“ひとつなぎの大秘宝”なんかいらねぇよ、オレには家族がいる   作:mooma

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ひはまたのぼる


しょけい

海賊王ゴール・D・ロジャーに会うべく海軍の施設に忍び込んだ帰り、彼が最後に言っていた言葉に従ってその場へと向かう…

 

月を正面に見て四時の方向、大体300メートル…

 

そこにいたのは、まだ年若い海兵と、警戒対象として顔を覚えた海軍将官の一人、智将とも知られている大将センゴク…

 

彼がなぜオレにこれを見せたかったのか、わからなかった

 

でも、次の瞬間、

 

「センゴクさん!お疲れ様です」

 

「ああ、お疲れ、ロシナンテ」

 

センゴクに笑顔を向ける、その海兵の横顔には、たしかに…!

 

「ぐ…っ!」

 

がん!がん!と痛み出した頭に、喉を上ってくる焼けるような感覚

 

吐気がして、身体を折ることしか出来ず

 

ダメだ…ここにいたら見つかってしまう…

 

根性で糸を繰って路地裏に身を潜め、急な体調不良に耐えようとして、ふっと、目の前が明るくなったような感じがした

 

まるで、ズレていた歯車が、カチリとはまったような、

 

変なところで固まっていたスイッチが、キレイにパチンと点いたような、

 

そんな感じがして、目が、醒めた気分だった

 

「ロシィ…?」

 

どうして、今まで忘れていたんだろう…

 

あんなに…あんなに大切にしていたのに…!

 

忘れていた…いや、目を背けるために消していた記憶を取り戻して、溢れる涙が止まらない

 

まだ足りないところもある…

 

父を撃ってから、オレはどうなった?

 

ロシィがそこにいた事は確実なのに、なんで起きたときには忘れてたんだ?

 

記憶の混乱に、オレ自身も困惑して

 

前の記憶にはいたのに、今の記憶から消えていたことに何の疑問も抱いていなかった事が、何より恐ろしい

 

ああ…でも…

 

「おまえが無事でよかった…ッ!」

 

本当の意味で“無事”なのかはわからないけど…

 

でも少なくともお前はまだ生きている

 

オレ達はまだやり直そうと思えばやり直せる…!

 

どうやって知ったのかはわからないけど…さすがは海賊王ゴール・D・ロジャー、この世の全てを知る男…

 

まさかこんなサービスをつけてくれるなんて…

 

こんな事をされたら、オレの方も、予定していた以上にエースに気を配ってやろうって、思っちゃうじゃないか…!

 

ひとつ、深呼吸をして立ち上がれば、世界が違って見えた

 

さよなら、弱いだけのオレ

 

もう、忘れない、

 

もう、何も手放さない

 

今夜からは、弱くても諦め悪く強がりを続けるオレだ

 

寄りかかれる場所はある

 

でも寄りかかってばかりじゃダメなんだ、自分の足でも立たないと

 

甘える事と依存することは違うんだ

 

そのことをいま、思い出した

 

「…別に、白ひげにくれてやる必要はないよなァ?」

 

どうせ未来を変えるつもりなんだ

 

それぐらい変わったって文句は言わせやしない

 

盃兄弟は嫌いじゃないし、

 

ああ、いっその事Dの子供達を揃えてしまうのもいいかもしれない

 

ネーミング的にも、エースはうちの子だもんね?

 

よし、決めた!

 

全部ぶっ壊して、オレの好き勝手にさせてもらおう

 

やってみてダメなら仕方ない、やらなきゃ何も変えられないんだし

 

もう一度ロシィのいる方に目を向けて、髪をかきあげ、眼鏡をかける

 

またな、ロシィ

 

お前がオレを“殺しに”くるなら、相手してやるから楽しみに待っとけ

 

その骨身の髄に沁みてわかるくらい、オレの正義について教えてやるよ

 

糸で作ったいつものコートを翻し、オレはその場を後にする

 

「…ありがとうな、ロジャー…」

 

その声が届いたかどうかはわからないけど、彼の笑い声が風に乗って聞こえてきた気がした

 

 

 

 

 

 

 

夜が明け、天気は皮肉なまでの快晴

 

でも天を仰げば風が狂ったように吹き荒んでいるのがわかった

 

これじゃあ雲があったとしても糸は掛けられない…

 

処刑までの残り時間は、刻一刻と迫ってくる

 

広場にはたくさんの人間が押しかけていて、ロジャーの死をその眼で見ようとしていた

 

処刑を見ようだなんて、正気が疑われるな…

 

そうは思っても、オレ自身ロジャーの最期を見ようとこの場にいるのだから、何も言えないのかもしれない

 

処刑の独特の雰囲気だけでも知っておかないと、マリンフォードの時にドジしそうだし…

 

予想外のことや覚悟していないことに直面すると、ドジをしやすくなる自分が恨めしい

 

実際、考えるだけじゃ、本当に起きた時に対応しきれない部分もあるしな

 

処刑台を左手に臨む建物の上、糸で姿を隠して見物客を観察する…

 

この新技“秘匿糸(オブリテレイト)”は昨夜も海軍の施設に忍び込む際に使ったけど、中々使い勝手がいい

 

効果は、まあ、擬似的なスケスケだと言えばわかるだろう、後ろの景色をそのまま前に見せているだけで、今のオレの実力じゃ勘のいい人なら良く見るとオレのいるところが見えるだろうから、気を抜いたりは出来ないのが難点だ

 

現在の目標はキレイな合成のように違和感なく消えられることだな…思ってた以上に難しいけど

 

それに、これは見聞色相手には意味がないから、使い所も選ぶんだよなぁ…今回はみんながロジャーの事で手一杯でオレの方にまでは気を配れないよう願いたい

 

見物客の中には前世から知っている人たちも見受けられる…

 

海賊のクセによく今此処に来れるよなぁ…オレにも言えることだけど

 

ああ、でもオレがもう海賊だからって彼らももう海賊だとは限らないのか

 

人探しを続けているうちに、とうとうロジャーが出てきた…

 

処刑台に上がるまでの道すがら、一度だけオレの方を見てにぃっと笑ったのを見て、オレはぎゅっと拳を握り締めるしか出来なかった

 

みんながみんな、食い入るようにその流れを見つめていて…

 

「おれの財宝か?…欲しけりゃくれてやるぜ…!」

 

ぴしり、殻が割れるような音が聞こえた気がした

 

「探してみろ!この世の全てをそこにおいてきた!!」

 

轟くような喊声にかき消されながら、ザンッ!と響いた剣の音

 

最期まで笑って逝ったロジャーに、せめてその死後が安らかであるよう、天に祈る

 

まるで、ロジャーの死が引き金であったかのように、ポツ、ポツと降り出した雨

 

急激に発展していく雲に、嵐に、まるで天も泣いているようだ

 

ダァーン!と落ちた雷に、ここは危ないからと地面に降りれば、顔を上げて瞬間、交わった視線

 

いや、そんなはずはない、オレはまだ“秘匿糸(オブリテレイト)”を解いていない

 

なのに、その金の双眼は確かにジッとオレを見つめていて

 

反射的に建物の間の僅かなスペースに身を隠せば、恐ろしいほど動悸が激しいことに気がついた

 

なんで、なんでだ?

 

目が合った事も、動悸が激しい事も、反射的に身を隠してしまった事も、何もかもわからない事だらけなのに、何より一番訳がわからないのがこんな状態なのにも関わらずもう一度あの目を見たいと思ってる自分自身だ!

 

パッと“秘匿糸(オブリテレイト)”を解いて、恐る恐る物陰から顔を出せば、その視線は向こうを向いていて…

 

ホッとしたつかの間、もう一度こっちを見た金色の瞳に、オレはかぁぁっとなって、固まってしまった

 

え?

 

なに?

 

どういうこと?

 

顔が熱いんだけど!?

 

混乱が融けないんだけど!!?

 

エスナ!そうだよ誰かオレにエスナを!!

 

いや!こういう時は素数を数えるんだ!

 

いち、に、さん…あ、睫毛長い…って、ちが~う!!

 

ああ、もう!

 

なんか不整脈だし!

 

胸もきゅ~っとしてるし!

 

なんか息苦しいし!

 

あれか!?

 

心臓発作か!!?

 

いや、心臓発作に違いない!!

 

助けてドクターハートスティーラー!

 

って、ローはまだ仲間にしてなかったんだ…!

 

ど、どうしよう…!?

 

「…くくく…」

 

オレがはわはわしているのがおもしろいのか、響いた声に、ハッと混乱が解けた気がした

 

…ハスキーな声もすてき…

 

「くはは…!変なガキだな、お前…」

 

「…別にガキじゃねェよ…」

 

混乱してるところを笑われたから少しムッとして返せば更に笑われて

 

「くはははは…!ガキだって言われて拗ねてるうちはまだまだガキだ」

 

そこで拗ねてたわけじゃないが、多分何を言っても無駄なんだろう

 

身を翻し、ひらひらと左手を振って、そいつが言う

 

「じゃあな、ガキ…笑かしてくれてありがとよ」

 

ほんの少し、悲哀のような響きを含んだ声に、手を伸ばそうとすれば、風が吹いて…

 

サングラスがあるから意味はないはずなのに思わず目を瞑ってしまって、過ちに気付く

 

目を開けてあたりを見渡せば、やはり既にその影も無くて…

 

「…逃げられた…」

 

思わず落としてしまった肩に、ああ、でも、今のが誰なのか、記憶をさらえば予想がついて、気を持ち直す

 

強い光を宿した金色の双眼、艶のある見事な黒髪、あの特徴的な笑い声…

 

動揺しすぎて、ちゃんと全部覚えられなかったのが悔しい

 

「…次は絶対捕まえてやる…」

 

言ってた自分でも予想外に拗ねたように響いた声に、フッと鼻で笑って、今夜の宿を探しに向かうことにした

 

この天候じゃ、今日は帰れそうにないしなァ…

 

海軍に張られても困るから、今朝の宿をもう一度使うのはありえない

 

出来れば飯がうまい所がいいんだけどな~

 

そんなつまらないことを考えながらも、頭の片隅でさっきのことがリピートし続けていて…

 

この日、オレは前世も含めてはじめて、本気で一目惚れしました

 

そのことに気付くまで、あと数時間…

 

 




ドンキホーテ・ドフラミンゴ(17)

この度めでたく記憶を取り戻し、かつ初恋を迎えた。
予想外の展開にパニックになるのはいつものこと。
この後入浴中に一目惚れ&初恋だと言うことに気がついて、危うく溺れかける。
ちなみに身長はまだ彼よりは小さかった。


サー・クロコダイル(22)

本命かつ落ち担当。
男ver.のこの時点ではあえて性別不明と書いておきたい。
まだ両手とも揃っていて、顔の線もない。
笑かしてくれた金髪のガキには好印象を抱いたようだ。


ドンキホーテ・ロシナンテ(15)

センゴクさんの権限で連れて来られていた。
新兵として雑用をしているが、実力も悪くはない。
たまにフォローできないようなドジをやらかす。
兄がいたことには欠片も気付いていなかった。


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