製の丸薬も忘れる事はない。これも毎日の事だ。シスイとイルマは、紛れもない家族だった。
「いって参ります!」
「いってらっしゃいませ、シスイさん」
何時もの様にシスイを見送るイルマの表情。これが、シスイが見たイルマの最後の笑顔だった。