東方魔法録   作:koth3

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超鈴音

 麻帆良武道会が無事終わり、超は予想以上の成果に微笑み鼻歌を歌いながら神社の回廊を渡っている。しかしその歌も途中でぴたりとやむ。周りから幾人もの気配がする。

 

「せっかくの気分をこうも台無しにされるとは。まあ、仕方ないか」

 

 いたる場所から魔法使いたちが現れる。すでに全員が武装をしており、今までと違い、超に明確な敵意を送っている。

 

「超鈴音、一緒に来てもらおうか」

「教師に呼び出されるほど悪いことをした覚えはないね」

「これだけのことをしてそんな言葉を吐けるとは」

 

 膨れ上がる怒気。それを眺め、超は笑う。

 

「普通の魔法使い程度につかまるほど、私は耄碌していない」

「いかん! 捕らえろ!」

 

 とびかかる魔法使いたち。しかし超はその場から一歩も動かない。動く必要がないから。

 超の視界が白く染まる。そして再び視界が元に戻る。しかしそれは元の視界とは言えない。昼を過ぎたころだった世界は、すっかり夜になっている。

 

「時間跳躍の術なんて、普通の魔法使いでは考えることもできないからね」

 

 そもそも幻想の者ですらそうそうできないことだ。実力の劣る人間の魔法使い程度が使いこなせるはずがない。超は嘲りを顔に浮かべる。

 

「っつ、とはいえ無理やり使っているものだから、負担も大きいか」

 

 痛む胸を抑え、超は物陰へ隠れていく。いくら追っ手を躱したとはいえ、再び発見されてしまっては元の木阿弥だ。急いで移動しなければならない。

 麻帆良の高台に超は移動した。時間帯からして、パレードが行われている今、高台は人気がない。転落防止用の柵から身を乗り出す。眼下ではパレードが行われ、幾千人もの人間が笑っている。楽しそうに。家族だろうか。父親に肩車されている娘の姿が超に見える。

 

「……お父さん」

 

 落下防止用の柵を握りしめる。鉄が水を吸う。

 

「超か?」

「っ! クーフェ、どうした」

 

 超が振り返れば、パンダの面を被る古菲が立っていた。

 

「いや、超の後姿を見かけたから話しかけたネ。それにしてもどうしたアル。なんというか、悲しそうだけど」

「……そうだね。寂しくて悲しいんだよ。クーフェ、私は麻帆良学園を退学するよ」

「ど、どういうことアル!?」

 

 古菲の言葉にすぐには返さず、超は眼下の群衆を再び眺める。振り返ることなく、呟く。

 

「私はお前たちの敵となる」

 

 

 

 超は呼び出されていた。ネギからの手紙だ。時計塔と世界樹が見える展望台にて待つと呼び出された。おそらくは、古菲を通じて、超の話を聴いたのだろう。

 

「またせたかな、ネギ先生」

 

 フードをかぶったネギが、約束通り一人でいた。近くに誰かが隠れていたとしても、それくらいは分かる程度に超の実力はある。

 フードを下ろし、ネギは超と相対する。

 

「超さん、聞かせてください。あなたはなにをしたいんですか。世界に魔法をばらしてまで」

「なに、かね? それはあまりにあいまい過ぎる質問とは思わないか。まあ、構わないさ。だがそれを応える前に、ネギ先生、ひとつ質問させてもらおう。父親とのふれあいは素晴らしかったか」

 

 唐突な反問に、ネギは言葉が出てこなくなる。

 

「なに、難しい話ではない。単純にうれしかったかと聞いているだけだよ。アーティファクトの力とはいえ、生きた父親とのふれあいだ。語り合い、笑い合える。そんな父親との一時はどうだったかね」

「……うれしかったです」

「そうか。ならばそれが答えだよ。ネギ先生」

「え?」

「私の目的は、父親に笑ってもらうこと」

 

 超は顔を歪める。拳を震わせ、込み上げてくるのをこらえる。

 

「生みの親は生きているか死んでいるか知らない。だけれども、育ての親は私にもいる。だが私は知らないんだ。十数年一緒にいたというのに、あの人の心の底から笑った顔を……! あの人はいつもそうだ。規定のカタルシスに到達するとそれにふさわしい表情を張り付ける。それではロボットだ。まるで能面そのものを張り付けた。なぜだ、なぜだ、なぜあの人は笑っていてくれない! ただ私は、笑って、欲しいだけ、なのに」

 

 最後は消え入るような言葉だった。涙が超の眦にたまり、とうとうと流れ落ちていく。

 

「すまなかったね、感情的になって。だとしても、それが私の目的。私の邪魔をするかね、ネギ先生。別にかまわないよ。私にとって()()()()ただの駒でしかない」

 

 そう言い、超は懐から一枚の紙を取り出しネギに投げ渡す。ネギが受け取ったその紙には、計画が書かれていた。それは工学兵器と鬼神を用いた世界樹の占拠計画だ。

 

「こ、これは……!?」

「明日、行うことだよ。信じられないならば、契約遵守のマジックアイテムで誓っても構わない。ただし、邪魔をするならば、最初に言っておこう。必ず私のもとへ来い。それが私の出す条件だ。これは運命だ。おまえの、いや、スプリングフィールドの呪い。ナギ・スプリングフィールド、ネギ・スプリングフィールド、ユギ・スプリングフィールド、リィンシェン・スプリングフィールドが囚われてきた呪いの運命の終着点だ」

「待って! それはどういう意味!?」

「明日、すべてが分かるさ」

 

 超はそう言い残し消えた。残されたネギは、ただ茫然と立ち尽くす。




さて、父親とは誰なのでしょうか。(バレバレ)

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