舞い降りた一羽の黒い鳥   作:オールドタイプ

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若干の黒い鳥補正が掛かっています。


14羽 黒い鳥大地に立つ

「すげぇ……」

 

 それは心の底からの称賛であった。目の前に突如現れた巨人は見かけからでは想像できないような動きをやってのけている。

 あるときはミサイルをブースターの熱で誘爆させ破壊し、あるときは五連射の攻撃を巧みにかわし猛烈な蹴り技を繰り出す。

 一連の動きは全て滑らかかつ鋭い洗練された動きであり、一朝一夕にやってのけれることではない。あのロボットのパイロットが誰なのかは知らないが、只者ではないのは確かなこと。

 上から目線に似た称賛など烏滸がましいことこの上無しなのだが、無い頭を捻り必死に絞り出した結果がこれだったのだ。

 

「何がどうなってるのよ……」

 

 目の前の事が現実なのか夢なのか処理が出来ずに思考停止しかけている鈴。だが、思考が停止しかけているのは鈴だけではなく観客席に取り残された生徒の大半がそうであった。いや、思考が停止というよりかは現実なのかどうなのかの処理が追い付いていないだけなのかもな。

 

「俺もあんな風になりたい」

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 ACが出現しやり易くなったとはいえ、俺が防戦一方の不利である状況に変わりはない。相手は此方と比べ2倍ぐらいの大きさな上に、無人機の攻撃にどこまで俺のACが耐えられるのかも不明。此方の手持ちの武器は一つだけで、そいつが通用するかどうかも不明。おまけに一発必中を狙わなければならないときた。外したら終わり。決定的な隙を狙ってはいるが、グラインドブレードのチャージングに時間がかかる上に中々無人機はその隙を見せない。

 一方的に繰り出される攻撃をなんとか回避しているが、いつまでもつか……

 

 それにAC同士で戦うにはアリーナは狭すぎる。何処か広い場所に移動しなくてはな。

 

 出力を最大にし近くにある観客席を踏み台にし蹴り上がることで、屋根まで飛び上がりを可能とした。そこから更に屋根を蹴ることでその後方に飛ばされる運動エネルギーの推進力により、前方へ高速移動。その余波でコックピットにGが掛かるが、これしきのGなと何度も経験している。

 

 俺がアリーナから離脱するのを見て無人機も追ってくる。どうやらアレサ同様に“俺“だけが目当てのようだ。脇で立ち尽くすオリムラ弟や他の観戦者に見向きもしていない。

 横目で後方の無人機を確認しつつブースト移動で地面を削りながら進んでいる。このまま学園の敷地外……海岸沿いを目指すか。

 IS学園を崩壊させるのはクライアント達の意向にそぐわないと判断し、尤も被害の少なそうな海岸沿い又は森林地帯を目指している。

 移動中もミサイルとグレネードによる連続攻撃がお見舞いされるが、左右に散るGBでグレネードは回避。ミサイルはギリギリまで引き付け地面を蹴り後方に下がることで回避している。

 精密な操作を必要とする動きは見た目以上に疲労が蓄積され、背中や顔に大量の汗が伝う。

 

 もう少しか。

 

 居住区と学舎から離れようやく海岸が見えてきた。森林地帯の木々を薙ぎ倒し、危険を察知した鳥が一斉に飛び上がり森林を去っていく。一種の薄い壁のように形成される鳥の集団。レバーと引き下げペダルを一気に踏み360°ターンで無人機の方を向く。無人機はターンで動きが一瞬止まったところを狙ってブレードを振ってくるが、俺のAC持ち前の小ささと咄嗟の判断により、ブレードが振られる前に懐に潜り込み、ブレードが装備されている左腕を俺のACの右腕で押し上げブレードの軌道を反らす。その後無人機に組み付きHBで地面に押し付ける。

 地が裂け土と植物が機体に付着するのがカメラ越しに確認できる。こうして押し付けてしまえばなにもできない。マウントの姿勢でのし掛かりながら無人機のカメラ目掛けて拳を何度もぶつける。流石に無傷では済まないらしく拳を振る中で無人機の頭部周辺のパーツが飛び散り始める。

 タコ殴りはそうは続かず、無人機は仰向けの姿勢のままブースターを吹かすことで解放された。姿勢を建て直そうと仰向けから流れるように立ち上がろうとするが、先程一つだけブースターを破壊したのが効いているのか思うようにバランスが取れずにその場に尻餅を着いた。

 

 今しかない。

 

 この一瞬しか“コイツ“起動させれない。背中に装備されているコイツもといOWは起動時にも僅かに時間が取られる。無人機は今尻餅を着き立ち上がろうとしている。つまり今しかないのだ。

 

 コード入力。Overd Weapon 『Gruid blade』

 

『不明ーーットーが接続ーーされまーーただーーに停止ーくだーい』

 

 左腕がパージされノイズ音混じりに『不明』を伝えるCOMの声。画面にもノイズが走りコックピット内全体が赤色に包まれ警報が鳴り響く。エネルギー供給量と出力表示計器のメーターが振り切れ、故障してもおかしくない尋常じゃない振れ方をしている。機体内の温度も若干上昇しACの冷却が追い付いてない。

 

 OW……本来はAC用の装備ではなく無理矢理ACに装備している形のこの兵器は、兵器自体に専用のAIユニットのような独自のシステムが組み込まれており、パイロットに関係なくOWが自意識でACの機能を乗っ取りOW単体では足りないエネルギーをACから供給させる。莫大な出力と威力誇るOWはほとんどの兵器を一撃で粉砕する。OW接続中は今のような機体に異常が発生し、エネルギーの供給も上がるが、使用後はACの機能のほとんどが低下し移動すら困難になる反作用もある。

 武器がこれ一つしかないのため使わざるおえない。起動は上手くいった。あとは外さないようにするだけ。一回外せばほほ終わりのようなもの。幸いグライドブレードはACの機能が低下する前に二回ほど攻撃が可能。だが、二回目など狙わない。この一撃に全精力を注ぎ全身全霊をもって破壊することに賭ける。

 気になるのはOWは無人機にも通用するかだ。あの無人機と俺のACは全くの別物。作られた技術も世界も違う。

 

 体勢を立て直した無人機は俺を直視している。余分な動きや攻撃は一切する気配はなく、両手でその獲物を構えている。

 最早ノイズ音と異常を告げる警報の音など耳には入ってこない。緩慢に感じる時の流れの中で感じるのは、自分自身の鼓動の音と荒い呼吸と顔に伝わる汗とレバーを握る力が強まっていることだけ。

 

 決着の時がきた。

 

 互いの動きの一動作一動作がスローモーションのように鮮明に見える。そしてその時は訪れる。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 ゴクリと固唾を飲み込む音が鮮明に耳に入ってきた。あれから離れていった二機を追い掛けて俺達はやって来た。鈴だけでなく、セキュリティを突破し解放された観客や千冬姉をはじめとした先生達にいつの間にか2,3年生までもが集まっていた。ちょっとした森林で止まった二機を、危険が及ばない離れた位置から観戦し特撮映画やアニメのような野次馬で二機の勝負の行く末を見届ける。

 小さい方のロボットが大きいロボットの上に馬乗りになり、拳を振る姿はまるで人間が巨人な立ち向かう姿にも見えた。

 金属と金属がぶつかり合う音と衝撃が大気にも振動し、安全地帯にいるはずの俺達までにもそれが伝わってくる。

 その音に怯える者。無言で見つめる者。あれについての議論を交わす者など様々な人がいる。千冬姉や山田先生や鈴やセシリアは黙って見つめる側。俺もその一人。箒だけが怯えており宥めに行きたいがこの戦いからどうしても目が離せない。

 

 そして決着の時が訪れた。

 

 馬乗りから逃れたロボットは体勢が崩れ尻餅を着いてしまった。その間に小さい方がナニかを装備した。背中に備えられていたナニかを装備した途端に左腕が宙を舞い、落下の衝撃による震動が走った。装備されたナニかは異質を放っている。ナニか巨大な圧力というかなんと言うからわからないが、とてつもない力を肌に感じる。

 その直後突然突風が吹き荒れ、空気がピリピリとしだした。そして轟く獣の慟哭のような甲高い音が鳴り、小さい方のロボットが直進的な突撃を始めた。

 大気をも切り裂くようなチェンソーのような刃が大きい方へと迫る。大きい方は両手持ちの武器で応戦を始める。アリーナで見たときはそのエネルギーと威力には驚かされた。そんな脅威的な攻撃が5発も続くのだ。正面から受けるには危険すぎる。なのに小さい方は避けようとせず突撃しるだけ。

 

 チェンソーの刃とエネルギーの塊が接触した。

 

 だが信じられないことに、チェンソーの刃がエネルギーの塊を真っ二つに切り裂いた。一発だけではなく二発三発と五発発射された全ての弾を切り裂いた。全く動きが止まることはなく切り裂きながら進む。最後に大きい方がブレードでカウンターを合わせようとするが、ブレードごとチェンソーの刃が大きい方のロボットの体をバラバラにした。

 パズルのピースのようなガラスの破片のような砕け方をしたロボットの体が森の中に散った。

 

 突然やってきた未確認の巨大ロボットは俺達に恐怖を与えたが、その最期は呆気のないものだった。

 

 全てが終わったロボットが此方に歩み寄ってくる。一歩一歩歩くごとに大地が揺れる。大きい方に比べたら小さいはずのロボットの姿がなぜか大きいロボットよりも巨大な姿に見える。

 俺達の前で止まりしゃがみこんだロボットの胸の辺りが開き、中から人が一人降りてきた。ヘルメットを取り脇に挟みながらナニ食わぬ顔で歩くその人には見覚えがあった。

 

「レイヴンさん……?」

 

 ハイパーセンサーに映し出されていたパイロットの顔はレイヴンさんで間違いなかった。どうしてあの人が? あのロボットは? 等の諸々の疑問はなく、ただ憧れの眼差しであの人を見ていた。

 

 この時からだろうか、俺がレイヴンさんの背中を追い掛けようとしだしたのは。

 

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 勝てた……

 

 ACを停止し地面に降り立った俺の内心は安心感で一杯だった。

 

 通用した。此方の武器でも問題なく戦える。

 

 振り返り停止したACを見上げ相棒に感謝の意を送ると共に、今後の自信を築き上げた。一時はどうなるのかと不安に駆られたが、その不安が大きかった分の喜びと不安が安心に変わったときの感覚が身に染みる。

 全てが終わった後にどっと蓄積されていた疲労の波が押し寄せてきた。アドレナリンが分泌されていたことにより、疲労を感じていなかったが一度冷静になるとその副作用の辛い目にあう。

 

「やはりお前だったか」

 

 人混みの輪の中からオリムラがやって来る。戦っている最中にカメラの片隅に学園の連中が映っていたが、邪魔にならなければどうでもいいと気にも止めてなかったが、こうしてみると大変な注目を浴びることになってしまったのだなと現実を見る。

 

「まさかACが二機も現れるなど予想だにしていなかった」

 

 それはこっちも同じだ。まさかレイヤードの無人機が現れただけでなく、俺のACも現れたのだからな。

 

「こうなってしまった以上もうお前のことやACのことは隠しようがないな」

 

 遅かれ早かれ何れは知られる事実。タイミング的にも丁度良いのではないのか?

 

「今日のところは一先ず全員を解散させ後日全てを発表する。ACは一度此方で回収・保管をさせてもらう。お前も疲れただろうから部屋に帰って休むがいい。安心しろお前の部屋近辺には誰も近付けないようにしておく」

 

 オリムラに促されるままACを任せ部屋へと向かう。オリムラ達がACをどうこうしようとは思わなければ、どうこうする術などない。貴重な研究対象を手にいれて早々に解体するなども考えれない。なによりACに対抗できることだけで貴重なのだから丁重に扱うだろう。

 その後生徒連中に囲まれたが、俺のチームと教員達が人払いをしてくれたお陰で然程足止めは食らわなかった。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

「行っちまった……」

 

 声をかけようとしたが緊張して声を掛けれなかった。まさかあの人がこんなに凄い人だなんて思ったもいなかった。見下していたわけではない。ただ俺と同じ普通の人なんだと思っていただけ。けど違ったレイヴンさんは俺なんかとは違う次元の人だった。

 レイヴンさんが乗っていたロボットを見上げる。ISとは全く違う技術で作られているのは素人の俺の目でもわかる。

 見上げていると先生達が俺達を追い払い、破壊された残骸とロボットの回収を始めた。

 

「俺もあの人のようになれるかな?」

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 深夜にて回収したACと残骸の解析結果を待っていた。

 

「お待たせしました。これが解析結果です」

 

 教師全員に解析結果が配られ目を通すが、その結果は私の予想を遥かに越えていた。

 

「解析したところ、ACの装甲に使われている金属や技術はこの世界にはやはり存在しないものばかりでした。装甲の金属の分子配列を見ても見たことのない配列にどの科学物質や人工物質の反応とも一致しませんでした。唯一わかったのは装甲の一部の素材にローレンシウムを含めた人工化学元素が使われていることだけでした」

 

 ローレンシウムだと? まだ現代では研究用途以外に使い道のないものではないか。やはり数世紀先の進んだ科学技術か。

 

「コックピットも驚愕の技術ばかりが詰め込まれています。電子回路やプログラミングのほとんども既存のモノとは類を見ない未知の塊。ハイパーセンサーとは違う形ですが、ほぼ全周を見渡せるようになっています」

 

 私もコックピット内に入ってみたが操縦方法がペダルとレバーだけなのにも驚かされた。あんなものであれだけの動きを再現するのは私には不可能だろう。

 どれもこれもレイヴンから話では聞いていたが、実物に触れてみてやっと現実味が帯びてきた。信用してなかったわけではないが、実物に触れてみなければわか実感がわかない。

 

「ACの出力もおかしいです。正確な数値が測定不能。使われている動力も謎が多いです。何故これほどの大きさを動かすのにあのサイズのジェネレータで賄えるのか。動力の反応も装甲と同様見たことのないものでした。反応そのものは核反応に似ていたのですが、核のような放射性などはみられずほぼ無制限ににエネルギーが供給されています」

 

 これが転用できればエネルギー問題も解決しそうだな。まさに科学会に革命が巻き起こる。

 

「レイヴンのACのことは大体わかった。凄い装甲に凄いエネルギーの塊なのだろう」

「それだかではなく凄く軽いです」

 

 あんな大きさのものがピョンピョン跳ね回っているのだから軽くなければな。だが重さが三桁に達していないのが信じられない。

 

「破壊された方はどうなのかね?」

 

 レイヴンが破壊した巨大なAC。あっちのほうも気になる。映像のゾディアックやレイヴンのACとは特徴が一致しないのも気掛かりだ。

 

「破壊されてほとんどが解析不能だったのですが、判明したことはあれはACとは似ていますがACではないこと、搭乗者を必要としない無人機ということでした」

「なに? 無人機だと……?」

 

 ばかな……あれほどの兵器の無人化だと? アイツでもそれは難しいだろうに。

 

「破壊されてしまったため、全てのことはわからないのでこれ以上のことは何とも言えません。無人機という点では破壊された未確認のコアのISもそうです」

 

 ISの無人化並びに学園のセキュリティにハッキング。一連の騒動を可能なのはアイツだけだが、ISを破壊したところを見るとこのAC擬きはアイツの手が加わっていないことになる。一体どこの誰がこんなものを……

 

「あの無人機の武器は無事でした。これからISやレイヴンさんのACに適合化できるかどうかを試しています」

 

 もしIS用に転用可能ならばISでもまともに太刀打ちが出来るようになる。

 

「しかし、レイヴンさんのACそのものの生産は事実上不可能です。吹き飛んだ左腕の修復をしてみていますが、恐らく同じ技術で造られた現物がないとパーツの修理も交換も不可能です」

 

 弱ったな。レイヴンのACが切り札なのに破損させてしまえば一貫の終わりか。いよいよISでなんとかしつなければレイヴンのACたけに負担を重ねさせてしまう。ISとACのコンピネーション。これも急がねばな。

 それよりも明日全てを明かして生徒達が混乱せずに納得するものか。白日のもとに晒されてしまった以上隠しだてが出来なくなり注目を浴びることになってしまったため何処から情報が漏れるかわからない。悪用しようとする輩に狙われないとも限らない。

 

「まだ初日で研究の余地が他にもあるので、まだまだACについては時間が掛かります」

「時間は掛かっても構わない。続けてくれ」

 

 さて、委員会連中もどう動くか。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 同時刻。タクラマカン砂漠。

 

『No.4損害は?』

「痛手をおったが問題はない。それよりもアンジー……コイツはなんなんだ? いきなり襲ってきた」

 

 砂漠を移動中のゾディアックの一人もIS学園と同じように襲撃されていた。持ち前の操縦技術でげきはしたが、襲われる理由も襲ってきた相手のことも知らない。

 

『わかりません。今言えることはコレも我々の敵であることだけです』

 

 襲われたゾディアックは一人だけだが、この時点を持ってゾディアック側もこの無人機を敵と認定。以降襲撃又は目撃した場合は容赦なく攻撃をするだろう。

 

『退きますNo.4』

 

 ヘリに固定されたACは砂嵐が吹き荒れる砂漠へと消えていった。

 

 狙われたのはレイヴンだけではなかった。ゾディアックもまた狙われる立場であることが判明。彼等の前に現れる敵の正体や目的は?

 

 それを知るのはもう少し先のことであろう。




レイヴンに憧れてレイヴンになる人とかいるし……ねぇ……

あとACは生産不能なオーパーツになりました。


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