斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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6話 紅夢異変のこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処までも紅い館で、二人の妖怪は話し合いをしていた。その妖怪の両者はともに実力者といえる、それほどの妖力、存在を傍目に見ても認識することが出来た。

そんな妖怪達の話し合いの内容は新しい幻想郷の決まり事、スペルカードルール(弾幕ごっこ)についてだった。スペルカードルールとは幻想郷内での揉め事を解決するための手段であり、その解決手段を人間と妖怪が対等の立場で行えるようにするものだ。この決まり事で幻想郷内の秩序が保たれることになるだろう。

しかし、その決まり事を幻想郷に浸透させるには何かしらの大きな実績がなくてはならない。そのルールによって何かしらの功績を残さなくては決まりを守るものもいないだろう。

だから、この話し合いはそのためのもの。幻想郷でスペルカードルールによる実績をつくるためのデモンストレーション。

そのための話し合いを、両者の妖怪ーー八雲 紫とレミリア・スカーレットは話していた。

 

「それでは、このような流れでお願いしますわ」

 

幻想郷の創設者である八雲 紫は、後に「紅霧異変」と呼ばれる異変の流れを説明した。この異変は幻想郷にとって、とても大きな一歩となる。そのために入念な打ち合わせは何度もしていた。この話し合いはこれが初めてではない。何度も確認しておいて損はないだろう。

その言葉を聞いた吸血鬼であるレミリア・スカーレットは如何にもめんどくさいといった口調で返答する。

 

「わかった、わかったよ。つまりは私が起こした異変を解決するために巫女が来て、私はそれを悪まで『スペルカードルール』という遊びで対処しなくてはならないんだろう?」

 

「その通りですわ。貴女だけでなく、貴女の部下にもそうするように徹底づけてくださいな」

 

「チッ、わかったよ。ったく、めんどくさい」

 

レミリアはこの異変を起こすのにあまり協力的にはなれなかった。第一にこの異変を自分が起こすメリットが全くない。巫女とごっこ遊びをして何の得があるというのか。

されど、この幻想郷を創った八雲 紫からの要請ーー脅迫に従わなくては何と彼女が言い出すかわからない。それにこちらは前同胞たちが起こした異変の借りがある。それを今回のことでチャラに出来るのが数少ないメリットである。レミリアはテーブルに置いてある紅茶を一口飲み溜め息をついた。

 

「あら、小さい身で苦労をされているようで」

 

「……ふん」

 

一体誰のせいで苦労していると思っているのだろうか。レミリアは八雲 紫という妖怪を好きにはなれなかった。この妖怪は胡散臭く信用ならない。それに加えていつでも自分に主導権があると思っているような態度が気に食わなかった。

 

「それでは私はこれで失礼しますわ」

 

「ああ、さっさと帰れ」

 

八雲 紫はそう言い自らの背後に目玉がたくさん浮かぶ空間を出現させた。どうやらそれが彼女の能力らしい。いや、能力による副産物なのかもしれないが、それはとても奇妙なもので、妖怪の彼女をより不気味に感じさせた。

 

「ああ、最後に一つだけ」

 

空間に片足を入れたまま彼女はそう言う。レミリアはまだ何かあるのかと彼女の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「地下にいる貴女の妹さん、しっかりとしつけておいてくださいな。もしものことがあってからでは遅いので」

 

 

では、と言い八雲 紫は完全に空間に入っていき、それは消え去った。

残された吸血鬼はその言葉に対して、ただ下を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いいか、妖夢。岩を斬るコツはな…」

 

「…はい!」

 

緊張感に満ちた空間のなか、俺はいつもより真剣に、言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

「バッと刀を振って、グッと力を入れて、ゴォォオオンって感じだ!」

 

「…は、はい?」

 

「いや、だからな、バッと力を入れてグッと刀を…」

 

「伝蔵、少し話があるわ」

 

 

白玉楼にて妖夢に岩を斬るコツを教えているとき、紫が突如スキマから現れ俺を呼んだ。

妖夢ちゃんがコツを聞いてきたからちょっと真剣に教えてるんだけどなぁ。バッドタイミングだよ。

 

「妖夢。すまんが後で良いか?」

 

「は、はい。」

 

妖夢ちゃんには申し訳ないが、紫との話を優先させてもらう。……紫先輩がこう話を切り出してくる時ってだいたい頼み事なんすよ。それもだいたい面倒な。……マジ勘弁してほしいっす。いや、本当にね?もう俺も年なんすよ。ちょっと肉体労働は厳しいっす。……まぁ頭働かせるよりは体動かす方が楽だけどさ。そこ!脳筋って言うな!

 

「で、何か用か?」

 

「ええ、少し頼み事を」

 

ふぅ、分かってました。ええ、分かってましたとも。そしてこれは逃れられない運命だということも理解しております。いや、もうこういうとき僕の選択権ってないんよ。もう紫先輩の頼み事には強制(従わなかったらどうなんのか分かってるよな?)が含まれてますからね。…ああ、働きたくないでござる!働きたくないでござる!

 

「少し厄介事になるかも知れませんが、ね」

 

その言葉の後に、紫はこれまでの経緯を説明した。スペルカードルールのこと、これから起きる異変のこと、そしてその異変を起こす吸血鬼のある問題のことーー

 

「そして、貴方にはこれからの幻想郷での掃除屋をしてもらいたいの」

 

「掃除屋?」

 

「ええ」

 

俺は紫の言葉の意味が分からず、少しの間思考に移る。

なにそれ怖い。何がどうなってそうなるの?俺これから箒を片手に幻想郷を走りまわるの?ええー、やだよそんなの。そんなことしたら今でも幻想郷一の剣豪(笑)なのに、幻想郷一の剣豪(ただし剣の代わりに箒を使う奴(笑))もとい短縮し幻想郷一の箒使いにジョブチャンジしちゃうよ。

それに俺、掃除嫌いなんよ。なに?何で皆掃除するの?どうせまた汚くなるじゃないっすか。だったら!俺は!掃除なんて!しなくても!いいわけないっすよねスミマセン。

と、とにかく、俺はそんな箒を使うプロフェッショナルではないのでね、職業選択の自由を訴えたいと思う、んだが俺には拒否権がないんだった……せ、せめて白玉楼だけとか、そういう範囲を狭めてくれるように頼もう!おお、もし白玉楼だけで許されたら俺も庭師になるのかな?ふむふむ、……何かさ、庭師って響き、かっこよく感じない?何か魔術師より庭師の方が完成された言葉のように感じる。俺だけかなぁ。

 

そんなことを考えている俺に、紫は言葉を続けた。

 

「……つまり、貴方にはスペルカードルールに反対を示す、またはルールに背く行動をとるものに対する「駆除」を行って貰いたいのよ」

 

ほーう。そういうことね。

 

「なるほど……俺は妖力が無くてスペシウムガーデンルーラが使えないから、スペースカートルーキーを使わない相手を倒すという役割が与えられたということ、か」

 

 

「…スペル、カード、ルールよ。まぁ、それ以外はあってるわ」

 

…すぺる、かーど、るーる?めんこい名称やなぁ。初めて聞くから分からなかっただけだよ。ほんとだよ?断じて、俺の頭が弱いわけではない!……弱いわけじゃないよね?ちょっと心配になってきたでござる。だ、大丈夫大丈夫。俺しっかり九九できるからね。完璧完璧。

 

「それで、その姉妹吸血鬼はどんな奴なんだ?」

 

吸血鬼ってどんな感じなのか俺には全く分からないからね。聞いたことはあるんだけど。結構協力な妖怪ってことぐらいしか理解してないからなぁ。

 

「姉の方は幼い容姿に水色の混じった青髪、そして瞳が赤いことが特徴ね。でも、危険視している問題の方は…」

「妹さん、だろ」

 

「…そうね、ごめんなさい。妹の方はよく分かっていないわ。ただ姉と違って狂暴なことだけは確かよ。彼女は潜在妖力からして姉とは別物だわ」

 

紫さんにそこまで言わせるってめっちゃヤバイじゃないっすか。そこまでのものかい。『鬼』ってつくのはみんな化け物ってことかね。

 

「でも、余程のことがない限り彼女は現れないでしょう。余程のことがなければ、ね」

 

ふーん。俺としては、余程のことがあってくれた方がいいと思うんだがね。それは神のみぞ知るってことか。

 

「じゃあ、その異変を解決するハクレイの巫女ってのは?」

 

「彼女は見た目は普通の巫女と変わらないわ。でも、彼女は天才よ。スペルカードルールなら幻想郷最強であり、それ抜きでも彼女を倒すことは難しいわ」

 

お、おう。紫さんそいつのことベタ褒めじゃないっすか。っていうか今回の異変って強い奴多いんだね。その内強い奴のインフレの世界になったりするのかなぁ、幻想郷。こう「ハハッ!この攻撃を避けたら幻想郷は破壊されるぞぉぉおー!」「かっ、考えやがったなぁ!ちくしょうー!!!」みたいな。……やだなぁ。何回も幻想郷破壊してほしくないよ。

 

「そして、今回の異変でスペルカードルールに背く行為が見られたら貴方を投入しますわ。準備だけはしておいてくださいな」

 

「…わかったよ」

 

まぁ、スペルカードルールに参加出来ない分、しっかり働かせて貰いますかね。でも、今回は出番はないと思うけどさ。さてそれでは、妖夢ちゃんのところにもどりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何日も紅い霧に包まれ続けている幻想郷。

その中の博霊神社に、変化があった。

 

 

「ようやく動く気になったのかよ霊夢。遅いぜ」

 

「めんどくさいけど、流石に職務放棄するわけにはいかないわ。誰だか知らないけど、さっさと元凶をぶっ飛ばしましょう」

 

「……これが幻想郷の博霊の巫女かぁ」

 

そして、紅い霧に包まれた幻想郷の空を、巫女と魔法使いは飛んでいく。

この「紅霧異変」を解決するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは冥界。

冥界には紅い霧が及ばず、空は青く太陽がいつも通り輝いていた。そんななか、二人の訓練は続いている。

 

 

 

 

「だからな妖夢。ドカン、シュイン、ガキンなんだよ」

 

「……伝蔵さん。なんかさらに適当になってません?」

 

白玉楼の屋敷から、二人の訓練風景を見ている八雲 紫は言う。

 

 

 

 

 

 

「……これが幻想郷一の剣豪かぁ……ないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 


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