10羽 紡がれる羽
殺されてたまるか.....
恐怖で足がすくむ体を無理矢理動かし、目の前の機体に向けてパイルバンカーを狙う。これだけの巨体だ掠めただけで相当な被害を受ける。そう思っていた時期があった。
いない.....!? 一体何処に?
つき出されたパイルバンカーは空を切り、黒い機体の姿は何処にもなかった。
ほんの僅か一瞬。目の前に立っていた黒い機体は、瞬き並の僅かな時間で消えたかのように霧散。センサーに表示された位置を見て初めて回避と同時に後ろを取られたことに気付いた。
圧倒的なまでの回避スピード。ほとんどノーモーショーンの回避動作。影すら捉えられない動きはISであっても不可能。敵わない。パイルバンカーを一発避けられただけで性能差を見せつけられ、ISではコイツには絶対に勝てないと悟った。
敵に背中を見せるのは殺してくれと頼んでいるようなものだが、一目散に俺はその場から離脱するべく全快のスピードでノワールを飛ばす。センサーには真後ろに立つ奴の姿が映し出されているが、目もくれずに逃げることだけを考える。
だが、俺の目の前には一瞬で回り込んだ奴が右腕の巨大なガトリングガンを向けて待ち構えていた。
その圧倒的な移動方法には見覚えがあった。夢の中で見たACが用いていた驚異的な移動法そのもの。瞬間的な加速力ではISの比ではない。それを連続して行うことで回り込みを実現させていた。
全てがスローモーションに感じられる時の中で、大型のガトリングガンから弾が発射されるのを鮮明に捉え、本能的に体を急に捻らせ、方向転換をすることでガトリングガンの弾から逃れる。が、その内の一発が左肩を掠めた。
掠めた.....ただ掠めただけなのに、ノワールのシールドエネルギーがゼロにされ絶対防御が発動。おまけに機体ダメージレベルBも表示された。
掠めた左肩の装甲は剥げ、皮膚が露になる。たった一撃でこのダメージ.....まともに食らっていたら死んでいた。
『ヒヒヒ、こいつぁ、笑えない現実だぜレイヴン? 奴さんの武器の威力をざっと計算してシュミレートをした結果、驚くことにISなんて三周回って粉々にする威力だったよ。悪いことは言わない。さっさと逃げろ』
ISが三周破壊される程の威力だと.....冗談じゃない!
そんな化物にも弱点はあるようだ。驚異的な移動法をとり続けるとエネルギー切れになるのか動きが止まる。この隙を狙ってパイルバンカーを命中させれば或いはと考えるが、エネルギー回復の時間も装甲の防御力が未知数な敵に無謀な挑戦をするべきではない。
パイルバンカーが女を貫けたのも、相手が同様の兵器であって武器も有効であると解りきっていたからである。どう考えてもあの兵器はISとは別の技術で造り出されている。ISのエネルギー無効が通用するとは限らない。結局逃げるしかないのだ。
『動きが止まっています! 今のうちに撤退を!』
機体が壊れてもいい。兎に角今は逃げろ。必死に自分自身に言い聞かせ、後先を考えずに空を爆進する。
追ってこない。謎の化物は空中に飛び上がった俺を追ってこようとはしなかった。
ここでも俺はある仮説を立てた。あの機体はACと同様に、ISのような飛翔能力を持っていないのではないのだろうか。
ACはジャンプこそ出来るが、ISのように長時間飛ぶことは出来ない。飛ぶ必要がないことから飛翔能力はオミットされていたのであろう。後付けのパーツ若しくはヘリなどの航空機を介さなければ飛べないACと同じなのだろう。
だが今は、仮説を証明する術も、確かめる気も起きない。今はあの化け物が追ってこれない事実に感謝することしかできなかった。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「お疲れさまでした。危ないところでしたね.....それにしてもあの兵器は一体何だったのでしょうか? ISではないのは確かです」
「そんなことより、ここからとっとと逃げるのが先だ」
6人と合流したタイミングでノワールは
動けなくなったノワールを急いでヘリに格納し、俺達一行を乗せたヘリは作戦領域周辺から離脱すべく、離陸を開始。空の彼方へと飛び去っていく。
本当にあの兵器は何だったのだ? 誰が乗っていた? 何故俺の前に現れた? 何故俺を狙った?
対峙したしたときに明確な死のイメージがされた。ゾディアック達と初めて戦った時と全く同じ。まさか.....パイロットはゾディアックか!?
元の世界でゾディアックと一戦交えた時も似たような恐怖を感じていた。コイツらには自分は殺されるかもしれない。剥き出しになった敵意と脅威を初めて体感した時でもあった。あのときは運良くではあるが、撃退出来たがあの兵器をISで相手にする気にはなれない。もし戦うのならACが要る。
「《00-ARETHA》ですか? 変ですね。此方で監視している時はそんな表示はされていませんでしたが」
「ヒヒヒ、ノワールの方も同じさ。そんな記録は残されていない。あんたの見間違いじゃないのか?」
そんなはずはない。確かにこの目でノワールにARETHAと表示されていたのを確認した。勘違いなど感覚が研ぎ澄まされている戦闘中にするわけがない。
この場にいる誰もがARETHAなど見ていないというのだ。見たのは俺一人だけ.....いや、待てよ。ARETHAと対峙する前の頭痛がしたときに、"アレサ"という単語と映像が.....ッ!?!?
再度頭を襲う原因不明の頭痛に吐き気。それだけでなく段々と体が熱を帯だしてきている。熱い.....体が焼けるように熱い。座っていられない。目なんか開けていられない。何も考えられない。
「お、おい! 大丈夫か!」
「酷い熱です.....直ぐに何処かの病院で診て貰わないと!」
「パイロット! 進路変更だ! 至急病院のある街へ向かえ! ただの病院じゃないぞ、一番大きな病院だ! 国際IS委員会の急患と言って通らせろ!」
「了解!」
尋常ではない俺の異変にメンバー全員が寄り添い、出来る限りの処置と看病をし、周辺の病院へと向う。
薄れゆく意識の中で俺が見たのはメンバー全員の顔が焼け爛れていく不吉な幻想だった。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
..........ここはどこだ? 何故こんなところに俺はいる?
意識を失った俺が目を覚まし起き上がると、俺とベッド以外の物が瓦礫と化し、骨と破片が転がる全てが崩壊した後のような景色の世界だった。
景色自体に別段驚くことはない。過ごしてきた人生のありふれた日常の一部に過ぎないのだが、俺が着ている病服はまだ真新しく劣化など見られない。ベッドも同様だ。にも拘らず、周辺に転がっている物やガラクタと化した瓦礫はかなり年代が経っているようである。これだけ破壊され尽くすには一ヶ月や其処らでは不可能。俺が意識を失っている間に世界が破滅するような事態が起きたのか?
熱や頭痛や吐き気は襲ってきていないため、俺は周辺を探索することにした。
ベッドから足を下ろし、サンダルを掃くと先ずは病院の外を目指した。これだけ破壊されても原型を留めているのにも驚きだな。
通路・各階・待合室・中庭・ナースセンターの何処を回ってみても生存者はおろか、虫一匹も見当たらない。あるのは残骸。
残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸残骸だ。
外に出ても何も変わらず、荒廃した土地に瓦礫の山が積み上がっているだけで誰もいない。
メンバーはどうなったのか? 無事に避難でもしているのか? けど何故俺だけが無事なのだ?
顎に手を当て呻きながら探索を続ける。暫く歩くとショッピングセンターを見つけた。中に誰かいるのではないかと捜索したが案の定誰もいなかった。
テレビやラジオをつけても音信不通。何も情報は流れてこない。携帯も通話不能。
屋上に上がり、街を見下ろしてみると各地で黒煙と火の手が上がっていた。ここで俺はようやく街に見覚えがあることに気付いた。
見覚えもなにも、ここは俺がいた世界そのものだった。
意識を失って元の世界に帰ってきたのか? それならば何故格好だけはあっちの世界のままなのだ?
次の瞬間。突然の地響きが大地を伝い俺の体と街全体が揺られ、耳をつんざく爆音がそう遠くない所から聞こえ、音の発信源を探すと直ぐに見つかった。発信源から爆炎と瓦礫と粉塵が空高く舞い上がっていた。
振動と爆音が収まり、粉塵が晴れていくと1機のACが姿を表した。良く見ればそれは俺のACだった。
あのACの所有者は俺のはず。なのに俺というパイロット無しに動いている。俺があの世界にいる間に誰かに盗まれたのか。
屋上の縁の影からACを盗み見していると、ACが急に俺の方を向きロケットを俺めがけて発射してきた。
突然のACの対応に反応が遅れたが、何とかして階段の扉を開け下に降り、ロケットの爆風と衝撃から逃れる。爆風で屋上に続く階段と天井の一部が崩れ去り、空が見えるようになった。
外の風景はあっちの世界がやはりましだな。
呑気にそんなことを考えていると、天井に空いた穴から俺のACの頭部が俺を見下ろしてくる。
そんなことを考えている場合ではなかった。理由は不明だが俺は狙われている。逃げなければならない。
生存本能から全力疾走で荒廃した大地を駆ける。疲れと焦りから疲労が足に溜まり、足が空回りし始め転倒するも直ぐに立ち上がり、迫り来るACから逃げ続ける。
力尽きて広場で倒れ込む俺の視界にパイロットスーツのようなものに身を包み、ヘルメットのようなものを装着した男が映り込んだ。
男は立っているだけで何も喋らず、黙って俺を見つめている。
余力を振り絞り這いつくばるような体勢で、男に向かって何者かと問い詰めるも男は答えず、静かに背を向け立ち去ろうとした。
このまま一人で行かせてはダメだ。待て.....待ってくれ!
何故かそう思った俺は立ち去ろうとする男の背中をよろよろとなりながらも追った。後ろからはACが迫っているが、俺の目には男しか映っていない。
どれだけ歩いたのかわからない。もう足の感覚はなくなっていた。それでも男と俺は歩き続けた。何処までも何処までも永遠と続く瓦礫しかない道とは呼べない道を歩き続けた。
いつの間にかACも追ってこなくなった。それだけではなく、俺が歩いてきた道は消滅しており後ろには闇が広がる無となっていた。こうしている間にも徐々に消滅していく道。このまま待っていれば俺も一緒に消滅しそうだった。
後退りして前を向き直すと、男は俺を待ってくれていたのか、立ち止まっていた。俺が歩き出すと再び男も歩き出す。
やがて大きな光の塊が見え、男は光の塊の中へと入っていった。もう後ろには闇以外何もなかった。ここまで来て飛び込まないわけにはいかない。男の後に続き光の中へと俺も入っていった。
光の中へ入ると、何もない真っ白な空間に繋がっていた。その先に男はいた。男と俺のいる場所に道は無かったが、俺が一歩踏み出すと何もなかった空間に光の道が形成され、それが徐々に上に伸びていく。
道案内を終えたのか男は煙となって消滅し、俺と道だけが残された。入ってきた光も消滅しており、先に進むしかないようだ。
一歩一歩階段のように形成されている光の道を進みながら俺は考えていた。この先に俺の望む答えがあるのではないのかと。
下を覗けば底の見えない穴のようになっており、一歩踏み外せば奈落の底に一直線。
階段を登りきると、扉が一つあった。扉のドアノブを捻り、扉を開けると奥には花畑が広がるこれまた意味不明な空間に出た。
扉を閉め、花畑の空間に足をつけるとブワッと踏んだ花の花びらが風と共に空へと舞っていった。
足を止めずに先へ進む度に花は舞う。それでも足を止めない。暫くすると花畑の空間の奥に先程の男が立っていたが、先程見た男一人ではなく周りにも何人もの似たような格好をした人物達が立っていた。
全員ヘルメットを取り脇に挟んでいるが、顔がボヤけているため表情と容姿がわからない。性別すらもわからない。体つきでも判断ができない。
謎の人物たちの後ろには無数の墓石のようなものが縦列されている。
謎の人物たちの元まで辿り着くと一同は中央を開け、俺を向かい入れた。
向かい入れられた俺は墓石に目をくれると、墓石には大勢の人間の名前が刻まれていた。
"クライン" "エヴァンジェ" "ジャック・O" "ジョシュア" "ジノーヴィー" "ジナイーダ" "テルミドール" "セレン" "スティンガー" "ウィンD" "ワイルドキャット" "アンジェ" "レミル" "ボイル" "ファンファーレ" "ノクターン" "リリウム" 銀翁" "メルツェル" "ベルリオーズ" "ファナティック " "サイプレス" "オールドキング" "ライウン" "セロ" "アマジーグ" "レオハルト" "ンジャムジ" 等々。他にも無数の名前が刻まれていた。誰なのかはわからないが墓石を前にして立ち尽くしていることから、コイツらに何らかの縁のある奴等の名前か? 墓石に名前が刻まれているところから戦死したのか?
一つ一つ墓石を眺めていると、近くにいた人物が一つの墓石を指差した。その墓石は周りのどの墓石よりも新しく、最近作られたばかりのようだ。
指を指された墓石の名前を見て俺は驚愕の声をあげた。そこに刻まれていた名前はなんと"RD"だったのだから.....
お前たちは誰だ.....? 誰なんだ.....? 何故俺をここに導いた? 目的は何だ?
ここに来て俺はようやく本題の質問をコイツらに投げ掛けた。だが誰も答えようとはしない。ただ佇むだけだったが、初めて返事が返ってきた。
"わかるはずだお前には"
誰が言葉を発したのかはわからない。全員の顔がボヤけているせいで口すらも見えない。それだけではなく直接声が聞こえたわけでもない。いつものように直接脳に言葉が響き渡っているだけだった。俺にはわかるはずたという返事に対して俺は、"いやわからない"と返事をした。
"俺達はお前であり、お前も俺達だ"
もっとわかりやすく意味のわかるように答えろと、問い詰めるがまともな返事は返ってこない。代わりに質問を変えてみた。ここにある墓石はなんだと。
"過去であり過ちでもあり、結果でもある"
これに対して俺は後悔しているのか? 悲しんでいるのか? と問うがやはり答えは返ってこない。コイツらの一方的な通達のみ。これでは俺の望む答えになってない。更に質問をしてみる。夢を見せ、幻聴を聞かせているのはお前たちなのかと。
"俺達はなにもしていない。全てはお前自身のこと"
俺はなにもしていない。あんなものを見せられ聴かされる謂われもない。無関係なことだ。
"全ては繋がっている"
点で話にならない。会話が噛み合う噛み合わない次元の話ではない。根本的に会話になっていないのだから。
もっと多くのことを質問しようとするが、次第に謎の人物たちの体が煙となって消えていく。これ以上は質問しても無駄だろう。
"最後に一つだけ"
消え失せるなかでとりわけ背丈が低い未成年のような人物が俺の前に来て、手を差し出した。差し出された右腕以外は消滅しており、情けをかけて相手の身長に合わせて差し出された手と握手をする。
"僕のような過ちは繰り返さないでください"
最後にそれを言い残し、謎の人物たちは完全に消え去った。『僕』か.....本当に未成年だったのか。結局あいつらが何なのかはわからなかったが、ここは天国とやらではないのだけわかった。つまり俺はまだ死んではいないことになる。
謎の人物たちが消え去るのと同時に謎の空間も消滅し、俺の意識も再び闇に沈み込んだ。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「気が付きましたかレイヴン.....」
ムクッと上半身だけをお越し、オペレーターの女と周囲の景色を一瞥。日は昇りきっており、日差しは強いが病室内は空調が効いているため快適だ。体調も万全に回復しており、意識を失う前の苦痛が嘘のようであり体も軽くなっている。あの時の極度の精神的緊張から解放され、ぐっすりと休んだからであろう。もう大丈夫だな。
「あなたが意識を失ってから丁度1週間が経ちました。他のメンバーは買い出しにいってます。まだ安静にしてください」
俺が寝込んでいる間にあの機体は襲ってこなかったのか.....
「委員会と現地の軍や警察が調査したのですが、あの機体の情報は得られるどころか、忽然と姿を眩ました」
そうか.....長居は無用だな。学園にでも戻るか。
「医師の話ではまだ安静にしなくてはダメだと.....」
これで終わりではないはずだ。もしかしたら次はIS学園に現れるかもしれない。なんとなくなだが俺の勘がそう告げていた。
寝込んでいる間に出会った連中の言っていた"俺はあいつら"か.....興味深いな。
一人称が僕で通用しそうなのはあいつだけだろう.....
下らない妄想乙と感じた人は正しいです。私も下らなく感じているのが現状です。(なら何故書いry)
キャラ達の順番に意味はないです。