とあるチート保持者によるこの上なく意味のない物語 作:celestial
ふう。
暗い話ってどうやって書くんでしょうね…
――何故だ、どうして。
と彼は叫んだ。
『自分』が、其処では笑っていた。
正確には、自分の存在を奪った何者か――自分ではない『自分』が。
彼は叫ぶ。
自分がいた場所が、奪われていく。
自分の存在していた証しが、失われていく。
――それに、誰も気付かない。
自分が今まで一緒にいた少女たち。
自分が今まで戦った、彼ら。
誰もが、自分が『自分』に奪われた事に気付かない。
彼は呪った。
自分を奪った何者かを。
…自分を奪った何者かを簡単に受け入れた、少女たち。
…自分を奪った何者かを判断出来ない、彼ら。
彼は呪って、呪って、呪い続けた。
今まで一緒にいた時間はなんだったのか。
今までの時間は、偽物だったのか。
そう声が掠れながら叫ぶ。
彼は今までの時間を思い返した。
――それは、人の命を懸けた殺し合い。
その戦いを、彼は蒼の騎士と、赤の魔術師と駆け抜けた。
その戦いで、青の槍兵と、黒の凶戦士と、紫の騎兵と、紺の魔術師と、青の暗殺者と、金の英雄王と、赤い弓兵と戦った。
その戦いで、紫の少女と虎の義姉、その他の平凡な日常も愛した。
それは、死にそうになるほど命掛けで辛い日々ではあったけども、彼にとっては大事な、忘れがたい日々だった。
――そう、だった。
彼は、今までの日々を偽物だ、と呪った。
それは、今までの日々を否定し、自らの行いや、自らを。
そして――その戦いを共にした少女たちと、その戦いで命を懸けて戦った彼らを否定するものだった。
彼は、自らの存在が闇に堕ちていくのを感じながらもその呪いを止める事は出来なかった。
養父が、自分にとっての正義の味方が、今の自分を見たらこの上なく悲しみ、嘆くだろう、と理解しながらも、彼は呪い続けた。
□□□
『………んむ?』
彼女――ハクアはふと、眼を覚ました。
変わった格好の少女だ。
蒼銀の髪をし、メイド服のような青いドレスを纏った少女。
ぴょこん、とたったアホ毛を左右に揺らし、身を預けている揺り椅子から立ち上がった。
『………良い、呪いだ』
そう言って嗤う。
彼女の隣にいるのは、ほぼ同じ外見の少女たち。
桃色の髪をし、緑の瞳をした、いずれも別の世界の人物ではありながらも、別の世界でのまったく同じ人間だった少女たちだ。
少女たちは、それぞれ違う世界の人間ではありながらもほぼ同じ騒動に巻き込まれた。
それが――成り代わり。
少女たちに、異世界の人間が成り代わっていた。
ハクアはそれに気付いた唯一の存在で、そんな少女たちに成り代わった存在を殺し、少女たちの存在を取り戻した所を神様に、異世界からの不正来訪者を始末する役目を与えられたのだ。
…その為に、周りの存在を犠牲にしてもいいと言うお墨付きで。
…少女たちに成り代わった存在に気付かなかった周りはどうなったのか?
ハクアはあくまで、成り代わった存在を始末するのと、成り代わられた存在を助けるが仕事。
少女たちは、自分に気付かなかった周りを憎んだ。
自分は所詮、仲間だの何だの言われてもその程度だった、と。
だから――
少女たちが望んだから、ハクアは、彼らを殺した。
別の世界でありながらも、同じ存在が気付かなかった為に何度も同じのを殺すのはかなり疲れる作業ではあったが。
今回、成り代わられた存在はわりかし離れた世界のようだ。
ハクアと少女たちは薄く――しかし何処か愉しげに嗤い、異世界に行く為のゲートに一歩足を踏み出した。
□□□
ふと、彼は今までの場所から移動している事に気付いた。
何処か淀んだ空気をこの上なく神聖な空気だと思ってしまう自分は、完全に闇に堕ちたのだと理解した。
『………やぁ』
その空間には、四人の少女。
一人は蒼銀の髪をした、メイド服の少女だが一番偉いようだ。
他の三人はほぼ同じ顔だが、服装が春、夏、秋を思わせる。
「えっと………」
彼は何が起きているのかわからなかった。
蒼い少女が分厚い紙束を取り出し、それをペラペラと捲っていくと、とある1枚で指を止めた。
『――三 輝(にのつぎ ひかり)』
誰の事だろうか。
少なくとも、彼に聞き覚えはない。
『三 輝。××××年×月××日、○▽領域の神によってトリップ。その際に、この世界の存在に成り代わる。被害者の名は――衛宮 士郎』
自分の名を告げられ、彼――士郎の鼓動が高まった。
「あ…あんたたちは、一体…」
声が出た。
今まではほぼ幽霊のもっと酷いバージョンだったから声は出なかったが、今は仮の実体を持っているような感覚らしい。
『僕の名はハクア。君のような成り代わり被害者を助けるのが仕事さ』
そう言って、ハクアと名乗った少女は笑った。
・
どうでしょう…?
次もたぶん書きます。