麻帆良の一角にある龍宮神社。その上空に黒がいる。吹きすさぶ風は冷たく、人であるならば耐えることはできないだろう。マイナス50度にいたろうかという寒さ。凍りつくような風にさらわれる髪の隙間から眼下を覗き見る。
まほら武道会参加者が集まっている。道着を着ている者もいれば、カンフー、ボクサーパンツ、学ランなどなど多種多様な服装の力自慢が集まり、すでに熱い火花を闇夜に散らす。篝火よりも勢いがあるくらいだ。会場のざわめきがピークに差し掛かるころ、朝倉がマイクを手に出てきて挨拶を始める。そして朝倉の紹介で門の扉から出てきたのは、
「主催者の超
超だ。それを見る黒の目は険しい。なにせ、この日一日朝から夜まで超のことを調べ、なにひとつ分からなかった。スキマ妖怪である黒がだ。神出鬼没であり、人の大切な者を奪う妖怪の力をもってしても、なにひとつ探ることができなかったという異常性。警戒せずにはいられないだろう。勢力がどれほどかも把握しきれていない。麻帆良学園よりも警戒しているといえよう。
さらには時計の件もある。さよの報告ではただの時計と思い、状況から
実際黒がこうして武道大会を見張っているのは、麻帆良全域に張った情報網で超がこの大会を買収し、なにかを企んでいることを黒は知ったからだ。捨て置くわけにはいかず、こうして訪れ超の動きを見張っている。
眼下の超は大会の説明を続けていく。気取らず、自然体で。
「実質上最後の優勝者であるナギ・スプリングフィールドを目指し、みな頑張ってくれたまえ」
歓声が上がる。その声に聴きなれたものがあったような気がして、黒は参加者へもう一度目を向ける。そしてその参加者の中にいる人物に目を見開かずにはいられなかった。
「ネギ!」
ネギの赤い髪が視界の隅に映った。
一瞬慌てた黒はしかしすぐ平静を無理やりに取り戻す。だが拳の震えまでは止められなかった。
予選が終わった。ネギは危なげなく予選をクリアし、本選へと出場を決めていた。
日をまたいだ本選の一回戦は高畑との試合のようだ。しかし今この場にいるネギの他にもいくつかネギと同じスキマが麻帆良中にある。どうやら超はネギになんらかの期待をしているらしい。でなければタイムマシンなど渡さないだろう。ならばネギを見張るのが、超のたくらみを見極めるのに有効な策だ。ではいったい誰を見張るべきかという問題もあるが、ネギと超の両方を見張れるこの場所が最優先と決めた。ネギを見張れるのはもちろん、唯一超の足跡が表に出ているのはここだけだ。すなわちここだけは超が表に出なければならない場所。それだけの場所であるがゆえになんらかのたくらみがあって可笑しくはない。
だからこそこうして見張っているが、今のところネギと超に変わった動きはない。少々じれったいが、超のたくらみを暴くためには時間がまだかかるだろう。
「少しいいか、主」
「なんだい、蒼」
あと少しでネギと高畑の戦いというときスキマを通じ蒼が現れる。横目で見ればすこし仏頂面になっている。
しかしあらかじめよほどのことがない限り近づかないよう言明していた。だというのに、この場に蒼が来たことに黒はなにが起きたのか把握するため、ネギから名残惜しげに視線をそらす。蒼も黒の意識が向いたのを確認し、話し始める。
「あれの力が減っておった。微量であるから周りの土地からかき集めさせて補填はしたがな。誰かがあれを狙っておるぞ」
「……そう。構わないさ。微量であるならば問題はない。あれの力ならば、その程度なら十分儀式は成功する。それに対処はしたからね」
「そうか。まあ報告は一応したぞ。それにしても三つ巴か。あれを求めて。あれにそれだけの価値が果たしてあるのか」
「価値というのは欲している者が決めるものさ。それに、いまは蒼もあれに価値があるということを認めているでしょう」
「うむ、まあそうだな。あれはほかの奴らの手に渡すわけにいかない。こちらの手中に入れなければならん」
これから行うことは、蒼にとって最も重要なことだ。ならば不備があっては困る。黒としてもあれだけの力はそうそう用意できないから、確実に手に入れなければならない。
「世界樹、神木・蟠桃をな」
「全ては幻想郷のために」
眼下でネギが高畑を下し、二回戦へと進出した。
次回は黒が少し活動します。