斬れぬものなど全くない   作:きんつば

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2話 出会うこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和の心って大事だと思うんだ。

 

 

 

 

 

なんじゃそりゃと言う人もいるだろう。確かに、一概に和の心と言っても人によっては解釈の仕方に違いがあるし、その言葉自体を知らない人もいる。結論を言ってしまうと、分かりづらいからもっと分かりやすくしろやボケということになってしまうわけだ。

だから、俺にとっての和の心の捉え方を説明したいと思う。俺にとっての和の心というのはつまり、おもてなしの気持ち、その態度だと思う。

初対面の人に対しどれだけ礼儀を尽くすことが出来るか、よく知らない相手にどれだけ配慮することが出来るのか。ここがポイントである。

……でも、結構こういうところで人間性ってわかると思うんですよ。なんていうの?こう、「我に対して敬意をはらえ」とかいきなり言ってくるやつと、「私は◯◯と申します。貴方の名前を聞かせて貰っても構いませんでしょうか?」と言ってくる人では断然後者と仲良くしていきたいと思うはずである。敬意?そんなこと言ってくる奴に払えるのかと。

 

そして、俺はそういう所でこれから仲良くしていくかどうかをはっきりと決めてしまうタイプだ。そんな俺のことを器が小さいと思うだろう。心が狭いと思うだろう。でもさ、もし現実で、「気に入った。お前、オレの仲間になれ!」的な発言をしてくるやつはその後に(強制)が絶対付くんだよ。もうね、お前は大物だと、いつの時代の王を目指してるのかと。

 

でも、今俺の話を聞いて疑問に思っている人もいるだろう。「あれ、わざわざ和の心って言う必要なくね?単純に礼儀正しくしてる奴が好きだって言えばよくね?」と。

 

まさにその通りである。

だが、俺が何故わざわざ和の心と言ったのか、それにはしっかりとした理由がある。それは、

 

「ようこそ白玉楼にいらっしゃいました。私は白玉楼の主、西行寺 幽々子と申します。ここまでの道のりはさぞ大変だったことでしょう。屋敷に御上がりになって少しお休みください 」

 

こ、これがモノホンの大和撫子やでぇ……!

 

それは今目の前にいる、西行寺 幽々子が原因であった。

これはやばいね。何て言うのかな?大和撫子度が凄い。佇まいから雰囲気、何から何まで非がない。まさしく大和撫子である。

 

まぁ髪の色が桃色なのが少し西洋風に感じるが(西洋でもそれはない)、それすら覆ってしまうほど和として完成された存在のように思える。

日本よ、これが大和撫子だって具合である。

なんだいなんだい。紫ちゃんってば最初から目の前の彼女の話をしてくれたら無駄な抵抗はしなかったのに。ハッハッハ。

……でもね、 幽々子さん。僕は ただスキマに吸い込まれただけなんすよ。だから、なんかその優しさが心に刺さるというか、なんというか、とても申し訳ないっす。

 

そして、 幽々子さんに促され白玉楼の屋敷の中を進んでいく。かなり広い屋敷だ。この建物だけでなく、今歩いている廊下からはとても広い庭を見ることができた。整備もしっかりされているようで、感心してしまう。全く、あんなに広い庭を掃除するのは大変だろうに。よく取り組めるものだ。

そう思うと同時に、俺はここに来た目的を思い出した。

あれ?紫は俺に白玉楼の庭師に剣を教えるようにって言われたんだっけ……あの庭を見るかぎり、立派な人格をした御方ではありませんかね?俺よりきっと凄い奴だよね。俺、場違いな感じがするよ。申し訳ないよ。

……落ち着け、よく考えろ俺。あんなに立派な庭が一人で整備して出来るわけがないだろ?そうだよ。これは絶対に一人で出来る事じゃない。これは、この庭はきっとたくさんの人たちの手によって作られたものなんだ。そう、これは白玉楼の庭師というチームの力なんだ!

危なかった……そうだよ、俺はいつの間にか白玉楼の庭師は一人と言う先入観にとらわれていた。これじゃダメだ。飲み込まれるんじゃない。こういうとき、先に慌てた方が負けなのよね理論だ!

 

「おお、これは立派な庭ですね。幽々子さん。」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

よし、安心するためにこの考えを確信に変えよう。心に安定を、信頼を、やすらぎを……

 

「この庭は何人の方によって整備されているのですか?」

 

「一人ですよ」

 

………え?

 

「またまたご冗談を~」

 

「いいえ、事実で……いや、正確には一人というより0.5人ですねぇ」

 

いやいやいやいやいや、つまりどういうことだってばよ?!

 

「は、はっはっは。それは愉快な光景でしょう」

 

「ええ。あの子は0.5人でよく働くけど、もう0.5人分の霊もよく働くところは見ていておもしろいわ」

 

お、おい。何が起きてるんだこの白玉楼に。いや、これはもしかしたら幽々子語なのかもしれない……誰かぁー!通訳の人を呼んでぇー!!

 

 

「では、この部屋にてお待ちください。今から伝蔵様に剣を教えていただく者を連れて参りますので」

 

そうこうしてるうちに、俺は一つの部屋へと案内されていた。

 

「はい!承知しました!待たせていただきます!」

 

幽々子さんは俺の様子を見て笑みをこぼし、この部屋を出ていった。そして俺は自分だけとなったこの部屋で心を落ち着かせることにつとめる。

 

ーーヤバイぞ、俺。余裕がなくなってる。さっきの幽々子語のせいもあるがそれだけじゃない。

だって、俺今回、教える奴に「大事なのはこれ(刀)じゃねぇ、ここ(心)だ」って言ってやりゃいいと思ってたもん。そう言って帰ろうと思ってたもん。でも、明らかに俺が教える奴は聖人君子的な奴だよ。一瞬で看破されるよ。…あれ、でもその聖人君子は0.5人でよく働いてでもそれは霊で庭師で……あぁぁぁあああ!!!

 

 

 

 

 

ああ、どうしようかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

二つの刀を畳みの上に置き、正座。

精神を集中させる。

 

これは私が毎日行っている日課だ。

剣を振るうとき大事なのは剣ではなく、己自身だと祖父は私に言った。

それから、この訓練を毎日するようになった。祖父が指示した時に行うこの訓練。でも、今では暇な時間を見つけてはそれをするようにつとめている。

ーー私はまだ弱い。半人前である。だからこそ、私は少しの時間でも訓練に励み、強くならなくてはいけない。一日でも早く、一人前になるために。

 

「妖夢。伝蔵様が来られたわ。いらっしゃい」

 

幽々子様が私を呼んだ。畳みに置いた二つの剣、楼観剣と白楼剣を手に取る。

さて、伝蔵と言う御方はどんな者なのだろうか。 幽々子様は幻想郷一の剣士だと私に教えてくれた。だが、どのように私に剣を教えてくれるのだろう。

厳しくてもいい、辛くてもいい。私が早く強くなれるのなら、それは構わない。

私はそう、強く覚悟を決めた。

 

そして、伝蔵様が居られるであろう部屋へと歩を進める。一歩一歩、確実に近づいていく。

前を歩いていた幽々子様が歩くのを止め、ある部屋に向かい合った。この部屋なのだろう。

 

「妖夢。いいわね?」

 

私は一回だけ深呼吸をする。そしてーー

 

「覚悟は出来ました」

 

私がそう言うと幽々子様は部屋の障子に手をかけ、開いた。

その部屋に入り、指導してくれるであろう御方を私は見た。

 

小麦色に焼けた肌に、黒く短めに切られた髪。黒を基調とし、所々に赤が散りばめられた浴衣。 この部屋に平然と座りながら、入ってきた私をじっと見つめている。

きっと私がどれ程の力量かを推測しているのだろう。

 

沈黙が部屋を支配する。誰もが声を出すのを躊躇う緊張感。そして、第一声に

 

「…………あれ、予想してたのと違う」

 

そんなことを伝蔵様は言った。

 

……あの、私も予想してた反応と違うんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケメンの出来る奴の聖人君子風の聖人君子の0.5人の庭師を予想してたら普通に女の子供が来ました。

 

「…… 幽々子さん、つかぬことをお聞きしますが………彼女ですか?剣を学びたいというのは」

 

「はい。そうでございますよ」

 

 

あっれー何これ。予想してたの大分違うんですけど、聖人君子でも0.5人でもないんですけど。普通の女の子なんですけど。

 

「……確かに私は未熟ですが……そんなにはっきり言わなくても……」

 

 

そう言い、落ち込んでいる女の子の様子は剣を扱うようにはとても見えなかった。

単純に普通の一般人の雰囲気を醸し出している。

 

この子が剣ねぇ……?

 

しかし、俺は自分の考えを即座に改める。

いや、これはよくあるパターンのやつだ。きっとこれは、私弱いです、と謙遜しつつ虎視眈々と相手の弱みに漬け込んでいこうという、手段を選ばずに勝ちにこだわるタイプの強者なんだ。

 

そう考えると、……ヤバい、何て奴だこの少女。この若さで戦いというものを熟知してやがる。

 

でも、そう考えると紫が何故俺にこの少女を任せたか納得できる。

俺にしっかりとした奴を押し付けても、俺は誰にも剣を教えたことがなく、結果として教え方が下手だから大して成長しない。でも、この少女は違う。この少女はもうすでに、何をしても勝つという一種の使命感にとらわれているんだ。だから、俺が何を言ってもそれが勝つために正しいことだと疑わない。故に、自分なりに創意工夫し、俺の教え以上の結果を叩き出す。

だが問題はこれからだ。急速的な速さで力を手にしたこの少女はどうする?

 

………考えたくはないが、きっと少女は破滅の道へと進んでしまうだろう。

 

だから紫はこう考えたんだ。ただ斬ることに特化した俺なら、相手の強さなど関係ない。少女が危険だと判断したら、即座に切り捨てることが出来る俺を側に潜ませて置こうと……

 

 

でもな、紫。そんなことはさせない。

俺がこの少女に剣を教えるとともに、しっかりとした本当の剣士に育ててみせるから。

紫も俺なら出来ると思ったんだろ?確かにこの少女が成長した力は幻想郷には欲しいよな。でも、それが逆に幻想郷にとっての悪になるようなことは認められない。

だから紫はもしもの時のためと、少女を正しく導くための両方の役割を俺に与えたんだ。

クッ、何だよ紫。お前めっちゃいい奴じゃんか。だから、お前は俺をあんなに必死に白玉楼に送りたかったのか。

……ごめんな。察せなくて。でも、もう大丈夫だ。もう、俺のやるべきことは分かったから……

 

 

 

 

「ーーー少女、お前の名は?」

 

突然、目の前の伝蔵様の雰囲気が変わった。それは確かに一流と言えるような、そんな、強者の威圧感を出していた。

これが、幻想郷一と言われる剣士の力……!

今までの私の彼に対する評価を改めなくてはいけない。さっきまで私は、本当に強いのか?と、疑問を持っていた。だって、さっきまでは強大な妖力など感じず、振るまい方も普通としか思えなかったからだ。

でも、今は違う。妖力がなくともこの、圧倒的存在感。彼が、彼こそが、私に剣を教えてくれる、一流の剣士ーー!

 

「わ、私の名は 魂魄 妖夢と言います 」

 

私はいつもより緊張感を感じ、だがいつもより喜びを感じながら自分の名前を言った。そして、それを聞き、彼は小さく笑みを浮かべながら言う。

 

「ーー妖夢、俺の名前の後に様はいらない。別に呼び捨てでもいい。俺とお前はただ剣を教えるか、教えられるかの違いしかないからだ。ーーだが、忘れるな。剣とは斬るためにしか存在せず、何を斬るのかは剣ではなく、己で決めるのだということをーー」

 

 

「ーーっはい!」

 

「フッ、いい返事だ」

 

 

そして、私は確信した。伝蔵様、いや、伝蔵さんに剣を学べば、絶対に、間違いなく、私は強くなれるとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、スキマ妖怪は一人で麦茶を飲みながら一言。

 

「伝蔵、頭が弱いから心配ねぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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