パルプンテは最後までとっておく   作:葉虎

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第8話

それは…一匹の狐と少年の物語。

 

とある山の中で一匹の狐が生を受けた。

 

しかし、その狐は…普通とは違う狐だった。

 

他の仲間の狐が年を重ねるごとに死していく中……。

 

狐は死ぬ事無く、生き続けた。

 

幾百…幾千の夜を過ごした狐は妖力という力を得。

 

雷を操る能力と、人へ変化する能力を身に付け……。

 

妖狐と呼ばれる物へと変わった。

 

しかし…穏やかで純粋な狐は妖狐となった後も、無暗矢鱈に力を振るう事はせず…

 

長い時間が過ぎて行き…

 

ある日、一人の少年に出会う。

 

【あれ?君は…】

 

少年と出会った時、狐ではなく少女の姿を取っていたが、人としての言葉を使う事は出来ず…

また、その時代で黒髪ではなく、金の髪という事もあり、そこでは彼女は異端な少女だった。

 

しかし、澄んだ心を持ったその少年は彼女を受け入れてくれた…

 

【はは、お前、動物みたいな奴だなぁ~】

 

少年は少女に食べ物をあげる。

 

その日から、二人は時々出会い、少年は少女に食べ物をあげる日々が続く…

 

少年から食べ物を貰い、笑顔を向けられるうちに、少女の心は段々と暖かな気持ちに包まれていく。

 

狐という獣の身でも、妖狐という妖の身でも理解できなかった……感情という物を知った。

 

少女は少年と会うのが…少年と触れ合うのが嬉しかった……。

 

 

【…や…た……ほら、僕の名前だよ。弥太っていうんだよ】

 

少年は彼女に根気よく名前を教え、甘酒や餅を共に食べた。また遠くの山に薬草を積みに行ったり、川へと遊びにも行った。

 

彼女は少年と一緒に居るのがすきだった。

 

ずっと共に居たいと思っていた。

 

そこには幸福があった。

 

しかし、その幸福は……

 

長くは続かなかった。

 

 

 

 

少年の住む村では、とある噂が立つようになったのが切っ掛けだった。

 

死の病なるモノが近づいている…その病に侵されたものは七晩立つ頃には倒れ…死に至ると。

 

少年は少女に告げる。

 

【死の病がくる……。だから、君はどこか遠くに行った方がいい。】

 

「とおく…いっしょにとおくにいくのすき。かえってきてやたといっしょにのんびりするのもすき」

 

彼女は微笑みながら告げる。少年の教えもあり、徐々に人の言葉を理解できるようになった彼女。

 

しかし、死の病という言葉の意味が分からず、少年と一緒にどこか遠くに出かけるものだと思っていた。

 

【違うよ。帰ってはこない。もう、此処には戻らないんだよ】

 

【……くぅ?…いいよ?やたがいっしょならいいよ?…どこにいくの?】

 

【……僕は一緒には行けない。僕はこの病を治さなければいけないから……】

 

【やたいっしょじゃないの?……じゃ…やだ…いかない】

 

少年は彼女を抱きしめる。売薬商でありながら病から命を救えないことが不甲斐なく…

その両手の温もりが愛おしくて……。

 

少年は泣きながら少女を抱きしめ返し、二人はしばらく抱きしめ合っていた。

 

 

しばらくして…村では死の病に侵され、命を落とす村人が出てきた……。

 

少年の売る薬では病は治らず、また他に治すすべもなく…

 

村人たちは神社へと集まり、神主へと救いを求めた。

 

しかし、神主も病に侵され…

 

絶望の中、神主は今だ病に侵されていない売薬商の少年を見て一つの神託を告げる。

 

神に捧げる供物こそ…この村を救う唯一の手段だと……。

 

神主の神託と、今だ病に掛らない少年に対し村人たちは疑心暗鬼に陥っていた事もあり…

 

 

 

 

 

少年に会うために村を訪れた少女はソレを見てしまった…

 

【この供物により、死の病は取り除かれるであろう!】

 

神主が神社の境内で叫んでいた。

 

その周りには病に侵された人々が集まり、一心不乱に祈り続ける。

 

そして祈る先……人々が囲んでいる中央の柱には…

 

【これで皆は救われるだろう!!】

 

病の証たる黒い死斑に侵され、狂気の表情を浮かべる神主が、赤い血を流しながら…

 

柱に吊るされているモノに叫ぶ。

 

【あ…あ…!】

 

少女の口から言葉にならない音が出る。

 

少女に言葉を教え、少女と共にあり、少女を愛した少年の…

 

変わり果てた姿を……少女はミテしまった。

 

かつての幸福は悲しみに包まれ、絶望し、やがて…

 

憎悪となる……

 

【ぁぁぁあああァッァアアア!!】

 

少女は伏せていた顔を挙げて、天に向け叫んだ。

 

その声が届いたかかのように、蒼天の空から一筋の雷が落ち……。

 

雷の眩い光が止んだ時には…

 

……少女は…狐から少女に変わった少女は……

 

タタリとよばれるモノになった。

 

……その後、その村に何があったのかを知る者は誰もおらず。

 

結果として、村があったと思われる大地は抉れ、焼き爛れ…

 

其処は、長年、草木の生えぬ死の大地となった。

 

その後、全国各地の寺社仏閣にて天候に関わらず、雷が落ち。

 

全てを燃やし、破壊する化生がやってくるという噂が流れ…

 

人々はそれを【祟り】と呼んで恐れた……

 

 

しかし、それも終りが訪れる。

 

如何に強大な力を持っていても、退魔という魔を退ける術を学んだ者たちとの

死闘によって、彼女は封印された。

 

 

 

 

「……じ、…二…耕二!」

 

「んあ?」

 

「どうしたんだ?ボーっとして…体調でも悪いのか?」

 

心配そうに声を掛けてくる父の言葉に我に返る。

 

「いや、大丈夫だよ」

 

昨夜見た夢を反芻していただけだから…

 

あの夢を見た後、夢の影響か寝汗が凄かった為、シャワーを浴び、朝食を取っていたのだが、

 

食事に集中できない。

 

「くぅ?」

 

視線を久遠に向ければ、不思議そうに首を傾げる。

 

原作は知っていた…

 

実際にリアルな…久遠が体験した夢を見た。

 

でもなぁ…信じらんないよなぁ……

 

おかずのウィンナーを半分にし、手招きして、やってきた久遠に食べさせながら思う。

 

あの夢は…久遠の能力である夢移しにより見せられたものだろう。

 

これまで、何度か久遠と共に寝た事はあったが、あの夢を見せられたのは今回が初めてだ…

 

徐々に封印が解ける時期が近づいているのだろう。

 

薫さんが居ない今、若干の猶予はあるのだろうが……

 

「耕二、そろそろ出ないと遅刻するぞ~」

 

父さんに言われ、時間を見ると。確かにそろそろ学校に行かなければいけない時間。

 

慌てて寮を出て、通学路を歩きつつ……。

 

「……万が一という事もあるしな。手札は多いに越した事はないか……」

 

だがなぁ…

 

「あいつ…今日は学校来るかなぁ……」

 

最近時たま休んでいる不良少女…兼、天才少女に思いを馳せた。

 


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