東方魔法録   作:koth3

30 / 110
古の魔都、京都
いざ京都に


 東京駅を出発した新幹線の中、一つの車両丸々を貸し切る形で、一つの団体が利用していた。麻帆良学園が京都への修学旅行の為に、新幹線を利用しているのだ。

 その借り切った車両内では一種独特な空気が醸し出ていた。静かではあるのだが、何とも言えない熱気が生徒達から放出されている。特にそれが一番強いのは生徒を監督するはずの担任のネギであった。

 

「――特にけがには気を付け……」

 

 麻帆良学園の生徒達がそれぞれの席に座り、ネギの言葉を大人しく聞いていた。しかし、車両の一番前で生徒に注意事項を説明していたネギは、他の車両から来た車内販売のカートにひかれてしまう。

 元々中学生活一度しかない修学旅行を楽しみで待ち焦がれていた少女たちが、それを見てすぐに騒ぎ出すのは当然。ネギの醜態に笑い、騒ぎ始めた。ネギ本人も、生徒に笑われていたが自分もつられて苦笑し、よくある旅行のハプニングとして片づけられた。

 本来なら新田先生が、既に騒いでいる生徒たちに静かにするよう怒っているだろう。しかし、さすがに生徒の気持ちを汲んで、精々「他の車両に迷惑をかけないように」と注意する程度で終わっていた。

 その慈悲を免罪符として受け止めた生徒たちは、さらに騒がしくなり始めた。中には、席を移動してゲームをし始めて騒ぎ出す者もいる。とはいえ、それも学生たちにとっては醍醐味の一つ。ネギを始めとした教師たちも口うるさく注意することなどはしなかった。

 これからの予定を話し合ったり、生徒と一緒になって遊び始める教師もいた。流石に一緒に遊んでいるのは少数派であったが。

 各自が修学旅行の楽しみと期待を胸に、興奮しながらも各々で楽しんでいる中、突如甲高い少女たちの悲鳴が車内に響き渡った。

 車両内に蛙が行き成りわらわらと湧いて出てきたのだ。少女にとって、蛙というものは嫌悪感の象徴だ。ヌメヌメとした体表、ぎょろりとした目玉、気持ち悪いほど長くのびる舌。それが水筒やらカバンの中から突然出てくるのだ。それらに生理的な嫌悪感を感じてしまい、生徒たちはパニック状態になってしまうのも当然と言える。

 

「……まあ、恰好はともかく妨害にはなっているか」

 

 そのあまりに馬鹿馬鹿しい妨害の仕方を目の当たりにした黒は一人後部座席で、テレビの画面を見ているかのように目の前で繰り広げられている茶番を眺め続けていた。態々自分で事態を解決するのに動く必要もない。彼はそう判断した、というよりも実際は関わると面倒なことになると思って、黒が関わるのを忌避したのだ。

 それこそ、能力を使って自分の事を他人から認識できないようにしてまで。

 

「成果云々ではなく、こんな莫迦らしい手を打ってくるのを相手にしないといけないというのは、さすがに不憫だとは思うよ。ネギ」

 

 親書を使い魔に奪われ、慌ててその使い魔を追いかけているネギを憐みの目で見ながら、黒はため息をもらして呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 新幹線内でハプニングはあったが、無事京都駅を降りたネギたち教師と麻帆良学園の生徒は、まず清水寺へバスで向かった。

 清水寺へ着くまでに、清々しい快晴のお蔭で先ほどの気分も治ったのだろう。バスから降りると玄亀に駆けだしていってしまった。

 ネギが最後尾で追いかけて漸く追いついた時には、3-Aのメンバーは持ち前の元気を解き放って、清水の舞台で騒いでいた。

 だが、中学生である彼女たちにとって美しい光景や希少な歴史よりも、その先に有る物の方が強く興味を惹かれるのだろう。恋占いで有名な神社や音羽の滝の話を、夕映から聞き、そちらに駆けて行ってしまった。

 ネギも彼女たちに背中を押されて、結局満足に清水寺を見る事が出来ずに地主神社につれて行かれてしまう。

 しかし、そこでもまた関西呪術協会だと思われる妨害がネギを襲った。

 恋占いをしていたあやかとまき絵が落とし穴にはまってしまい、穴の中に落ちたのだ。さらに中には先ほどの蛙がいた。

 二人を引っ張り出したネギだが、そこで視線を感じ振り返ると、先ほどの新幹線で怪しい動きを見せていた桜咲刹那がネギを観察するように見つめていた。しかも、ネギの視線に気が付くと、彼女はすぐに違う場所へ移動してしまう。

 カモはその怪しげな態度に、刹那が西のスパイではないかという疑いを深め、こっそりとネギに伝えた。だが、ネギは自分の生徒がスパイであってほしくないという願いの為に、自分自身かすかな疑いを持ちながらもカモの話を否定した。

 だが、一度抱いてしまった疑念はそう簡単には消えない。ネギの頭は刹那の事でいっぱいになり、ぐるぐると回り続けている。

 そうやって考えながら歩いていた為、ネギはいつしか3-Aから離れていることに気が付かずにいた。それは間違いなく一つの隙であり、その隙の所為で関西呪術協会からの妨害を許してしまう。

 

「星が見える~」

「うぃ~」

 

 漸くネギが異変に気付いたころには、3-Aのほとんどの生徒が前後不覚の状態で潰れていた。

 

「な、何が起きたの!?」

 

 何が起きたかわからずパニックになりかけたネギだが、後ろから慌てて走ってきた人物に声をかけられて、少しだけ冷静さを取り戻す事が出来た。

 

「ああ、ネギ先生丁度良いところに」

「新田先生」

 

 よほど急いでいたのだろう。後ろの方で生徒たちを見ていたはずの新田教諭が、額に汗を光らせ肩を震わせたまま立ち止まる。

 

「どうされたんですか、新田先生?」

「どうやら……ネギ先生はまだお知りではないようですね。先ほど先頭で生徒を見ていたユギ先生から……連絡が来て、観光客に対する悪質な悪戯で、酒が滝に混ぜられていたと。それを生徒たちが誤って飲んでしまい、倒れてしまったそうです。ネギ先生、私は事態を把握してから警察に……届け出をしますので、酒を誤飲してしまった生徒を旅館に連れて行き、休ませてあげてください」

「は、はい」

 

 新田教諭はネギにそう告げて、呼吸が落ち着く間もなくふらふらと倒れた生徒たちの元へ走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。