舞い降りた一羽の黒い鳥   作:オールドタイプ

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舞い降りた一羽の黒い鳥
26羽 終演へ


 それは余りにも突然であった。戦争による傷痕が癒えつつあった世界に無情に降り注ぐ光の束。破滅を呼ぶ光の束は復興に明け暮れる世界を嘲笑うかのように降り注ぐ。

 光の束が降り注いだ後には真っ黒に焼け焦げた大地が広がるだけのまっ皿な、何もない大地へと変わり果てていた。塵一つ残らず破壊された大地は、残骸も何も残らない戦争による爪痕よりもある意味酷い有り様である。

 一体どこから降ってきているのか。天から降り注いでいることを除いては何も解らず、神話上になぞり神の雷と呼び、いつ頭上に降るかわからない神の雷に人々は脅えていた。

 やがて、著名な科学者達の手により神の雷の正体と何処から降り注いでいるのかが判明した。

 光の正体は極限までに収束されたγ線。ありとあらゆる生命を破壊する最悪な兵器であることを突き止めた。

 そして、光が撃ち出されているのは衛星起動上から離れた位置に属する月の裏側からであった。人類はこの兵器を『衛星砲』と名付けた。

 そんなことが可能な兵器の建造は現代科学では勿論不可能である。更にその兵器自体は戦争が起きる以前から確認がされていたのである。尤も兵器であることには気づいていなかった。地上での活動に追われていた人類は未確認物質の調査に乗り出さず今日まで放置していたのである。

 この事実が判明した直後に新国連は非常事態宣言を発令し、地上に住む人々を地下シェルターへと避難誘導を開始。

 避難を進める間に国連軍は封印していた無人機達を呼び起こそうとするが、光の束により無人機達は全て破壊されていた。あの緑色の粒子を放出している巨大なACも。

 無人機と巨大なACを失った今、宇宙空間で活動を可能とし、『衛星砲』内部に侵入しそれを破壊することが出来るのは現状でISのみである。

 国連軍は直ちに世界中からIS操縦者を召集し、宇宙に上がり衛星砲の破壊を全ての操縦者に命じた。その中には織斑一夏を含めた学園の少女達も含まれていた。

 

「戦争が終わった矢先にこんなことって」

 

「けどこれってISにとって初となる宇宙空間での活動になるね」

 

「IS本来の目的を兵器の破壊で叶えるか......」

 

「姉さんの夢の宇宙......」

 

「衛星砲......そんな大量破壊兵器が一体なぜこのタイミングで......戦争の時には稼働していなかったですのに」

 

 ざわざわと衛星砲と宇宙での活動に対する不安の声が集まった操縦者達の中から口々に上がる。

 集まる女性達の中での唯一の男性操縦者の織斑一夏は真っ青な晴天の先にある宇宙を見上げていた。

 

「宇宙......」

 

 ざわつく操縦者達を沈め国連側は明確な作戦プランを発表。その作戦立案者として壇上に上がった人物に集まった操縦者達全員が驚愕の声を上げていた。

 

「一度しか言わないから耳の穴をかっぽじって良く聞きな」

 

 ISの産みの親でもある世界中が躍起になって捜索中であった自他共に認める天災である篠ノ之束の姿がそこにあった。

 壇上に上がりマイクを片手にした篠ノ之束は衛星砲破壊のための作戦を、投射機によって映し出された図を用いて説明していく。

 簡単に作戦を説明すると、篠ノ之束製のシャトルにて宇宙へ上がり、篠ノ之束が新開発した専用ブースターにてISのエネルギーを抑えたまま衛星砲に接敵するというものである。

 その際に衛星砲からの敵勢力の心配の声が挙がったが、衛星砲には敵勢力は存在しないと篠ノ之束は断言した。つまり、接敵さえすれば後は衛星砲内部に侵入し、機能を停止させるだけである。

 衛星砲の機能停止までの手順を篠ノ之束は説明していく。何故篠ノ之束がここまで衛星砲に詳しいのか疑問に感じる操縦者達であったが、天災である彼女ならば不可能ではないだろうと信じていた。

 ただ一人織斑一夏だけは篠ノ之束のことを疑っていた。友人の姉であり、姉の友人でもあり自分もよく知っている人間を疑うのは後ろ髪を引かれる思いだったが、私情を抑え篠ノ之束の腹の内を探ろうとした。しかし、織斑一夏には篠ノ之束の心情を見抜くことは出来なかった。

 

「以上で説明を終えるから。後、宇宙空間でも衛星砲は容赦なく降り注ぐから直撃したら一発であの世だから。腕に自身がない奴や、命が欲しい奴は辞退すればいいよ」

 

 篠ノ之束の口から出た『死』という言葉に大半の操縦者達が萎縮した。

 

「一夏......怖いなら引け」

 

 ISスーツを纏った織斑千冬が人混みの中から現れる。織斑千冬の指摘により、初めて自分の足が恐怖で震えていることを気づかされた。

 

「大丈夫だよ千冬姉。覚悟は決まってるし、もしかしたら......」

 

 学園内ならば『織斑先生だ』と小突かれるが、今は学園の教師としてではなく、一人のISの操縦者として織斑一夏の姉として接している織斑千冬は織斑一夏の覚悟の決まった瞳を見て脱力する。

 

「私も一夏と同じことを睨んでいる」

 

 二人とも確証はないが、同じことを疑っていた。

 

「織斑先生」

 

 織斑千冬だけではなく、IS学園の教員も全員集まっていた。

 

「わかった直ぐに行く」

 

 山田真揶に呼び出された織斑千冬は再び人混みの中に消えていった。

 

「そうさ......覚悟は出来ている」

 

    ◆ ◆ ◆

 

『打ち上げ五秒前』

 

 シャトルに乗り込んだIS操縦者達はシートに体を固定させたことでようやく宇宙上がる事実を実感するのであった。

 

『5』

 

 IS展開前までは全員が分厚い宇宙服に身を包んでいる。

 

『4』

 

 打ち上げ前に出撃を決めた操縦者達は篠ノ之束が開発した専用ブースターの使用法と、宇宙空間での行動の仕方のレクチャを受けていた。

 無重力空間であるため、PICを使用せずとも機体は浮かせられる。後は通常の操縦と変わらないのだが、宇宙空間では前後左右といった地上での空間把握が難しい。自分が今どんな状態にあるのかを把握し、不自由なく行動するには長い訓練を要するが、時間がないため簡単な練習しか済ませていない。後は現場で慣れろとのこと。

 練習では何とかなった操縦者達だが、本場の宇宙空間ではこうはいかないのは全員が知っている。

 しかもISのエネルギーの残量にも気を付けなければならない。いくら宇宙空間での活動を目指したISでもエネルギー切れによるISの機能が停止すれば生命維持が不可能となる。エネルギーが危険になれば速やかに離脱しなけらばならない。そのためのベースキャンプ的な全線基地の役目を担うシャトルも別で打ち上げられる。

 宇宙空間で迷子になれば回収は絶望的となる。宇宙空間に出たら先ず第一に周辺の味方と合流して集団で移動しなければらない。

 

『3』

 

 打ち上げ前にシャトルの周辺には無事を祈る親族達が集まっている。皆の生還を祈り全員が神に祈りを捧げる。

 

『2』

 

 乗組員全員の顔が強ばり汗が宇宙服に染み込む。

 

『1』

 

 打ち上げに掛かるGに耐えるように目を瞑るもの。宇宙服の裾を掴みこむもの。十字を切り祈りを捧げるものと、全員が何かしらの行動をとっている。

 その中でただ二人だけ織斑一夏と織斑千冬だけが落ち着いていた。宇宙空間に上がれることに不謹慎だが、若干の興奮を覚えている。だが、それでけではない。ここにいる者達とは別のことを更に考えているのだ。

 

『GO』

 

 打ち上げが開始されたシャトルに体験したことのないGが体にのし掛かる。ISを纏っている上では緩和されるGと成層圏に近づくにつれて離れていく地上の景色に浮き足だつ操縦者達。

 成層圏を突破し、大気圏をも突破したシャトルは不要な部分を切り離し衛星砲目掛けて移動を開始。

 

『前方より高熱源反応』

 

 シャトルの人工知能からのアナウンスに操縦者達が慌て始める。衛星砲から発射された攻撃がシャトルに迫っていたのだ。

 

『高速移動に切り替えます』

 

 衛星砲による攻撃を避けるべく、シャトルは高速形態に移行し衛星砲の砲撃を自動操縦で巧みに避けていく。

 移動の反動でシャトル内が大きく揺れ、操縦者達がシャトルで跳び跳ねる。

 

『回避不能』

 

 衛星砲による砲撃が過密になり、回避が困難になるとシャトルの一部を掠めた。衛星砲の攻撃に耐えれるように設計されているが、完全には防げない。

 

『乗組員は脱出を』

 

 操縦者達はISを展開し緊急脱出口からシャトルの外......本場の宇宙空間に飛び出した。

 

「『VOB』を装着しシャトルから離れろ」

 

 織斑千冬の大声による指示で、新開発されたIS専用ブースターであるVOBを拡張領域から展開装着し、点火された大型ブースターVOBによりシャトルから全員が緊急離脱を果たした。

 圧倒的な加速力により徐々にシャトルから離れていく。自分達を運んでくれたシャトルは衛星砲の砲撃により木っ端微塵となっていた。

 VOBの速度は説明で聞いていたこと以上の体感をしている操縦者達はISであっても緩和しきれない速度に顔をひきつらせている。

 あっという間に月まで到達した操縦者達。ここまでISのエネルギーは一切消費していない。

 

「VOB使用限界近い。通常行動用意しておけ」

 

 集団のリーダーでもある織斑千冬の指示に従い操縦者達はVOBパージ後の通常行動に備える。

 

「VOB使用限界。パージしろ」

 

 一斉にパージされるVOB。デブリにならないように最後は前線基地でもあるシャトルが回収することとなっている。

 目と鼻の先まで接近を果たした操縦者達は衛星砲の大きさに目を丸くしていた。図で見たときとよりも実物が大きく見えるからだ。一目では一望できない大きさの衛星砲。ブリーフィングでは侵入口は複数あり、ここから先は別れての行動となる。

 衛星砲の懐まで接近しているため、衛星砲からの砲撃の心配はなくなった。ここまで誰一人と犠牲者を出さなかったことに全員がほっと胸を下ろした。後は衛星砲の機能を停止させるだけである。

 

「ここまで来たのだ。全員で帰還するぞ。エネルギーが危険域に近ければ直ぐに離脱しろ。内部は敵勢力がいないとはいえ複雑だ。目印を付けることを忘れるな。例え目標が見つからなくとも無理だけはするな」

 

 最後の打ち合わせを済ませ、操縦者達は各々の侵入口に近づき爆薬をセット。

 

「侵入しろ」

 

 爆薬の爆発と同時に侵入口に侵入したIS。その数総勢30機である。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「まるで、内部に招かれているようだな」

 

 侵入してから既に20分。まだどのグループも目標までたどり着いていない。

 

「この先に......」

 

 このグループは織斑姉弟の二名からなるグループ。組分けの際に篠ノ之束から直接指名があったのだ。そして姉弟は快く引き受けた。

 

『こちらヴェノムランス隊。済まないエネルギー切れが近い。離脱する』

 

『こちらもだ。カラミュティメイカー隊脱出する』

 

『ダメだ見つからない。ファイヤーバード隊離脱』

 

『ここまでか。ヘルストーカー隊撤退』

 

『無念だ。フォグシャドウ隊も離脱』

 

『限界か。ハーブドワイヤー隊退避』

 

『一夏、千冬さん後はお任せします』

 

『必ず帰ってこい』

 

『一足先に待っている』

 

『私達に変わって必ず』

 

『二人なら出来ると信じているぞ』

 

『織斑先生お願いします』

 

 バラバラのグループとなった友人達の励ましを背に奥深くまで進む二人。何故か二人のISだけがエネルギーの消費が抑えられていた。

 

「何を企んでいるお前は」

 

 二人の疑念が確信に変わっていた。贔屓ともいえる二人のISへの恩恵と篠ノ之束の準備の良さに確信を得ていたのだ。この先に待つ人物が誰なのかを......

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「やはりお前か......『レイヴン』」

 

 今までとは違う内部構造。外を一望できる空間の奥に佇む黒い一機の巨大な兵器。

 

「何故あなたが......」

 

 ACは静かに二人を待ち、この空間に二人を受け入れた。ACの周辺には衛星砲の機能を停止させる装置が設置されている。それを破壊すれば衛星砲は止まる。しかし、その障害としてACが立ちはだかっている。

 全てはこのときの為に準備されていた。篠ノ之束とACに乗る傭兵によって。

 

「『我々はいつも過ちを犯す......そうは思わないか?』」

 

 初めて聞いた傭兵の声に衝撃が走る二人。頑なに口を開こうと喋ろうと、コミュニケーションを取ろうとしなかった人物がここで初めて口を開き、自分の言葉を発したのだ。

 

 黒い鳥がもたらすモノは本当に破滅なのか。それはこの先の結果だけがしっている。

 

 終局は間もなくである。




応援してくれた皆様ありがとうございます。

駆け足に駆け足となってすいませんでした。

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