英語を使った方が良ければ言ってください。
決して文字数稼ぎの為ではありませんでした。決して面倒くさなったわけでもありません。
国際IS委員会との契約から一週間が経過。
あれから特に変化が起きたわけでもなく、淡々と時間だけが過ぎ去っていった。どんな過ごし方をしようが、時間は等しく過ぎていくだけだ。それならば、俺は自分自身の為だけに時間を有意義に活用する。
「この一週間でこれほどまでに成長するとは……」
俺の周辺にはターゲットが幾つもの破片を残し、残骸と化していた。既にISによる射撃のコツは掴んだ。慣れてさえしまえば、それほど苦になるようなものではなかった。
「{末恐ろしく感じるよ……}」
ある程度だが、日本語も聞き取れるようにはなってはきているが、まだコイツらのように日常的に使いこなせる段階ではない。所々の単語を聞き取れるぐらいだ。全く聞き取れなかった時と比べれば、単語を聞き取れるようになっただけでも大きな前進だ。
早速成長した語学力を発揮するべく、オリムラの言葉を聞き取ってみる。が、やはりというべきかオリムラの言葉の全ての意味を理解はできなかった。唯一理解できたのは、『恐ろしく』という言葉だけであった。
恐ろしいか……『あなたは、恐ろしい人ね。何もかも真っ黒に焼き尽くす』……前依頼主の言葉を思い出してしまった。あのときとは状況も場所も違うが、オリムラの声のトーンからして、オリムラもフラン同様に何かを感じ取ったのだろうな。
「{織斑先生。IS委員会の方々がお見えに}」
「{わかりました。直ぐに向かわせます。}レイヴン。お前にお客さんだ」
遂に来たか。
『お客』を向かい入れる為にラファールを脱着し、ピットへと足を運ぶ。ピットには既にオリムラの姿があり、ピットの搬入口付近で待機していた。俺もオリムラの側まで歩み寄り、お客が来るのを待つ。
しばらくすると、搬入口が開き外から鉄の箱を乗せた運搬車と男女数名が入ってきた。運搬車は俺達の正面で止まり、荷台に乗せていた鉄の箱を下ろした。
「お初に御目にかかりますブリュンヒルデと、Mr.レイヴン。国際IS委員会の命により参上しました『ミシェル』です。貴方のオペレーターを務めます」
オペレーターか。作戦の遂行と成功にはオペレーターの力が半分近く関係してくる。未熟なサポートでは作戦に支障が出るばかりか、俺の生死にも関わってくる。確実なオペレートを望むばかりだ。
それと、あの箱の中身が俺の機体なのか?
「はい。ご要望の通りの仕様にしてあります」
モノを見てからの確認でないと詳細はわからない。早いところ見せて貰らわなければな。
「焦らずとも今お渡しします」
ミシェルとかいう女の指示で、箱の周りを四人の男女が囲んだ。四人はそれぞれの面の一部を開き、隠されていた数字キーを手慣れた手付きで打ち込んでいく。強度の高い金属で囲むだけではなく、暗証番号も入力しなければ開けられない仕様か。これほど厳重に管理されている辺り、ISがとれだけ貴重なものか再認識させられる。
「Mr.レイヴン。これが貴方の機体です」
暗証番号を入力し終えると、箱が綺麗に割られ中から黒をベースにした機体が姿を現した。カラーリングは黒だけではなく、間接部やスラスター口等は濃い赤色に塗装されている。
「機体命『オワーゾ・ノワール』フランス語で『黒い鳥』です。カラーリングは此方で少し手を加えたものとなっています。相手を萎縮させるためにこれだけの存在感を放てるようにしました」
オワーゾ・ノワール……長いからノワールにしよう。これが俺の機体か。黒に赤……なんの因果か、まるで『あいつ』の機体が俺の機体と混ざったようだ。
「ヒヒヒ、お前さんのIS適性は『B』。決して高くはない。そんなお前さんが、ヒヒヒ、ノワールを満足に扱えるかは見物だな。ヒヒヒ。」
「『ギヨーム』口を慎め」
「失敬失敬」
ギヨームと呼ばれた長髪で、老婆のような風貌の男が、ヘラヘラと笑いながら持ち場へと戻っていった。……なんだあの男は?何処かのネジが何本か飛んでいるのか?
それだけあの男は狂っているように感じ取れた。常にヘラヘラと笑い、口元は歪み、目は正気を失っていた。あっちの世界でもその系統の人種は多くはなく、俺も会ったことはなかった。いい経験にはなるのだが、同じ人間としては絡みづらいな。
「危険だな」
オリムラも奴の危険性を感じ取ったのか、ギヨームに対して良い印象を持ってはいない。そればかりか、馬鹿正直に敵対視の姿勢を露にしている。
「委員会の決定ですのでご了承を」
「………………」
どれだけオリムラが学園内で絶大な権力を誇ろうが、所詮は一教師。学園の運営から各国のIS関係を掌握する委員会には逆らえまい。委員会の前ではオリムラも只の個人でしかない。
「他にも整備担当の『オベール』に、その補佐の『グスタフ』『ソフィア』に輸送員の『コアルド』と『アレンビー』の計6名です。我々6人もIS学園の臨時勤務として身を置くこととなったのでそちらもご了承を」
「それは初耳だ」
「これが辞令書です」
取り出された一枚の紙切れをオリムラは受け取り、一文字一文字に目を通していく。全てを読み終えたオリムラは溜め息を吐き、紙切れをミシェルに返した。
「ご納得頂けたでしょうか?」
「委員会の無茶ぶりにはな」
「結構です」
コイツらが学園で勤務をすることになろうが、俺には余り関係のないことだ。
それよりも、委員会には感謝しなければな。要望通り、これだけの人員と機体を用意して貰ったのだ。此方としても期待に背く真似をするわけにはいかないな。
俺はノワールに近付き、ノワールの装備と機能を確認するために、整備担当者のオベールとギヨームに詳細を詳しく聞き出す。
「ノワールは従来のラファールと根本的な違いはありません。しかし、我々独自の改良を加えているので、第2世代の量産機としての完成度は元機を越えていると自負しています」
「ヒヒヒ、専用機でもないのにここまで完成されている、ヒヒヒ、量産機は初めてみた。ヒヒヒ、武装は私の趣味と新たな趣が取り組んである」
ほぉ、ソイツは楽しみだな。
ラファールには今日までの訓練で何度も乗り込んでいる。何度も乗る内にラファールの癖や操縦のコツは掴んではいる。改良されていようが、ラファールであることに変わりはない。使いこなしてみせるさ。
そんなラファールを早速試してみたい俺は、『初のIS同士の訓練』を オリムラに提案してみることにした。勿論相手は世界最強と呼ばれているオリムラだ。これからの行動はISを相手にする時も自然と訪れる。今のうちにIS同士の戦闘にも慣れておきたい。それには自分より格上の相手との訓練が一番効果的だ。
「調整は済んでいますので、今すぐにでも模擬戦は可能です」
「……良いだろう。私もお前には興味が湧いていたところだ」
決まりだな。場所はこのまま第一アリーナで良いだろう。
直ぐ様俺は来たばかりの、俺の機体であるノワールを起動させる。起動後にノワールに備えられている武装を確認し、装備させる。
俺が選択し、出現させた武器はあのHEATマシンガンAu-V-G39に酷似している小型軽量火器だった。それを両手に装備させる。HEATマシンガンは威力こそはバトルライフルに劣るものの、瞬間火力と近接戦闘時の取り回しの良さが優れ、距離による威力減衰もほとんどなく、全体的に安定していた兵器だった。CE防御が低い相手には脅威であり、穴だらけにされかねない。
俺も幾度となくHEATマシンガンを使い込んできた。もしこれが同等の武器であるならば、俺の利点になる。
《ヒヒヒ、武装の説明をさせてもらう。その『イグノーア』は、化学エネルギー弾である粘着榴弾を発射させ着弾時に炸薬が装甲表面に粘着、ヒヒヒ、爆発時の衝撃波により装甲裏面を剥離させ内部に被害を与える。ヒヒヒ、コイツはISを内部的に破壊する目的で作ってある。ヒヒヒ、当然当たりどころが悪ければ、操縦者にも直接ダメージとは関係なしに被害を与えれる。ヒヒヒ、このことから競技では使用が出来ないのが残念だがね》
どうやらあっちの世界のCE属性武器と大差はないわけだな。とはいっても、ISにはシールドエネルギーがある上に人体を覆っている装甲はそこまでない。精々手足ぐらいだ。操縦者に対しての被害ではなく、その他のISのパーツ破壊による、活動困難を強制させることに主軸を置いたほうがいいだろうな。
《ヒヒヒ、肩にはフラッシュロケット『イントラップト』が搭載してある。フラッシュロケットは攻撃用ではなく、相手の目を潰すのが目的だ。ヒヒヒ、ISはハイパーセンサーの恩恵で目が良すぎるから、フラッシュロケットの閃光で目を潰してしまえば、好きに料理ができる。ただし、自分も食らってしまうこともある。ヒヒヒ、使いときは気を付けたまえ》
ハイパーセンサーの機能には舌を巻いたものだ。これほど優れたセンサーは戦闘で重宝される。ACのカメラと比べ、距離がどれだけ離れていようが目標を正確に補足できる。更には全周囲を見渡すことも可能であり、死角からの攻撃であっても体感的に瞬時に判断することも不可能ではない。そしてPICの利用により思い通りの動きで回避することができる。
今までレーダーを見てペダルやレバーによる操作では到底追い付かない速度と正確性が実現している。これだけでも兵器離れしすぎているな。
その分得た視覚情報を脳内で正確に処理しなければならないがな。只でさえ戦況を冷静に分析しながら戦わなければならないのを、追加で思考しなければならないISは、インテリ向きなのだろうな。ただし、錬度が低ければ膨大な情報を処理できずに、混乱。一瞬の気を抜くことの出来ない戦闘では精神的負担は甚大だ。下手な操縦者では発揮することもままならないまま終わってしまうだろう。
しかも肩武器は、イメージインターフェースによる思考制御。一体全体どれだけ操縦者の脳を酷使させるつもりなのか。開発者の神経を疑ってしまうな。……こっちの兵器開発者はイカれていたか。
《ヒヒヒ、今は展開させていないが、他にもミサイルランチャー『スプレッド』とパルスキャノン『ディレンジェ』を展開することも出来る。ヒヒヒ、この『ディレンジェ』は着弾により、人間とISを繋ぐ電気信号及び筋肉駆動アクアチュエーターを一時的に遮断させ狂わすことが可能。ヒヒヒ、これにより一瞬だがIS動きを止めることが出来る》
ACもそうたが、ISの駆動や動力には謎が多い。一部の直接的な動作は筋肉による化学エネルギーを利用したアクアチュエーターであること位しかわからん。直接的な動作を止めることは即ち、操縦者の防御動作、攻撃動作に隙を生み出すことである。一瞬だけとは言っていたが、その一瞬の隙が致命傷になるのでそれだけでも充分過ぎる。
《ヒヒヒ、今のところの基本装備『プリセット』はそんなところだ。ヒヒヒ、どんどん武器は増やしていく。楽しみにしていてくれ》
一通り武装の説明は聞き終えた。後は実戦で試すのみだ。オリムラにどこまで通用するのかは知らないが、最初っから『殺す気』で仕掛けさせてもらう。生憎と模擬戦だからといって加減する気は毛頭ない。
《ヒヒヒ、お次はノワールの専用ブースター『インスタンテニアス』だ。ヒヒヒ、インスタンテニアスは瞬時加速の加速力の擬似的再現をしたブースターだ。ラファールの通常のブースターとは別物で、緊急時の瞬間的な回避が簡単に行える他にノーモーションからの急移動や急停止による行動のキャンセル。又は俊敏に切り返しが可能。これでラファールの行動力と運動性能の増加が実現した。その反面使用時のエネルギー消耗が半端ないがな。ヒヒヒ》
俺の認識でいくと、一瞬の加速力を重視したHIGH ACCEL TYPEのブースターということか。成る程、確かにHIGH ACCEL TYPEは出力と燃費のバランスが良く、使い勝手がいい。ラファールのような中量型なら動きが鈍重になることもないな。
《ヒヒヒ、これがノワール全体の機能と説明だ。ヒヒヒ、後は動かしながら覚えるんだな》
ギヨームが通信を切るのと入れ替わりで、今度はオペレーターのミシェルが通信を繋げてきた。通信には相手の顔が映し出される機能もあるが、邪魔だからその機能はOFFにしてある。よってミシェルの声だけが聞こえる形になっている。
《ブリュンヒルデも準備を終え、間も無く出撃してきます。ブリュンヒルデの乗機は第2世代型IS『打鉄』。防御力が高く、武装はアサルトライフルにブレードといったシンプルな装備の近接戦闘型です。相手はかつてブレード一本でモンド・グロッソのチャンピオンとなった方です。不用意な接近は危険です》
ブレード一本でチャンピオン?それは手強そうだな。今のノワールに近接武器は装備されていない。対等に近接戦が可能なのは、両手のイグノーアだけ。後の武器は近接戦闘には不向き。オリムラとの距離感が重要になってくる。
近付き過ぎず、近づかなさ過ぎず。俺のメインは威力の低いHEATマシンガン。距離減衰がなくとも元々の威力は低い。しかも俺が今乗っているのはACではなく、IS。ISにはシールドエネルギーといったバリアーがある。ダメージによって消耗させれるが、ブースターの使用等でも消費される。どのみち、長期戦ではなく短気戦を余儀なくされるだろう。
《来ました》
「待たせたな。さぁ、始めようか」
オリムラも珍しい形の剣を両手で握り、剣先を俺の喉仏に向ける。普段もそうだが、ISを纏ったオリムラの威圧感は過去に戦ってきたAC乗り達と大差はない。
<メインシステム、戦闘モード起動>
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
模擬戦が開始して早々にオリムラは仕掛けてきた。目にも止まらぬ加速力を発揮し、瞬時にノワールまでの距離を詰めてきた。これが瞬時加速である。瞬時加速により、ブレードの射程に入ったオリムラは即座にブレードを大きく縦に振る。
これだけ大降りだと、その分振り下ろす前に無防備になるものだが、オリムラは違った。オリムラの振るブレードは大降りであろうが、モーション中に無防備になることが全く無かった。それだけブレードを降り下ろすスピードが桁違いなのである。
カウンターを入れる暇もなく、俺は後方へと回避行動を取らざるえなかった。インスタンテニアスの瞬間的な回避によりブレードが俺に命中せず空を斬った。筈だったのだが……
何?シールドエネルギーが減少させられているだと?
感覚的には避けていた。それなのにノワールのシールドエネルギーは減少させられている。これが示すのは、俺がオリムラの攻撃が完全に避けきれていなかったということ。あと一歩判断が遅ければ、諸にオリムラのブレードの餌食になっていた。
内心でそのことを考えながら、回避直後にイグノーアの引き金を引きCE属性弾を次々と発射させる。
「いい反応だ」
オリムラには俺の動きが良く見えていたのか、回避後から反撃の動作を見切られ、ブレードで弾を全弾斬り落としていく。一発一発、全ての弾の弾道を見切り器用にブレードを扱う。ブレードが欠ける様子はなく、発射された弾全てを斬り落としても、ブレードは健在であった。
切れ味が優れているのか、使い手の腕が良いのかはわからないが、正面からの銃弾ではオリムラに傷を与えることは難しいようだ。こんな光景もISだから見れるものだ。ACで弾をブレードで斬り落とす光景など見たことがないからな。
「私も一切手加減はしないぞ」
正面から突撃してくるオリムラを接近させないために、攻撃を全身へ散らすが移動中でもお構いなしに、オリムラはブレードで弾を弾いていく。
一定の距離まで近付いたオリムラはブレードで斬るのではなく、突く動作をとり剣先が俺の胴体へと迫る。突きに速度も凄まじく、俺は僅かに体を反らし突きを回避し、がら空きとなったオリムラの体にイグノーアを放つがオリムラはそれも予測済みであり、左手と右足ででイグノーアの銃口を逸らされてしまった。
銃口を逸らされた俺はオリムラをインスタンテニアスの加速力を加えた足蹴りし、吹き飛ばす。よろめいたオリムラに向かってパルスキャノン『ディレンジェ』を展開させ、4発同時発射する。4発同時発射なのは同じだが、ACと違い構える必要がないのは有難い。
緑色の電磁弾がオリムラの付近で爆発し、ダメージ領域に呑まれたオリムラはデレンジの効力により、一瞬動きが止まる。そこを見逃さずにイグノーアを命中させる。命中したイグノーアの弾は打鉄の装甲の一部を破壊した。
「ISの動きを止める兵器に、装甲を破壊する弾か。厄介だな」
ここまでの攻防で、打鉄のブレードが破損しなかったのは、イグノーアの弾の炸薬が表面で粘着する前に斬り落としていたからであろう。着弾から弾の効力発動までの時間はコンマ何秒かの世界。常人には不可能なことを成し遂げ、無効化しているオリムラはやはり桁外れの実力者なのだろう。
「瞬時加速に相次ぐ被弾、シールドエネルギーも残り僅か、決着をつけさせてもらう」
再び接近戦を仕掛けるオリムラの前方10mの位置に、肩武器のフラッシュロケット『イントラップト』を発射、着弾させる。
「目潰しか!」
俺は目を閉じていたため、発光を目にすることは無かったが、オリムラが両手で目を抑え悶えていることから、相当な光を目にしたわけだ。姑息な手段だと非難の声が挙がるかも知れないが、俺からしてみれば戦闘に美徳など求めるのがナンセンスだ。死ぬか生きるかの2卓に甘えなど不要。
悶えるオリムラの後ろを取り、イグノーアを構え一気に引き金を引いた。
<勝者、織斑千冬>
しかし、勝者を告げられたのはオリムラの方だった。何が起きた?オリムラは目を潰され、完全に後ろを取った俺が引き金を引き、オリムラを下す筋書きだった……なのに俺の体にブレードが命中しているのはどういうことだ?しかも、オリムラは背を向けたままで、イグノーアの弾はオリムラに命中してはいなかった。
「惜しかったな。驚いたか?まぁ、私も最後の最後に目潰しをしてくるのは予測出来なかったが」
振り返ったオリムラは目を瞑ったままであった。そのままブレードを格納し、ピットに向かって歩き出していった。
まさかこの女……目を瞑ったまま、気配だけで位置と距離を把握し、弾より速くバックステップを取りブレードを突き刺したのか?有り得なくはないのだが、即座に判断、実行し成功させるのは簡単なことではない。……世界最強とやらは伊達では無かったのだな。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ご苦労様でした。どうでしたか?初のIS同士の戦闘は?」
ピットに戻った俺は整備班にノワールを預け、水を受け取りベンチに腰を掛けた。
訓練と違うのは当然だが、実戦がここまでACと違ってくるとなると、慣れる迄には訓練以上に多くの経験を積まなければならないな。舐めていたわけではないが、ここまでの違いを見せ付けられると、ACの経験だけでは些か無理がある。
「初めてのIS同士の戦闘で、私と互角に戦えるだけでも喜んだらどうだ?」
喜ぶ?……馬鹿を言うな。俺は負けたのだ。模擬戦であったから生きてはいるものの、本物の戦場での実戦となれば、敗北=死だ。それを理解している俺が負けて喜ぶとでも思っているのか?そんな発想が生まれること事態おかしな話だ。オリムラはおめでたい奴だと言わざるおえないところなのだが、事実上俺は敗北して死人に等しい。死人に口無し、敗者は何も語ることは出来ない。敢えてオリムラには何も言わない。
「黙りか……まぁ良いだろう。お前も疲れたはずだ。ゆっくり休むといい。明日から学園は始業する。不測の事態に陥っても万全を期して動けるようにしておけ。」
返事をせず、手で合図を送り俺は自身の部屋へと戻っていった。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「織斑先生、お疲れさまでした」
「有り難う山田先生」
職員室に戻った私を待っていたのは同僚の山田先生からの労いの言葉とコーヒーだった。夕刻を過ぎていると言うのに態々私を待っていたのか……
「あの人はどうでした?」
「なに?気になるのか山田先生」
「そ、そういうわけではないのですが、どこか不思議な感じがするのです」
不思議か……山田先生の言うことは尤もだ。レイヴンには不思議なモノがある。傭兵という人種にも関わらず、アイツには多くの可能性と人を惹き寄せる不思議な力がある。安心するのだアイツを見ていると。何かを任せてもレイヴンならやり遂げてくれると。事実、レイヴンは初めてのISでの実戦だというのに私を追い詰めた。味方の内は頼もしいが、敵にまわれば脅威だ。
「明日から悩みの種が増えるのだ、真面目な話は止めにして、これから飲みにでも行こうか」
「そうですね。気晴らしにぱぁーっといきましょう」
荷物をまとめ、職員室の施錠をし宿直の教師に挨拶を済ませ、居酒屋へと私達二人は向かう。レイヴンも誘えば良かったが、まぁいいか。
「レイヴン……認めようお前の力を」
「何か言いましたか?織斑先生」
「……何でもない」
私の呟きは誰にも聞こえることなく、私達と共に夜の町へと消えていった。
武装名は英単語をそのまま訳しただけです。特に捻りを加えているわけでもありません。
意外とAC主人公のオリ主の再現って難しい……