東方魔法録   作:koth3

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カモが来て、エヴァンジェリンに挑戦状を届けた後と考えてください。


悩むネギたち

 麻帆良女子寮の一室で、三つの人物が額を合わせて密談をしている。

 ネギと明日菜、それについ最近こちらへ来た魔法生物のオコジョであるカモ。彼らが集まり、輪を作っている。彼らの顔は、それぞれ違う感情に彩られている。ネギと明日菜は相手を睨むかのようにしているが、お互いの内心は心配と反骨である。残りのカモは何かを考えながら、煙草をくわえて普段騒がしく、騒動の原因を作る彼らしからず静かである。

 

「ネギ、私はユギ先生にもきちんと話をした方が良いと思うわ」

「ダメです!! ユギが知ったら危ない目に合うかもしれないんですよ!」

 

 三人は、先日のエヴァンジェリン襲撃の事を相談していた。

 その中で、明日菜はきちんと黒にこの件を話しておいた方が良いと主張していた。

 彼女にとって黒は苦手な人物であるが、頼りになる人でもあると無意識のうちに理解しているがゆえに、助けを頼むべきではないかとネギに伝えたのだ。それに、下手をすれば黒もエヴァンジェリンに狙われる可能性がある。彼女はガサツなところはあるが面倒見は良い。だからこそ、黒がこの事を知らないで危険な目に合うなんてことは許せない。もし襲われた時にエヴァンジェリンの事を知っていたら、彼ならば一人で対処できるのではないかと頭をめずらしく働かせたのだ。

 しかし、一方のネギは明日菜に対して、反対を声高に叫んだ。ネギにとって、黒は弟で守るべき存在なのだ。そしてエヴァンジェリンの言っていたことからネギが推測する限り、黒が狙われる理由はない。下手に今の状況を話して、心配をかけたくないのだ。子供の意地ではあるが、それは兄としての意地でもある。たとえ苦しくとも、ネギは一人で頑張ると決めていた。

 

「ううん。二人の意見も確か何スよね」

「如何いう意味? カモ君」

 

 お互いが意見を譲らないために、平行線となっていた議論。これまでずっと同じところをぐるぐるとまわり続けていた話だが、第三者視点からみれるカモが話し合いに参加したことで、只お互いが譲らない状況から帰る事が出来る。

 知らず知らず頭に血が上っていた二人と違い、カモは冷静さを保っていた事から、二人の意見を比べて考察するだけの余裕を保っている。しかし、二人の話を総合的に考えられるからこそ、逆に頭を抱えてしまう部分もある。

 

「いや、簡単なこと何スよ。兄貴が言う事は、確かに正しいと言えるんス」

 

 それ見た事かと言わんばかりに、ネギは明日菜に胸を張り、頭を何度も上下に振る。しかし、その運動も次のカモの言葉に止まり、不満そうな顔をして今度は明日菜が勝ち誇りながら首を振り始めた。

 

「だけど、それはあくまでもエヴァって奴が真実を語っていた場合の話。600年も生きた吸血鬼なら、兄貴を騙す事や、こちらが思いもしない策を二重、三重に張っていても可笑しくはないはずだと俺っちは思うっスよ。だから姐さんの考えも正しいと思うぜ」

 

 ここにきて三人は行き詰まり、また最初のようにお互いの額を突きつけるばかりで、進展を起こせずにいた。

 しかし、三人がダメでもさらに多くの人間が集まれば、より良い考えが浮かぶというのも道理。彼らに、天の、いや地獄の仏がやってきた。

 

「お~い、近衛。頼まれたパソコンのインストール終わったぞ」

 

 扉を開けて入ってきたのは、長谷川千雨だ。私服姿の千雨は、何故か無駄に豪華な服を着ていた。白と黒のツートンカラーであるが、様々な場所に、カラフルなリボンがつけられており、ただ綺麗な服というわけではない。心に何か訴えかけるような服装だ。

 明日菜はその姿に、彼女の趣味って、こんなのだったっけと思いながらも、彼女が振るパソコンに注意を向けた。千雨の手には、ピンク色の可愛らしく、しかし彼女があまり好まないデザインのノートパソコンがある。

 

「あれ? なあ、明日菜。近衛知らないか?」

「千雨ちゃん、どうしてここに?」

 

 滅多に明日菜の部屋に、それどころか他人の部屋に入る事も、他者を自分の部屋に入れることを嫌う千雨が こうしてここに来たことに明日菜は首をかしげている。

 

「いや、近衛が最近新しくパソコン買ったらしくってな。葉加瀬たちに初期設定とか手伝ってもらおうとしたらしいんだけど、あいつ等の要件が忙しいらしく私に助けを頼んだんだよ。それで、初期設定なんかはあいつと一緒にやっておいたんだが、このノーパソ、CDドライブが最初からないのを買ったらしく、私の部屋でソフトをインストールしてやったんだ」

「ゴメン、千雨ちゃん!! 何言っているか、さっぱりわからない!」

 

 ネギとアスカは頭を押さえて、辛そうな顔をしている。唯一千雨の話が分かったカモは、しかし一般人であると思っている千雨の手前、大人しくオコジョの振りをするしかない。

 そんなカモの様子を、しばらく誰にも気が付かれないように眺めていた千雨だが、ため息をついて明日菜にノートパソコンを手渡した。

 

「悪いが、近衛に届けてくれないか? 私が探して渡すよりも、同室のお前なら確実に渡せるだろう?」

「うん。分かった。木乃香に渡しておくね」

 

 受け取ったノートパソコンを机に置き、明日菜は千雨を見送りに玄関まで出て行く。その間ネギは、千雨が持ってきたノートパソコンをじっと見つめ、行き成りその表情を明るくした。急いで玄関まで飛び出して、廊下を歩いていた千雨に感謝の言葉を大きな声で叫んだ。

 

「ありがとうございます!! 千雨さん!!」

「行き成りなんですか、先生。それに声が大きすぎです。周りの人の迷惑ですよ」

「へっ! あの、その。とにかくありがとうございます!」

 

 口に手を当てて声が小さくなるようにして、ネギは手をあたふたと振りながら、しかし結局まだ大きすぎる声で、ネギは千雨にもう一度感謝を伝えた。

 

「ほら、少しは落ち着きなさないネギ」

「は、はい」

 

 顔を下に向け、今度は声が小さくなったネギは、千雨を見送りアスナと一緒に部屋へ入って口を開く。叱られたばかりだというのに弾んだ声のネギに、明日菜は顔を訝しげにしたが、部屋の中に入るまでは何も聞かなかった。扉を閉めて、声が外に漏れないようにしてから、ネギに尋ねる。

 

「ネギ、アンタ何か良い考えがひらめいたの?」

「ハイ! 何も話す必要はなかったんです」

 

 ネギの語る内容に、明日菜はため息をつきながらもう一度諭そうと試みた。

 

「あのね、ネギ。私はさっきから言っているけど、話す――」

「アスナさん、違います。話はしませんけど、ユギに警戒させるための方法はあります」

「え、そんな方法あるの? というより、どういう事よ?」

 

 すぐさまネギは魔法で紙と鉛筆を取出し、明日菜に見せて、誇らしげに説明を始める。

 

「紙と鉛筆? それが」

「手紙で書けば良いんですよ! 下手に話そうとするくらいなら、最初からある程度の情報をまとめて書いて渡せば良かったんです。それならボロも出ませんし、ユギの事だからきちんと安全対策を取ってくれるはずです」

 

 机に向かい、ネギは鉛筆を走らせて様々な情報を選びながら書き連ねていく。少しでも弟が安全でいるようにと思い。不器用であまり意味が無いかもしれないが、弟を想い行動するその姿ははたからみれば、心から弟を心配していることが良く分かる。

 そんなネギの様子を見て、明日菜はどこか苦笑した後、

 

「ほらほら、ネギ。そんなにあわてて書かないの。カモも含めて三人で何を書くか決めるわよ」

「そうだぜ、兄貴。俺っちにも手伝わせてくれよな!」

「あ、はい!」

 

 こうして、最初とは全く違った形で三人は額を突き合わせることになった。 




明日菜が手紙で納得したのは、きちんと自分の意見も取り入れて考えてくれたからです。
この作品のネギの基本路線は、弟思いの兄とします。まあ、その弟は全く違う感情しか向けていませんが。

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