東方魔法録   作:koth3

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ネギが使おうとした記憶消去魔法って、絶対危険すぎる魔法だと思うんですよね。ですので独自設定を作ってみました。


明日菜の災難

  ネギ・スプリングフィールドは、困っていた。

 いや、原因は彼自身にあるが、彼だけが原因なのではない。

 今日、ネギは魔法使いとして初めての修行で、途中まで危ないところもあったが――主に神楽坂明日菜に対する魔法など、それでも彼はごまかせていたのだ。今のこの状態以外は。

 宮崎のどか。彼女が本を持ちながら階段を歩いていた時、偶々足を踏み外して、階段から下の地面に向かって落ちてしまった。それを防いだネギの行動に、一切の間違いはないだろう。ここまでは良かったのだ。

 しかし、問題はそれが誰かに見られてしまったという事。そして、その相手がネギを少しとはいえ、敵視している神楽坂明日菜であったのが一番拙い。

 

 「アンタ!」

 

 震えながら指を突き付けている明日菜を見て、ネギは顔色を青くしていく。魔法が一般人にばれてはならない。それが魔法使いの常識。それを違反してしまった事に、ネギは顔色を変えるほど動揺してしまった。

 

 「一寸来なさい!」

 「えっ! うわ!!?」

 

 だから、明日菜がネギのスーツの襟元を掴んで引っ張ったのにも対処できなかった。言われるがままに引きずられ、ネギと明日菜の二人は雑木林へと消えていく。

 

 

 

 しかし、そこで落ち着いて説明すればよかったのだ。明日菜という人物は、人が本当に嫌がる事はしない。まあ、あったばかりのネギ、しかも対人関係に関して本格的な問題があるネギでは、こんな短時間に人柄を理解するというのは難しかったかもしれないが。それでも、誠意を見せてお願いをすればそこで終わったのだ。

 だが、ネギは混乱して、してはならない事をしてしまう。記憶をいきなり魔法で消そうとしたのだ。それは魔法使いでも最終手段。記憶を消すのは簡単なことではない。熟練した人間でも、記憶を消すことはためらう。

 なぜなら、記憶とは脳にある細胞そのものだからだ。記憶を消すのは、脳の細胞を故意的に傷付けて、記憶している所へシナプスを届かなくさせて、思い出せなくさせるという手段をとる。そんな事、下手をしなくとも脳が傷つくし、最悪、脳にある機能の内、生命の維持を司る部分を破壊してしまう可能性もある。だからこそ、その魔法は使ってはならないのだ。

 さすがに、今の記憶消去魔法ではそこまでいかない。最悪の場合は、記憶消去魔法が出来た当初の話。今は改良されて、最悪思考に悪影響が出るだけまでに改良された。だが、それでも成果と危険がまったく釣り合わない。だから、魔法使いはこの魔法を使おうとはしない。安易に使う魔法使いは協会どころか、本国の中でも重罰として扱われ、下手すれば死刑を行う事もある。――とはいえ、この件での死刑自体は、数十年ほど行われていないが。

 結局、ネギの放った記憶消去魔法は明日菜に対して有効性を見せず、またしても服を剥ぎ取るセクハラ魔法としてしか発動しなかった。

 ネギは知らない事だが、これでもし明日菜に対して成功していたら、かなり拙い事態になっていた。安易にその魔法を使ったネギの事を、いくら英雄の子とはいえ、周りの魔法使いは許容しなくなる。魔法使いもバカではない。禁呪すれすれ、必要悪としてでのみ違法ではなくなっているこの魔法。かなり厳しく取り扱っている。そして、近くで発動されたら、魔法使いは大概驚き、慌てて駆け付ける。どこの馬鹿がそんな危険極まりない魔法を使ったのかと。その結果は、ネギがしでかした行為が露見しただろう。

 だが、今回魔法は失敗して、意味のない只の魔力放出と変わらない結果になった。そのために、魔法使いは誰も近寄らなかった。そう、魔法使いは(・・・・・)

 

 「如何したんだ、ネギ君?」

 

 少々慌てながら、見知った魔力の放出を感じ取ったタカミチは、雑木林の中へ入ってしまった。明日菜が着衣の一部を吹き飛ばされて、ブレザー以外殆ど全裸の状態と変わらない時に。

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 余りにも、余りにも神楽坂明日菜は哀れだった。

 

 

 

 

 黒が教室へ向かうと、推測通りに神楽坂明日菜がいた。教室で黒を待っていたのだろう。

 

 「あ、アンタ!」

 「おや、如何かしましたか? 明日菜さん」

 「如何かしましたか? じゃないわよ! アンタ、あれなんでしょう?」

 

 少しだけ、声を小さくして、明日菜は黒にぼそぼそと聞いてくる。

 

 「あれ? 一体何の事です?」

 「とぼけなくて良いわよ。ネギに全て聞いたし」

 「はてさて、一体何の事でしょうか。それよりも、明日菜さん。貴方だけですが、課題を提出していないのは」

 「うっ!!」

 

 明日菜は今日提出期限の課題を出さなかった。正確に言うとしていなかった。だからこそ、それを突かれて息をつまらせるしかなかった。

 

 「い、今はそんな話していないし!」

 「口調が可笑しくなっていますよ」

 「ううっ。いや、もう良いって。アンタ魔法使いでしょ?」

 「おや、私が? ……明日菜さん。もう中学生なんですから、現実を見ましょう。先生はどんな状況でも協力しますから」

 「何で憐みで見られなきゃいけないのよ! って、だ、か、ら! ネギから聞いたから、ユギ先生が魔法使いって言うのも知っているわよ」

 「それで」

 「え?」

 「それで、貴方は如何します?」

 「如何、って」

 「いえ、言葉通りですよ。魔法に関係した人間二人が、身近にいる貴方は私たちに何を望みますか?」

 

 軽い口調で放たれている声に、明日菜は軽く返してはいけないような気がした。

 

 「……私は、私は別に何もしないわ。魔法使いだからって、何でもかんでもできる訳じゃないでしょ?」

 「ええ、確かにそうです」

 「だったら、別にアンタたちに頼らないわ。……さっき頼って失敗したしね。それに、ネギを見れば、魔法だって万能じゃないことくらい分かるもの。そう言えば、アンタも魔法が使えるんでしょ?」

 「私が? あははは。明日菜さん、それは魔法使いを莫迦にしすぎです。私程度が、魔力も持たないのに魔法を使えるわけないでしょう」

 「え、そうなの? その、ごめんね」

 

 黒の言葉に、明日菜は珍しく、声を弱くして謝る。彼女も悪気が有ったわけではない。単純に、兄と変わらず、魔法を使えると思って聞いたのだ。だが、返ってきたのは自嘲したかのような内容。だから、明日菜は地雷を踏んだと思い、謝った。

 しかし、黒は別にそんなこと気にしていないし、そもそも魔法を使えるものなど、もはやこの世界には数えるほどもいない。それに、黒は魔法使いではない。只の妖怪。だからこそ、別段普段の通りに答えた。

 それを単純に勘違いして悪くとったのは、明日菜だ。しかしこれは、明日菜が悪いわけではないだろう。むしろ、そう取れるとわかって言った黒が悪い。

 

 「さて、それでは貴方が聞きたい事は答えたみたいなので、帰らせていただきましょう」 

 「あっ、うん」

 「あ、それと、明日の朝、職員室に課題を持ってきてください。でないと、新田先生による補習が待っています」

 「嘘!!!!!」

 

 辺り一帯を震わす悲鳴を無視して、黒は麻帆良学園を出ていく。

 残された明日菜は、次の日に酷いクマを作り、課題を何とか提出する事に成功した。




記憶消去魔法。使っても良いが、使った場合、他の魔法使いから軽蔑されます。

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