斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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7話 働くこと

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。こんなもんでしょ」

 

幻想郷の巫女、博麗 霊夢は今、スペルカードルールで氷の妖精であるチルノを完封し、そして撃墜した。その戦いは一方的と言えるものだった。霊夢が打つ弾幕は必ずチルノにぶつかるのに対して、逆はあり得なかった。まるで後ろに目でもついているかのような、すべての弾幕がどこにくるのか予めわかっていたかのような、そんな動きをし、全てを回避した。彼女には未来が見えるのだろうか?そんな疑問を投げかけてしまう、そんな結果を見せつけられた。

 

霊夢と一緒にいる魔法使いの霧雨 魔理沙は、そんな霊夢の弾幕ごっこの一部始終をぷくーと頬を膨らませて見ていた。

 

「……何よ」

 

霊夢は弾幕ごっこが終った後も様子が変わらない魔理沙にそう言う。

すると、魔理沙は今度は唇を尖らせ、

 

「べっつに~。ただ、ジャンケンで勝った方が向かってくる敵の相手をするって決めて、ずっと負け続けてて弾幕ごっこが一回も出来てないことなんて何とも思ってないぜ~」

 

そう言った。

 

それを聞き、霊夢は大きくため息をつき言う。

 

「……はぁ…あんたが負けるのが悪いのよ」

 

「なに!私だって好きで負けてるわけじゃないんだぜ!いつでも全力でジャンケンに取り組んで……」

 

「魔理沙、あんたね、全力で取り組み過ぎて、手を出す前の拳にかかってる力加減で次にパーだすかグーだすか分かるのよ。次から気を付けなさい」

 

「な!そうだったのか……でも分かってたなら一回ぐらいわざと負けてくれてもよかっただろ!?」

 

「私はやるからには負けたくないのよ。それよりしっかりなさい。…もうこの異変の首謀者のすぐそこまで来てるんだから」

 

そう言い、霊夢は眼前に映る紅い館を見る。その場所の周りは特に紅い霧で覆われており、まるで、自分達がこの異変を起こしましたと主張しているかのようだった。

「…妙ね」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「……いえ、何でもないわ。やることは変わらないし、別にいいか」

 

そして、二人はその館の前に降り立つ。

そこにはこの館の入り口である門があり、門の前には紅い髪をし、緑の華人服を着た妖怪が立っていた。

 

「おい、霊夢。何でわざわざ門から入るんだ?別に空とんだままはいっちまえばいいじゃないか」

 

しかし、霊夢の隣にいる魔理沙は目の前の妖怪ではなく、何故わざわざ門から入ろうとするのかを聞いてきた。

 

「…魔理沙、あんた魔法使いよね?だったらわかるでしょ。…この館の周りには、魔法によって門以外からは入れないようにされてるってことが」

 

「え?…ああ!もちろんわかってたぜ!」

 

魔理沙は当然だぜと言葉を続けた。だが、慌てている様子を全く隠せていなかったので霊夢にはもちろん目の前の妖怪にもバレバレだった。何故か妖怪の方は魔理沙に暖かい眼差しを向けている始末である。

 

そんな雰囲気の中、霊夢は気を取り直し目の前の妖怪に向かって話しかける。

 

「で、私達はその中に入りたいんだけど……大人しく入れてくれないかしら?」

 

「いえ、入れることは出来ません」

 

「そう、じゃあ弾幕ごっこで決めましょう」

 

「……?ああ!スペルカードルールですか!良いですよ」

 

霊夢は目の前の妖怪の言葉を聞き、眉をひそめた。

 

「…やけに協力的じゃない。こんな紅い霧を広めた奴の仲間だから、ごっこ遊びなんてしないと思ってたんだけど」

 

「まぁ良いじゃないですか。」

 

「……そうね。平和に終わるなら、それ以上のこともないし。このことはこの異変を止めてから全てを明らかにするわ」

 

そして、二人は向かい合いお互いに構える。これからが本当の始まり。後に、紅霧異変と呼ばれる事件の「本番」の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!霊夢!まだジャンケンしてないぜ!」

 

 

「あんたは少し黙ってて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー変わらないモノが欲しかった。

 

 

だって、それがあったなら安心することが出来たから。

だって、それが手に入ったなら立ち上がれる気がしたから。

ああ、でもそんな話はもうやめだ。

そんなモノなんて無いんだから。

そんなモノなんて現れないんだから。

そんな、だってとか、そういうのは、思考する必要がないよ。無駄無駄。

それが私なんだから。だから、しょうがない。そう納得してしまおう。その方が楽だ。その方が、絶対、正しいんだ。

 

 

きっと私はーー私のセカイは、何処までも平坦に見えて、でも凸凹で、広く感じて、でも狭くて、何かがあるように観えて、でも、何もない。そんな、あやふやなセカイ。

 

そんなセカイは認められない。

それは、不安定だから。その状態が不変だから。そして、そんなセカイは怖いから。

 

 

だから私は独りぼっち。

誰にも視られることはなく、誰にも近づかれることもない。そんな呼吸をするだけの御人形になったんだ。

 

でも、それで良いんだ。だって、私の周りのモノは何でも壊れてしまうから。どうやったって、壊してしまうから。だったら、わざわざ壊れに来てほしくない。私だって、疲れちゃうからさ。あれ、自分のことを御人形って言っておいて、疲れるなんて、変だよなぁ。御人形がそんなこと思うはずないのに。変な話だよなぁ。

 

……あれ?さっきまで何を考えてたっけ。……そうだ、御人形の話だった。御人形は可愛いよね。どんなに見てても飽きないよ。まん丸お目めに可愛らしいお口。いつもぎゅって抱き締めてあげてるんだ。でもね、ツイツイ強く抱きしめっちゃってナカの綿が飛び出しちゃうの。それをミルと泣きソウになっちゃう。デモね、それとドウジに、何故かウレシクなってくるの。オカシイよね。ドンナニ大事にしていても、カンジルことはいつもイッショなんだ。

 

アあ、デモなんでソウ感じるのカ、理由はワカッテるんだ。そシて、ソレハどうシヨウもない理由。

 

 

 

 

ーーソレガ、ワタシノ世界ダカラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっこら、えっこら、庭整備。

楽しい、楽しい、楽しいな~

 

ふぅ。俺、庭師に向いてるかもしれないな。

 

紅い霧による異変が起きている最中、俺は訓練している妖夢ちゃんの代わりに白玉楼の庭掃除をしていた。俺が庭を世話するって言ったとき、妖夢ちゃんがやらなくていいと言ってくれたんだけどさ……こっちは申し訳ない気持ちで胸がいっぱいで張り裂ける段階なのよ。

 

だって俺はさ、紫に剣術を教えるように頼まれて来たのにさ、俺が出来たことって「ほら、お前もこの岩斬ってみろよ(ドヤァ)」ぐらいだからね?もう今すぐ土下座するふりして頭を地面につけて一点倒立したい心持ちなのよ。ああ、本当申し訳ない。真面目に、刹那に、申し訳ない。

 

そんな心情から俺は、今こうして妖夢ちゃんの負担を減らすために庭師の仕事を代わりに行っているわけである。

 

でもね、意外にこれが楽しいのよ。俺も最初の頃はだるそうだな、と思っていたのだが、実際にやってみると、あれ?楽しい、となっていった。何かね、この綺麗に掃除し終わった後の庭をみるとね、この広い庭を自分が全部綺麗にしたのか…という達成感をすごく感じるんだよ。それで、次も綺麗にしよう!というやる気に満ち溢れるんだ。

なんだ、掃除ってこんなに素晴らしいものだったのか…次は自分の家も綺麗にしよう!最近帰ってないから埃とかたまってると思うけど、俺、頑張るよ!

 

ああそれとさっきも言った何か紅い霧?で人里とか調子悪い人が続出してるらしいね。長く続けば作物にも影響がでるって言って人々は大混乱だ。

 

……僕はね、人様に迷惑をかけるのはいけないと思うのです。紫が、紅い霧で異変起きるぜ!って言ってたときは特に関心も持ってなかったんだけど。まさか、霧でそういう被害がでるとは、ね。

 

たかが霧、されど霧、油断ならない女の蹴りってね。……女は理不尽だよ。俺はいつも女性に暴力をふるわれるんだ。なんでも、でりかしー?ってのがないんだってさ。……まったくどんな菓子だよ全部持ってこい!!

 

そんないつも通りのくだらないことを考えていたとき、目の前の空間がさけ、そこから隙間妖怪である紫が現れた。

 

「伝蔵、仕事よ」

 

「…何か起きたのか?」

 

紫の真剣な口調に俺もいつも通りの話し方を止め真面目に返答する。

紫がこのような態度をとることはあまりない。だから、今から俺に頼もうとしている仕事もふざけたものではないだろう。俺は心を落ち着かせ答えを待つ。

 

「吸血鬼の妹が閉じ込められている地下の魔法の結界が、突然不安定になり始めたわ。このままだと、外に出てしまうかもしれない。……今はマズイのよ。ちょうど今、博霊の巫女が門番を倒して、中に入ったところなの。…きっと、スペルカードルールを知らないでしょうから、戦うとしたらそれぬきの戦闘になるわ。それでは、今回の異変を起こした目的を阻害してしまう」

 

「余程のことが起きそうってわけかい。人生ってのは、上手くは廻らないもんだねぇ」

 

…そうか、吸血鬼の妹か。全く、姉は何をやってるんだか。呆れて言葉もでないぜ。……お前のせいで俺が死地に向かわされるんだからね!ほんとふざけるなよ!しっかり妹を導いてあげなさいよ!あー!もうイヤーー!何で俺が紫先輩お墨付きの最強吸血鬼のところに向かわされなきゃいけないんだよ!畜生め!!

 

 

 

……はぁ、腹、くくりましょう。覚悟しましょう。もう、やり直せないんだから。あの日には戻れないんだから……

 

「了解した。じゃあ、今すぐ向かおう。」

 

「頼んだわ。出来れば殺さないで、無力化してくれる?その方が後がスムーズに進められるから」

 

あの、僕の心配をしてくれませんか?

僕、真面目に妖力無いんすよ?一発当たったら即・死☆よ?そこんところ理解出来てないよね。何?前、紫先輩の財布の中身全部使いきったことに対する当て付けなの?

俺だけじゃなくて共犯者もいたからね?そっちの方にも制裁しとけよ!絶対、絶対だかんな!!

 

 

 

 

ま、ふざけるのはこれくらいにして、と。

 

ーー目の前に空間の裂け目ができ、それが広がる。その裂け目の中から見えたのは、独りぼっちの変わった帽子をかぶった幼い少女。

金色の髪に変わった翼。

その翼は、様々な色の宝石のようなモノがぶらさがって出来ている幻想的なモノ。

俺はその少女がいる場所へと、スキマを通り入っていく。目の前の少女は、そんな俺を見て笑っている。ワラッテイル。俺が通ったスキマが閉じてもずっと、ずっとずっとこちらを視てワラッテイル。

 

「ダメだめ。子供は『心から』笑ってなきゃ、一人前とは言えないぜ?」

 

「フフフ、ハハハ、ハハハハハ!ネェ、アナタハコワレナイ?」

 

なぁにをいってるんだか。壊れるとか、壊れないとか、そんなものは云ぬんかんぬんどうでもいい。それはただの『結果』だ。壊れたらとか、壊れなかったらとか、そんなものは何の意味もない『結果』なのさ。そこに価値はないよ。まったく、若いやつはそこんところがわかってない。

 

「まぁ、かかってきなさいな。そこから話をすることにしますかね。」

 

「ハハハ!!コワレチャエ!!!」

 

願わくば少女には、俺に価値のある『答え』を掲示してくれることをーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝蔵が完全に目的の場所に到達したのを確認して、私はスキマを閉じた。

別に様子を見る必要はないだろう。伝蔵はああ見えてしっかりと仕事はこなしてくれる。たとえ無茶なことでも最終的には成功させるのだ。まぁ流石に無傷というわけにはいかないが。

 

 

 

さて、それでは私は、幽々子と一緒にお茶でも飲んでのんびりしていましょう。

伝蔵も霊夢も私の望む結果を運んでくれるのだから、安心だ。

 

そう思い、私は幽々子が居るであろう白玉楼の屋敷の中の一室に、スキマを通し向かう。そしてその場所には幽々子と庭師である妖夢がいた。

 

「あら、紫じゃない」

 

「こんにちは。 幽々子、それと妖夢 」

 

「紫様。よくおいでになられました。」

 

ちょうど二人は昼食をとろうとしていたところらしい。二人で挟まれている机の上にはしっかりと調理された三人分の食べ物がのっていた。

 

「あら、今日は忘れずに妖夢が作ったのね」

 

「……ははは。しっかりとした昼食を食べたかったので。…そういえば伝蔵さんがどこにいるか知っていますか?ちょうど御呼びしようとしていたので」

 

「ああ、伝蔵?伝蔵ならさっきまで庭掃除をしてたけど、今起きてる異変で少し問題が生じたからそのまま向かわせたわ。帰ってくるのは遅くなるでしょう。だから、この伝蔵の分の昼食は私が食べるわ。そういうことでいただきます。」

 

私は正座をし、目の前の昼食に目を向ける。流石は妖夢が作っただけあって様々な種類の料理が机の上にある。どこかのだれかさんとは違い単品と言うことはなかった。よし、それじゃあいただきましょう。そう思って私が箸をとり料理に手をつけようとしたときだった。妖夢が突然元気よくこう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そのまま向かったのですか!では伝蔵さんは剣術以外も優れておられるのですね!」

 

 

 

 

 

箸が空中で止まる。

 

 

……え?今なんて言ったの?この子?

 

「ごめんなさい。妖夢。今、何て言ったの?」

 

私の聞き間違いかもしれない。私は妖夢にさっきの言葉を聞き返した。だが、それは間違いないではなくーー

 

「え?ですから、伝蔵さんは剣術以外も優れておられるのだと。伝蔵さんは庭整備をしてくださっていただいている時、必ず身に付けている刀を白玉楼で宿泊している部屋において行くのですよ。なんでも重くて邪魔だそうで。それにしても知りませんでした!まさか剣術以外も優れておられるとは!今度、私も教えてはくれないでしょうか?」

 

妖夢が目をキラキラと輝かせながらそう言うのに対して、私は手に持っていた箸を机に置き、両手で自分の顔を覆う。

 

 

 

 

 

……そうだった。すっかり忘れていた。あの男は、あの剣士はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頭が、残念だった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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