東方魔法録   作:koth3

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ようやく完成しましたので投稿します。


修行と違和感それと影

 黒が紫に弟子入りしてから、幾らかの日が経った。最初は妖力の最大容量を上げるために妖力を限界まで使うことで容量を底上げし続け、そのお蔭で今の黒の保有妖力は紫に弟子入りする前と比べて五割くらい増えている。

 今黒は紫が作り出したスキマにいる。時折黒の自室からスキマが開かれるのだ。そこで今の修行の経過を報告、修行をつけてもらっている。

 

 「かなり早い成長ね。とはいえ、これからも妖力は随時上がっていくでしょう。次は能力の制御ね」

 

 黒は紫が出してきた課題全てを今までこなしてきた。しかし、

 

 「けれども、これは今までの妖力の底上げ何かよりもはるかに難易度が高いわ。元々能力なんて一年二年で理解して使いこなせるものじゃないのを使えるレベルまで持ってくるのだから」

 「覚悟の上です」

 「フフフ、ならその覚悟を見せてもらいましょう」

 

 扇子で口元を隠して妖艶に笑う紫の姿は多くの知性ある生物には胡散臭いと思わせる何かがあるが同じスキマ妖怪である黒はその本意をすぐに理解する。

 

 「別に貴方を楽しませるためにしているわけではありませんよ」

 「ええ、そうね。けれど面白いもの。妖怪でありながらまるで人間みたいに生き急ぎ、自身を鍛える。これは人間が持つ特権よ? 妖怪は決してそんなことをしないもの」

 

 妖怪は長い生を過ごす。生きれば生きる程力は上がり、強くなる。だからこそ妖怪は基本的に修行なんてしない。今勝てないなら時を経て強くなってから勝てばいい。長い時間があるからこそできる事だ。

 

 「私にはあまり時間が無いので」

 「そう。何故時間が無いのかは聞かないでおくわ。それで能力の制御の話よ」

 「はい」

 「まず一つ。能力には個々の特徴が出たものとその種族固有の能力があるわ。

 前者は多くの妖怪や人間がもつものよ。例えば『怪力乱神を持つ程度の能力』や『密と疎を操る程度の能力』などよ。後者は前者より多く、その種が分かれば推測できるものばかりね。例えば『心を読む程度の能力』や『魔法を使う程度の能力』などね」

 

 前者はその能力を持った者の固有の力が凝縮した結果、生まれたもの。そのために能力は割とすぐに使いこなせる。後者も生まれた時から本能的に使いこなせるものだ。とはいえ、それでもやはり十年くらいは上手く使えないし、中にはどれだけ時間をかけても使いこなせないものもいる。

 

 「私たちの能力は非常に例外的なもの。前者と後者が混ざっているわ」

 

 元々スキマ妖怪は境界に関する能力を持っている。しかし、スキマ妖怪は人間から派生した種族でもある。そのために前者と後者が混ざり合った複雑怪奇な能力をしている。

 

 「そのためか非常に強力な力をしているけど、扱いづらさは他の能力の中で断トツのはずよ。私ですら能力を使いこなすのには百年近くかかったわ」

 

 大妖怪である紫ですらそれほどの時間が掛かるというのに黒はそれを許容しない。なぜなら彼にはするべき事があるから。その為には時間など掛けていられない。

 

 「それでも、能力を完全に制御するのに時間を掛けたくないのなら少しでも時間のロスを減らすべきね。幸い貴方には能力を使えば一時的に時間を操る事が出来るはずよ」

 

 識る程度の能力。その恩恵と境界を変える程度の能力を使えば一時的には黒がもたない能力も使用できる。

 

 「迷いの竹林にいる月の姫の能力を使いなさい。完全とはいかなくとも少なくとも一時間が一か月くらいにはなるでしょう」

 

 月の姫。その能力は『永遠と須臾を操る程度の能力』。その能力は時間の流れを司る能力だ。一秒を人では認識できない程の短い時間にすることも、逆に認識できないほどの長さにすることも可能な力だ。今の黒ではとてもではないがそこまで能力を変えることはできないが、ほんの僅かでも能力を変えられたのならそれだけで修行の時間を総合的に見れば修行自体は長く、実際の時間は短くすることができる。

 

 「貴方の能力では一割もいけば良い方かしら?」

 「そうですね。彼女の能力は今の私では扱えるようなものではない」

 「そう。ついでに言っておくわ。妖怪が生きていくうえで一番危険なことは自分の実力を測り間違える事よ。貴方には無縁かもしれないけど」

 

 黒の様子を見ながら紫は興味深そうに彼を見続ける。黒は自身の限界に近い情報を識り、それを利用して境界を変えていく。その負担は想像を絶するものであり、屈強な肉体を持つはずの黒の体ですら脂汗を大量に流して歯を噛みしめている。

 紫が手に持つ懐中時計はチクタクと動いていた時計の針がくるくると凄まじい勢いで回りだしていく。なのに、部屋にかけられている時計は一向に動く気配がない。

 

 「ご苦労様」

 「これで、準備は、終わりましたよ」

 

 息も絶え絶えに黒は紫の言葉に返す。実際今の黒には一切の余裕がない。能力の制御に無茶な使用の仕方。それらが相まって負担となっている。もし、これで黒が妖怪でなかったらすでに疲労や負担が原因で死んでいてもおかしくはない。

 

 「さて、今回の修行は能力の制御よ。妖力はもう自然と増えるのを待つしかないでしょうしね」

 

 紫が答えると同時に幾つものスキマが開く。

 

 「今日はこれらのスキマに干渉して全部同時に消しなさい」

 

 スキマは合計十個。一つずつなら黒でも時間はかかるが消せる。しかし、今回求められるのはすべて同時に消すことだ。

 この修行で鍛えるのは主に二つ。

 一つ目は能力の制御。紫の境界を変えるには精密な制御をして干渉するしかない。それだけ能力の精密さを上げるためだ。

 二つ目は能力の数だ。同時に多数の能力を行使できなければ意味が無い。その為にこうして数多くの能力を使わせる。

 

 ポタリ、ポタリと黒の額から汗が流れ落ちている。

 あれから、かなりの時間が経った。それでも、今の黒ではようやく二つのスキマを消すことが可能になった程度だ。

 

 (この子は化け物ね。才能は霊夢には届かないけどそれに近いレベル。しかも、魔理沙レベルで努力をする事が出来る。体は妖怪であるから、時間が経てば自然と強くなる。それら複合的にを考えればおそらくこの世界では(・・・・・・)五百年もたてばこの子の敵はいなくなる)

 

 

 

 「ねぇ、ネギ」

 「何、アーニャ?」

 

 ネギとアーニャは今図書館にいる。ネギは調べものを。アーニャはそれを手伝うためにだ。

 

 「あのね、この頃ユギの様子がおかしいとは思わない?」

 「え? そう?」

 「考えてみなさい。ユギは確かに部屋の中で本を読んだりすることが好きだったけど、幾ら何でもこの頃は部屋の中にいすぎよ。休みはもちろん、授業が終わったらすぐに自室へ駆け込んで明日の授業まで一切顔を出さないのよ?」

 

 アーニャはこの頃の黒の様子から拭いきれない違和感を持つようになっていた。黒がまだユギだった頃を少なからず知っている為か、この頃の様子からどうしても違和感を感じている。

 

 「そんな事ないよ。昔からユギはああだったよ? 以前だって部屋の中から一歩も出ないときもあったくらいだし」

 

 しかし、黒はかつて一日二日、食事などの生きていくうえで必要な行動以外取らずに自室で延々と本を読んでいたことがある。そのことを知っているネギからしてみればこれといった違和感を感じる事が出来なかったのだ。

 

 「アーニャの心配しすぎじゃない?」

 

 だからこそ、ネギにはアーニャの感じていることが分からずに、否定してしまう。アーニャが感じた違和感は正しいというのに。

 

 「そう。私の気のせいだったのかな?」

 

 今まで黒とずっと一緒にいたネギが言っている事を信用して、アーニャもこの時点でその違和感を捨て去り、気にしなくなってしまう。もしこの時の違和感を持ち続けていたら未来で何かが変わったのかもしれないというのに。だが、それを責めるのは酷だろう。何せ彼らは全知全能の神ではない。ただの人の子なのだから。

 

 

 

 

 「ネカネ、二人の様子はどうじゃ?」

 「大丈夫ですよ」

 

 学園長室で学園長はネカネに二人の様子を尋ねる。メガロメセンブリアに対する牽制やつい最近起きた事件のバーグスの行方を捜している為にここ最近まともな時間が取れなかったのだ。

 

 「バーグスは可愛そうじゃが、ここらで探索を打ち切るしかないじゃろうな」

 

 今までは魔法学校が主体で探索をしていたがバーグス一人に時間を割くわけにはいかない。これからは他の魔法教会へ探索を依頼するしかない。だが、魔法教会も暇ではない。その為にバーグスの探索はされないだろう。高々一人のために多くの魔法使いを使うほど魔法教会は余力があるわけではない。

 

 「……そうですか」

 「うむ。バーグスの失踪にあの二人の出自が関係しているかどうかは分からんが、警戒し無ければならんだろう」

 「そうですね。あの子たちの血筋を考えればいつ誰に狙われてもおかしくはないですからね」

 

 二人の血筋。ネカネは英雄の血についてしか知らないがそれでもその血が引き起こす事態について重く受け止めており、覚悟もしている。それでも彼女はあの二人にかかる事を許容することはできないのだ。諦めて、受け流せばいいというのに。

 

 「うむ。じゃから今から対策をとらねばならん。少なくともあの子たちが大人となり、自分たちに降りかかる火の粉を払えるようになるまではな」

 

 そのために彼は今まで築き上げてきたコネをすべて使って、二人の子供を守ろうとしている。

 

 「分かっています。今までも、これからもしなければならない事は」

 「頼むぞ。ネカネには多大な負担をかけてしまうがお前のおかげであの子たちを守れる」

 

 ネカネは足をあの悪魔の襲来から悪くしており、どうしても学園の外に積極的に赴くことはできない。だが、彼女の仮契約によって使えるアーティファクトは『泉にある眼球』と言い、全ての情報を代償を払うことで知り得る事が出来る。今まで、これを使ってネカネは二人に敵対する可能性が高い勢力を監視し続けていた。しかし、その代償は支払わなければならない。世界の知識などを望めば死は免れないが、この程度の情報ならそれほどひどくなくて済む。今は魔力を代償にしている。だが、その消費魔力は量が多くネカネには負担となってしまっている。だが、それでも彼女はアーティファクトを使用して二人を守り続ける。

 

 「気にしないでください。私に出来るのはただそれだけですから」

 

 彼女はこれ以上二人を守る事が出来ない自身の非力さに怒りを覚えながらそれでもできることをしていく。大切な小さな従兄弟たちを守るために。

 

 

 

 学園には多くの施設がある。寮、図書館、教室などだ。それらをつなぐ廊下も多々あるがその中の一つに異常な光景があった。

 三日月が夜空に浮かび光り輝く中、その廊下に一つの影が浮かんでいた。

 

 「此処にその子供がいるのか。まだ、私が望むほどの力はないだろうが、もう少しでそれだけの力を身に付けるはずだ。その時がきたら……例え×××でも望みを叶えよう」

 

 影は移動する。少しづつ、少しづつ明確な目的を目指して。




最後の影はまだ出ません。

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