舞い降りた一羽の黒い鳥   作:オールドタイプ

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25羽 異界に散る

『現時点を持って我々の敵はこの世界と断定。攻撃を開始します』

 

 結論から言えば委員会の望む通り、思惑通り第一の争いが発生した。女尊男婢により弾圧されていた軍人達がクーデターを起こしたわけでも、政府の政策に不満を募らせた市民運動から発展した反政府組織による内戦でもない。資源欲しさでも何でもない。

 正真正銘の水を巡っての争い。科学技術の進歩により文明は飛躍的に高度に人類と共に発展した。その代償とも呼べるのが自然物の衰退。化石燃料の枯渇化日に日に進む。原子力発電所の普及に伴いエネルギー問題は一時は収まったかのように見えた。だが、先のチェルノブイリでの事故により原発推進派は反対派に押され始めていた。

 それを増長させるようにISによる女尊男婢という社会体制が誕生。女性たちは悪影響を及ぼす危険性がある原子力発電所の閉鎖を指示。エネルギー問題を省みず、明確な代案を用意せずの決定。当然エネルギー問題は再度発生。原子力発電所が存在する時でさえエネルギー問題が起きていた人口過密になりつつある世界において原子力に変わるエネルギーは未だに存在せず、深刻化の道を歩んでいる。

 更にかつてのとある国に存在した『女は子供を生むためだけの機械』の逆のパターンである『男は所詮種馬』の傾向に傾き出していた。これにより少子高齢化などの問題は解消されたが、増えすぎた人口に拍車をかけるような傾向にエネルギー問題がのし掛かった。子供が増えたことは悪いことではない。しかし、周りが悪かった。賄いきれなくなり生活苦になる家庭が増える。自然と子供も施設に預けれることとなる。一時期施設に送られる子供の数はその年に生まれた子供の約半数。かつてルーマニアのチャウシェスクの落とし子を越えるものが世界に蔓延。

 ここでようやく世界は間違った方向に進んでいることに気づいた。しかし、気づいたときには時既に遅し。深刻化するエネルギー問題と自国の増えすぎた人口。エネルギー資源の現象に伴い化学産業のみならず、多くの産業が停滞。物価の高騰化。食料自給率を国民の消費が越得ることとなった。

 生活が貧しくなってもやりくりでどうにでもなる。しかし餓えには耐えられない。日本と違い世界のほとんどの水の質が悪い。飲み水は市販の物を購入せねばならない国もある。水道水が飲めた物ではないのだ。だが、既に他国に水を輸出する余裕のない国は輸出をカットし、自国に回すことに専念しなければならなかった。

 輸入に頼っていた国は水の供給が絶たれることとなる。国連や燐国の支援が得られるが一時凌ぎに過ぎず、解決の糸口には繋がらない。

 そしてとうとう水を巡っての争いが起きたのであった。第一の争いは生活のため水を燐国に奪いに行ったのが始まりである。そこから徐々に一人二人と水の略奪者が増えていった。始まりは軍人でも政府の高官による工作でもない只の一般市民によるもの。まだ、政府の高官、軍人の家庭の生活は安定していた。彼らの元にも略奪者は向かったが、返り討ち。

 ここで問題なのが自らが狙われないためだけに、燐国への略奪行為を政府が黙認することとしたのだ。当然水が必要な市民はこぞって燐国へ、実態を知った燐国との衝突は避けられない。

 そして過去を掘り返すように揚げ足の取り合いが国同士で行われ、国同士の争いに発展。

 

 全て委員会の想像通りであった。争いに発展するまで委員会は手を出していない。彼らが手を出すのは争いが起きた時。

 『ゾディアック、傭兵との接触で進化したIS』を保有する彼らは量陣営にそれを供給。進化したISは操縦者を必要としない。命令を与えればそれを確実に遂行してくれる無人機であった。

 無人機は生産、整備の必要がなかった。一機の無人機を母体とする自己分裂、自己増殖により子機となる無人機からデーターを吸収。それを糧にし更に強くなる。

 これが確立すると傭兵とゾディアックは不必要な存在となった。整備、補給が望めないAC。いつ裏切るか分からない不安定なゾディアックと傭兵よりも無人機を運用するほうが建設的だと判断したのだ。

 傭兵が襲われている同時刻にゾディアックも襲撃を受けていた。相手がACということもあり、委員会は早速無人機達を投入。既に大破寸前のACでは進化したISとACのハイブリット機を相手にするには分が悪すぎた。ゾディアックは敗退。撤退こそ出来たが満身創痍。まともに戦える状態ではなくなった。

 圧倒的な力を誇った傭兵、ゾディアックであっても多勢に無勢。

 全身装甲のISを戦闘に、輸送ヘリに固定されたACが戦闘区域を目指していた。

 既に彼らは他の戦闘区域にも降り立ち量陣営に攻撃を開始。破竹の勢いで量陣営を圧倒。全メンバーが集結することとなって、敗退を喫することとなった無人機をも撃退していた。

 

『まもなく領域に突入。各員戦闘用意』

 

 ボロボロの頭部メインカメラのツインアイに光が灯される。装甲は剥げ内面のパーツが剥き出しになっている。頭部だけではない。機体の至るところにそれまでの戦闘による傷の痛ましさが機体に現れている。動くのがやっと、動けるのが不思議なまでの損傷状態であっても彼らは戦闘行為を続行。

 この戦いも勝敗など初めから決まっていた。わかっている。わかっているが、彼らはそれでも戦う。

 

「やっぱり今回も負ける戦いなのねぇ......」

 

「負ける戦いは得意だろ?」

 

『警告、敗北主義と捉えます。それ以上は反逆行為とみなします』

 

「下らん......奴等の争いなど興味ない。私は使命を果たすのみ」

 

「雑兵だらけじゃないことを願うぜ」

 

「俺達全員を担ぎ出すとは、追い詰められたなアンジー」

 

「我々の任務を果たす。本当に我らは失敗作だったのか......それを突き止める」

 

「全員が揃えなかったのか残念だがな」

 

「No.2、No.1の仇は結局討てなかったな」

 

「奴等の分も戦えばいいさ」

 

「敵を殲滅するのみ」

 

 投下される残存するゾディアック。投下先にはゾディアックを待ち伏せていた国連軍が展開済み。ゾディアックを完全に包囲していた。

 

『残存する全てのゾディアックに告げる。最早君たちに戻るべき場所はない。速やかに降伏せよ。君たちには戦闘力と呼べるものがないのは知っている。無駄死にをするな』

 

『......敵を確認。各機殲滅せよ』

 

 国連軍による降伏勧告を無視。ゾディアックはHBによる高速移動で展開する国連軍の中を突き進む。

 ゾディアックに後退はない。あるのは前進のみ。勝って勝利者となるか負けて敗者となるかの二択。

 それが例え負け戦であっても彼らは突き進む。ゾディアックとしてなのか、『個人』としてなのか、彼らの中に降伏、後退の意思はない。

 ゾディアックのACのHBが途中で途切れる。エネルギーが切れたからではない。ブースターが遂に完全に破損したのだ。これによりHBはおろか、GBも使用不可能。行動は歩く、走る、ジャンプに制限される。ブースト移動が不可能となったことでAC持ち前の運動性は失われた。これが意味するのは国連軍にとってゾディアックはただの的であること。

 更にACには特徴とも言える堅牢さは廃されている。今ACを纏う装甲は通常兵器でも十分に破壊可能なレベルまで装甲の防御力は落ちている。当然本体の耐久力も虫の息。

 度重なる戦闘の傷跡の蓄積はいつしかゾディアックにとって致命傷となっていた。最早ACに出現時の勢いはない。今となっては鉄屑寸前の塊。ISや現代兵器に勝るアドバンテージを失ってはそれらに勝てる道理はない。

 

「勝つために人形となったのに、それでこのザマ。何が望みだったのかなんて覚えちゃいないけどさ」

 

 先ず始めにタンク型のACとオカマ口調のメンバーが脱落。元々機動性が劣るタンク型では、ブースターによる移動手段を失った時点で詰みである。

 

「けど......ね、何故か気分......が良いの......よねぇ。何で......かしらアン......ジー?」

 

 問いかけに返事は返ってこない。

 

「負けて......悔し......いはずな......のにね......悔しい......? 何かしら? ......あぁ、そうなのね。これが『感情』な......のね......最後に......思い......」

 

 爆散するタンク型のAC。IS、戦闘機、戦車による初のACの撃破。この事実は展開する全ての兵士だけではなく、前線に出ていない艦艇部隊並びに後方支援部隊そして上層部に通達され、兵士の士気が一気に上昇。

 

「やれる。やれるぞ俺達でもACをやれるぞ!」

 

 士気は旺盛。希望が見え出した兵士達は勇敢にACに立ち向かう。だからといって国連軍がゾディアックを圧倒出来るわけではない。

 

「やってやる......やってやるぞ......」

 

 圧倒的に数で劣るゾディアック。例え彼らのACがスクラップ寸前であっても国連軍にとって脅威であることに変わりはない。大破寸前の機体で一歩も引くことなく臆することなく戦火に飛び込んでいける彼らの気迫、覚悟は本物の戦士。

 死ぬか生きるかではない。勝つか負けるかの世界の住人の彼らに生死の有無は考慮すべきことではなかった。

 ゾディアックの存在意義、ゾディアックの目的。この世界の住人には到底理解出来ぬことである。そして彼らが負け戦であるにも関わらず挑んできたこともこの世界の住人には到底理解出来なかった。

 委員会の思惑通りであった戦争の唯一のイレギュラー。傭兵ではなく、ゾディアック......彼らの反抗である。

 取り逃がしてしまったが既にゾディアックの牙はもがれていたも同然。まさか戦争に介入してくるとは予想だにしていなかった。

 ゾディアックの本質を見誤った委員会の誤算。コントロール出来た戦争もゾディアックの介入よって大混乱。委員会のコントロールから離れることとなった。

 コントロールされなくなった戦争は只の破滅行為。委員会は再度コントロールするために躍起になったが、一度手元から離れた戦争はコントロール出来る規模のものでは無くなった。

 予想以上に戦争は過激化。委員会の思惑とは真逆の破滅の道に進みだしていた。戦争を激化させたのがゾディアックならば、鎮火させるのもゾディアック。

 戦争が激化するなかでゾディアックに焦点を付けた世界が団結を始めたのであった。ゾディアックを世界の共通の敵として。

 打倒ゾディアックを目指し、手を取り合う中で世界はそれまで戦っていた国との戦争が意味のない不毛な争いであったことを悟り始めていた。

 国同士の狂気が収まり始めた。そして委員会はこの気を逃さないべく、解散した国連を最結集。新国連としてゾディアックを迎え撃つ方向に切り替えた。

 戦争を戦いを望むゾディアックの行動が奇しくも世界統合の切っ掛けとなったのは皮肉である。そしてゾディアックはその事に気づいていない。だが、例え気づいたとしても彼らの知るよしではないのは確かだろう。

 

「次から......次......へ......と鬱陶し......い奴等だ。俺は......面倒が......嫌い......だってのに」

 

 傷つき散っていくメンバー達の屍を越えてゾディアックは進撃を続ける。

 

「ハハハハハ! まだまだ行けるぜ、アンジー!」

 

 一人また一人と戦士達は異界の地に眠る。その世界の者達の記憶へと深く自らの存在を根強く植え込んで。

 

「よい......戦士達......だ......感......傷......だが違う形で......出会......いた......かった......ぞ」

 

 ACの周りに群がるISはサイズ比からも蝿が人間に群がるようであるが、阿莉と同様に数が集まれば脅威ともなる。

 度重なるACとの接触によりIS陣営もACのことを研究し続けた。真っ向からの衝突では勝ち目が無くとも、戦略さえあれば対抗が出来るというのがIS陣営の導き出した答えである。ましてやACは整備、補給が受けれない度を過ぎたオーバーテクノロジー。IS世界には脅威であったACの武器も機能も防御力も最早存在してはいない。ISの勝算は充分である。

 

「こ......こまで......か。お前だ......けでも......道ずれ......に......させ......て貰う......か」

 

『No.3 No.4 No.10 No.9 No.7ロスト』

 

「壊滅状態か......戦況は芳しくないな」

 

 ISと通常兵器での中に混ざる『進化したIS』と『黒い巨大なAC』がゾディアックにとって何よりも厄介だった。

 『ゾディアックしか狙わない』進化したISと黒い巨大なACが国連軍側に付いていた。黒い巨大なACはゾディアックも遭遇済み。しかし、圧倒的な性能を誇る黒い巨大なACの前ではゾディアックも撤退せざる得なかった。

 今回は撤退のできる状況でもなく、逃げる場所もない。ゾディアックが勝者となるにはこの二つの障害を越えなければならない。

 

「あの黒いAC......そして青色と赤色の無人機......」

 

 かつて彼らゾディアックと傭兵が存在した世界に深刻な汚染を引き起こし、穢れた世界へと変貌させた『緑色の粒子』を振り撒く黒い巨大なAC。

 姿形がACに酷似している青と赤の無人機。青色の無人機は特徴的な2本の槍のような腕をして空中から見下ろす。赤色の無人機は⑨のエンブレムがとても目立つ。

 

「我らは『奴』のような者に対抗する或いは、奴のような力を持つ者を制御するために生まれたのかもしれないな。笑えるな、我らは偽物だったのだからな」

 

 メンバーの一人に群がる例の三機。無人機は委員会がもたらした戦力だが、黒い巨大なACは委員会の息が掛かっていないUNKNOWN。何処からともなく現れては国連軍側に参入していた。

 無人機も委員会がもたらしたとはいえ、その進化には謎が多く、何故ACだけを狙うのかは不明。AC以外を相手にすることはなく、ACを認識したときのみその機能を発揮する。

 

「後は......頼んだぞ......No.8」

 

 囲んでいた三機の機体を巻き込んで自爆。自爆装置など設置されていないACで自爆をするには、大破した機体のままACのメインエンジンをオーバーロードさせ、膨大なエネルギーを暴走させる必要がある。これによりACは自爆を可能とさせた。

 ゾディアック達の乗るACは小型とはいえ、無尽蔵に供給される膨大なエネルギーの規模はISの比ではなく、核反応並のエネルギー暴走による爆発に巻き込まれれば無事で済む訳がない。

 進化したとはいえ、所詮はIS。どれだけACに近づこうがACにはなれない。黒い巨大なACが張っていた『粒子のバリア』もゾディアックの手により消失していた。

 爆風が晴れた頃には三機とも大破。。黒い巨大なACは機体から緑色の粒子を溢れさせながらその場で活動不能に陥り、二機の無人機は爆発により粉々になった。

 

「......上出......来だ。No.12。......無......念」

 

『No.12 No.11ロスト』

 

「遂に......俺の......番......か」

 

『No.5ロスト』

 

 残るゾディアックは二機。

 

「......どう......や......ら俺も......ここまで......のようだ......良かった......ぜお前......とは......アンジー......」

 

『No.6ロスト。残りはNo.8あなただけです』

 

「アンジー......以前も聞いたが我らがいなくなった後お前はどうする?」

 

『............』

 

「ふっ、答えなくていいさアンジー。我らの知るお前はいなくなったと思っていたが、まだ残っていたのだから」

 

 最後の一人となった戦士。半壊した頭部のカメラの光は失われておらず、ゾディアック自身でもあるACからゾディアックの闘志は衰えていないことが伺える。

 

「今この瞬間は力こそ全て。異界の者達よ......越えてみろ我らを!」

 

 最後の力を振り絞り国連軍の輪の中に突撃する最後の戦士。

 戦争は早期終結を果たした。国連軍側の被害は微小だが、戦火に包まれた地域の被害は甚大である。何よりも戦争終結後も緑色の粒子を放ち続ける黒いACがあるせいで、最終決戦の地には誰も近づくことが出来ないため復興が遅れている。

 委員会が戦争をコントロールしようとしていた事実は隠匿された。しかし、委員会は曲がりなりにも戦いの中で人類同士が手を取り合う姿をみて、人類に対する希望が生まれた。これにより委員会は自らの行動を懺悔し、復興に尽力を尽くすこととなった。その際、自らの思惑のために切り捨てたゾディアックと傭兵への謝罪と墓石を決戦の地に建てた。

 そして決戦に利用された進化したISは委員会の監督の元で封印が決定され、二度と使用されないように地下に格納された。

 

    ◆ ◆ ◆

 

「戦争は終わったみたいですわね」

 

 戦争が世界規模に発展する前にゾディアックが介入したことで、全面戦争は避けられた。IS学園はどの国家にも帰属しない完全な中立期間ということもあり、在籍する代表候補生を含めた全ての生徒達は戦争には不参加。その行く末をテレビ中継で眺めていた。

 始めは戦力確保のため祖国から出頭を命じられていたが、ゾディアックの参入による国家間の結託による新国連の発足により年端のいかない少女達の参戦は見送られた。

 

「被害は大きいけど復興が望めないわけではないみたいだよ」

 

 終戦となったその日から復興が始まり、それまでの過ちに気づいた人類はそれまでの制度と政策に反省し、僅かな変化ではあるが、手を取り合いよい方向へと歩み出そうとしていた。

 

「少しの間は世界中の経済が不安定になるけど、直ぐに元に戻りそうね」

 

 IS学園の生徒もISを使用しての瓦礫の撤去に当たり、世界中へ派遣されていた。

 

「早く復興させ、早く学園生活に戻れると良いな」

 

 深紅に染まるISを纏う篠ノ之箒。彼女のISは訓練機ではなく正真正銘の篠ノ之箒の専用機である。名を紅椿。戦争が発生する前の俗に呼ばれている『福音事件』時に彼女の姉から直接手渡された第四世代機である。

 第四世代機は篠ノ之箒のISと荒廃した大地を眺める織斑一夏の白式のみ。

 大地を眺める織斑一夏は傭兵のことが気掛かりであった。戦争の中継では映されなかった傭兵のAC。ゾディアックは壊滅してしまったが、もしかしたら傭兵は何処かでまだ生きているのかもしれない。織斑一夏は傭兵の生存を信じていた。

 

「なぁ、ゾディアックって本当に悪い奴等だったのか? 死ななきゃいけない人達だったのか?」

 

「今思えば奴等もただ利用されていただけだからな」

 

 責任を感じていた委員会は自らが利用していたゾディアックと傭兵のことをカメラの前で発表。委員会が何のためにゾディアックと傭兵を利用したのかは白日の元に晒された。

 当然批判にさらされたが、委員会は正面から全ての批判を浴びた。それが自らの行いに対する戒めである。投獄されるのは復興が完了してからである。

 

「 奴等に限らずあの男への対応も間違っていた。今さらそんなことに気づくなんてな」

 

 全てが終わってから学園の生徒達も利用されていた傭兵とゾディアックに対する考えを改めていた。そして後悔していた。

 

「その内会えるわよ。あの社会不適合者がそう簡単に死ぬわけないじゃない」

 

「......今度あったときは謝ろう。それまで避けていたことを」

 

「私の手料理をまだ振る舞っていませんから」

 

「それは止めた方がいいよ」

 

「あの男は興味深い人材だ、今度我が隊に誘ってみるとしよう」

 

 各々が傭兵に対する思いをさらけ出す。少女達も傭兵へのあからさまな態度には反省と後悔をしている。そしてもう一度向かい入れようとしている。『一人の友人』として。

 都合が良いように手のひらを返しているだけかもしれないが、まだまだ人として未熟な少女達なりの考えであることを忘れないで貰いたい。

 

「レイヴンさん......あなたは何処にいるのですか?」

 

 織斑一夏の呟きは突風の風の音によってかき消されてしまった。

 

    ◆ ◆ ◆

 

「本当に行かれるのですか?」

 

 暗いロッカールームでパイロットスーツに着替える男。その背後で両目を閉じて杖を持った銀髪の少女が男に向かって呟いていた。

 

「戦争も早期に終結しました。あなたが戦う必要はもうありません」

 

 少女の呟きを無視して男は......傭兵は黙々と準備を続ける。

 

「何故自らを貶めるような......悲しみを背負うようなことをするのです?」

 

 生き延びて拾われた傭兵は戦争が起きたことも終わったこともゾディアックが壊滅したこともしっている。これ以上戦う必要もないことも知っている。世界が良い方向に進もうとしていることも知っている。知っているが傭兵は戦おうとする。だからと言って世界を恨んでいるわけではない。傭兵は傭兵なりに考えた結果戦うことを選んだ。

 

「あなたは悲しい人です」

 

 ロッカールームを去っていく少女。その少女と入れ替わりで一人の女性が傭兵の前に現れる。

 

「......あんたの要望通りにはした。だけど応急処置程度の無駄な延命処置に過ぎない。あんたの体も一緒」

 

 自分自身の体のことは傭兵自身が一番よくわかっている。それでも傭兵は自らを省みない選択をした。それが傭兵の望みなのだから。

 

「あんたは人間が好きなんだよ。あれだけの目に逢っても絶望しちゃいない」

 

 去り際に女性が残した言葉。最後まで傭兵が解らなかった『愛』が少しだけ解ったかもしれない傭兵であった。

 

 




急ぎ足でむちゃくちゃですが、ご勘弁を。

これは私の勝手な思い付きで、ここまでの話の間に何があったのかを読者の方々の妄想で補完して頂けるスタンスを取ったからです。

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