“ひとつなぎの大秘宝”なんかいらねぇよ、オレには家族がいる 作:mooma
オレが“原作”において描写されたドンキホーテ・ドフラミンゴの幼少期の中で実現させてなるものかと恐れていることは、八歳で母親が亡くなることと、十歳で父親を殺すことだ
さすがにもう記憶も曖昧だけど、天竜人だとバレたのは“原作”ではドフラミンゴのせいだったんだっけ…?
生憎オレは危険な綱渡りをする気はないし、今のところ近所の人たちにはどこか世間知らずなところがある金持ちの余所者と評価されているようだから、余程のポカでも仕出かさない限りしばらくは平気だと信じたい…
引っ越してきてから三ヶ月…
正直最初の頃は警戒のし過ぎで夜もまともに寝れなかったけど、コツさえ掴めば他人の訪問を察知するのは難しくなかった
家族以外の気配が屋敷の近くに来るとなんと言うか…首の後ろの辺りがピリッとするんだ、静電気みたいに
これが見聞色の覇気の兆しだったりすんのかな?とか思いながら、今は家の中で誰がどこに居るのか気配だけで探せるか練習してたりする
それに対して、もらえるはずの能力は…いまだ影も形もない
ドフラミンゴって一体いつ能力者になったんだ?
一応女神様は幼少の折って言ってたけど、それって具体的にいつぐらいまでのことを言うんだ?
昔の日本だと子供は七歳までは神様のものだって言ってたから、てっきりそれくらいまでに貰えるもんだと思ってたんだけどな
ローが去った二十八ぐらいの時には能力者だったから、あと二十年以内には能力者になれるはずなんだけどさ?
…気長に待つか
遊びの感覚で見聞色・仮の練習をしつつ、屋敷を見回っておかしなところがないか確認する
オレの考えすぎかも知れないけど、天竜人を辞めた存在を世界政府だか他の天竜人たちだかが許しておくとは思えないんだよね…
この国を薦めたって言う消極的暗殺計画疑惑のこともあるし
実際暮らしてみると思っていたほど酷い環境ではないけれど、でもそれは家にはお金があるからだと思う
スラムっぽいとこも普通にあるし、自警団を自称するギャングっぽい奴らもいるし…
いつ、なにが起こるかわからないから緊急持ち出し袋の準備だけは怠らない
一家四人で一定期間飢えを凌げるだろうほどの保存食に、水確保用の大中小の鍋と防水加工の布、海軍ご用達のアーミーナイフ別名多徳ナイフと、換金用の貴金属、そして替えの下着にスペアのサングラス
たぶんこれで大丈夫だと思うセットを自室と玄関、勝手口の三箇所に保管して、最悪ひとつは持って出れるようにした
玄関のは母上かロシィに持たせられるように荷物を減らして軽くしてある有事の際には真っ先に捨てるスペアのスペアだ
三つ全部持って出れればかなり余裕があるけど、想定している通りに正面からの襲撃されたら玄関のは回収できない
逆に勝手口方面から襲撃された場合、そっちのを捨てて玄関のを持って出る
自室にあるやつは玄関、勝手口のどちらからも出られずに窓から飛び降りて逃げなきゃならない場合も考えてだ
ちなみに自室のやつはオレが持つつもりで多めに荷物を詰めてある
オレは普段から体力作りを頑張ってきたから多少重くても問題ないんだ、作戦はいのちだいじにで行きたいし
あ~…うん、でも、やっぱりオレ、考えすぎな気がする…
ま、
それでも、
ん~…母上はキッチンっぽいな
時間的に、おやつでも準備してるのか?
ちょっと行って確認してこよう
ここまでの生活で、オレ的に一番意外だったのが、母上があっと言う間に料理を覚えてしまった事だったりする
特にお菓子作りには精力的で、しょっちゅう顔にクリームとかつけたままケーキを作っては、そのことに気付かないまま出来上がったケーキを父上に見せに行って、最終的にはいちゃいちゃしだすと言うループが発生してる
そのうちロシィにも弟か妹ができたりするのかなぁ…なんてちょっと期待してたりするオレです
あ、今日はクッキーなのか…
髪の毛に粉がついてますよ、母上?な~んて注意はしてあげない
ここに来る途中で父上がそわそわしながら本を読んでたから、きっと今か今かと母上が来るのを待っているに違いないぜ、フッフッフッ!
「あら、ドフィ、おなかがすいたのかしら?おやつはもうすぐできるからドフィはロシィを呼んで来てくれる?母上は父上を呼んでくるわ」
「はい、母上。ちょっと時間がかかると思いますので、どうぞごゆっくり…」
「もう!ドフィったらおませさんなんだから!でも…ちょっと甘えさせてもらおうかしら?ふふふ…」
お礼はぜひ可愛い妹でお願いしますね、母上!
いやぁ、今日もいい仕事をしたからか、オレたちの味見用にスッてきたクッキーが殊更に美味い
「ロシィ~、おやつ持って来たぞ~?これは摘み食い用だから母上には内緒な~?」
「うんっ、わかった!」
結局、その後迎えに来た両親に摘み食いがバレて、母上には怒られ、父上には笑われたオレたちだった…
バチンッと首の後ろに痛みを感じて、オレは飛び起きた
時間は真夜中過ぎぐらいか?
痛みに訴えてくる方向を確認しようと部屋を出て窓の外を見れば、松明を持った沢山の人々
どう見ても、普通じゃない状況にしか見えない
「父上!!」
急ぎ父を起こしに走って、確認してもらう事にした
父上はオレよりも目がいいから、なにが起きているかより詳細に見えるはず…
「なぜ…なぜ、こんなことが…」
近づいてくる人々から聞こえてくるのは「天竜人を殺せ!天竜人に裁きを!」といった号令で
「父上!母上!ロシィ!とりあえず何でもいいから服を着て!!今は早く逃げないと!!」
「あ、ああ…」
部屋に戻ってパパッと服を着て外套と持ち出し袋を手にとってもう一度部屋を出る
なにが起きているのかわからない様子の両親を待っている間にも、彼らの進軍は止まらない
「あにうえ…?」
自分たちのことで手一杯といった感じの両親を尻目に、ロシィに適当な服を着せ、外套も羽織らせておく
「二人とも!外套取ったら窓から離れたままキッチンに行って!父上はロシィをお願い!オレもすぐ行くから!!」
着替え終わった二人にロシィを渡して、部屋から叩き出したときには、もう大分近くまで彼らが来ていて…
急ぎ母上の装飾品も拝借してオレも部屋を出た
窓の外を確認すれば、火矢か火炎瓶のようなものを投げてきているようだった
「チッ!無駄に重装備とかやめろっての!ほんとにもう!!」
玄関はもうすぐ火の海になるだろう
キッチンに向かう途中で屋敷で使ってる黒いカーテンのスペアを一枚拾うのは忘れない、キッチンで水を含ませれば火避け代わりにできるはず
ジリジリ肌が焼けるように痛い首の後ろを無視して、オレはキッチンに駆け込んだ
カーテンはつい、乱暴に水がめに突っ込んでしまったから水が跳ねてしまった…でも、お陰で少し頭が冷えて落ち着けたかもしれない
「父上、大丈夫ですか?」
自分が置かれている状況がまだ理解できていないのか、呆けている父に声をかけて覚醒を促す
覚醒しなかったら、そのときは殴るか
痛みがあれば現実だってわかるだろうし
「え?あ、ああ…ドフィ、これは、一体…?」
「天竜人を嫌う者たちの襲撃を受けているようです。火矢も使われているので、この屋敷に居るのは危険かと。屋敷の外に逃げて、身を隠しましょう」
「襲撃…!?なぜだ!?なぜ…!?我々は彼らと変わりなく暮らそうとしていただけなのに…!!」
「母上、気はしっかり持っていてください、そしてちゃんとオレか父上の後ろについてきてくださいね?ロシィ、怖いなら父上にぎゅっと抱きついて眼を瞑っておけ」
持ち出し袋に追加で食料を詰めながら母上とロシィの様子も伺えば、
こんな状況だ、無理もない
母上は顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうで、ロシィはなにが起きているのかわからなくて怖いだろうに賢明に泣かないようにしていた
「父上、これも持ってください。それからオレから離れないで。夜の森で逸れたら二度と会えないかもしれない」
父上に二つ目の持ち出し袋を押し付けて、オレは水を含ませたカーテンを持つ
カーテンは結構重くなっているから鈍器としても役立ちそうだ…できれば戦わずに済ませたいけど
「行きますよ!」
ドーン、ドーンと響く重低音は破城槌によるものだろうか?
足音を消してくれるなら何だろうと構わないが
勝手口を開けて周りを確認すれば、やはり此方にはまだ人が来ていないようだった
逃げる方向にある角の向こうも、まだ人影はない
父に手招きをして、ついてくるよう伝えればハッとしたようにオレの後を追い始めた
母上は周りを見ずに、ただ父上の背中だけを見るように父上の後ろを追いかけてくる
これなら大丈夫そうだ…
見つからないように細心の注意を払いながら進んだ森の入り口までの距離は二倍三倍どころか十倍は遠いように感じられた
「天竜人をさがせぇ!!俺たちの痛み、苦しみを奴らに刻み込んでやるんだ!!!」
屋敷を中心に渦巻く狂気を見て、父上も血の気が失せた顔を恐怖に歪ませる
「父上…逃げましょう?」
「ああ…ああ…!!」
ここから先は夜の森での逃亡劇だ
母上には辛い道になるだろうからと手を握れば泣きそうな顔で抱きつかれ…
「母上、大丈夫ですよ、彼らはまだオレたちが逃げたことに気付いていない…今の内に逃げれば逃げ切れます」
母上を励まし励まし、
ロシィを抱えた父上を思って歩きやすい道を選びつつ、
何時間も歩き続けて辿り着いたのは、
崖下で打ち捨てられていた木造の小さな小屋…
少し前に森を冒険していた際に発見したその小屋はもう何年も人が住んでいなかったようで、埃にまみれ、虫もうじゃうじゃいる、とてもじゃないが住めそうに無い場所だった
それを、セーフハウスに使えるかもと何度か訪れては中だけを掃除をしておいたので、今はもう少しまともになっている…と、思いたい
「父上、一先ずここで休息をとりましょう。こんなオンボロ小屋に天竜人が隠れているなんてきっと誰も想像だにしませんよ!」
「ああ…そうだな…今となっては屋根があるだけでもありがたい…」
そう言って中に入ろうとした父は戸を開けた瞬間に外観からは信じがたいほど手の行き届いた室内を見て固まってしまったようだった
「あら?…中は意外と綺麗…ドフィ、あなたもしかして…?」
さすがに母上にはバレてしまうか…仕方ない
「オレの秘密基地にしようと掃除してたんですけど…まさかこんな形で使うことになるなんて思っていませんでした…」
「そう…秘密基地…やっぱり男の子なのね…」
ひとつしかないベッドと呼ぶにはお粗末な寝台を母上とロシィに譲り、オレは床に腰を下ろすと、思っていたよりもずっと疲れいたようで、すぐに眠気が襲ってきた
「ドフィ、お前もロシィと一緒にベッドで休みなさい。疲れたのだろう?さぁ…」
「…それでは母上が休まりません…だいじょーぶです、ワの、きゅにでは…床でねりゅ、しょーでしから…」
ダメだ…もう、眠くて、ムリ…
外套に包まるようにして部屋の隅で丸くなったオレは、その後父上が苦笑してオレを抱き寄せ、同じように外套に包まって横になったのだという話を、次の日母上から聞くことになったのだった…
小ネタ
※この話は本編には一切関係ございません…多分(←)
「父上~!さすがにもうオレだけじゃ家の事回せないんでお手伝いさん雇ってきました!見てください!正統派のメイドですよ!!フッ、フフフ、フフフフフ…!」
「ドフィ…そんな…それでは、前と変わらないではないか…っ!」
「違います。全然違います。塩と砂糖ぐらい違います。オレのそこそこ美味しい料理と父上の食えたモンじゃない産業廃棄物ぐらい違います」
「確かにあなたのご飯とドフィの手料理では同じ材料だと信じられないくらい違うものになるものね」
「いいですか、父上?労働に対して報酬が出れば雇用!出ない場合が隷属なんです!此方のメイドさんは彼女の自由な時間の一部を私達に提供する代わりに私達からお金を貰う、私達は此方のメイドさんにお金を渡す代わりにその金額と同じ分だけ家事をお願いする。これはお互いの自由意志と利益を尊重した、対等な立場での、公平公正な取引なんです。どちらか一方が嫌になれば、そこで関係はおしまい、綺麗さっぱりなくなります!わ、か、り、ま、す、か?」
「えっと…つまり、その人間個人を買うのではなくて、その人間の時間の一部を買っているということかしら?」
「そうですね、母上。その考えかたでも問題ないと思います」
「…なるほど…確かにそう言われれば奴隷を使うのとはまったくの別物であるな」
「これは普通の人間なら誰でもやっていることなのでご安心を。人間、金がなきゃ生きてけませんからね、働いて金を得ることで人間生きてけるんです」
「…(うん、金は大事だ。金が無いと飯を食うのにも苦労して、残飯を漁らないといけない目に遭ったりするからな)」
「そしてなにより!我がドンキホーテファミリー&カンパニーには!世界最先端の福利厚生をお約束しております!!まずはこちら!氷の魔術師さんのお悩み!『職場は仕事書類仕事出張と仕事ばっかで休みが取れません…このままでは体を壊してしまいそうです。お休みを下さい』…そんなあなたに!我がDQCでは完全週休二日制を導入しているだけでなく、初年度から有給を二十日、病休を十日用意しております!これらの休日の日数は減る事はありませんが会社への貢献度によって増加する事はありますのでどうぞご一考ください!」
「まあステキ!これなら急に具合が悪くなっても安心ね!」
「さらには女性の皆さんに優しい生理休暇、出産・育児休暇も完備!子供は欲しいけど仕事をやめるのはちょっと…というあなたに!いつでも仕事に復帰できることをお約束いたします!また、幼い子供を抱えていては大変でしょう…子供との時間を取れるように時短勤務ができるだけでなく、なんと!職場に託児所も併設いたしました!これで一日中いつでもお子さんの様子が確認できて安心ですね!」
「子供の顔を確認してから仕事に戻ればやる気も上がるんじゃないかしら?」
「さあ、続いてのお悩みは…!」
「ハッ!?ゆっ…夢か…」