4系は比較的作りやすそう。私は天敵を閃ハサのマフティーぽいもので連想しています。
どうでもいいですけど、『イレギュラーは常に人間でなくてはならない』。
黒い鳥。ある一人の名も無き傭兵が後の世に語り継がれる時についた名称である。
かのものが降り立った戦場または関わった全てを破壊し、焼き付くしてきた。かつての仲間であった者でさえ躊躇い容赦なく破壊。その時のエンブレムが黒く焦げた鳥であり、以後傭兵が自身のエンブレムとして使用していたことから、傭兵を知る者が語り継ぐ際にそう命名された。
焼き付くし破壊してきたことは傭兵自身が望んでいたことではない。『そうなってしまった』。言われるまま、時代と運命に翻弄されるまま付き従った結果。『白紙』だった当時の傭兵はそれさえも気づけなかった。気付かないほうが幸せだったのかもしれない。気付かなければ、何も得ずに知らなければ苦しむことも何もなかった。
過酷な運命の星の元に生まれ落ちた傭兵に付きまとう呪いジンクス。どれだけ足掻こうが逃れようが変わろうが付きまとう。
傭兵が関わった戦場或いは大地は焼き付くされる。それが例え本人が手を出さずとも自然現象のように。
両膝を付き呆然と焼け落ちる建築物、焼け野原と化す大地を眺める。全周が火の海に包まれる中心に傭兵はいる。力なく脱力する傭兵の目に映る景色は見慣れたモノだが何かが違った。傭兵の傍らには、倒壊した建築物の瓦礫の間から見える『手』が転がっている。未成熟な小さな『手』はまだ幼子のものであると簡単にわかる。
『手』だけではない。そこらじゅうに辛うじて『人だった』と思わしきモノもある。性別や個人の判別は困難である。
悲鳴と物が焦げる音と臭いに混じる『AC』。縦横無尽に蹂躙を続けるACの姿を自分自身と重ねる傭兵。今のACは嘗ての自分そのもの。初めて蹂躙される側から眺める傭兵はゆっくりと静かに首を左右に振る。
青く清んだ瞳に映る景色に傭兵は何を思い、何を感じているのか。それは本人にしかわからない。
◆ ◆ ◆
「誰か手を貸してくれ!」
「他にも生存者がいないかどうか捜索するぞ」
騒ぎは瞬く間に広がり、あっという間に終息していた。火の海と化した大地は駆け付けた消防隊により鎮火され、倒壊した建築物の瓦礫の撤去と遺体の搬出及び生存者の捜索にあたる警察と消防と自衛隊。遺体は袋に納められ、僅かに生き残った生存者は救急隊員の処置を受けている。火傷を負った者。手足が吹き飛んだ者。生存した者に追い討ちをかけるように地獄の苦しみが襲う。苦痛に喘ぐ人々の声が傭兵の耳に鮮明に入る。逆に他の声や音が聞こえてこない。まるで耳元で囁かれるようにそれだけが聞こえる。傭兵を状態を確認しようとする救急隊員の問いを掻き消す。
毛布に体を包まれ、飲料水を手渡されているが一向に手をつけない傭兵。様子の異変に救急隊員はカウンセラーを呼ぶが、傭兵は何を問われても答えようとしない。
カウンセラーや周囲で懸命な捜索活動を行う者達の声がいつしか傭兵への憎悪の声に聞こえるようになっていた。
『お前のせいだ』『お前さえいなければ』『同じ苦しみを』『娘を返して』『許さない』『恨んでやる』
勿論実際に死者が叫んだりすることなどないのだが、傭兵には犠牲者達の悲痛な叫び声が確かに聴こえているのだ。
怨念の籠った囁きに耳を塞ぎたくなるのだが、傭兵は耐える。これが自身の『罪』であり『罰』でもあるからだ。
かつては『何も感じなかったこと』だが、今は『感じることができる』。故に目を耳を背ける訳にはいかなかったのだ。これまで自らが行ってきた業を。
平穏を求めてしまったことによる傭兵への裁き。罪は償わなければならない。業は背負わなければならない。決して忘れるべきものではない。決して無関心でいてはならない。
傭兵の目から光が消えかけていく。傭兵は悟ったのだ。自分は絶対に逃れることができない。逃れようのない存在なのだと。自分はACに乗るしかないと。それ以外に生き方など存在しない。許されないのだと。
この世界に来て半端に『倫理観』や『道徳』や『人間性』を得てしまったことが逆に傭兵を苦しめていた。何も得ずにいればここまで傭兵が思い詰めることも、苦しむことも悩むこともなかったのかもしれない。
不運なことにこの世界でも傭兵の味方はいない。後ろ楯も心の支えとなる人物もいない。寄ってくる者達は傭兵の『強さ』だけしか見えていない。ただ一人を除いて。
◆ ◆ ◆
ニュース速報を目にしたときは実感が湧くまで時間が掛かった。現場に来た今でも未だに信じられない。『ゾディアック』が軍施設以外を標的とし攻撃を仕掛けてきたことが。
真っ昼間の長閑な田舎町を襲った悲劇。日本全土に衝撃が走ったことだろう。どれだけの人間が事の重大さに気づいているのかはわからない。だが私は気付いているつもりだ。
「酷い.....こんなことって.....」
運ばれてくる遺体の収容の一部始終を見てしまった山田君が辛そうに目を背ける。遺体のほとんどは真っ黒に焼け焦げたものや、損傷が酷く原型を留めていない。現実の戦火の跡にやって来ているようなものだ。大抵の日本人にその耐性はない。軍人ですら心を病んでしまう。生存した人や遺族の人達も正常ではいられないかもしれない。
「ゾディアック.....ここまで容赦なくやるか。だがなぜ片田舎の町を襲った.....」
私も人の子。来るものは来るが、必死に堪え踏ん張る。私は来るべき時に備えて連中の目的や行動理念を知る必要がある。この惨劇から何かヒントを得れるのかもしれない。だから目を背けるわけにはいかない。
なぜ私達がここにいるかというと、逃げ出した奴がここにいることがわかったからだ。そして人混みの中から探し人を見つけた。地面に座り込みうつむき伏せている。
「こんなところにいたのか.....探したぞ。よく無事だったな」
だが何処か様子がおかしかった。目の前にいる人物は私の知る人物と同一であるとは思えない程小さく見える。
「.....どうしたのだレイヴン。お前らしくない」
目線を合わせ肩にそっと手を当てる。じわじわと顔を上げるレイヴン。私と目が合った時私はぞっと体全体に悪寒が走り、鳥肌と震えが止まらなくなった。足を半歩引き下げ後退りする。
青く清んでいるはずのレイヴンの目がどす黒く染まっている。その目には何も映っていない無そのもの。私の顔も映っていなければ言葉も聴こえていないだろう。
レイヴンの身に何が起きたのか理解できなかった。今のレイヴンは初めて会った時と重なる。いやそれ以上に禍々しい。
「何があった.....お前の身に何が起きたのだ?」
「まるで別人のようです」
レイヴンの変異は誰の目にも明らか。丸くなっていたものが変わってしまった。いやこの場合は『元に戻ってしまった』というのが適切なのか。どのみち私達が共に過ごしたレイヴンはもう何処にもいない。そんな気がしてならない。
◆ ◆ ◆
何か言っている目の前の女は誰だ? 女だけではない。俺は誰なんだ? ダメだ。自分が何者かもわからない。解っているのは俺にはACしかないことだけ。ACに乗れない乗らない俺など無力な存在。それを身をもって体験し教えてくれたゾディアック。
この惨劇は無力な俺が引き起こしたこと。やはり俺には戦いしかない。戦うことでしか自分の価値を見出だせない。戦いこそ全て。それを捨ててしまえば俺が俺でなくなる。ゾディアックはそれを思い出させてくれた。
だが、このやりようのない感情はなんだ? この憤りはなんだ? なぜこうも悲しい? これが感情? これが怒り?
ではこの怒りを向ける相手は? 誰のことがこんなにも悲しいのだ?
ゾディアックに怒りを向ける? 奴等の経緯はタワー内部で知った。そしてそれが奴等なのだから責めるのはお門違い。..........なんだ簡単なことだ自分に向ければ良いだけではないか。
◆ ◆ ◆
「なぜ退かせたアンジー?」
『ACに乗っていない彼など敵ではありません。よってあれ以上の戦闘行為は無意味と判断したまでです』
「.....我らの望む敵は奴しかいないのか」
『彼は必ず来ます。絶対に』
◆ ◆ ◆
学園に戻ってきた傭兵を待っていたのは手厚い歓迎。彼が校内を歩けば周囲の生徒達は口々に傭兵に聞こえるようにわざと陰口を叩く。
「よくものうのうと過ごせるわね」
「自分がどれだけ危険な存在か自覚してないんじゃない?」
「早くいなくなってくれれば良いのに」
「じゃないと私達まで危険に晒されるし」
手のひら返しとは正にこのこと。よってたかって傭兵を持ち上げていた者達は、傭兵が爆弾のような災いを呼ぶ存在だと知った途端に態度を翻した。それまでの扱いが嘘であるかのように邪険にする。最早学園に傭兵の居場所は限られ、肩身の狭い生活を強いられている。
全ての元凶はゾディアックからの声明。『レイヴンと名乗っている者を我々は探し、戦いを仕掛ける』。
日本だけではない。これは世界にも流された。そしてこのタイミングで委員会もAC並びにゾディアックや傭兵の存在を公にした。ゾディアックと委員会の計らいで傭兵は逃げ場を失う。退路を絶たれた傭兵は戦うしかないのだが、既に悟っている傭兵にはさして問題はない。周囲の扱いなど眼中にもない。
「なんだよこれ.....皆冷たすぎだろ」
ただ一人。織斑一夏だけは違った。彼だけは変わらなかった。周囲が変わっても彼だけがめげずに傭兵に接している。最早傭兵は織斑一夏に対して何も抱いていないのだが、心の何処かで何かが引っ掛かっていた。
「一夏もうやめなさい。あんたまで孤立するわよ」
「関わるのはもうやめとけ」
「残念ですけどこれが現実ですわ」
「僕たちが関わってはいけなかったんだよ」
「諦めろ」
織斑一夏の周りの少女達も例外ではなかった。彼女達も完全に傭兵から離れてしまった。
「なんだよお前たちまで.....なんでなんだよ」
織斑一夏にはそれが理解できなかった。どちらが正常な判断なのかも一概には何も言えない。そんな様子を眺める傭兵。一応彼女達に感謝の気持ちこそ残されているが所詮『それだけ』でしかなかった。
「レイヴン.....至急生徒会室に来い」
通路の影から現れた織斑千冬。端的にそれだけを伝えるとさっさと傭兵の横を通り過ぎていく。その態度は素っ気ないが、どこか寂しさも合わさっていた。
議論を続ける織斑一夏一向を無視し生徒会室までやって来た傭兵。軽くノックをし室内に入った傭兵を更識楯無と布仏虚が待っていた。その表情は非常に強張っている。二人の顔を伝う汗が二人が無理をして強がっているとわかる。二人は怯えている。勿論傭兵に。
「踏んだり蹴ったりな目に合って大変だという御心中は察します。ですが急を要することだったので」
扇子を取りだし扇ぎ始める更識楯無。靡く髪と散りばめられる汗。先程よりも冷や汗をかいているようだ。
「此方にご記入をお願いします」
布仏虚が取り出したのは『退職願い』と書かれた一枚の紙。紙には文章が既に書かれており、名前だけが記入されていない状態である。
「文章は私共で用意しました。後はあなたの名前を自筆で書いていただければ手続き完了です」
「本来なら全文を自筆で書いてもらいたかったんですけど、特例処置として名前だけ記入して貰えれば良いようにしておきました」
遂に学園側も傭兵を追い出すことにしたのだ。追い出すというのは些か乱暴であることから、出ていって貰うといったところだろう。
「あなたは学園に勤めたつもりはないかもしれません。ですが、実は此方で勝手に書類手続き等を済ませて正規の職員として雇用したことにしていたのです。傭兵を雇うのは世間体に悪いですから」
「そして今回の件であなたの存在は大変危険だと衆知の元に晒されてしまいました。学園側も危険だとわかっている人物をこのまま学園に在籍させておくわけにはいかないと、緊急の職員会議で決定しました。これも生徒達の身を預かる者達としての決定です。納得いかないかもしれませんが何卒ご理解のほどを」
こんな勝手な言い分を納得も理解もできるはずもなく、する必要も要求を飲むこともないのだが、傭兵は言われるがままに自筆で『レイヴン』と記入していく。
「確かに確認しました」
「退職願いもこの場で受理しました。レイヴンという呼び名もこの学園で活動する上での名なので、あなたはもうレイヴンではありませんね」
レイヴンという名も失い傭兵に残されているものはもう..........
「まもなく委員会の特使が来ます。これからあなたの身柄は委員会が預かることになっています。因みにあなたのチームは解散しています。学園もACに関する全ての記録を破棄。パーツ開発も凍結。あなたの部屋も撤去を開始しています」
何もかも傭兵の知らないところで動いている。ここが傭兵にとって分岐点となるはずだったが、選択肢がない。用意された一本道を進むしかないのだ。選択肢があれば別の人生も考えられたのかもしれないが、もうその可能性も存在しなくなった。
用件を済ませた傭兵は無言で去る。この広い世界でも傭兵はまた独りとなってしまった。
「ふぅー、緊張した」
「一瞬たりとも気を抜けませんでした」
傭兵が去った後で緊張の糸が解れた二人はその場で脱力。
「..........ごめんなさい。本当にごめんなさい」
机に項垂れながら誰にも聞こえないか弱い声で傭兵に対して謝罪する更識楯無。彼女自身も申し訳なく思っているのだが、本人がいないところで謝罪したところで何の意味もない。
◆ ◆ ◆
そして学園を去るときが訪れた。傭兵の手には万が一の抵抗に備えて手錠がされている。傭兵は抵抗する気などさらさらないのだが、そんなことはお構いなしである。
ACの搭載も完了。後は傭兵が輸送機に乗り込むのみ。ふと振り返り学園を見渡す傭兵。多くのことがあり多くのことを学ばせて貰った学園。
傭兵の脇には図書館の女性からの餞別の本が挟まれている。最後の最後まで礼も言えなかった。傭兵に日本語を教えた教師にも何も言わなかった。織斑一夏にも織斑千冬にも。誰にも。
手のひら返しを受けても傭兵は生徒たちに対して負の感情を抱いてはいない。自分を追い出した教師や更識楯無を恨んでもいない。何故かはわからない。
周辺には野次馬のように集まっている生徒で埋め尽くされている。ほぼ全員冷ややかな目で傭兵が去るのを待ちかねている。
「やっぱり納得できねぇよ!」
集団から飛び出した織斑一夏は連れていかれる傭兵の前に両手を広げ立ち塞がった。傭兵と傭兵の脇を抱え引っ張る二人の兵士は足を止める。兵士は立ち塞がった織斑一夏に小銃を向け退くように指示するが織斑一夏は従おうとしない。
「レイヴンさんは連れていかせない」
レイヴンでなくなった傭兵を未だにレイヴンと呼ぶ織斑一夏。彼の中にはここで傭兵を連れていかせたから最後、傭兵が『人ではなくなる』と思い込んでいるからである。織斑一夏の決意は固く、それは彼の目を見ればよくわかる。その気になればISを展開してでも止めようとするだろう。
自分の前で織斑一夏に銃を構える兵士を払いのけ織斑一夏に近づく傭兵。
「レイヴンさん。あなたは行ってはいけない。後戻りできなくなる」
今まで傭兵を擁護していた織斑一夏が初めて傭兵に敵対した。それも全ては傭兵のことを思ってのこと。お節介でもなんでもいい。これだけは譲ることが出来ないのだと決め込んでいた。
そんな織斑一夏の心情を察したのか傭兵はかつて見せたことのないような穏やかな表情をし、織斑一夏の頭をそっと撫でる。そして勢いよく後頭部を手錠で叩きつける。
突然の後頭部への衝撃で脳が揺れ、平衡感覚を失った織斑一夏はその場で踞る。
「キャー!」
「織斑君が殴られた!」
「やっぱり野蛮で危険なのよ!」
目撃していた生徒達から次々と非難を浴びる傭兵。そんな彼女達を一瞥し再び輸送機に向かって歩き始めた。二人の兵士は踞る織斑一夏を気にするも直ぐに傭兵の元へと小走りし、再び傭兵の脇を抱える。
輸送機の側には織斑千冬が両手を組み、目を閉じながら輸送機に凭れ掛かっている。傭兵が輸送機に乗り込もうとしたときも、乗り込んだ後も織斑千冬は両目を閉じたまま、傭兵の顔を見ることはなかった。ハッチを閉じて輸送機が離陸準備に入ると織斑千冬は黙って輸送機から離れ、踞る織斑一夏の元へと歩み寄った。踞る織斑一夏を肩で担ぐと、轟音と共に離陸を始めた輸送機。ここで始めて織斑千冬は輸送機に向かって顔を向けた。織斑千冬が何を思っていたのかは彼女にしかわからない。
戦闘ではなくこういった面を主としていますけど、技量ないから上手く再現できずに、上手く読者の方々に伝えれない。
強すぎて危険すぎて人生ハードモード。主人公補正の出来る限りの撤廃。それでも『勝ってしまう』のがAC主人公。『また勝てなかった』人とは逆。