正直、話の終着点は私にもわかりません。
それは、ひょんな事から脳裏に浮かぶイメージをメモして、そこから話を膨らませているので明確な終着点は存在しないのです。
まえがきが長くなってしまいましたね。
それでは……どうぞ!
《???side》
サァーーー……
サァァーー……
遠くから聞こえる波の音が洞窟内で反響して聞こえる。
洞窟を上手く利用した牢獄の中で、記憶が薄れるくらい昔に壁へ背中を預けて以来、ピクリとも動かず時を過ごした。
瞼も開けず、腕も動かさず、指先すらも動かさず。
唯一自分の体で動いてるものは心臓と脳だけ、音は塞ごうにも塞げるものではない。
こうして"考える"という行動すら久々だと思えるくらいにはした記憶がなく、日々嫌でも聞こえてくる波の反響音を永遠と聞いているだけ。
別の牢屋には相棒が居るはずだが、波の音以外は聞こえない。
まぁ、俺と同じ状態なんだろうと容易に予想できる。
ここから出た所で、島とも言えないこの岩ばかりの小島だ。
日本からどれだけ離れてるのかも分からない。
故に泳いで渡るなど出来ないし、このご時世そんな行動は論外。
なぜならば海上には無数ともいえる程の深海棲艦がうようよしているから。
泳いで渡るなど、相手から撃ってくださいと言ってるのと同義だ。
(しかし、不思議だな……)
意思で動かせる肉体を動かさず、人形の様に何も考えずいたのに今になってこんなにも思考を巡らしているんだ?
終いにはここから脱出するにはどうしすれば成功するかなどと、今の今まで考えた事すら無かった。
(これは……何かが起こるか?)
その"何か"が何なのかまでは分からないが、そんな気がしてならない。
口元に笑みを作る。
笑みを作った事もそうだが、体の筋肉を動かす事が懐かしいレベルだ。
「…久々に笑ったな、相棒ぉ」
まだ瞼を閉じたままだし、目を開いた所で洞窟内は真っ暗だが、離れた所から声がかけられる。
少し声が反響して聞こえるな。
声を聞くのも色々と懐かしい。
喋るために空気を吸い込む。
「うるせぇよ、相棒」
「で?どうした。今になって」
相棒も俺と同じ事を思ったのか、そう聞いてくる。
「無い脳みそを久々に使ったからな、何か起きっかもってな」
「はははっ、そりゃ明日地球が滅びるなぁ」
「…否定しやがれ糞野郎」
「自分で言ったんだろ。それに、本当に脳みそ詰まってんのか?」
「………」
「図星じゃねぇか。はははっ、これは本当に何かあるかもなぁ」
それで言葉が切られ、また静寂が訪れる。
サァーーー……
サァーーー……
聞き飽きたと言ってもいいほどに聴き慣れた海の音がまたこの空間を満たす。
しかして、人間はどうして水音を聞くと安心するのだろうか。
説では母体の中、羊水(子宮内で胎児を取り囲んでいる液体)の中にいた時を思い出すからと言われている。
本当に"何か"があるかは分からない。
だから今は今までどおり、海の音だけを聞いて時が過ぎてゆくのを永遠と聞いていよう。
そろそろ、考えるのにも疲れた。
《side out》
襟裳(えりも)鎮守府~司令官室~
「異動……なのです?」
「ああ、済まないがね。ちょうど行く途中の小島に君に適任の司令官が待機しているはずだから寄って一緒に鎮守府へ赴任してくれないか?」
「…………」
「済まないとは思っている。だが、ここで適任といえる艦娘は君しか居ないんだよ。分かってくれ "電"」
でっぷりと太り、腹が予想以上に出て前のボタンが止められない私達の司令官さん。
その司令官さんが本当に申し訳なさそうな顔で電を見てくる。
心配をかけまいと笑って返します。
「拝命します、なのです。随伴する艦は誰なのですか?」
「希望はあるかね?できる限り希望に沿えるよう尽力はする」
「それでは……天龍さんと響お姉ちゃんを希望します」
「分かった。水雷戦隊の最前線組だから、出来るか分からんがやってみよう。以上だ、下がってよし」
「失礼するのです」
電がドアを開けて最後に敬礼をしてから退出する。
歩いて去っていく足音が遠ざかった所で背もたれに深く腰掛ける。
「ふ、ふふふ」
いけないとは思いつつも、自然と笑みが溢れてきてしまう。
「本当に駆逐艦というものは馬鹿ばかりだ。こんな死ににいけと言ってる様な命令でも喜んで受ける」
正直、電には生きていてはこれからの動きに支障が出かねない。
俺が"裏"の仕事をしているの時、入室許可を出していないにも関わらず部屋に入ってきたことがある。
可能性として書類の一部を意図しない所で見てしまったかもしれんしな。
少し観察しては見たが本人はうっかりをして落ち込んでいただけで、書類の内容は意識すらしてないよう窺える。
だがどこで何がきっかけになるかわからん、毒草となる前に摘める芽は摘んでおくに越したことはない。
「おっと、本人という言葉は不適切だったな。ふははははははは」
奴は人間でなく兵器なのだからな!
そんな事をここの司令官が思っている事など露知らず、電は自分の荷物を纏めるために自室へと向かっていた。
「なるべくなら、戦いたくはないですね」
司令官さんに言われた異動先は最前線とは言えないにしても、本国近辺とくらべると比較にならない程多くの深海棲艦がいる場所だと聞く。
「カナリア鎮守府……いい所ならいいのですが、いい噂を聞かないのです」
ふぅ…とため息を吐きながら部屋に入ると私以外の姉妹艦全員が揃っていました。
「どうかしたの電?元気ないわねーそんなんじゃ駄目よ?」
「いや、雷の元気の良さが異常なだけだよ。ね、姉さん」
「な、なんで私に振るのよ!そこは電に振るべきでしょ!?」
「そんな事したら姉さん、構ってくれないって言って泣きべそかくじゃないか」
「へっちゃらだし」
「本当に?」
「と、当然よ!」
「なにはともあれ、響姉さんが私のことをどう思ってるのかは良く分かったわ」
そしてギャアギャアと騒がしくなるお姉ちゃん達、この光景を見てしまうと異動の件を切り出しにくくなってくるのです。
既に三つ巴の取っ組み合いに発展しているのを被害がこちらまで来ない位置で見守ります。
さすがに大乱闘へなりかけたら止めますけれど。
30分経過………
「なによそれ!?折角暁型が全員揃ったってのに直ぐお別れなのよ!」
「слишком безрассудным(無謀すぎる)、流石に姉としてそんな任務看過できない」
「…雷、響。少し黙ってなさい」
「あ、暁」
「姉さん…」
暁お姉ちゃんが今までに無い真剣な顔で電を見てきます。
「貴方自身はどう思ってるの?出来ると自信を持って言える?」
「…私は……電は一人でも多くの命を助けたいのです。それが例え敵であっても………」
そこで一度言葉を切り、深呼吸して肺に空気を送り込む。
意識して空気を取り込もうとしないといけないくらい、暁お姉ちゃんの今の迫力は凄まじいのです。
「だから、電は信じてますし出来ます!電にしか出来ないと言ってくれた司令官さんの為にも成し遂げてみせます」
「………そう、分かったわ。なら、今日は電が無事に任地へ行けるようパァーっと祝わなきゃね、雷と電は先に間宮さんのお店に行って予約取っといて」
「え、でも暁、私もそんなにお金無いわよ?」
「今日はレディである私の奢りよ!いいから行ってきなさい。赤城さんに先を越されると食べれなくなっちゃうわ」
「え、ええ。無理はしちゃ駄目よ?電、行こ!」
「はい!なのです」
雷と電が部屋から出て小走りで遠ざかる足音を確認してから、私は姉さんに"本題"を聞き出す。
「あれで良かったのかい?」
「…まぁ、50点と言った所ね」
「辛い評価だね」
「直ぐに出来る!って言えない様な覚悟だもの。そしたら100点だったのにね。でも、もしそんな回答をしたらほっぺを引っぱたいてたかもだけど」
「どちらにしても酷いじゃないか」
「そんな酷い事を強いてるのは司令官よ。任務って事であの子も自分を納得させてるけど、今回の事は無茶が過ぎるわ」
「あぁ、たまに難しい事を言う人ではあったけれど、今回の件はどこかおかしい」
「止めなさい、響」
「何も言ってないじゃないか」
「じゃあ、言い方を変えるわ。"調べる気"だったら止めなさい」
「…………」
「私も分からないけど、何か……嫌な予感がするわ」
姉さんは私を心配の眼差しで数秒見つめてきた後、いきなり困惑した様な顔つきになった。
「姉さん?」
「響、やっぱり少しお金貸してくれない?妹達の手前、大きく出ちゃったけど心配になってきたわ」
あぁ、今までのシリアスな雰囲気は何処へやら。
やっぱり姉さんは姉さんだった。
「仕方ないなぁ、トイチで貸してあげるよ」
「トイチ?何それ?」
……もう一度言うね。
やっぱり姉さんは姉さんだった。
PS.やっぱり姉さんのお金だけでは足りず、私の貸したお金を合わせてやっと払える金額だった事をここに書いておくね。
ちなみにトイチはブラフだよ?姉さんが解るはず無いじゃないか。
どんなものでしょう?
一応はお話を作る前の設定固めはしているのですが……難しい所です。
長々と書いてもあれなので最後に一言…………
提督「初春は改二になる前の口の形が良くね?」
それでは次回!