東方魔法録   作:koth3

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今回は、日常編の様なものです。


黒とさよと千雨の日常

「先生! 先生って王子様なんですか?」

「は?」

 

 放課後、何時ものように黒がさよの面倒を見ていると、いきなりさよがそんな事を言い始めた。以前黒がさよに言った通り、さよは自衛のため魔法を覚え始めてきた。その指導の為に、黒はさよと共に人気のない林の中にいるのだ。

 

「いきなり何を言っているんですか?」

「クラス中で話題になっていますよ。ユギ先生とネギ先生はどこかの王族じゃないかって」

 

 頭を抱えて、黒はため息を吐く。

 

「そんなわけある訳ないでしょう。王族だったらこんな所に居ませんよ」

「……それもそうですね」

 

 コロリとさよも考えを改めてすぐに忘れてしまった。幾ら学園結界の影響を受けているとしても、話しの規模が大きすぎて信じ辛かったのだ。それに、近頃さよは結界の影響から独立し始めている。魔法を修めれば修めるほど、普通の魔法使いが作り上げた結界の効果が薄らいでいるのだ。これは段々とさよが幽霊からより強い幻想へと変わり始めている証でもある。

 だが、彼女はその事を知らされてはいない。

 

(まあ、実際は確かに王族ですしね。しかも、王位継承権持っていますし)

 

 しかし、実際には彼女の言うとおりで合っている。黒の母親は王族であり、その血筋は確かに王として認められるにふさわしい。だが、その話は外に出て良いものではない。今回は只3-Aの妄想が拡大した結果だが、これがもし何らかの理由で拡げられた噂だった場合は、黒は容赦なくその人物たちを滅ぼした。

 黒とネギが王位継承権を持っているのは母親が理由だが、その母親が問題なのだ。下手をすれば、メガロメセンブリアが何かを要求する、或いは接触しようとする可能性が高い。それを防ぐためにも、余計な噂は立たない方が良いのだ。おそらく、学園側も今回の件は火消しするはず。この噂は今までのくだらない話と違い、危険すぎる。

 そこまで考えて、黒はさよに対して話を逸らしたのだ。

 

「さて、くだらない事を話しているさよさんには追加課題として、特殊理論で想定された大魔法の術式を暗唱して頂きましょうか」

「ぎゃぴ!?」

 

 泣く泣くさよは、必死になって呪文をぶつぶつ唱え続けるのであった。

 

 

 

 さよと魔法の修行をしていた次の日、黒と千雨は一緒にいた。麻帆良にある喫茶店で、千雨が一方的に日々の愚痴を言い続けているのだ。というのも、今まで千雨はイラつきの理由は分かっても、その原因までは分からなかった。その為に、対症療法的にネットで日々の不満をぶちまける事で、うさを晴らしていた。しかし、今はその必要性が薄まった。こうして存分に裏の話をできる相手に文句を言い、日ごろのストレスを解消していた。

 しかし、付き合わされる方はたまったものではない。笑顔の割に口角をひきつらせ、何度も時計を見て「忙しいんですが」アピールを黒はしている。全く相手にされていないが。

 こんな事なら、この人に買い物の付き合いを頼むんじゃなかった。そしてお礼に喫茶店なんかに連れてくるんじゃなかった。そう後悔していた。

 

「つーか、彼奴らも彼奴らだよ。何で学校なんか作ったんだよ。世界樹の周りに人払いをして、誰も近寄らないようにすればそれで良いものを。それなのに、学校なんて作るから、こんな面倒くさい状況になるんだよ」

「そーなのかー」

「そうだよ。そもそも、……(中略)だから、……(中略)、そして、……(略)。分かったか?」

「そーなのかー」

 

 もはや面倒くさくなったのか、そーなのかーしか返さない黒だったが、それでも気が済んだのか千雨はうんうんうなずきながら、店に入ってきた時に注文しておいたコーヒーを啜る。

 

「……冷めている」

「そりゃそうでしょう。あれだけ長い間話し続けていたんですから。……新しく注文でもします?」

 

 ちらりと黒が見た時計は、長針が一周している。それに気が付かないで、話し続けたのを知り、僅かに頬を赤く染めて千雨は場をごまかそうとする。

 

「いや、良い。これで十分」

 

 しばらくの間、冷めたコーヒーを啜る千雨と、その前でコーヒーと一緒に注文していた、アイスの部分が溶け始めている巨大なパフェを食べ続ける黒がいた。しかし、そこでふと千雨はある事に気が付いた。

 

「あれ。お前食事制限されていたんじゃ?」

「言うな」

 

 今までになく鋭い声で言われたため、怪訝な表情を浮かべた千雨だったが、次の言葉に納得したのか、それ以降その話題を口にすることはしなかった。

 

「ようやく、あの言霊を解除できたんだ。束の間の天国を味わなければ割に合わない」

 

 手に持つスプーンがぐにゃりと曲げられ、そしてまたすぐに真っ直ぐになるのを数回繰り返し、黒は気が落ち着いたのか、また幸せそうにパフェを食べるのを再開した黒だが、家に帰ったら速攻で蒼にバレて、また言霊をさらに厳重にかけられることを知らない。

 

「そういや、お前って結構金を持っているんだよな。いつもいつもパフェを頼んでるし。案外浪費家だもんなお前」

「いや、浪費家って。私そんなに浪費していないでしょう?」

「いいや、している。何せ、その証拠が私の右斜めにあるからな」

 

 千雨が見る先には、山積みの商品が置かれている。全て黒が購入したものだ。スキマで片づけようにも、さすがに真昼間からこれだけの量が消えたら不審すぎる。その為に、こうして態々不自由な思いをして持っているのだ。

 

「仕方がないでしょう。これは私が使うものじゃありませんよ。知り合いの服を頼まれて買っているんです」

「そりゃよかった。とうとう女装するのかと思ったからな」

 

 一番上の商品は結構有名な女性の下着メーカーの品だった。黒本人は男であるため、女性用下着に詳しくない。その為、千雨に頼み込んで購入を手伝ってもらったのだ。……悲しい事に黒の場合店員が性別を間違えるので、別に女性用下着のコーナーに居ても問題にならないのだ。以前も、黒のいとこであるネカネの下着を購入するとき、幼い黒の面倒を見るために連れて行かれ、その際に黒の分も「購入されますか?」と店員に優しく言われるくらいには間違われてしまった事があった。

 

「おい、止めろ」

 

 ぎろりと黒は千雨を睨みつけて、言葉を吐き出す。そう言った内容の事は、黒が最も嫌いな事なのだから、言葉が荒くなるのも仕方がないというもの。

 

「まあ、それは置いといて、浪費家じゃなくとも気になる事はある。お前どれだけ金を持っているんだよ?」

 

 黒が購入していた物は、結構値が張る。それをたくさん購入していたのだ。学生の身であるが、千雨自身も金銭感覚というのは周りと比べてしっかりと出来てきている。だから、これだけの商品を簡単に購入できる黒の財布が気になった。

 

「持っているというより勝手にたまるんですよ。私は学生時代に魔法薬を作って販売していましたが、その利益を株に投資して、その投資先が好景気に成るように能力で調整していたら、いつ間にか自分でも消費しきれなくなるほど成長していましたし」

「ふうん。まあ、使いすぎなければ問題ないんじゃないか」

 

 くだらない事を楽しそうに話す二人を見ると、相性は最悪に近いが意外とその仲は悪くないのかもしれない。

 

 

 

 

「やれやれ。ここで最後か」

 

 山桜の葉が落ちて肩に乗るのを蒼は気にせず、目の前にある穴を眺めている。精神病棟で23号と呼ばれた男がかつて落ちた穴。河童の国へつながる穴を。




最後はあれです。kappaと発音してください。
冗談はさておき、意外と黒と千雨の相性は良い方です。実際、内側にかなりストレスを蓄えていますし。共感できる点が多いんです。

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