東方魔法録   作:koth3

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久方ぶりに連続投稿できました!


中等部と高等部

 麻帆良学園は巨大な学園都市である。その為に、生徒同士でいざこざが起こる場合がある。特に、公共施設の区割りでかなりの問題が頻発してしまう。例えば、野球部とサッカー部が同じグラウンドを選択してしまって喧嘩に発展したり、道場を柔道部が使うか、空手部が使うか、はたまた他の格闘関係のクラブが使うかなどは毎年の恒例になってしまっている。それはもちろん、部だけではなく、日常的にも起きてしまう事が有る。

 黒が出くわしたのも、その現場だ。どちらが悪いかは知らないが、それでも教師として止めなければならない黒は、その喧嘩の場へ近づいていき、顔を歪ませるしかなかった。

 

「何をやっているのだか」

 

 高等部の女子たちに、もみくちゃにされたネギの姿を見たためだ。本来喧嘩を止めなければならないネギが、遊ばれている。それだけで、黒は頭痛を覚えてしまった。

 息を吐きながら、パン! と勢いよく手を鳴らして、その場の注目を集めて、黒は仲裁を行い始めた。

 

「何をやっているのですか、皆さん」

「ユ、ユギ先生」

「か、可愛い……!」

 

 呆れた口調で話す黒の声に、2-Aの生徒たちは全員固まってしまう。何せ、何度か授業中にあの声を出させてしまい、その後かなり辛辣な言葉が飛ぶのだ。トラウマまではいかなくとも、その声に苦手意識を覚えてしまっている2-Aの生徒たちは動けなくなってしまう。だが、高等部の生徒たちはそんな黒の事を知らずに、今まで遊んでいたネギと同じようにもみくちゃにしようとした。

 

「い、痛い!! イタイタイタい!!?」

「全く、怒られているという事を貴方達は認識しているのですか?」

 

 不用意に手を出した高等部の一人は、黒に親指を掴まれて、反対側に逸らされた。下手をすれば突き指、脱臼の可能性がある行為をされて、女生徒は黒の事すら忘れて痛みにのた打ち回るしかなく、それを見た高等部の生徒たちも動きを止めるしかなかった。

 

「え?」

「え? ではありませんよ。さて、一体何が有ったのですか? 明石さん、説明してもらっても?」

「あ、はい。私たちがここで遊んでいたら、突然高等部の生徒たちが現れて、ここを明け渡せって言われて。それで反論したらバレーボールをぶつけられて」

「そうですか。では、高等部の皆さん、何か反論はありますか?」

 

 黒の言葉に誰も反論する事が出来ず、悔しそうな顔に歪む。何せ、非は中等部の生徒にはなく、高等部の生徒にあるのだ。ここで反論したところで、目の前の、人形のように綺麗な教師には理論的に反論されるのが目に見えて分かる。だから、悔しい顔をしながら、

 

「……ありません」

「そうですか。では、貴方達がすべき事も分かりますよね?」

「はい」

 

 悔しそうに顔を歪めながら去っていく高等部に対して、中等部の生徒たちは同情の籠った視線を送るしかできなかった。

 

 

 

 黒の説教を眺めていた明日菜とネギだが、ふと明日菜がある事に気が付く。

 

「ねえ、ネギ。ユギ先生、何か知らないけどすごく機嫌悪くない?」

 

 明日菜は普段黒に説教をされるために、普段と覇気がけた違いな事に唯一生徒で気が付けた。実際ネギも黒の様子が普段と違うという事を理解して、昔の事を思い出しながら明日菜に返答していく。

 

「ものすごく機嫌が悪いようです。以前これほど機嫌が悪かったときは、上級生の男子生徒に告白され続けたときくらいです」

「え? 一寸待て、ネギ。ユギ先生、男子に告白されたの?」

「それどころか、記録持ちだそうです。ユギの性別を知らない人から、一目ぼれした、付き合ってくれと言われ続けたそうで。ある時なんか、完全に怒っちゃって、皆の前で裸になって性別をわからせようとした事が有りましたし」

「嘘でしょう!!? あのユギ先生が!!」

 

 普段ネギと違って落ち着いている黒が、そんな暴挙を行ったという事が信じられずに、明日菜はついつい大きい声で叫んでしまった。だが、事実黒は一度本当に裸になろうとした事が有る。その際は近くにいたネギやアーニャ。同級生が慌てて羽交い絞めにして何とかその暴挙は止められたのだが。

 

「ユギは女性と間違えられるのが嫌らしく、さらに可愛がられるのも嫌いなようで」

「だからあれだけ機嫌を悪くしているのね」

 

 何となく納得いった明日菜は、それ以来黒を見る瞳にどこか優しさが混じっていた。

 

 

 

 

 しかしそれでも納得いかないのが麻帆良の生徒なのだろうか。黒が体育の先生に頼まれて、ネギと一緒に監督する際、黒は前の授業が長引いてしまい一緒に行けず遅れてしまった。そしてまたもや先ほどの焼き増しの光景を見てしまう。

 

「貴方達は」

「ゲッ!」

「ゲッ! ではありませんよ。何故こんな所に?」

「べ、別に良いじゃないですか! 今回は私たちが最初に使っていたのですから」

 

 あと一歩で喧嘩になるという状況の中、黒が発言すると高等部は慌てて、反論してきた。とはいえ、それはまともな反論にはなっていないのだが。

 

「全く良くありませんよ。そもそもここは中等部の敷地。高等部が使って良い場所じゃありません。そもそも、屋外のこんな高所でバレーボールなんかして、何をしたいのですか? ボールを無くしたいのですか?」

「う、うう!」

 

 一切の容赦ない黒の言葉にがすがすと高等部たちの何かが削られていく中、哀れに思ったのかネギは慌てて黒に向かい叫んだ。

 

「ちょ、一寸待てユギ! そんな一方的に言ったって何も始まらないよ!」

「じゃあ、如何しろと? 良い案が有ればそれに賛成しても良いですが」

「それだったら、せっかくだからスポーツで決着をつければ良いと思うんだよ。スポーツでならさわやかに決着がつけられるし」

「なるほど、それはそれは」

 

 黒の言葉にほっとしたのか、ネギと高等部は息をついて安心し始めた。

 

「却下です」

「ええ!!? 何で!!」

 

 その後の黒の声で地獄に落とされてしまったが。

 

「簡単なことですよ。ここは屋上。スポーツをするにしても、狭すぎる。どこかほかの場所を用意するならまだしも、こんな場所では危険すぎて許可できません」

「で、でも」

 

 案が通らない事に、不満があるのだろうが黒の正論に反論できず、ネギはうじうじと言葉を濁らせ続けていく。そしてその様子は、昼からイラついていた黒を怒らせるには十分すぎた。

 

「ならば、さっさと行動しなさい!! 校庭か体育館の許可を取りに行けば良い話でしょう!! 動かなければ何も変わらないというのに、自分から動かないお前の案が使われるとでも!?」

「ヒ、ヒィ!!?」

 

 余りの剣幕にネギは恐怖しながらも、慌てて職員室にかけていく。その後ろ姿を見ながら黒は周りにいた生徒たちに宣告する。

 

「さて、貴方達もこれで終わりにしますよ。ネギ教諭が最後のチャンスとして、貴方達の不満をぶつけ合う場所を用意してくれたのです。これを最後に、子供じみたばかげたことはやめなさい」

 

 先ほどの剣幕を見ていた生徒たちは、素直にうなずき従った。

 結局その後は、走って帰ってきたネギによって体育館を借りて、ドッジボールの大会を繰り広げどこかの青春漫画のように死力を振り絞り、友情が芽生えてこの騒動は一件を終えた。

 まあそれ以来、中等部のユギ先生を怒らしてはならないという暗黙の了解が学園に生まれたのだが。

 

 

  


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