他の方も合間を見て更新していきたいです。
ある日の昼休みのことである。
いつものように仕事......もとい図書館誰もの座っていない長机で読書に没頭しているレイヴン。そんなレイヴンを見つめる人影が一つ。
人影は、レイヴンから離れた所の本棚からレイヴンの様子を伺ってはウジウジと顔を覗かせてはまた本棚の影に隠れるといった動作を繰り返していた。
「ここまで来て何ウジウジしてんのよ」
「今更止めるとか言わないわよね?」
そんな女子生徒の側で女子生徒を後ろ押しする女子生徒の友人らしき姿が二つほど確認できる。
「いざ目の前にしてみると緊張で足がすくむよ......」
「あ~、焦れったい! さっさと行け! そして戻るな!」
「玉砕覚悟! 骨は拾って上げるわ!」
「全然励ましになってないよぉ!」
友人達の熱いエールと背中押しを受けた女子生徒は、本棚の影からレイヴンの真横へと送り出された。
自分に接近する人影に気づくレイヴンだが、気にせずそのまま読書を続ける。
「あわばば......」
顔面真っ赤の茹で蛸状態の女子生徒は、堪らず友人達が待つ本棚へと目をくれる。
『仕留めろ』
そこにあったのは右手の親指で首を横に一直線、後に親指を下に下ろすサインを送る友人の姿。
『それダメなやつだよ!』
身振り手振りで返事を送る女子生徒。
「............」
ちらっと、自分の方を向いていない今このタイミングで一度だけ女子生徒をレイヴンは一瞥。しかし、当の本人はレイヴンが自分の方に顔を向けていることに気付いていない。
レイヴンは再び視線を本へと戻す。彼にとって女子生徒は興味の対象として映ってはいない。
数分の間あたふたと煩わしく、世話しなくボディコンタクトを続けていた女子生徒。ようやく緊張も解れ、なんとか行動に移す覚悟が決まったのか、そわそわしながらも勇気を振り絞って言葉を発した。
「あ、あのっ! これを読んでください!」
カクカクと調子の悪いロボットのようなぎこちのない動きで、制服のポケットの中から取り出した便箋をレイヴンに手渡す。
レイヴンはページを捲る手を止め、一旦栞を挟み本を閉じる。その後、真横に立っている便箋を差し出している女子生徒を見上げる。
目を瞑りながら便箋を受け取るのを待つ女子生徒。
内心では、受け取って貰えなければどうしようと思い馳せている。
数秒間女子生徒の顔を見つめたレイヴンは、徐に差し出された便箋を受け取る。
自身の手から便箋が離れたのを感じた女子生徒は、嬉しさと恥ずかしさが同時に沸き起こり、逃げるようにその場から去っていった。
受け取って貰えなければどうしようかと考えていた女子生徒だが、よもやこうもあっさりと受け取って貰えるとは考えていなかったようだ。
受け取った便箋を確認するレイヴン。綺麗に折り込まれた白い便箋にハート型のシールで封がされており、右下の端には丸文字で『レイヴンさんへ』と綴られている。
これだけでごくごく普通の人間、男子ならばこの便箋が何なのかは想像に難しくはない。
しかし、レイヴンにはこれが何なのか理解することが出来ていなかった。手紙の存在は知っているレイヴンたが、その種類、意中の人間に対して送る恋文......ラブレターといった存在とは今までも縁が無かったからである。
◆ ◆ ◆
放課後
「で? 私に何の用だ?」
時間は進んで放課後のIS学園職員室。
1日の授業日程が終了し、教員一人一人が書類の整理並びに次の授業で使用する教材の準備に追われていた。
授業を受けるだけの学生とは別に、教員達に放課後の自由時間はほぼほぼ存在しない。彼女らにとっては夜を迎えるまで仕事に終わりはないのである。
教員は公務員である為おおよそ17時位には公務を終えれるが、上の通り、準備や整理などの仕事上勤務時間を大幅に越えることなどざらにある。
況してやここはIS学園。ISのみならず、全世界の最先端が詰まっているといっても過言ではない。となれば当然授業の密度や内容も従来の教育機関よりも高い水準を誇る。
そんな集団の中に混ざる織斑千冬その人もいる。
IS学園の教員である以上、いかにブリュンヒルデであったとしてもその例外ではない。彼女もまた自分の受け持つクラスの次の授業の準備に励んでいる。
「滅多に人を頼らないお前が態々来たのだから、余程のことなのだろうな。それにしても、何だあの『メール』の内容は? かえって読みづらい」
そう言いながら織斑千冬はスーツの右ポケットから黒色の携帯電話を取り出し、メール画面を開くと、そのままレイヴンに見せる。
『いまからそっちにいくききたいことがある』
レイヴンから織斑千冬宛に送られた一通のメール。内容は聞きたいことがあるから聞きに行くとのことだが、句読点や漢字変換されていないひらがなだけの文章であるため、非常に読みづらいものとなっている。
これに対してレイヴンは肩を竦めるだけである。
「はぁ、で、何が聞きたいのだ?」
本題に移ったところでレイヴンは早速昼休みに手渡されたラブレターを織斑千冬に見せた。
「......これは、ラブレターか? ......『レイヴンさんへ』だと」
何のへんてつもない只のラブレター。特段他人に聞くようなことでも何でもないのだが、レイヴンにはラブレターの意味が理解することが出来ない。そこで彼は他人にラブレターが何なのかを聞くようにしたのである。その白羽の矢が立ったのが織斑千冬。
「良かったじゃないか。お前のことが気になる女子がいるということだ。......その顔だと意味が分かってないな。聞きたいことと言うのはこのことか」
気になるとかそう言った感情とは無縁のレイヴンに、どう説明すれば良いのか織斑千冬は悩む。
単純が故に上手く説明することが出来ないでいる。人間10年も生きていれば自然と、異性に関して何らかの興味が沸き、自然と『好きになる』という感情が芽生えるものだ。
それは人間の本能であり、誰かから教えられるものでもない。生きていく過程の中で身に付いていく。
ところがレイヴンにはそれがない。レイヴンの世界事情からのこともあるかもしれない。ただ単にレイヴン自身の問題かもしれない。どちらにせよ『レイヴンという人間は恋愛を知らない』のである。
男女問わず恋愛事に関しては上手く説明出来ずとも、何らかの言葉にすることは出来る。
しかし、織斑千冬は言葉に困っていた。
この世界において織斑千冬は圧倒的な存在。ISにおいて右に出る者はおらず、女性が口を揃えて敬意を表明する。
誰もが織斑千冬は完璧だと答えるだろう。しかしながら、そんな織斑千冬であっても経験したことのない事や、苦手な事も当然ながら存在する。
そして今それが正に織斑千冬にのし掛かろうとしている。
未だに恋愛経験が無いのだ。織斑千冬は。
織斑千冬のこれまでの濃密な人生の中で色恋に現を抜かしている暇が無かったのもそうだが、織斑千冬自身の高すぎるスペックもあって、彼女が虜に夢中になるような男性がいなかったのもあるかもしれない。
織斑千冬にとって身近な異性と言えば弟の『織斑一夏』しかいないのが現状。尤も彼とは血の繋がった姉弟であるため、異性として意識することはない。
「その、あれだ、この先一緒に居たい人や、そうなるかもしれない、若しくはそうしていきたい人に送るものだ」
目を泳がせながら必死に言葉を探る織斑千冬。織斑千冬も一応は女性であり、そういったことに興味がないわけでもないため、それなりの恥じらいもある。
が、純粋無垢なレイヴンはまだ解らないでいる。
『一緒に居たい』だとか『そうしていきたい』とか何のことだかさっぱり。
そんな痴話ばなしをする二人を尻目に自分の仕事を進める他の教員。仕事をしながら彼女達も二人の会話に聞き耳を立ていた。
そして若者が青春を迎えていることに対してやりようのない空しさを抱いてもいる。
実はIS学園の教員のほとんどが未婚の独身者である。
生徒として入学するのは勿論、教員は生徒よりも更に狭き門を潜り抜けなければならない。つまり、ここにいる彼女達はその狭き門を潜り抜けた、一握りの選ばれたエリートである。
ここに至るまでの過程で犠牲にしたことも多くあるだろう。他人が遊んでいる時に努力を惜しまない。その結果が今に繋がっている。
一見勝ち組である彼女達だが、犠牲にしてきた中で最も後悔しているのがレイヴンが抱えている謎。
容姿や経歴等は申し分ない彼女達だが、男性にしてみれば彼女達のような高嶺の花は近寄りがたい。自分なんか相手にされない。相応しくないと、自分を卑下にし、結果的に上手くいかないのがほとんど。
彼女達はその典型的なパターンである。
プライベートで男性と近づいても男性の方から離れていく。上手くいったとしても軌道に乗らず消滅。
『俺よりも相応しい人がいる』『ついていけない』『あの子といる方が楽しい』
等々、彼女達に非は無いのだが、磨いてきた刃が鋭すぎて自滅してしまっている。
理想を高く持つが、理想は理想のまま。現実は理想よりも下のモノを求める傾向が男性にはある。例え理想通りにいったとしても長くはない。長くもつのはほんの一握り。
20代後半に差し掛かると行き遅れを心配する年代。気にしない女性もいるが、失敗続きな彼女達は人一倍にそれを意識している。織斑千冬もその一人。
だからこそレイヴンの悩みに過敏に反応。
肩や頭、手、足等をピクリと反応させ、普段の落ち着いた態度ではなく、慌ただしく世話しなく手足を動かす。そして心なしか職員室内の空気が黒いオーラーで張りつめ出す。
それを肌で感じ取ったレイヴンの全身には鳥肌が立つ。
「お前......今まで一度も女性関係の経験は無いのか?」
首を縦に振り頷くレイヴン。
『『『『ガタッ』』』』
女性経験が一度もない。そんなレイヴンに職員室内の教員達が目でも耳でも分かるように物音を立てて一斉に反応したのだ。
焦り始めている彼女達。飢えた野獣の中に飛び込んできたレイヴンは食われる側の羊。
何かを本能的な危険を感じ取ったレイヴンの足がガクガクと震えている。何故震えているのか、何に対して震えているのか。レイヴンには解らない。解ることは恐いということだけ。
「ゴホンっ! こう言ったことは私ではなく一夏やその周りに聞いた方が参考になるだろう」
織斑千冬がした咳払い一つで、職員室内を覆っていた黒いオーラーと野獣の気配は消え失せていた。
解かれた緊張と恐怖に遅れて流れる汗。早くこの場から去りたいとレイヴンは思っていたところである。
織斑千冬の言葉通り、織斑一夏達に聞いてみることにしたレイヴンは逃げるようにして職員室から出ていった。
「恋愛か......」
レイヴンが去った後で織斑千冬の、自分の机の上で手を組み、溜め息を吐き、頭を垂れて先程よりも、この中の誰よりも真っ黒いどす黒いオーラー出して落ち込む姿があった。
この中でただ一人、一度も男性との経験が無い織斑千冬にレイヴンの悩みは相当堪えたのだろう。
本編でやらなかったことをメインにした、IFの話です。
レイヴンの恋愛事情。本編ではそっち方面に手を出さなかったので、こっちでやってみました。
一応戦闘よりもこういったことを本編でも優先していたので、こんな感じなのがもう数話続くかと。
私の中でのレイヴン......AC主人公は『空っぽ』となっているのでこうなっています。
人工知能を備えたAIだかが人間の愛を学んでいく映画のような。
そらおとのイカロスのような感じですかな?
エルフェンリートのにゅうは違うし......他に思い付かないなぁ、それ系。
空っぽだからこそ何にでも染まる。白となるか黒となるか。
その良い例が首輪つき。
戦闘全振りした結果があれだから、きっとスピリッツオブジオンのアムロの乗るガンダムのような機動をしてくれるでしょう。若しくはごり押し。
生身だと多くの哀しみを背負ってるから夢想転生出来そうですけど。
長くなりましたが時間を見てこれから更新していきたいです。