The SCP Foundation エージェントJの日記   作:カッコカリ

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第三話 理不尽だ

G月A日

 

 

 

 減俸には勝てなかった。一応O5に直談判して記憶を戻してもらおうとしたが、これ以上給料を減らされたくないので、このまま職務を続けることになった。

 

 自分の抜け落ちた一週間の記憶。凄い気になるが、拘束されるわけにもいかない。諦めて職務に勤しむことにする。

 

 そういえば、今日から妖狐変化のところに食事を持って行かなくてもよくなったらしい。胃と肝臓に痛い仕事が無くなって良くなったけど、本当に突然である。そもそ―――

 

 日記の最中にまた682が脱走しようとした。いつも通り殴って大人しくさせて、職員に連絡して新しい隔離フロアの建設を申請しよう。相変わらず口汚い言葉で挑発してくるけど、なんか最近はもう愛嬌だと思い始めてる。あれ?おかしいな。ブライト博士の気持ちが一瞬でも理解できると思ってしまった自分が悔しい。

 

 

 

 

 

 

―――今度また博士と実験してみようかな。―――

 

 

 

G月B日

 

 ブライト博士何やってんすか。勝手に最後書き足さないでください。担当職員から怒られちゃったじゃないですか。

 

 今日も今日とて682の監視だが、それ以外やることが無いから暇だ。今日一日はクロス実験も無し。何だかんだで財団に入って初めて平和な一日を遅れた気がする。

 

 あれ、なんだろ、日記が水滴で書けない

 

 

 

 

G月C日

 

 別の監視員と交代して俺はクロス実験を行った。異常な身体能力が発現してしまってから、俺の身体能力を解明させるための実験は度々行われていたが、今日はその続きが行われた。

 

 最初はぜんまい仕掛けだ。俺の超人的な身体能力を作った張本人?であり、今の俺の始まりだ。

 

 ブライト博士から聞くには、俺は入れられたときはノズルを Very fine に設定していたらしい。それはぜんまい仕掛けが気まぐれにやったことなのか、それとも俺だけ体内の何かが、ぜんまい仕掛けの改造に化学反応が起こったのか。精密検査を何度か受けたが、未だ進捗は見せていない。

 

 俺を取入口ブースに入れて Coarse に設定したが、何の変化も見られなかった。 Rough にも同じくだ。まるで俺の身体がそのままの状態で変化を受け付けないような。そんな感じだ。

 

 一応、それぞれの状態で精密検査を受けたが、筋密度、骨密度共に異常はなかった。心理検査にもこれと言った変化は見られなかった。

 

 筋力検査は行わないのか、と研究者に質問したら無意味だと言われた。それもそうか。

 

 不死身の爬虫類である682を軽々と殴り飛ばす腕力、アベルを取り押さえた瞬発力、カインの反射にも動じない頑丈な肉体。知能指数や道徳的価値観などに変化を及ぼさず肉体面だけに影響を及ぼしたぜんまい仕掛けが、一体どんな気まぐれを起こしたのかは分からない。

 

 だが時折だが、自分の身体がさらに強く成長していっている気がするのだ。あくまで気がするのであって正確なところは分からない。

 

 だが、この動きは出来る、こうすれば出来ると思うと、大抵の動きはやろうと思えば俺は出来てしまう。はっきり言って異常だ。ちょっと力を込めれば、アスファルトなんて紙の様に毟り取れる。コミックのようなスーパーマンだったらヒーローの真似事でもしながら慎ましく職に就くんだがな。

 

 現実はそれほど美味い訳がない。

 

 自分でも笑ってしまう。そう、

 

“ヒーローごっこなんてやってる暇があったらより多くの給料が得られるように働かなければならないからだ。”

 

 

G月C日

 

 なんかO5職員から特例として臨時のボーナスをもらったんだが、何故だ?

 

 今日はサイボーグ少女と話をした。一方的ではあるが、これまでの実験記録から、俺とならば何かしらコミュニケーションを取れるのではないかと研究者からクロス実験の申請が来た。

 

 そこで俺はあの子を膝の上に乗せて絵本を読み上げることにした。まるで子供と幸せな一時を共有する親のように・・・。

 

 それから一時間特に変化はなかったが、普段観察している研究員からは、俺と一緒にいる間は目の光は赤から緑へと変わるらしい。それが友好的な意味なのかは分からないが、ちゃんと個人に対しての反応があることが分かっただけ良かった。

 

 それだけに[編集済み]に対して許しがたい怒りを覚えてしまう。

 

 義憤で財団は動いてくれない。当然のことだ分かっている。

 

 

 

 

G月G日

 

 

 今日もDクラスと一緒にせっせと173のフロアを清掃。なんか、Dクラスの間で俺と一緒のDクラス職員は安全に実験を終わらせることが出来るとか何処から出たかもしれぬ噂が出ている………らしい

 

 真偽の程は分からないが、最近妙にDクラスの連中が馴れ馴れしいかと思えばそういうことか。脅して脱出の手助けをしろとかしてくる奴が出てこないか心配だ。173を抱えながら清掃すればあら不思議、誰も死人を出さずに清掃完了。

 

 せっせと終わらせると、不意に妖狐変化、クミホのことを思い出した。

 

 あれから全然音沙汰が無いが、最近までは彼女の食事の係りを務めていたのだ。元気にやっているのだろうか。ファーストキスは血の味とか、地味にトラウマなんだ。

 

 思い出すとちょっと吐き気が・・・。

 

 やめよう!はい!やめ!この話は終了!

 

 最後は脱走したオールドマンを殴って終了の一日でした。

 

 

 

 

G月☆日

 

 最近O5評議員からオールドマンと682を隣り合わせにして俺に両方を監視してもらおうという意見が出ている。

 

 YAMETEKUDASAISHINDESHIMAIMASU

 

 ネットスラングにはあまり明るい訳じゃないが、自然とこんな言葉が思い浮かんだ。ネットの環境も悪いからな、ここ。オールドAIのことを警戒してるんだろうけど。まぁ、仕方ないよな。

 

 昨日は広い隔離フロアで写真を見るという実験だった。そしたら、なんか壁を突き破ってガリガリに痩せた白い奴が出てきて襲い掛かってきて、訳も分からず一日中殴り合いをする羽目になった。

 

 おかげで腹が減って仕方がない。

 

 日記が一日空いたのはそのためである。あとで聞くとシャイガイという奴らしい。自分の顔を見た奴を必ず殺すほどの恥ずかしがり屋らしい。

 

 恥ずかし………がりや?

 

 俺の知っている恥ずかしがり屋と違う。っというか、全然顔写ってなかったじゃん、え?たった4ピクセルで?

 

 ちょっと神経質すぎやしないか?

 

 

G月Ω日

 

 オメガ7時代の同僚が、今日死んだ。SCP―049ペスト医師が同僚をゾンビにした。それなりに友好があったし、暇があればアイリスと一緒に会話に花を咲かせることだってあった。彼は俺の異常な力にも、アイリスの特異な能力も気にしなかった。財団の中でも数少ない友人だった。

 

 とどめは俺が刺した。自分で決着をつけた。

 

 死体は何も言わなかった。それも当然だ。死体なんだからな。

 

 その日の夜はアイリスと一緒に彼の死を悼んだ。願わくば、彼の死後が安らかであらんことを・・・。 

 

 

 

 

T月Y日

 

 今日はSCP-054水精とコミュニケーションを取った。既にオブジェクトクラスはSafeに設定されているので、それほどの危険性は無かった。話はこういうものが好きとか、こういうことをするのが得意だとか、そんな何気ない話だ。10分程度しか話してないが、相手からはそれなりに好印象を得られたようだ。

 

 この調子で頑張ってくれと上司からは言われたが色々手探りなことが多すぎるから胃にとてもよろしくない。この身体になってから胃薬が必要なくなったのは良いんだけどね。

 

 それから、今日はアイリスから久しぶりに食事に誘われた。最近の話題としては様々なSCPとのテストは痛かったり、少し切なかったりとあまり気持ちのいい話題は無い。アイリスは682の監視をしていて大丈夫なのかと聞いてきたが、大丈夫だと言っといた。

 

 話している最中、アイポッドが食堂内を走り回って俺の足にぶつかってきたのは良いアクシデントだった。久しぶりに笑う彼女の笑顔は、初めて会った時と変わらず素敵だった。

 

 金は俺が払った。

 

 気にしなくていいのにと言われたが、こういうのは男が払うものだ。

 

 

T月K日

 

 ブライト博士からアイリスとの関係を訊かれた。俺は普通に良き友人だと言った。そしたら博士はなんか面白そうなものを見付けたような表情になっていた。取り敢えずデコピンして悶絶させた俺は悪くないはずだ。アイリスまで彼の毒牙に掛けるわけにはいかない。絶対俺達に何かしらのことをやるつもりだ。釘を刺しておいたが、やめてくれるかどうかは分からないな。

 

 それにしても、財団はどうして俺に日記を書かせているのだろうか。もしかして日記にしないとやばい何かがあるのか?

 

 それはそうだよな。何気なくやらせているものが下手をすればKクラスシナリオになりかねないのがSCPだよな。

 

 俺なんて、ひと暴れしちまえば、それこそ誰も止められなくなる。さっきO5評議員から直々に精神に作用するSCPとの接触を禁止させられた。

 

 態々O5評議員が来ると言うのも、やはり、俺の力を警戒してのことだろう。胃の痛い話だ。

 

 

T月M日

 

 今日もせっせと173のフロアを清掃。誰も居ない時はゴリゴリと石臼みたいな音を立てて、人間を見付けたらそいつが目を閉じた瞬間にクソッタレな高速移動をしてくる。俺も一時期首をへし折られそうになった。

 

 

 

 全力で抵抗してやったがな!

 

 

 

 移動の瞬間には是非とも奴に俺のラリアットをかましてやりたい。そうそう、今日は良いことがあった。くすぐりオバケがアイポッドに連れられて俺の部屋に来た。

 

 今日一日こいつらとプロレスごっこだ!

 

YAAAAAAAAAAAAAAHAAAAAAAAAAAAAA!

 

 

 

T月☆日

 

 昨日の時間がずっと続いてればよかったのに。グッモーニン682!お前にはドラゴンスープレックスをくれてやる!この際だ。特に理由は無いがお前には俺の兵士時代の技の全てを受け止めてもらうぞ!

 

 

 

 good day!(良い一日を!)

 

 

O月M日

 

 ごきげんよう諸君。日記を書くのは一日の終わりである夜にやるのがセオリーだが、現在時刻は夜の7時であり、子供も大人もワイワイガヤガヤとどんちゃん騒ぎをしても許される時間だ。しかし、しかしだ。今俺の状況はどうなっていると思う?

 

 文面だけではまぁどうしようもない。だからこの俺が丁寧に状況を教えてやろう。妖狐変化が俺の隣で寝てる。しかも血塗れの俺を抱きしめて離さない。

 

 残念だけど、そんな色気のある話じゃない。いや、ある意味では色気はあるのか?そもそもなぜ俺が血塗れになっているのか。

 

 

 今日、久しぶりに妖狐変化に食事を届けた。その瞬間なんかすごく喜ばれた。頻りに会えて嬉しいなどと言ってなんで会いに来てくれなかったなどと言ってきた。色々と話をしてみると、彼女は俺が記憶を失った一週間のことを知っているらしい。

 

 詳しく教えてほしいと言ったら、覚えてないのか?と逆に訊かれた。覚えてないと正直に答えたら、愕然とした表情になって、表情から色が抜け落ちた感じになっていた。

 

 その瞬間、何が起こったのか分からなかった。いきなり俺の腹に腕を突っ込んで肝臓を抜き取ってきた。しかも一回じゃない。俺を抑えつけてなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんども・・・。

 

 書くの疲れた。とにかく、それくらい何度も抜き取られた。再生するたびに激痛を味わうので、正直きつかった。抵抗しようと思えば出来たが、彼女が心底悔しそうに、悲しそうに泣いている姿を見て、出来なかった。

 

 いったい何があったのかわからなかったが・・・。

 

 いや「正確には覚えていない」か。俺の心に浮かび上がったのは、罪悪感だった。

 

 だから、俺は彼女の好きにさせてやった。

 

 とまぁ、深刻そうに書いているが、単純に言えば、傍から見れば妖狐変化は俺の肝臓をやけ食いしたということになる。そして、現在に至るわけだが、満足そうに眠っている彼女を見て邪魔する気も失せたのだ。取り敢えず今日はここまでとする。

 

 かなり長く書いてしまったが、まぁ、今日はそれくらい衝撃的だったということを話のオチとして付けておく。

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 一息ついたことで自然と溜息が漏れた。血のにおいが充満するこの生臭い部屋の中で、彼女の安らぎ切った寝息が微かに聞こえる。

 

「………」

 

 自分の姿を見下ろしてみる。白のワイシャツは血で真っ赤に染まり、上に羽織っている黒のスーツはご覧のとおり目立ちはしないものの、血がベットリついており独特な匂いを漂わせている。

 

「スーツ新品だったんだがなぁ………」

 

 これは買いなおさないといけないようだ。自然と溜息が漏れた。

 

 視線を部屋の隅へと移す。隔離フロアに取り付けられたカメラは相変わらずこっちを見ているが、エージェントや研究員が動く気配は無い。これだけの惨状を見せても慌ただしい気配を見せないということは、つまりこれも実験なのだろう。

 

 自然と虚空に消えるような乾いた笑みが漏れる。一つ間違えれば死にかねないどころか世界が滅びかねない職場など、ブラックを通り越してダークネスな企業である。

 

 とりあえず、今もカメラ越しの画面から見ているであろう担当の科学者に向けてシーッと静かにするようにと言うジェスチャーを送っておくのだった。

 

 

 

 

 

 あと、これは蛇足だが、後日ジョン・ドゥに通達された食事を届ける命令は正式には出ておらず、上司のミスであったことが判明する。

 

 

ぎゃふん。

 

 

 

 

 

 

 更に蛇足だが、放っておいて下手をすればKクラスシナリオに発展寸前であったということは誰も知らない。


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