パルプンテは最後までとっておく   作:葉虎

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移転してきました。

引き続き、ご愛読よろしくお願いします。


プロローグ

「ふぅ…いい天気だ……」

 

縁側でお茶を飲みつつ、空を見上げる。

 

今日は、雲一つない快晴。

 

膝の上には…

 

「くぅん♪」

 

子ぎつねが一匹丸くなって寝ており、頭を摺り寄せてくる。

その期待に応えるべく、湯呑みを置き、ゆっくり優しく頭を撫でる。

 

絵にかいたような喉かな場面。しかも今日は平日の昼間とくればそれは至上の贅沢と呼べるもの。

だが、その贅沢も明日まで……

 

「はぁ、学校いきたくねぇな……」

 

槙原耕二、旧名。佐伯司は明日から二度目の小学生。

 

ありがちなテンプレ転生し、二度目の生を受けた彼は、そうぼやいた。

 

そのありがちなテンプレ転生だが、

転生時のやりとりは、転生後の世界がその時点では未定であり、

三つ能力をくれると、所謂お約束的な展開だった。

 

とりあえず、俺が望んだ能力は。

 

①全てのドラクエ作品で出てきた呪文を使える。

②大魔王バーン様と同等の魔力。

③転生後、自身の能力を自由自在にコントロールできること。(アフターリスクなし)

 

この三つ。そんなチート能力を得て、俺はこのとらハ、もしくはリリカルの世界に爆誕した。

 

それは誕生して、両親の会話を聞くうちにすぐに分かった。なぜなら、

 

「耕二、そんな所でのんびりしていていいのか?明日は入学式だろ。」

 

過去に思いを馳せていた俺に、エプロンをかけた長身の男性が苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。

 

槙原耕介。今の俺の親父である。

母の名前は槙原愛。

 

とらハ2のメインキャラだったからである。

 

 

「準備は終わってるよ~~」

 

返事を返し、膝の上にいる狐の久遠を撫でる。

俺がいるのはさざなみ寮一階の縁側。

 

俺が学校に行きたくないのは、此処さざなみ寮が天国だからである。

この寮は、知っている人もいるかもしれないが女子寮。そう、女子寮なのである。

 

しかもとらハ2のキャラが寮生にいたり、また退寮後も時たま来てくれ、みな美人さんなのである。

子供ボディーを利用し、ひとしきりお姉さま方のおぱーいに突貫してはもふもふしたのは懐かしい思い出だ…。

 

あぁ、また来てくれないかな~。ゆうひさんに瞳さん。

そういえば、今度薫さんが来るんだっけ!楽しみだなぁ~。

 

ちなみに、転生後の俺の初恋は仁村知佳さんだったりする。

 

なのになぁ、いくら入学先が聖祥で、リリカルの原作キャラ達に会えるとしてもなぁ。

まだ小学生でしょ?どう考えてもさざなみ寮の方がいいよなぁ。

 

「……ラナルータ使えば、すぐ帰れるよな」

 

ラナルータ。唱えれば瞬時に昼と夜を逆転させる呪文。

 

唱えようかどうか本気で考えつつ、日向ぼっこを続けた。

 

 

「……二、…耕二」

 

「…ん~~?」

 

肩を揺さぶられて、目を開ける。

 

どうやら、日向ぼっこを続けているうちに眠ってしまったらしい。

 

「…起きたね。まったく、そんな姿勢で寝ていると身体が痛くなるよ?」

 

「義姉さん?」

 

膝の上で寝ている久遠を起こさないように、俺は座った体制のまま腰と首をひねり、

声をかけてきたハスキーボイスの持ち主を確認する。

声の持ち主は、想像通りの銀髪ショートカットの美女。俺の義理の姉であるリスティ槙原だった。

苦笑いを浮かべつつ、流れるような動作でたばこを取出し、口に加え、火をつけようとした所で…

 

「…っと、危ない。耕二の前じゃまずいか」

 

取り出したライターとたばこを仕舞った。まったく、女性なのにカッコいい人だとつくづく思う。

 

「別に、俺は気にしないのに…」

 

「耕二はいいかもしれないけど、私が耕介と愛に怒られるんだ」

 

父さんはともかく、あの菩薩のような母さんが起こる姿など想像ができない。

俺も怒られた記憶がないし。まぁ、俺の場合、怒られるような事をまずしていない

という事もあるが…

 

「で、どうしたの?仕事は?」

 

「着替えを取りに帰ってきたんだ。それと…」

 

ニヤッと笑みを浮かべたかと思うと、ギュッと背中に抱き着いてきた。

 

「ちょっ、義姉さん!?」

 

「弟分を補充しきたんだ♪」

 

背中にムニムニと柔らかいものが当たる。うちの義理姉は世間で巨乳といわれるものを持っているのだ。

 

「義姉さん、義姉さんは知ってるでしょ。俺の精神年齢が見た目通りじゃないことを…。駄目だよ、弟とはいえ、男にそんなことしちゃ」

 

「何今更そんな常識人ぶってるのさ。ゆうひや薫には抱き着きに行くくせに。このエロ小僧め。

いや、精神年齢からすれば変態か…よし、逮捕しよう♪」

 

そういうとギュッと抱きしめる力を強める義姉さん。

 

義姉さんの職業は刑事であり、そして、このさざなみ寮で唯一俺の抱える秘密を全て知っている人物だ。

それは2年前。ふとしたことで義姉さんが持つHGS…所謂、超能力を使用した際の心を読み取る力がきっかけで、俺の事を疑問に思い、二人だけで話し合い…もとい、取り調べが行われた事にある。

 

幼児にも容赦ないっす…

刑事パネっす…

 

当時の俺の感想である。まぁ、その際に洗いざらい知られた。

 

 

俺が前世の記憶を持って転生されられた事も…

 

彼女たちが俺の前世の世界でゲームのキャラクターの登場人物であった事も…

 

俺の能力の事も……全て。

 

 

だが、義姉さんはそれを知っても俺を受け入れてくれた。

 

 

へぇ~神様って本当に居るんだ。 前世って言われてもなぁ。耕二は耕二だろ?私の弟だよ。

 

ゲームねぇ。いまいちピンと来ないな。だって私は此処にこうして、自分の意思で生きているし。

耕二も私を一人の人間として義姉として接してくれているんだろう?ならそれでいいさ。

 

能力か…超能力の姉弟。おそろいでいいじゃないか。

 

 

あの時、義姉さんが受け入れてくれた時、初めてこの世界に生まれ、生きていると感じた。

 

その日以来、義姉さんとより親しくなり、寮生にはブラコン、シスコンと揶揄される事が多くなった。

 

 

 

「ふぅ~♪弟分も補充したし、いつものを頼むね♪」

 

抱き着いていたのに満足したのか、離れながら義姉さんはそう言い、ウインクをする。

 

そんな義姉にため息をつきながら…

 

「いいけど…。あんまりこれに頼らないで、ちゃんと寝て、ちゃん食べてよ?ちょっと痩せたでしょ?」

 

「いや、ダイエットって…「義姉さんに要らないよ。そんなもの」…悪かった。気を付けるよ。

ったく、フィリスといい…お前といい。義姉に対して説教ばかり…」

 

ブツクサいう義姉に苦笑いを浮かべ、手を翳し……

 

ホイミと呪文を唱えた。

 

 

「……ふぅ。終わったよ」

 

やはり疲労が溜まっていたのだろう。ホイミを終え、2割程度美人になった義姉さんから目をそらしつつ、告げる。

 

「やっぱいいな。見ろこの肌の張り、それに疲れも取れてるし……」

 

俺のホイミは大魔王の魔力がそうさせるのか、怪我の治療と体力の回復を同時に行える上に、美肌効果があったりする。

 

以前、仕事で疲れていた義姉を癒そうとホイミを掛けて以来、偶にお願いされるのだ。

 

転生の能力で使えるようになった呪文のうち一番使用している呪文である。

もともとはルーラ目当てで貰った能力だったんだけどなぁ。

 

「そういえば、父さんは?」

 

「ん?あぁ、耕介は私と入れ違いで買い物に行ったよ。耕二も連れて行こうか迷ってたけど、気持ちよさそうに寝ていたから起こさなかったみたいだね。私はお留守番」

 

「仕事はいいの?」

 

「ちょっと休憩さ。もうじき那美達が帰ってくる。それまでの間だけ。耕二を一人にして置くわけにもいかないだろ?」

 

今日は珍しくみんな居ないのか…。

 

いつもは、誰かしら居るのに。アルバイトで時間が不定期のさざなみの破壊王とか、締切に追われている酔いどれ漫画家とか。

 

「でも、耕二も明日から小学生か」

 

「正直、行きたくない。理由は推して知るべし」

 

「2回目か…いいじゃないか。遊べるのは子供のうちだけだ。精一杯遊んでおけば」

 

「それよりもこうやって縁側で久遠と一緒にいる方がいい。癒されるぅ~。」

 

「…まぁ、とにかく頑張れ。あまり耕介や愛を心配させるな」

 

「わかっているよ。どうしても耐えられなくなったら、ラナルータ使ってやる」

 

「……ちなみにそれを使うとどうなる?」

 

この後、ラナルータの効果を説明し、義姉さんが必死でやめるようにお願いされた。

 

 

 


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