“ひとつなぎの大秘宝”なんかいらねぇよ、オレには家族がいる 作:mooma
石造りの砦の中を進む
向かい来る敵に糸を揮えば、紅が飛んで赤が舞う
突き刺すように手を前に突き出せば、槍のように五本の糸が邪魔な肉塊を貫いて、退かす
これほどの暴力に晒されていると言うのに、誰一人として息絶えてはいない
死と言う安らぎを、与えてもらえると思うな…
人を人とも思わない所業をした者に、そんな安らぎは似合わない
「ひっ…!く、くるな…!くるなバケモノォ…ッ!!」
煩い口を糸で縫いつけて、オレはソイツに囁く…
「バケモノ?違うな…オレは、悪魔だ」
笑みを浮かべたオレに、気を違ってしまったらしいソイツは狂った笑みを返すしか出来なくて…
にんげんて、こんなかんたんにこわれるんだなぁ…
オレ自身、壊れている自覚はあるけど…コイツみたいに壊されてしまったのか、それとも始めから壊れていたのか…よく、覚えていない
壊れた玩具には目もくれず、オレはトントントンと舞うように歩を進め、次の獲物を探す
殺しはしないさ
だって殺したらまた×××が泣くからね
それは本当に彼なのか、あるいは彼の姿をしているオレの良心なのか…
思い出せ…
思い出せ…!
忘れたままじゃ、オレは×××をころしてしまう…!
叫ぶ心に蓋をして、目の前の凶行に意識を戻す
さ、邪魔なお前らは壊れてくれないかな?
頬を濡らしているのは血か涙か…
それすら、今のオレにはわからないのだ…
圧倒的暴力による絶対的蹂躙の前では、どんな奴らも屈する他なく…
その夜、モートルイニ武装団は壊滅した
軽傷者12名、重傷者358名、重体38名…
死者…0名
このことを以って海軍は、この事件の首謀者と見られるドンキホーテ
しかしながら
目を通していた新聞には真新しい情報は特に載っておらず、相変わらず欠伸の出そうな話ばかり
「ごちそうさん」
読んでいた新聞をカウンターに置いたまま、コーヒーの代金だけ支払ってバールを出る
ここ一年ほどは近辺の人攫い集団やら海賊団やらの討伐をメインに活動してきたが、これでほとんどの奴らがいなくなった
オレたちが数ある人攫い集団のアジトを掴むのに掛かった時間の間にも犠牲者が増え、もう家族の元に帰れない人もいるかもしれないことに胸が痛むが、今後はそういったことがほぼ無くなることを思うと少しは肩の荷が下りた気分だ
保護した被害者達もその大半は家族の元へと帰したし、保護者の勝手で売られたが故に帰すのは良くないと判断した子供達はうちで経営している孤児院へと受け入れた
ドンキホーテ
もちろん孤児院で子供達の面倒を見ている人間には厳しい審査基準があって、虐待や暴行等は行なわれないよう配慮もしている
そこの子供達には生きていくために必要な知識や、初等教育相当の学問を学んでもらって、十分な年齢になったら巣立ってもらうのだ
この十分な年齢と言うのは各地における成人相当とみなされる年齢で、ここ
割と平和な
巣立つ子供達は、希望すればそのままドンキホーテ
よく、それを目的としているのではないかと言われるが、そんなことはない、オレのただの自己満足なんだから
もっとも、他の幹部がどう考えているのかはわからないが…
第一、うちに所属させることが目的なら、わざわざ中立的な思考を養うための教育なんて施さないだろう?
中にはわざわざお金を出してまでうちの孤児院の授業に我が子を参加させたいって親もいるが…
お金をもらう気はないから好きに参加すればいいとだけ伝えておいた
お陰でうちの孤児院は寄宿舎もある学校みたいになってきて…
まあ、チビちゃんが選り取り見取りなのはオレも嬉しいんですけどね!
それでも、未来の幹部陣は未だに見つからない…
ピンクのもふもふも、まだオレの背にはない
もふもふのないオレの手配書を見て、微妙な顔をしてしまったんだけど、その時に懸賞金が低すぎて怒っていると誤解した最高幹部たちには笑えた
懸賞金の額なんてどうだっていいよ
男なら…金より、愛だろ?とちょっと格好つけたくなるのは年齢のせいかな…
15歳って中2?中3?
…まあ、それはおいといて!
足を進める町は中々に賑やかだ
補給が出来るだけあって物品は豊富にあるようだし、屋台も多くはないけど見受けられた
そんな屋台のひとつでホットドッグのようなものを買って、また散策を続ける
ドンキホーテ
気を抜くとあっという間に財布が空になっている…
満足に食えなかった期間の反動からなのか、気がつくと色々と摘んでばっかりで、早食いではないけれど割と大食いにはなっているみたいだ
今はとりあえず成長期っていうのもあるんだろうけど…
ぺろりと平らげたホットドッグのゴミはゴミ箱にポイッとして、次に食べるものを探す
ん~…さっき見たお好み焼きっぽいものも良さそうだけど、あげパンみたいなのも美味しそうだったしな~…
ふらふらしているうちに、ずっと同じ気配が一定の距離を開けてついてきているのに気付いた
海兵かな~?賞金稼ぎかな~?
オレたちの影響が強い地域では市民は敵にならない可能性が高いから、考えられるのはこのふたつぐらいか?
結局あげパンを買うことにして、気配を釣るために人気のない場所へと向かう
その途中、横道に入った瞬間、気配の持ち主はオレの腹を裂こうとナイフを薙いだ…
でもその一閃はオレに届くことなく糸に阻まれ…
「手柄を焦ったな?それじゃ、オレは殺せねぇなァ」
オレを狙っていたのはまだ幼い少年だった
「放せ…!貴様を殺せば…みんなに飯を食わせてやれるんだ…!!」
「ふ~ん?」
オレを睨みつけるその子は、覚悟を持った、護るものを知った男の目をしていて…
「別にオレを殺さなくてもみんなに飯を食わせてやる方法はあるぜ?」
「…ほ…本当か…?」
敵わないのは初めからわかっていたのかもしれない…それでも誰かの為にオレに向かってきた子供には光るものを感じた
「ああ…オレと来ればいい。オレは、知ってるかもしれないが…ドンキホーテ・ドフラミンゴ、ドンキホーテ
その子供はオレの言葉に一瞬だけ目を輝かせると、すぐにまた顔を歪めて…
「みんなはいいかもしれない…でもおれはバケモノだから孤児院にはいられない…っ」
バケモノ、ねぇ?
パッと見た感じは普通の子供と変わらない
なのに自分をバケモノって呼ぶって事は、誰かにそう言われたってことか…
「なんかおかしなことできんのか?こんな風に」
オレの経験上バケモノと呼ばれる可能性が高いのは奇形か能力者、あるいはヒトゴロシに抵抗のないやつだ
奇形ではなさそうだから、とりあえず能力者の線から行ってみようとオレは糸を繰って小さなヒトガタを作る
オレと同じ姿をした
「あ…」
それを見た子供はオレとそのヒトガタを交互に見続け、困惑した様子で…
三十秒ほど経ってから、その子は意を決したように小石を拾った
「おれは…これ…」
その小石は膨らみ始めるとパーンと爆発して…ああ、そうか、こいつ、グラディウスか
「なるほど。これはな?悪魔の実の能力だ…お前はバケモノじゃなくて、能力者なんだよ」
「能力者…?」
場所によっては食べ物が不足しがちなこの
見た目も微妙な悪魔の実だろうと、腹を満たせれば何でもいいと言う人間には食料なのだ
そしてそもそも悪魔の実のことを知っている人間もさほど多くないことから、自分が能力者だと知らないまま過ごしてたりする
なにかがおかしいことに気付くのは能力を暴発させてから、ということも割とあるようで…
「そう。その能力をちゃんと制御できるようになるまで、孤児院じゃなくてオレのトコで面倒を見てやるから安心していいぞ?自分のせいで誰か怪我したら怖いもんな?」
「…いいのか…?」
悪魔の実の能力を扱う練習をする場合、何かあったときに対処できる人間が近くにいるのといないのとでは安心感が違う…と言うのがオレの持論だ
破裂してもトレーボルなら
それにちょっとくらい痛くても死にはしないだろう、トレーボルだし
…後で掃除が大変かもしれないが…
「もちろん。うちにはほかにも能力者がいるし、お前が能力の練習中に制御に失敗しても怪我しない奴もいる。ここいらじゃ一番いい練習環境なんだぜ?」
グラディウスだろう子供を抱き上げれば、程よい重さで…
ああ、やっぱりチビちゃんていいよな~!
年少組第一号の仲間に内心浮つきながら、オレはグラディウスの案内の元、彼の仲間達のところへと向かうのであった
フッフッフッ…
これからはも~っとイイコトが起こりそうな気がするぜ…!
「ドフィ、これを…」
「ん?なに、これ」
「ドフィに…プレゼントだ。きっと気に入ると思ってな」
「?どれどれ~?…!こ、これは…!!」
「ピンクのもふもふ…と寝言で言っていたから…」
「コラソン!ヴェルゴ!!ありがとう!これ、オレが欲してたのソックリだ!!」
「そ、そうか…」
「うわ、やべぇ、マジで嬉しい…ありがとうヴェルゴ!もう大好き!愛してる!!」
「ど、ドフィがそんなに喜んでくれて…おれも嬉しいよ」
「もふもふ~!フフフ、もふもふだ~!やべぇ、オレ、今、超幸せ…!」
「おい、トレーボル…あれを許していいのか…?」
「んねーねー、おれが許すと思ってるの?ねー、思ってるの??…許すわけないだろ?」
「…コラソンのやつ…抜け駆けしやがって…ヤンデレ的に逃げ場をひとつずつ塞いでいって…このままじゃ…ドフィが危険だ…」
「あァ~…とりあえずはいかに合法的にヤツを駆除できるかを会議で話し合う方向でいいのかァ?」
「当然でしょ~?寝てるドフィにずっと『ドフィはコラソンを愛してる』だの『ドフィはコラソン以外には決して殺されない』だの囁いてるんだよ~?毎晩…、毎晩…ッ!」
「…それを知っているトレーボルも大概危険人物だと思う…」
「ああ、おれもそれには同意する…」
「挙句にさ~…最近、エスカレートしすぎじゃない?身体接触…何処触ってんの?ねぇ、ドフィが嫌がってないからって何処を触ってんの?お前さ~、いい加減にしろよ?コラソン…」
「…幹部同士の争いは部下に示しがつかないから禁止、だぞ…?」
「こりゃァ…もう、無理だな、二人とも救いようがねェ。せめておれたちだけでも比較的まともでいられるよう努力すべきだ!そうは思わねェか、ピーカ」
「…ブツクサブツクサ…モンクモンクモンク…」
「…ああ…その通りだな……もう少し、まともな仲間が良かった…」
「それを言うな…虚しくなる…」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ(15)
知らぬ間にヤンデレに洗脳されつつある。
ヤンデレの過剰なスキンシップに疑問を抱いていない。
手配書の写真が微妙なのがちょっと不満。
相変わらずロシィに関する記憶が微妙に欠如している。
コラソン ヴェルゴ(15)
トラウマを植えつけるヤンデレ。
ヤンデレは手段を選ばないのです。
ドフィを手に入れるべく策略を重ねているが…。
なんというか…もう、コイツが黒幕なんじゃね?
グラディウス(7)
ストリートチルドレンの一人。
仲間内ではパンクと呼ばれていた。
今のところは常識人枠。
トレーボル(23)
変態に磨きがかかってきた?
コラソンが仕出かしている事は許せない。
粘着性過保護…だと信じたい。
とりあえずの目標は、コラソンをドフィの人生から消すこと。
ディアマンテ(19)
常識人枠その1。
戦闘狂でもこのメンバーの中では常識人になります。
頑張ってこれ以上変態が増えないようにしたいと思っている。
それが叶うかどうかは…未だ不明。
ピーカ(14)
常識人枠その2。
実はモートルイニ武装団を倒した後に能力者になっていて、現在能力の練習中…。
先日初恋を済ませたばかりだが、初恋の相手はとある船の船首に飾ってあった女神像…。
好きなタイプは大理石製!と答えて、オウフ…とドフィに頭を抱えさせてしまった。
恋愛相手関係以外は、間違いなく常識人である。