スピーカーから響く声は麻帆良学園に大きく分けて二つの反応を生み出した。ゲームが続くと喜ぶイベント参加者と、イベントの真の意味を知る魔法使いたちの驚愕の声だ。表と裏、両方においてエクストラステージなどという予定は存在していない。表の人間よりも裏の人間の困惑が広まっていく。
計画から外れていくありえない事態。だが魔法使いたちの驚愕を他所に事態は進み続ける。
「おいおい、なにが起きているんや?」
そして犬上小太郎はその両者の狭間にて困惑していた。裏の住民であったがゆえに、麻帆良学園祭のイベントのきな臭さと、学園サイドではないために気楽なイベント参加者としてひそかに敵と戦うことを楽しんでいた。麻帆良学園の問題は学園が解決するだろうと考えていたからの、楽観だ。しかし現状の様子をうかがう限り、そうもいっていられないことに気付く。
「なんや、ようわからんが拙いみたいやな」
気を使い空を飛んでみれば、あちらこちらに倒れ伏す魔法使いの姿が見える。そして進軍しつづける鬼神たち。裏の世界に長い間浸ってきた小太郎は、いやな感覚をかぎ分ける。勘、一言でいえばただそれだけだが、その勘で生き延びてきた身としてそれは無視できるものではない。眼を皿にしてあたりの情報を取り入れようとする。
「ん? なんや?」
そしてわずかな違和感に気付いた。祭囃子が微かにであるが聞こえる。麻帆良学園は西洋魔法使いの住むためか、学園祭に使われるBGMも西洋の物ばかりだ。しかしこれは間違いなく日本古来のもの。横笛が吹き鳴り、鉦が打ち鳴らされる。
「祇園囃子か? なんでこんなところで?」
祭囃子がする方角に小太郎は目を凝らす。夜闇からポツリと青白い光が浮かぶ。それは次々と数を増していく。
「鬼火、か? なんでや、ここはああいうのが弱る結界張ってあるはずやで?」
幾百もの鬼火が生まれ、その一帯が明るくなる。青白い光に照らされ、とある一団の姿が見えた。
人に似た姿をしているが、どれもこれも人ではない。優雅に歩く者の額には角があり、楽しそうに歩く者の肌にはツタが這いずり回り、あたりを見回す者の身体は石でできており、ごちゃごちゃした道具を背負う者は水に濡れ、奇妙な程輝く火の入ったランタンを持つ者までもいる。
化け物だ。妖だ。妖怪だ。怪異だ。百鬼だ。百鬼の夜行だ。百鬼夜行がそこにある。
「ここは平安ちゃうんやで?」
段々近づいてくるその集団に、つばを飲み込んでようやく小太郎はそうつぶやいた。青白くなった肌を、脂汗が伝い落ちる。
「なにが起きとるんや? どうなっとるんや、
それは奇しくも裏の魔法使い全員が抱いた疑問だった。
麻帆良学園の上空にいたネギはその光景が誰よりもよく見えた。鬼火が麻帆良学園へ一直線に伸びたかと思えば、すぐに外周を取り巻くように円を描き一周する。まるで檻のように。誰も出られないようにするかのごとく。
そして異変はそれだけで止まらなかった。進軍していた鬼神、それらが次々に悲鳴を上げて倒れ伏す。いな、倒れたのではない。消滅させられていた。魔法使いが集まっても封印どころか足止めが精いっぱいだった鬼神たちが次々と、あっけなく。まるで塵芥が風で吹き飛ばされるように、感慨もなく消えていく。
『エクストラステージを開演いたします』
再びスピーカーから聞き慣れない声がする。
『宇宙人の親玉、超鈴音が倒されこれで麻帆良の平和は守られた。しかし宇宙人の襲来は、麻帆良に封印されていた悪しき存在を復活させてしまった。古よりこの地に蔓延る妖怪たちだ。彼らはかつての力を取り戻すために世界樹目掛けて進行している。諸君ら麻帆良防衛部隊に告ぐ。彼ら妖怪たちと戦い、麻帆良の平穏を守れ。健闘を祈る』
それはネギの立てた計画には全くないものだった。そもそもが一般人を戦いに巻き込んだのは、超の戦力が一騎当千の精鋭と、いくらでも投入できる軍隊であるがゆえに、麻帆良側の防衛戦力の量を増やして対抗するために考えたのが今回の作戦だった。そのためイベント参加者へ支給したマジックアイテムは、あくまでも魔力で動く機械には有効でも、他のものには通用しない。それはあくまでも超と戦うだけで、超以外の敵と戦うために考案されたものではないからだ。
「兄貴、どうする!?」
「くっ、……いまはとにかく情報がないと動けない! 下手に動けばより状況が悪化するかもしれない。一旦学園長のところまで戻ろう」
「分かった、兄貴。俺っちは姐さんたちに連絡しておくぜ」
「うん、お願い」
杖にまたがり、ネギは近右衛門がいるであろう学長室、麻帆良防衛の本部へ戻る。事態が予定からどんどん外れていくその不気味さと、未知の敵が潜んでいたことに気付けなかった己を恥じて。
そして、
「超さんの言葉は……」
最期に超が発した言葉。その意味がネギの脳裏に引っ掛かり続けた。
さて、ここからどんどん進めていかないと。テンポアップする予定です。