いや、展開はちゃんと考えてありますからね。木の葉崩しに参加させない方向で。
そのための伏線が今回のお話です。
ちなみに、次の話のナルトの顔は、カルイにぼこぼこにされた時のあれと同じと思ってくれれば。
てかよく耐えたよな、ナルト。今更ながら感心する。
イタチによる凶行事件、"うちはの惨劇"が起きた翌日の夜。
木の葉隠れの里から少し離れた森の中にある秘密の入り口。その下には、志村ダンゾウ直属の暗部"根"の本拠地が設置されていた。
ダンゾウはその本拠地にある唯一の出入り口である渡り廊下の中央に立ち、招集した部下たちに指示を出していた。
「よいか。決して我らの仕業とわからぬよう、うちは一族の生き残りを根絶やしにするのだ」
生き残った子どもたち、そして重傷ではあったがどうにか生きていたものたちは、ヒルゼンが信頼する施設に預けられ、ヒルゼンを含む木の葉の上層部の人間は、彼らへの一切の関与を禁じられている。
しかし、彼らが不穏分子である以上、木の葉の安寧のために放っておくことはできない、というのがダンゾウの意見だった。
むろん、それは相談役にも話したが、二人とも渋い顔をして、優秀な一族が生き残ったのだから、それでいいではないか。たかが少数の若者と、子どもに何が出来ようか、と放置するほかに意見は持たないし聞く気もない、という構えだった。
だからこそ、こうしてダンゾウ自らが、秘密裏にうちは抹殺を計画したのだ。
が、一人の暗部が、うちは一族のある少年について、問いかけてきた。
「……サスケはどうします?」
「あやつは捨て置け。何より、カカシのもとにいる時点で標的からは外しておる」
サスケ、というのは、イタチの弟だ。
そして、ダンゾウがうちはのクーデターを止めるため、うちは一族の全滅を命じた際に、唯一、見逃しても構わないといった人間だ。
彼は今、イタチに最も近しい人間としてヒルゼンが指定した暗部により
その暗部と言うのが、第三次忍界大戦において、英雄と呼ばれている、"コピー忍者"の異名を持つ、はたけカカシという忍者だ。
加えて、サスケの周囲にはなぜか元暗部のハルトがいる。おまけに、そのハルトはヒルゼンのお気に入りだ。
この二人が相手になるとしたら、並の暗部では歯が立たないだろう。下手にサスケに手を出すのは得策ではない。
「サスケ以外のうちはを殲滅しろ。むろん、他里の仕業に見せかけることを忘れるでないぞ」
『はっ!』
ダンゾウの言葉に答えた暗部の忍たちは、風を切る音とともに姿を消した。
それを見送ったダンゾウは、再び闇の中へと消えていった。
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その日、ナルトはある少年と忍組手をすることになっていた。
その相手は、学校でもっともイケメンな男子、うちはサスケだった。
現に、周囲にいる女子生徒たちはサスケを応援している。
だが、そんな中で唯一、ナルトを呼ぶ声が聞こえてきた。
ちらり、とそちらの方を見ると、顔を赤くし若干うつむきながら、決して大きいとは言えない声量で応援している、ヒナタの姿があった。
友達であるいのですら、サスケを応援している。そんな中で、自分を応援してくれている、最初の友達の存在に、ナルトは思わず笑みをこぼした。
「……何笑ってるんだ?」
「いんや?……これからエリートのお前と戦えるって思うと、わくわくしてきただけだってばよ」
ナルトのほほが緩んだのを見たサスケは、なおも鋭い視線でナルトをにらみ、問いかけた。
その問いかけに、ナルトは素直に思っていたことを告げた。現に、ナルトのほほには汗が一筋、伝っている。
ハルトが一緒にいてくれるようになって、徐々に成績が伸びてきたナルトだが、それ以前からサスケに勝つという目標は変わっていなかった。
それが今、叶うかもしれないのだ。
「……ふん、一瞬で終わらせてやるよ。ウスラトンカチ」
サスケは、ナルトの名を呼ぶことなく、ただただ冷たい視線を向けながら、そう告げた。
「両者、対立の印を……忍組手、始め‼︎」
イルカの合図と同時に、ナルトとサスケは間合いを詰めた。
繰り出される拳をいなし、あるいはかわし、あるいは払いながら、二人は激しい攻防を繰り広げていた。
その光景を見ている生徒たちは、これがあのドベのナルトか、という疑問の声と、ナルトのくせに生意気、という蔑みの声の両方が響いていた。
後者はサスケファンの女子に多く、見学している春野サクラもその生徒の一人だ。が、同じサスケファンであるはずのいのは、前者でも後者でもなく、ただただ唖然としているだけだった。
その姿を見ていたイルカは、まぁ当然だろうな、という感想を抱いた。
何しろ、ハルトとツクヨの組手から数週間が経ち、二人の組手の激しさに影響されてか、その場にいたナルトたちはより一層、授業に取り組むようになった。
それだけではない。演習後や組手の後もいつものメンバーで集まり反省会と自主練習をしていることも多々あった。
遊ぶ以外でも多くの時間を共に過ごし、共に鍛錬を重ねてきたのだ。そのうちの一人が、あのサスケと互角にやりあっている光景が目の前に広がっているのだ。
サスケを応援する気持ちが強いのは事実だろう。しかし、同時にナルトを応援している気持ちも、彼らの中には芽生えていたというのもまた事実だった。
「ぐぁっ!!」
「くっ!!」
ナルトの拳とサスケの拳が同時に繰り出され、クロスカウンターのような形で、互いのほほを打ち付けあった。
しかし、サスケの拳の方が威力があったらしく、ナルトの膝は地面をつこうとしていた。
その瞬間を逃さず、サスケは膝蹴りをナルトの腹に加え、吹き飛ばした。
背中から地面に倒れたナルトに馬乗りになると、サスケはそのまま両手の拳をナルトの顔面めがけて振り下ろし続けた。
それを見たイルカは、サスケを止めに入ろうとしたが、それを止めに来た、暗部の仮面をかぶった男が一人いた。
「……イルカ先生。ストップです」
「なっ?!……その声は」
イルカが男の名を呼ぼうとした瞬間、男は仮面の下で鋭い視線をイルカに向けた。
名を呼べば殺す。それほどの鋭さが、その視線にはあった。
(ハルト、何のつもりだ?!このままじゃ、ナルトが……)
生徒たちには聞こえない声で、イルカは暗部の男――ハルトに耳打ちした。
ほかの生徒たちは、ナルトとサスケの組手――いや、もはやサスケの一方的な喧嘩と化した取っ組み合いにくぎ付けになっているため、気づいていない。
もうサスケを応援する黄色い声は聞こえてこない。聞こえてくるのは、ナルトが殴られる音と、ひそひそと何かを話し合う声だけだった。
(死にませんよ。九尾のチャクラがそれをさせない……それに、今ここでサスケを止めれば、サスケが闇を吐き出すきっかけを失うことになる)
その言葉に、イルカは顔をしかめた。
うちはの惨劇からこっち、確かに、サスケは変わった。
いや、表面的には何も変わっていない。だが、彼から発せられる雰囲気がかなり変わった。
それこそ、抜き身の鋭い刃のような冷たさを発するようになっていた。
イルカは、それをどうにもすることができなかった。
どこかで彼の抱える闇を吐き出させなければ、いつかサスケは壊れてしまうこともわかっている。だが、それをしてやることができなかったのだ。
「だからこそ、です……家族を、一族を失ったサスケの悲しみを背負ってやれるのは、最初は受け入れられることがなかった、ナルトだけです」
イルカにそう告げるハルトの右手は、握り拳が握られ、ふるふると震えていた。
それだけ強い力で握りしめられているのだ。それだけ強く拳を握らなければ、ナルトとサスケの間に割って入りに行ってしまうから。
ナルトが、サスケの抱えているものをすべて吐き出させるまで、ハルトはただ、耐え忍ぶしかなかった。
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馬乗りになって殴ってくるサスケの拳を黙って受けながら、ナルトは痛みに耐えていた。
悪意には敏感だったせいか、それともハルトが来るまで、ずっと一人でいたからなのかはわからないが、ナルトは、サスケが今、深い闇の中にいるような気がしてならなかった。
そして、その闇を理解し、吐き出させてやることができるのは、自分以外にはいないのだということも。
が、サスケの拳が止まり、荒い息が聞こえてきた。ナルトはかろうじて開いている左目で、サスケの顔を見上げた。
そこには、まだ心のうちに哀しみをため込んでいるサスケの顔があった。
それを見たナルトは、にやりと口角をあげ、サスケに向かって叫んだ。
「いいぜ……サスケ!気が済むまで殴れ!でもって、お前がため込んでるもん、全部吐き出せってばよ!!」
「……っ!!上等だ!!
ナルトの挑発とも取れるその言葉に、サスケは叫び、再び拳を振り下ろし始めた。
一撃一撃が振り下ろされるたびに、ナルトには、なんとなくだが、サスケが何を想っているのか、感じ取れているような気がしていた。
厳しそうな父親の顔、優しげな母親の顔。同じ町に住む、一族の顔。そして、やさしく微笑む兄の顔が浮かんでは消えていった。
次に見えてきたのは、家族が殺された光景と冷たく光る兄の瞳。事件後、仲の良かった一族のみなから向けられた蔑みの視線と、浴びせられた罵倒の言葉。
そして、誰もいない、帰りを待つものも待ってくれるものもいない家。
少なくとも、後から見てきたそれらは、ナルトが
だからこそ、わかってしまった。
サスケが抱えているもの、その大きさと、深さが。
だからこそ、ナルトは耐え忍んだ。
サスケの抱えてきたものが、拳から涙に変わる、その時まで。
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