斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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閑話 操ること(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

「幽々子様」

 

「うん?どうしたの妖夢」

 

「伝蔵さんがどこにいるか知っていますか?さっきから探しているのに見つからないのですが」

 

「…伝蔵様にはある大切な用事を頼んでいるわ。だから、今はこの冥界にいないの」

 

「そうなのですか…なら仕方ないですね。教えていただきありがとうございました。では、失礼します」

 

そう言い妖夢はその場を後にする。そしてその姿が見えなくなった後、幽々子は笑みを浮かべながら、言う。

 

 

 

 

「ーーそう、大切な用事をね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス・マーガトロイド、という者について聞くと一割の人は誰それ?と答え、三割は人形みたいで綺麗な人、と答え、残りの六割は笑わらない人、と答える。

 

アリス・マーガトロイドがそのように言われるのは理由がある。

彼女は時々人里に行き、人里の子供たちを対象とした人形劇を行う。その人形劇はとても完成度が高いもので、大人たちが見ても楽しめるものになっている。

劇の中の人形の動きは軽やかでまるで生きているかのように感じるし、その人形が浮かべている表情は自然なものであり、変化もして普通の人形とは一味も二味も違う。なのでよく印象に残るものとなっている。

 

そう、印象に残ってしまうのだ。

 

劇中の人形が喜怒哀楽を上手に表現しているのに対し、その人形を操っているアリスの方は表情が全く変わらない。

せいぜい人形劇が終わって周りの人たちから拍手された時に笑みを浮かべる程度だ。そして、その笑みも口角が少し上がったか?程度で、笑っているのかいないのか彼女をよく知っている人物でしかそれを認識することができない。

 

だから、彼女を知っている人物からの大まかな評価はそのようなものになっている。なってしまうのだ。

 

「おおー」

 

「すげー」

 

そして、そんな彼女は今日も人里で人形劇を行っていた。

別に彼女は表情が変わらないからといって喜怒哀楽が無いというわけではない。むしろそれが無かったとしたら人形劇なんてしに来ないだろう。ただ彼女はそれを表情にだすのが苦手なだけであって、感受性などもきちんと備わっているのだ。

 

「こいつわるいやつだな」

 

「がんばれー」

 

「おお、こりゃ今回も凄いな」

 

今彼女が見せている劇は「白雪姫」という物語だ。大まかな内容としては白雪姫というとても美しい王女と、その実母である自分こそが一番美しいと思っている王妃がいて、その王妃は魔法の鏡に「世界で一番美しいのはだれか?」と質問する。その質問の答えとして、今までは「それは王妃様です」と答えていたが、この日からは「それは白雪姫です」と答えるようになってしまう。

それを聞いた彼女は白雪姫に対して怒りを覚え、白雪姫を殺そうと様々なことをする。しかし何度もそれは白雪姫と共に生活している七人の小人によって無駄なものに終わってしまった。だが、最後の殺害方法としてリンゴ売りに成り済まして毒リンゴを彼女に食べさせることに成功し、その殺害方法は小人たちに看破されることなく白雪姫はその遺体をガラスの棺に入れられるのだ。

でも物語はここで終わらない。そこに王子が通りかかりガラスの棺に入れられた白雪姫を見て、遺体でもいいからほしいとその棺と一緒に白雪姫をもらい受ける。そしてその棺を担いでいた家来が木につまずき、その衝撃で死んだ白雪姫の喉に詰まっていた毒リンゴが吐き出され白雪姫は生き返る。

結果として白雪姫と王子はそのまま彼女を王妃として迎えることにし、その結婚式の時に、実母の王妃を真っ赤に焼けた鉄の靴を履かせ、死ぬまでその王妃を踊らせ続けて物語は終わる……これが物語、「白雪姫」の大まかな内容だ。

 

だが流石に子供たちが見ている中なので残酷な表現は軽いものに変換し、この劇を行っている。特に最後のシーンは大幅に変換して行う予定だ。流石にあの場面は後味が悪いものになること間違いなしだからだ。

 

そして、今劇は王子がガラスの棺に入った白雪姫を見つける場面に差し掛かったところだ。子供たちが劇に注目を集める。

 

「ここからどうなるんだ?」

 

「ハッハッハ。ここで王子がな?白雪姫に接吻して生き返るんだよ」

 

「そうなの!?」

 

「ああ。この前落ちてた絵本で読んだからな。間違いない」

 

……何かの間違えではないだろうか。「白雪姫」にそんな方法で息を吹き返すということは書かれていないはずだが…

まぁ気にすることではない。確かにその方法の方が綺麗だと感じるが、今は自分のすることに集中しよう。

 

王子は死んだ白雪姫を棺に入れたまま家来に運ばせる。

 

「あ、あれ?」

 

「おい伝蔵ー。まだ接吻しないのかー」

 

家来が木につまずいた。その拍子に白雪姫が毒リンゴを吐き出し、そして白雪姫は息を吹き返した。

 

「え、えぇぇーーー!!なんじゃそりゃー!」

 

「おい伝蔵ー。話が違うぞー」

 

「いや、えっ、ええ?」

 

そしてそのまま王子と白雪姫は結ばれ、実母である王妃を二人は許してあげ三人仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

……最後の改変は無理矢理なものだが、子供たちにとっては特に気にならないだろう。後ろの方で視ている大人たちも受け流してくれるはずだ。

 

「はい。それでは今回の人形劇は終了よ」

 

「ありがとう。アリスお姉ちゃん!」

 

「面白かったよ!」

 

「そう。よかったわ」

 

そして劇が終わった後、子供たちは感謝の言葉を伝え、元気にその場を去っていく。今日の劇も楽しんでくれたようだ。アリスはその事に喜びを感じ、意識せずに自然と口角が少し上がる。それを笑みと認識出来るのは何人いるのか。彼女は今日も相変わらずだった。

 

しかし、皆が去っていく中。一人だけ立ちながらアリスの方を見ている男がいた。

小麦色に焼けた肌に、黒く短めに切られた髪。黒を基調とし、所々に赤が散りばめられた浴衣。

その男のこちらを射抜く視線が、男自信のの存在感をより強くしているように感じる。

 

そして周りの人たちがいなくなり、アリスと男だけになった。そして、彼は言う。

 

 

 

 

 

「……アリス。どういうことか説明してくれ」

 

 

そんな彼の言葉を聞いたアリスは、彼女にしては珍しく面倒、といった感情を顔にはっきりと浮かべ、大きく溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーと言うのが本当の「白雪姫」の話よ」

 

……なにそれ恐い。

 

 

 

俺は今、アリスと一緒に人里を歩いている。人里は今が真っ昼間なため活気があり、多くの人で溢れていた。だが、なぜ白玉楼にいた俺が今こうして人里を歩いてるのか。それは深い事情があった。だいたい、オレだってこの夏真っ只中外に出たいなんて思うはずがないのである。とても重要な用事ができてしまい、嫌々ながらここまで遠出してきたわけだ。それでは、少し前に時間をさかのぼってみよう。

 

ーーー

 

 

 

 

 

「伝蔵。頼みがあるんだけど」

 

「ん?おう、紫か」

 

「私、これから幽々子のところに行くんだけどね。持ってくるはずのお土産の団子を買い忘れちゃったのよ」

 

「へぇー」

 

 

 

 

 

「ーーだから、ちょっと人里に行って買ってきてくれない?」

 

「へ?」

 

そう言ったと同時に、俺はスキマに落とされた。

 

ーーー

 

 

 

…ちょっと俺の扱いが雑すぎると思うんだ。だってこっちは「はい」も「いいえ」すらも言ってないし、相手の了承を得る前にかなりの暴挙にでるのは如何なものか。…まぁ別に?僕も大人ですし?気にしてないけどね?

それに俺が落とされた後、一緒に紫の財布も落ちてきたしね。それは当然のことだけど好感が持てる。しゃあない、今回は財布の中身を空にするだけで勘弁してやろうかな?

まぁそういう理由で今人里にいるわけである。

 

それでどうやって財布の中身をへらそうかなーと考えていたところでアリスの人形劇を見つけたわけだ。

 

 

いつも思うんだけど、この人形劇って完成度が高いんだよね。こう、細かいところの演出まで凝ってるし、何か時々魔法?を使って色んな色の光とか出してるしね。たびたび夢中になって見てくんだよ。でも今回はその内容がね…俺の知ってるのと大分違うんだ。特に今アリスから聞いた白雪姫のお母さんの最後が、ね。

……き、切り換え!切り換え!今はそんなことより他のこと考えよう!ほら、最近妖夢ちゃんが頑張ってることとかそういう話をしよう!

俺がそんなことを自分に言い聞かせていると、今一緒に歩いているアリスが俺に話しかけてきた。

 

「そういえば、貴方に聞きたいことがあるのよ」

 

「ん?なんだ?」

 

聞きたいこと、か。俺何かしたっけかなぁ。心当たりがありすぎて困るんだが。

そんな風に内心ビクビクしているオレに構わずアリスは言う。

 

「いつも人形劇を見るときに、前の子供たちに混ざるのは何でなの?」

 

「え?そんなのよく見えるからに決まってんだろ」

 

「……」

 

子供か、と言いたげな表情をしながらこちらを見てくる。いや、言葉にだして言いましょ?どんな奴だって無言の圧力が一番キツイからね?言葉にだして伝えた方がいい場合だって、あるんだよ?っていうか何で俺の時だけいつもそんな表情をはっきりとだして訴えてくるんだよ。もちろん、表情を表にだすことは悪いことではないよ?むしろ君はもっとじゃんじゃんだしなさい。でもね、それが不満の感情オンリーなのはどげんかせんといかんよね?俺のメンタル的に考えて。

 

「あ、あんな所に団子屋がありますよ。今日は僕が奢りますので一緒にどうでしょうか?アリスさん」

 

まぁだいたい甘いものを食べさせておけば女の子は機嫌が良くなるって法則がこの世にはあるからね。今回はそれを使わせてもらいましょう。俺の金じゃないから遠慮は入らん。

 

「……私は別に良いわ」

 

「やっぱり団子っていうとみたらしだよなー。ほれ、アリスちゃんも早くこっちに来て選びなさいな。」

 

「………」

 

何かアリスって俺といっしょにいるときだいたい何か言いたげな表情をすることも多いんだよね。言葉にだしてはっきり言えばいいのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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