というわけで、久方ぶりの投稿です。
リーと別れたハルトは、そのまま商店街へ向かい、夕食の食材を買いに来ていた。
すでに彼の脳内は夕食のメニューを何にするか、それだけになっていた。
――野菜炒め……は昼に出しちゃったからなぁ……なら炊き込みごはんか、唐揚げか……
何を作ったらナルトが喜ぶだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら?奇遇ね、ハルト」
「ん?ツクヨか、珍しいところで会うな」
そこにいたのは、買い物袋を手に下げたツクヨだった。
どうやら、彼女も買い物の途中らしい。
ツクヨはかすかに微笑みながら、そうね、と返し、問いかけた。
「ハルトも買い物みたいね?ひょっとして、今日の夕食のお買いもの?」
「まぁ、そんなとこ。なにせ、今日は弟が下忍になる日だからな」
ごちそう用意して待ってるって言っちまったし、と照れ笑いを浮かべながら、ハルトが答えた。
そっか、とツクヨもどこか得心した顔をしていた。
なにしろ、彼女のほうも、
名門のお嬢様が危険な任務に就く可能性がある下忍になる、と言うこと自体、あまり聞く話ではない。
現に、ハルトも一応は名の知れた一族の跡目候補者ではあるが、本格的に跡目となる可能性はかなり低いため、こうして忍者として活動している。
むろん、一族特有の習わしで、何かしらの下積み期間があるのか、それとも単に"候補者から外されてしまっている"のか。それについては日向にかかわりがないハルトの知るところではないし、知ったところでどうしようもない。
だからあえて追求することはしていない。それをわかっているから、ツクヨもハルトには何も言わない。
それが、二人にとって暗黙の了解だった。
が、
「そういえば、ヒナタは?」
「ヒナタ様も卒業できたよ。ほんと、ハルトとナルトのおかげだわ」
「……俺は別に何もしてないと思うが?単にヒナタがナルトと一緒にいたいって一心だったんだろ?」
カラカラと、まるで年寄りのような笑い声をあげて、ハルトは答えた。
実際、ハルトはヒナタに何も教えていない。
せいぜい、下忍でも簡単に扱える基本的な忍術やチャクラコントロールの基礎くらいなものだ。
「それでも、ヒナタ様をナルトくんの修練にいさせてくれたのは事実だしね……本当に、ありがとう」
柔らかく微笑むツクヨを見て、ハルトは胸に痛みを覚えた。
が、それは呪詛や忍術の類によるものではないことはわかっている。
わかっているからこそ、別に、と顔を少し赤らめながら顔をそらした。
くすくす、とツクヨがかすかに笑う声を聞き、ハルトは余計に居心地が悪くなってしまったのは、言うまでもないが。
ひとしきり笑い、何かを思いついたかのように、ぽん、と掌を合わせたツクヨは、にっこりとほほ笑みながら、ハルトに問いかけた。
「ねぇ、私たち四人で卒業祝いパーティーしない?」
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ちょうどそのころ。
ナルトとヒナタは一緒に商店街近くを歩いていた。
心なしか、二人とも表情が暗い。
それもそのはず。
この日、発表された班分けで、ヒナタは紅夕日が率いる第八班に、ナルトははたけカカシが率いる第七班に所属することになってしまったのだから。
ナルトとしては、初めての友達であるヒナタと一緒の班になりたかったのだが、敬愛するイルカから、それぞれの能力と成績のバランスを考慮して班分けをした、と伝えられたため、折れるしかなかった。
まぁ、無理もなかろう、と九喇嘛はそっとため息をついた。
そもそも、白眼を持っているヒナタは感知タイプの忍で、ナルトは戦闘特化の忍だ。
九尾モードや仙人モードになれれば、ナルトもヒナタに負けず劣らずの感知能力を発揮することが出来るのだが、今のナルトはそのどちらも使うことが出来ない。
そもそも、九尾モードになるにはヒルゼンか自来也から封印を解いてもらい、九喇嘛とナルトの境界線を完全に取り払う必要がある。
もっとも、ナルトは影分身の本来の使い方をハルトから伝授されたため、諜報活動に向いていないというわけでもないのだが。
それでも、七班に配属された、ということはどちらかといえば戦闘力を評価されての結果と言うことなのだろう。
ナルトとしてはそこが気に入らないのだが。
いや、むしろ戦闘も諜報もできるオールラウンダーとして評価されたと思うべきか、とも思ったのだが、九喇嘛に、いや、結局は変わらんだろう、と突っ込まれて余計に落ち込んでしまった。
「……ま、落ち込んでても仕方ないってばよ!カカシ先生から聞いたけど、二班以上で合同任務もあるみたいだし、きっと一緒に任務するときがあるってばよ!!」
「うん……そうだね」
ナルトの一言に、ヒナタはようやく笑顔になり、うなずいた。
その様子を見るとなしに見ていた九喇嘛は、やれやれ、とため息をついた。
ふいに、九喇嘛は感じた覚えのあるチャクラを感知し、そちらの方へと視線を向けた。
そこには、ハルトとツクヨの二人が談笑をしながら歩いている姿があった。
「お?ナルトにヒナタじゃねぇか。どうしたよ??」
「それはこっちのセリフだってばよ。兄ちゃんこそ、ツクヨの姉ちゃんとデートか??」
ニシシ、と笑いながら、ナルトはハルトに問いかけた。
その問いかけに、ハルトは、ペシッ、と軽くデコピンした。
「んなわけあるか。偶然会っただけだ」
「痛いってばよ、兄ちゃん」
「男だろ?この程度は我慢しろ……で、だナルト」
「ん?」
ハルトはニッカリと笑いながら、目の前の弟分にツクヨがしたものと同じ提案を持ち出した。
「ツクヨがヒナタを誘って俺たちの部屋で夕飯を食べに行きたいそうだが、どうする?」
「ツクヨの姉ちゃんとヒナタが家に来るのかってばよ?」
「そういうことだ。さ、どうする?」
ハルトの問いかけに、ナルトは満面の笑みを浮かべ、大声でその案に賛成すると答えた。
誰かが遊びに来てくれる、ということがよほどうれしいのだろう。
むろん、
アカデミーを卒業する前に、シカマル、チョウジ、いの、キバ、シノ、そしてヒナタとも遊んでいたし、ハルトの稽古にも参加していた。
だが、ナルトの家に遊びに来ることだけはなかった。
「あのさ、あのさ!俺、先に帰って片付けてくるからさ!!二人とも、絶対来てくれってばよ!!」
「……だそうだ。ツクヨ、ヒナタ。招待、受けてくれるか?」
悪戯っぽく笑いながら、ハルトはツクヨとヒナタに改めて問いかけた。
仕掛け人の片棒を担いでいるツクヨは、くすくすと笑いながらヒナタにどうするのか問いかけた。
「コウ兄さんには、私の方から言っておきます。それに、"三代目直属の部下からのお達し"って伝えれば、いくらヒアシ様でも目くじら立てることはないでしょう」
「……ちょっと待て、その"直属の部下"ってのは俺のことか?俺のことなのか??」
冷や汗を伝わせながら、ハルトがツクヨに問いかけてきていたが、問いかけられている当の本人はその一切を黙殺し、ヒナタの方を見ていた。
ヒナタは、うつむきながらも目を左右に泳がせ、考え込んでいた。
だが。
「……行きます!」
最終的にナルトの招待を受けることにしたらしく、ほほを赤く染め、顔を上げてはっきりと答えた。
その答えに、ツクヨもハルトも微笑みを浮かべていた。
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