艦隊これくしょん~明かされぬ物語~   作:kokonoSP

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謎めき回でごわす。
ごわすごわす。




唯我独尊《前編》

 

~ウォンside~

 

「あ、戻って来た」

 

 無茶ばかりする相棒が菊月をお姫様抱っこして海上から上がってこっちに来た。

 菊月ちゃんなどの睦月型ならば艤装が軽い簡単な物なのでそれでも持ち上げることは可能だが、これが他の艦娘だと艤装が邪魔でそんな持ち上げ方は出来ないだろうね。

 そんなくだらない事を思いながら相棒がこちらに来るのを見ていたが、ふと足取りが重たい事に気がついた。

 チラッと電ちゃんの様子を見ると、未だに相棒が人間離れした事をしでかしたショックから立ち直ってない感じらしい。

 

「電ちゃん。どうやらこっちから迎えに行った方が良さそうだよ」

「ふぇっ!?あ、は、はい!」

「…大丈夫?」

「だ、大丈夫なのです。でも、私達が迎えにですか?提督さんはこちらに来てるのですが」

「待っててもいいんだけどー。これ以上相棒を苦しませるのは忍びないからね」

「?」

 

 不思議そうに首を傾げている姿が可愛らしく一度だけ電ちゃんに微笑んだ後、歩き出して相棒の元に赴く。

 ちょっと歩いて近づいた所で片手を上げながら出迎える。

 

「案外手こずったな、相棒」

「あぁ、思った以上に体が(なま)っていてな。思考とのラグがひでぇ」

「…その目、ギリギリって所か?」

 

 相棒の(ひとみ)を見ると、先程まで爛々(らんらん)と輝いていた翡翠色の瞳は輝きを失い、元々の茶色だった瞳に戻てきているため濁った緑色になってきていた。

 

「もって数分ぐれぇだな。おい、電!」

「っ!?は、はい!」

 

 相棒が電を呼びつけたが、流石に日が浅い電ちゃんはその意味に気付かずただ立ち尽くしたままで返事をした。

 その様子に電ちゃんに分からない様舌打ちをした相棒が電ちゃんに近づく。

 

「じっとしてろ」

「は、はい」

 

 菊月ちゃんを片手で抱き直し、空いた片方の手で電ちゃんの頭に手を置く。

 あまりに"自然な行為"で抱き直した相棒の姿に苦笑いを浮かべるが、相棒はそんな僕を一瞥するだけで直ぐに目を閉じる。

 

能力奪取(テイル)

 

 今度は流石に電ちゃんも意識があるだけに相棒の能力や自分の体に起きた違和感からか目を見開いて相棒を見ている。

 そして次の瞬間に相棒が(まぶた)を開けると再度輝きを取り戻した翡翠色に戻っていた。

 

「………きれい」

 

 電ちゃんは相棒の瞳を見てそう呟くだけで惚けていた。

 

(まぁ、分からなくは無いけれど……ね)

 

 相棒はチラッと電ちゃんを一瞥しただけでこちらへ歩み寄ってくる。 

 と言うより、自分の後ろにある入渠棟に向かって。

 それで相棒が俺の真横を通り過ぎ様に囁いてきた。

 

「案内は任せる」

「りょ~っかいっと。じゃ、電ちゃん行こっか」

 

 そのまま菊月を抱っこしたままで去ってゆく相棒をじっと見ていた電ちゃんの肩に手を置いた瞬間、ビクッと立った状態のままで5cm程ほど垂直に飛んだ。

 

「はわわ!?わ、分かりました」

「ははっ、誰しもがあの目には見惚れるくらい綺麗だからね。わかるよ」

「え、いや、その………はぃ」

「正直なのは良い事だよ。さ、こっちだよ」

 

 電ちゃんを先導する様に鎮守府中心にポツーンと建つ2つの小さな建物の片方に向かう。

 

「えっと、今度はあの建物ですか?」

「そ、手前にある方の建物だね。以前は総司令棟って呼んでたんだけど、語呂が悪いよねー」

「あ、あはは」

 

 肯定しずらい質問を態としたら電ちゃんに苦笑いで誤魔化された。

 

 (語呂悪いと思うんだけどなぁ)と本気で思ったのは言わないでおこう。

 

 どうでもいい事を思いながら司令棟の正面にまで回り、玄関口の扉の前まで行く。

 

「わぁ、大きい扉なのです」

 

 通常、扉の大きさは規格で指定された物が多い。

 昔は高さ1.8mほどの大きさだったが、最近では2mに規格が変更され通常の家であればこの大きさが採用される。

 しかし、電ちゃんが言った様に目の前にある扉は軽く2mを超えているのが大きさからも見て取れた。

 

「ここの扉は特注でね。大体3mあるかないか位の大きさなんだよ」

「どうしてそんなに大きくしたのです?」

「そりゃー獲物が様々な艦娘が当時は多かったからね。弓や長距離スナイパー用狙撃銃なんかはこれくらい大きくないと通りづらいから」

「なるほどですね」

「ご理解頂けて何より。じゃ、入ろうか」

 

 そして僕が鎮守府の扉に手を掛けた所で電ちゃんが「あっ」と何かを言いかけた。

 

「ん?どうしたの?」

「あの、横にある機械は使わないのです?」

「あー、これ?」

 

 電ちゃんの視線を辿って扉横の壁に埋まっている機械を指差すと電ちゃんが頷く。

 壁に埋まっていると言ってもインターホンの様な物ではなく、よく映画やらアニメやらで良くある(てのひら)を液晶に乗せて指紋認証を行うような物である。

 

「これは扉が重くて開けられない、または扉に手を掛けてる余裕が無い人用の開閉装置だよ。ほら、荷物とか持ってると扉開けるの大変だろ?」

「でも、そうなるとこれって指紋認証装置ですよね?意味ないのでは?」

「あぁ、これ指紋認証じゃないよ。そうだね、後学のために一度こっちで開けてあげようか」

 

 扉に掛けていた手を離し、台座の傍に寄る。 

 

【ピピッ!生命体反応確認、網膜認証ヲ実行シマス。顔ヲ近ヅケテ下サイ】

 

 機械に言われるまま台の液晶部分を覗き込む。

 認証自体は直ぐに終わるのだが、それでも待たせない為の処置として認証中の画面には簡易的な映像が映し出されている。

 今回は馬が数匹走っているのが永遠と続くだけの映像だった。

 

【認証ヲ確認、ウォン司令官オ帰リナサイマセ】

 

「ウォン……司令官」

 

 後ろで電ちゃんが呟いた自分の名前に気づかないフリをして無言を貫く。

 

ギギ…ギィィィィィィイ~~~~

 

 (油挿した方がいいかな……)

 

 左右の扉が重苦しく開く音を聞いて不意に思った事を瞬時に払いのける。

 そして扉が完全に開いた所で180度ターンし電ちゃんの方を向き両手を広げ……

 

「ようこそ!カナリア鎮守府へ。歓迎するよ、電ちゃん」

 

 そう告げるのであった。

 

 

 

~菊月side~

 

チャポンッ!

 

「ん……ここは………風呂…か」

 

 体に感じる暖かい湯の感触を肌で感じ、次いで視線を下ろし視覚で確認する。

 ちなみに風呂は俗称(ぞくしょう)であり、正式には入渠場と言うが、見た目も入り方も風呂同然の為にここで生活した事のある艦娘は皆が皆、風呂と言っている。

 そして徐々に意識が覚醒してきた事で、先ほどの提督との戦闘が脳裏を過った。

 だが、今自分がいるのは風呂だ。

 流石に提督や司令官が自分の服を脱がせて入れたとは到底思えない。

 

「風呂に入って寝てしまったか。やはりステラ提督は……」

「あ?呼んだか?」

「…………」

 

 自分の呟きに帰ってくる声。

 ありえない現象に幻聴が聞こえてくるほど病んだかと思考の海に潜りかけてしまったが為に静寂が訪れる。

 

「んだよ。呼んどいて黙りこむとか喧嘩売ってんのか?」

 

 またも響く聴き慣れた声。

 そして、病んだかもと思って置きながら自身の勘はそれが幻聴ではなく本物だと告げている。

 風呂……聴き慣れた提督の声……自分の現状……それらが導く答えは決まっている。

 まるで油が切れたロボットの様に風呂から流し場に視線を向けた。

 向けて…しまった。

 

「き、きゃぁぁぁぁああああ!!て、提督!?な、ななな、なんでこんな所にいるんだぁ!?」

 

 湯気で若干(かす)れて見えるが、そこには真っ裸の提督が居た。

 

「は、裸!服!服を着ろー!」

「風呂で裸じゃねぇのはおかしいだろ、馬鹿か?」

「そうじゃない!それ以前の問題だろ!私は女、提督は男なんだぞ!?」

「あ?男湯なんて作ったのか?俺が居た時は……」

「ここは入渠する場だ!普通に風呂として使うのは提督だけに決まってる!」

「相棒も入るじゃねぇか」

「~~~っ!そうじゃない。そこじゃ……はぁ、もういい」

 

 昔から提督はこういう人だったと諦めて湯船に浸かり直す。

 常識や世事といった事を無視……というより元々知らないかの様な行動。

 変人という言葉ですら生ぬるい。

 そのベクトルで言えば、彼は本当に人外と言っても過言じゃないだろう。

 

「それよりよ、俺は髭を剃りてぇから体洗ってくれ。手がまわらん」

「馬鹿はどっちだ!?髭を剃った後に体を洗えばいいだろう!?」

「時間は有効に使うべきだと散々言ったろぅが」

「確かに昔言われたが、今回はTPO的におかしい」 ※1

「……面倒くせぇ。いいからこっちに来いつってんだよ菊月」

「っ!?」

 

 有無を言わさぬ程の殺気を一直線に向けられ、体が硬直しそうになった。

 提督は一瞬でその殺気を霧散させ、こちらの動きに意識を向けている。

 自分の本能がけたたましく警告を発している……次は無いと。

 それでも平常心を保っていられたのは、過去にくぐり抜けて来た修羅場の数々が物語っている。

 ため息を吐きながらもザバァと風呂から立ち上がり、提督の元に向かう。

 

「それで?背中を流せばいいのか?提督」

「あぁ、流石のお前でも精々それが限界だろ」

「だったらやらそうとするな。全く」

 

 近くにあったスポンジを手に取り、ボディーソープを染みこませて泡立てる。

 そして、提督の背の近くまで来た所で動きを止めた。

 

「…これを見せる為に背中を流せと言ったのか?」

「………」

「まったく……もうちょっと分かりやすく言えんのか」

「こうでもしねぇと納得しないだろーが。特にお前は」

「そう……かもしれないな。いや、そうだな。すまない」

 

 そう、いくら提督に変装しようが誰にも真似出来ない証が提督の背中にはある。

 いや、背中だけでの話では無い。

 太もも、二の腕、胸、腹、背中………服で隠れる部分のそこかしこにその証が刻まれている……文字通り。

 無数にある銃痕の凹み、刃物による裂傷の数々、恐らく一生治らないであろう打撲痕。

 そして何よりもそれらの傷がまだマシだと思えるような背中全体の火傷の痕。

 しかも相当な火傷だった為か、火傷を負った大部分の皮膚が(ただ)れ、グチャグチャとはこういう物を表現するのかとすら思える。

 正直、生きてる事が不思議な位だ。

 

「この傷の数々は、そう真似できる物じゃないな」

「"これくらい"の傷で済んでるんだ。感謝しかねぇよ」

「…すまなかった」

「………」

「提督は……何も悪くない。私が未熟で愚かだったが為に」

「気にするんじゃねーよ。これは俺が望んで受けた"洗礼"……いや、そんな高貴なもんじゃねぇか。言うなら…"(かせ)"だな」

「なら……それは私の枷でもあるさ」

 

 提督の大きな背中に体をくっ付ける。

 そうなると自然に顔も背中に近づく。

 傷跡の感じからしても相当な年月が立ってるのは明確だが、焼け爛れたせいなのか異臭が鼻に付く。

 腐敗臭とまではいかないが普通なら顔を(しか)める匂いだ。

 

「おい、離れろ」

「何故だ?」

「臭うだろ…色々と」

「そうだな」

「だから止めろっつてんだ」

「私がこうしたいんだ」

「………せめて洗ってからにしろ、アホが」

 

 本当に……不器用な人だ。

 やる事なす事全てが非常識。

 視線も言動も唯我独尊と捉えられてもおかしくない。

 けれど、その行動の根本には必ず何かしら"私達"の事を思ってのもの。

 ギャップ萌え…ではないが、その提督の優しさには可愛いと思う。

 これ以上提督をからかってしまうと、十中八九不機嫌になるので、素直にスポンジで背中を洗う。

 

「……そういやよ。お前の他に今んところ誰か残ってんのか?」

 

 話題を逸らすため……ではなく、純粋な質問に顔を(しか)めながら答える。

 

「あぁ、私の他には皐月が残っている……が」

「あ?」

「…提督が居なくなって以来、塞ぎ込む様になってな」

「あー、まぁアイツなら有り得るな」

「ここ数年は部屋からも出ては来なくなってしまった」

「俺のミスだな。特にアイツは他の2、3倍手に塩をかけてたし」

「だが……もう大丈夫なんだろ?」

 

 私が挑発するように提督へと問いかけると大きくジョリッ!とした音を立て、こちらを向く。

 髭が綺麗に無くなり、当時の提督そのまんまの顔をこちらに向けニヤリと含みのある笑みを向けられた。

 

「俺を誰だと思ってる。使えねぇ奴は追い出す」

「具体的には?」

「海に落とす」

「一応私達艦娘なんだぞ?意味ないだろう」

「ふん。足にコンクリートブロックを繋げないだけ有り難く思え」

「…勘弁してくれ」

 

 本気でやりかねないだけにため息を吐きながら言う。

 提督は肩を軽く上下する動作だけで答えてくる。

 冗談半分といった感じだ。

 

「まぁ、相手は皐月だから心配はしてない……が。提督、変な真似はするなよ?」

「わりぃな、俺は脳みそ豆腐だからよ。何をもって変な真似なのか分かんねぇ」

「ふん、戯言を」

「戯れてるんだから当たり前だろ?」

 

 くっくっと笑う提督に口をへの字にするが、内心では喜んでいる自分がいる。

 また提督とこんな馬鹿みたいなやり取りが出来る事に。

 だが同時に不安も大きくなる。

 

「な、なあ提督?」

「あ?なんだ?」

「もう……勝手に居なくなったりしない…よな?」

「…………さぁ…な」

 

 提督は前を向いたまま今度はシャンプーで髪を洗いだす。

 

「あの時はそうするのが最善だった。またその必要があったら……」

「ダメだ!!!」

 

 提督の言葉が終わる前に大声を上げてしまい、髪を洗っていた提督の手が止まった。

 背中越しに先ほど受けた物よりも密度の高い殺意の威圧が放たれる。

 

「糞ガキが。俺の判断に逆らうのか?」

 

 あまりの殺気に体中の筋肉が硬直したかの様になり、真面に呼吸する事も出来なく息が荒くなった。

 だが、提督の事だ。

 ここで引き下がっては確実に同じ事を繰り返すだろう。

 

「あ、ああ、逆らうさ」

「ほぅ……いい度胸だな。で?理由はなんだ」

「かんがっ!……っ。ふぅ…」

 

 息が荒れていたせいか、喋ろうとした所で変に息をしてしまい言葉が詰まった。

 すると先程まで張り詰めていた殺気が薄まる。

 そのおかげで呼吸が大分マシになり、話を続けた。

 

「考えずとも分かる事だ。前に提督が居なくなって皆それぞれ傷ついたんだ。一番重症なのは皐月だけだが…私も置いてかれた事に傷ついたさ」

「何が言いたい………」

「もう気がついているのだろう?」

「………ふん」

 

 提督も途中から私が何を言いたいのか気がついたらしく、既に殺気は霧散している。

 先ほど提督は最善策を取ったと言っていた。

 しかし、最善=幸せという方程式は成り立たない。

 提督が本当に私達の事を思っているのなら、取るべきはそっちでないと分かってくれる筈だ。

 

「私でも次はきっと……耐えられない」

「善処しといてやる」

「礼は…いわぬ。態度で示して貰うよ」

「厄介な女に育てちまったか、まったく。何処で躾を間違えた?」

「それを提督は望んだ。だから私もそうなった。自然な流れさ」

 

 提督の背中をジッと眺め、ある傷に手を添える。

 私が昔、"提督を狙撃した傷"をそっと撫でた。

 もう、以前ような失態は犯さないと固く誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、この現状を見知らぬ第3者が見たら明らかに提督が私にセクハラをさせてるだけにしか見えないだろう。

 きっと、そう思っているのは私だけではないだろうと確信しながら、小さくため息を吐いた。

 

 

※1 TPO(Time Place Occasion):時・場所・場合に応じた方法・態度




菊月「………」
ステラ「………」
up主「どうよ!」
ステラ「あー、うん。いっぺん死んどけ屑」
菊月「……で?」
up主「いやいやいや!待って待って待って!」
ウォン「そうだよ。殺すのは不味い」
up主「だ、だよね!さすがウォンは話g……」
ウォン「殺した後、誰が片付けると思ってるんだい?まったく」
up主「そっちの心配!?味方は居ないのか?」
電「up主さん……」
up主「い、電……」
電「問題…ないですか?」
up主「問題大アリです。ごめんなさい。マジでごめんなさい」
ウォン「電ちゃんの純白オーラに、up主の体が灰化してきてる。やるねー」
ステラ「自覚してて、それでもやるとか……アホか」
菊月「提督も同じ様なものではないか」
ステラ「あ?」
菊月「やるか?」
up主「やめーい!なんで皆して俺を弄ってたのに剣呑な雰囲気になるんだよ!」
ウォン「こういう時はオセロが一番だよね」
ステラ「最近はリバーシ?とでも言うんだったか」
up主「やるなら向こうでやれ!」
電「やる事を否定しない辺り、up主さんも優しいのです」
up主「うぐっ?!…ま、まぁいい。皆様、本日はこれにて帰還します。」
up主「次回の抜錨までよろしくお願いします。でわでわ~」
電「なのです!」

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