東方魔法録   作:koth3

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今回は前作になかった部分や話があります。
リメイクにより、前作と結構変わりました。


消えゆく幻想

 白い部屋。ここには一人の子供が眠りについており、その子供を囲むようにネカネとネギが座っていた。

 

 「お姉ちゃん。ユギ、起きるよね?」

 「ええ、きっとすぐに起きるわ」

 

 眠り続けるのはユギだ。あの悪魔が襲来した日からすでに一週間がたっている。なのに、いまだ目を覚ます予兆がない。

 

 「ユギ……」

 「ネギ、そろそろ面会終了時間よ。ユギを休ませてあげないと」

 「うん。分かった」

 

 ネギを伴ってネカネは病室を出る。ネギと同じくユギを心配しながらも、ずっとこうしてるわけにはいかず、後ろ髪を引かれる思いで病室を出たのだ。

 

 

 

 暗い黒い空間にユギはいた。あたりを見回しても何もない。いや、何もないわけではない。周りの空間には数多の目が浮かんでいた。それぞれが独自に動き出しており、見るものに不安と恐怖を植え付けるように動いていた。

 

 「ここは……?」

 -ここはスキマと呼ばれる空間。ありとあらゆる境界の狭間。

 

 突然脳裏に響く声にユギは驚き、周りを見回す。

 

 -無駄ですわ。その程度では私は見つけられません

 

 その答えに何故だか納得したユギは、あたりを見回すのをやめてその声に聞く。

 

 「僕をここに連れてきたのは貴方?」

 -いいえ。私ではないわ。ここに来たのは間違いなく貴方自身。貴方の能力の結果、この場まで貴方は来た。ただそれだけの事。私は一切関わっていないわ。貴方に興味を持ったからこそ、こうして会いに来てみただけよ。

 「僕を?」

 -貴方はもう私の正体に気付いているでしょう? 貴方のもう一つの能力のおかげで

 

 識る程度の能力。それは限定的であるが、限定された範囲の事ならすべてを識ることができるという能力だ。そのため、この声の持ち主にもユギは心当たりがある。

 

 「神隠しの主犯。妖怪の賢者、八雲紫」

 -正解。私は八雲紫というスキマ妖怪よ。貴方と同じね。

 「同じ?」

 -気づいていなかったかしら? 貴方はすでに人間ではないわ。強い感情によって能力が覚醒した結果、貴方の体は人間の境界から妖怪の境界に変わったわ。その境界は私でも操ることはできないし、境界を変える貴方でも変えることができないほど強固な境界となっているわ。

 

 いくら境界を操る、変える能力といえど限界はある。境界が確固として自立した存在なら手を出すことができないし、相性上白黒はっきりさせられたりしたら境界は変えられない。境界の能力でも干渉できないのものはあるのだ。

 

 「それは」

 -そう。貴方はどうあがいても人間には戻れない。たとえ、私たちより強大な力を持った存在でも変えることができない不変の理よ

 「い……やだ。嫌だ嫌だ! 僕は人間だ。幻想なんかじゃない!!」

 

 妖怪となることは人間ではなくなっただけではない。その身を幻想に変えるということなのだ。いつ消えるかもわからない幻想に。それを聞いた幼い少年の心は拒絶した。耐えられなかった。消えゆく存在ということに、妖怪という存在に。いつ消えるかもわからず、生きながらえるためには人に危害を加えなければならない存在になるしかないということに。妖怪にとって人間は食料でしかない。人間の恐怖こそが妖怪の源。ならばこそ、妖怪は人間を喰らい続ける。そんな存在になりたいという人間がいるだろうか?

 

 -……また、会いましょう。それではごきげんよう

 

 紫が言葉を発すると同時に空間が歪み、ユギの意識は遠くなり、目を開けた。

 

 

 

 「ユギ!!」

 「兄さん?」

 「よかったよ! ユギ!」

 

 涙を流しながらユギの体に抱き着くのはネギだった。ネギがネカネと一緒に病室を出てから三日が立っていた。その間もネギはずっとユギの病室にいたのだ。ようやく起きたユギはネギに聞く。

 

 「ここは?」

 「ここは魔法学校だよ。僕たちは助かったんだ」

 

 ウェールズにある魔法学校の病室で二人の兄弟は再開する。片方は英雄である父にあこがれを増して。もう片方は心の奥底で絶望をまといながら。

 ネギにもネカネにも心配させないように、ユギは目を覚ましてからごまかし続けている。その甲斐あってか、ネギは何の疑いもなくいまだ病室で検査を受けいているユギに父親のことを話し、笑っている。しかし、ネカネはそんな姿を見て疑い始めていた。

 

 「校長先生。本当にネギとユギを学校へ入学させるのですか?」

 「うむ、そのつもりじゃ。この魔法学園なら安全であるだろう。あの子たちにとって」

 「それは……そうですが」

 「何か問題でも?」

 

 学長室でネカネは校長と話をしている。内容はネギとユギの入学に関してだ。あの二人は実際襲われたことを考えると、町にいるよりも目に付く場所に置いておいた方が危険はないと判断した校長が入学を決定した。

 

 「ネギは大丈夫だと思います。けれどもユギは」

 「魔力がないか? それなら魔法薬などの授業を……」

 「違います!! そんなんじゃないんです」

 「どういう意味かの?」

 

 校長は片眉を上げ、ネカネに聞く。彼女が心配しているという事柄とは何かと。

 

 「うまく言葉に出来ないんですが、私はあの子が怖いんです。まるで儚く消えてしまいそうで。それだけじゃありません。きっと、ユギは誰にもできないことをしてしまう。そう思ってしまうんです」

 「ふむ。儚いか。確かにあの子は何というか、いつの間にか消え去りそうな、そこに存在していないような感じがするのは事実じゃな。じゃが、誰にもできないこととは?」

 「私にもわかりません。それが良い事か悪い事かは分かりません。けれども歴史に名を残す程度のことはしてしまうと思うんです」

 「昔から君の予想は外れることが少なかったが、今回ばかりは外れてもらわんとならん。あの子たちがここに来ることはもう決まっておる。ここ以外ではあの子たちを守れん」

 

 そう締めくくり、校長はネカネとの対談を終えて、部屋からネカネを出す。ネカネに見られる訳にはいかないからだ。ネカネを出した後に校長室にある机の中から一通の書状を出す。何度も読んだ。そのたびに怒りがこみ上げるその書状を

 

 「メガロめ!! 貴様らなんぞにネギもユギにも手を触れることは許さん!」

 

 怒りと覚悟を持った瞳で校長は叫ぶ。抑えきれない怒りを少しでも発散するために。

 

 「あの子たちをメガロに渡すわけにはいかん。心がボロボロになるまで酷使されるか、殺されるかが落ちじゃ。ならば、せめて少しでも時間を稼ぎ、あの子たちが自分で未来を切り開くための時間を作ってやらねばならん! そのためにならこの程度の地位などいくらでもくれてやる!」

 

 その手に持つ書状はネギ・スプリングフィールドおよび、ユギ・スプリングフィールドを魔法世界、メガロメセンブリアにある魔法学校へ入学させるように仕向けろという命令書だった。

 しかし、そんなものに従うわけがない。校長、マギ・スプリングフィールドが自身の孫をそんな危険な場所に行かせるはずがない。ただでさえ、自身の子供が魔法世界で体験したことを考えると、ネギも、そしてとくに母の血を色濃く継ぐユギには危険すぎる。

 

 「貴様らなんぞにあの子たちは渡さん!!」

 

 そう言い、マギは自身の持つコネに協力を求めていく。アリアドネー、帝国、中にはメガロの善良な人間にも。全てはあの子たちを守るために。そう心に誓いながら。

 

 

 

 「大丈夫? ユギ」

 「大丈夫だよ、兄さん」

 

 二人はそんな大人たちの話を知らずに、病室で話をしている。冷え切り始めていた仲とはいえ、別に憎んでいたわけではない。そのために、ネギはユギを心配していつもこの病室にいるのだ。ユギはいまだに検査結果が出ないために病室から出れない。検査結果が出ないことを心配して、ネギもこの頃は不安になり始めている。

 そんな中ユギは今までの生活と違い、本を読むことはなくなった。しかし、どこか物思いにふけることが多くなった。たとえ、ネギが近くにいてもほかの誰かが近くにいても関係なく、何かを考え続けている。

 

 「ユギ? ユギってば!!」

 「なんだい、兄さん?」

 「また、何か考えていたでしょ。途中から返事を返さなくなっていたよ」

 「ごめん、兄さん」

 

 目が覚めてから十日も立つと、ネギも暇になってきたのか絵本を持ってきて読んだり、外で見たことをユギに報告することが日課になっていた。そんな日々だったが、唐突にユギの退院許可が出た。いまだに検査結果が出ていないというのに。

 

 「やった!! ユギ、ユギ!! 今はね、外がきれいな花でいっぱいなんだよ! 明日はそこに行こう!!」

 

 ユギよりもネギが喜び、外へ行こうと誘うほどにネギは喜んでいた。ユギ自身もいまだ悩んでいることはあれど、退屈な入院生活よりは外に出ることの方が考えもまとまるかと思い、ネギの誘いに乗ることにした。

 そんな二人を見ている一つの亀裂があったことを知らずに。

 

 「貴方のことを知られるとまずいから、検査結果はねつ造して担当者に見せた後、消去しておいたわ。早く決めなさい。このまま泡沫となるか、それとも確固とした幻想となるかを」

 

 

 

 「ユギ! 早く早く!!」

 「焦ったって何も変わわないよ兄さん。落ち着いて」

 「う、うん。分かったよ。けど、ユギも早く来なよ!」

 

 あれから一年がたち、ネギとユギは魔法学校に入学する時期になり、こうして入学式の会場に急いでいる。

 そんな二人を微笑ましく見ているのはネカネとマギだ。

 

 「あれなら二人は無事じゃろう」

 「そうですね、きっと。私の勘は今回は外れたみたいです」

 

 以前から話していたユギの様子だが、いまだどこか希薄な存在感だが、ネカネの感じた何かは綺麗になくなっていた。そのために今はネカネも安心して二人を見ることができるのだ。

 

 「おっと、すまんの。わしも挨拶があるのでな。そろそろわしも向わねば」

 「はい。では、私も寮長として新入生の歓迎の準備をしますね」

 

 二人は気づかなかった。いや、気づけるはずがなかった。ユギの存在感が前よりもなくなっていることに。そして、ユギが二人を観察し続けていたことに。

 

 「何とかごまかせているか」

 「どうしたの? ユギ」

 「なんでもないよ。兄さん」

 

 そう言われて、いぶかしみながらもネギは先に行く。そんな様子を見ながらユギは、掌を空に掲げる。向う側が透けて太陽が見える掌を(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 その掌を隠しながら、ユギはネギを追いかける。残された時間が少ないと知りながらも。




ゆかりん登場。前作では存在だけをにおわせるつもりでしたが今作はバンバン出てもらいます。原作前までは。

東方簡易キャラ紹介
名前 八雲紫
種族 一人一種の妖怪。スキマ妖怪。
能力 境界を操る程度の能力
説明 幻想郷を作った創設者の一人。理論的な創造と破壊を行えるため、神に近い妖怪と言われている。神出鬼没であり、どこにでもあらわれる。また、一人一種の妖怪とは言葉通り一人以外に同じ種族が確認されていない種の事。

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