移植してから三日。万華鏡写輪眼が馴染むまで、結局何も起こらなかった。自らが餌となって裏切りものをあぶり出す算段だったのだが、無意味に終わってしまった
無論、何も起こらなかったというのは裏切りものがいないということとも言え、喜ばしいことではあるのだが、個人的に、何か起こって欲しいという気持ちがなかったでもない。なんだかんだで暇が嫌いなのだ。
くるくると包帯を解きながら、オビトへ洗面所へと向かった。パッチリと目をあけて鏡を見る。そこには波紋模様の薄紫色の眼が写っていた。
「・・・・・・あちゃー。まだ夢の中だったか」
オビトは顔を洗って夢から覚めることにした。ぱしゃぱしゃとお湯で顔を洗い、タオルで顔を拭いてから再び鏡と対面する。やはりそこには波紋模様の眼が写っていた。
「・・・・・なんで?」
なぜ、オビトは自分が輪廻眼に目覚めたのかがわからなかった。輪廻眼の開眼条件は千手とうちはの両方の力を持つことだと思われがちだが、あれは黒ゼツが碑石に刻み込んだ嘘であり、真実は六道仙人が告げたように、インドラとアシュラのチャクラだ。オビトは柱間オリジナルを移植しているので、アシュラのチャクラを持っているとは言えるのだろうが、インドラのチャクラは持っていない。
そこまで考えたところで、いくつかの場面写が移り、オビトは一つの可能性に気づく。そう、荒唐無稽な話ではあるが。例えば、チャクラは繋ぐ力だ。なら、オビトがマダラを封印した際にオビトのチャクラをたどって、マダラの魂に憑依していたインドラがオビトに憑依したという可能性である。
これはオビトにとって最悪に近い可能性である。オビトは元々、輪廻眼に目覚めるつもりなどなかったし、その必要性すらなかった。それになにより、オビトの目的に一つである。兄弟喧嘩を止めるという目的が難しくなる。
オビトがマダラを封印したのは大蛇丸がマダラを穢土転生しないようにするためではない。マダラの魂ごと、インドラを封印することによって転生を防ぐためだ。そうすることで、アシュラの喧嘩相手を奪ってしまい、喧嘩を無理やり止めようとしていたのだ。
しかし解せない。仮にインドラがオビトに取り付いたとしても輪廻眼に目覚めるのが早すぎる。インドラはマダラの時に輪廻眼に目覚めている。ならば、その経験から次の個体であるオビトを輪廻眼へと開眼させたというのが自然だろうか?
どちらにせよ、達成したと思われた目的が復活しただけの話だ。ナルトを殺すつもりはないので、自らが死ぬ時に魂を封印してしまえばいいだけだ。やることの一つが後回しになった程度、大した問題ではないと自らに言い聞かせ、オビトは再び、動き始めた。
まず、抜き取った自らの写輪眼を確認する。当然、それには瞳力がない。どのような原理かはしらないが移植すると、万華鏡写輪眼は力を失いようだ。まあ、眼孔から離れても、チャクラによって眼球とはつながっているのかもしれない。どちらにせよ、これはもう使えない。これは実験材料の一つとして綱手に渡そう。
そして、オビトは輪廻眼に目覚めることによって得た新たなる力を解き放つ。
それは僅か三秒の出来事。
一手でカカシの元へと飛び、一手でカカシの意識を奪い、一手でカカシを抱え、一手で綱手の元へと飛んだ。
天ノ道
一言で言ってしまえば一秒を10秒にする力。
無論、弱点はある。使用可能時間は五秒。そして、その後オビトの過ごした時間から元の時間を引いた時間は能力は使用できない。つまり、五秒使えばその十倍の50から元の5を引いた45秒の間、能力は使用できない。尤も、神威のすり抜けがあるのでその程度の時間稼ぎはいくらでもできるのだが。
だが、この力があっても、オビトがミナトに勝つ方法は時空間に取り込んで餓死させるというものしかない。それほどまでに波風ミナトという忍は規格外なのだ、或いは完成している。
雷影がミナトをあそこまで評価したのも納得できるというものだ。
いきなり現れたオビトにポカンとしている綱手にオビトはカカシを引き渡した。予定通り、カカシに写輪眼を移植するためだ。本来はカカシに判断させたのだが、フガクが死んでしまったので、予定を変更した結果だ。
綱手にカカシを引き渡した後、オビトは家へと戻る。すると、猫ばあがよこしたであろう大鷲が荷物を抱えて待っていた。鷲の胸元にある手紙には刀の代金が書かれており、正直、大蛇丸からもらった金は一瞬にして消えてしまった。
箱の中には二本の刀が入っており、一本は所謂打刀。光の反射を抑えるために必要最低限の刃のみを研いだ、黒刀である。とは言ってもチャクラ刀ではあれど、特殊なものではない。忍が使う刀というものは、そのほとんどが黒い刀身をしている。むしろ、カカシの持つ白光の刀の方が珍しいのだ。
そして、もう一本は大太刀に分類される、長巻である。振る、薙ぐ、突くと汎用性があり、打刀がサブアームだとすれば、長巻はメインアームである。
くるりと長巻きを一回転させて、ブンと振る。その剣圧だけで僅かに床が割れた。
オビトは金が詰まったトランクを大鷲に持たせ、帰らせた。オビト本人は散財が趣味とも言えるので、これで貯金はすっからかんだ。また、短冊街で写輪眼を使ってスロットをする必要が出てきたので、オビトは小銭をもってそのまま家を出た。