二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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長らくお待たせしてしまいました。

後半部分を書き上げる夢を見たので、そのままの内容で入力しました。
内容に殆ど手直しがなかったというのが逆に面白いw

〝夢で拾ったハンドル〟ならぬ〝夢で書いた最新話〟

〝夢で拾ったハンドル〟って今時の子にはわからないネタかな……元ネタは初代PSの某ムサシがでっかい夏の冒険するゲームのみんなのトラウマことスチーム●ッドから。
それだけ追い詰められる感じがしたのかもw



遭遇する影

広く広大な海の上で駆逐艦の雪風は静かに空を見上げていた。

空は雲一つない快晴ではあったが雪風の心は嵐の前の曇り空の様に陰っていた。

それは危険かもしれない偵察任務に参加することになったからかーーーそれとも、つい一時間程前に岩川鎮守府の提督から聞かされた友人の状態が悪いものだったからか…。

 

「……ぜ、……雪風!!」

 

「あ、はわぁ!?」

 

ぼんやりと空を見上げていた雪風は背後からの声でハッと我に返った。

変な声を出してしまったことを恥ずかしく思いながら振り返れば仲間であり姉の駆逐艦陽炎が不機嫌そうな顔で雪風を睨んでいた。

 

「あ、その…ごめん!!考え事してて聞いてなかった……」

 

「はぁ……もう任務は始まってるんだから、気を抜いたら危ないでしょ?」

 

「……あうぅ」

 

「この任務が終わった後、みんなにクラムチャウダー作ってあげるつもりだったけど、これじゃ雪風の分は無しかしらねぇ?」

 

「えぇ!?そんなぁ、ゆるしてよ陽炎お姉ちゃん!!」

 

慌てて姉妹の元に走っていく雪風。

そんな2人を微笑ましく見つめる艦隊の仲間達。

艦載機を発艦させていた空母の翔鶴、瑞鶴も横目でその様子を見ていた。

姉妹艦による微笑ましいやり取りは見るもの全てに癒しと安心感を与えてくれる。戦場に立つ彼女達は常に気を張っているためこのような気の抜けるやり取りも重要な息抜きとなる。

特に空母の2人は索敵の為に常に緊張していたので肩に入っていた余計な力が抜けていくのを感じた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

雪風が無線機の先にいる人物から聞かされた内容はとてもではないが信じられない内容だった。

自分の憧れであり、新しい友達を得る機会を与えてくれた恩人の金剛が意識不明の状態で寝たきりになっている。

それは十数秒の間、彼女の意識を固めてしまうのに十分な衝撃だった。

 

なんで?

どうして?

金剛さんは助かるの?

原因は?

 

我に返った雪風が動揺して間髪入れずに捲し立てるも返ってきたのは小さな返事のみ。

 

ーーーごめんなさい、私達にも……詳しくはわからないの。

 

無力で、悔しくて、力不足を痛感した声。

ああ、この人も金剛さんを大切に思っている人なんだ、とそう思えば途端に高まった焦りが落ち着いてくる。

取り乱したことを謝り、雪風は鈴音提督から金剛に関する全ての情報を聞いた。その中にはあの特殊な深海棲艦を思わせる話もあった。

 

「あの…もしかしたら力になれるかも……」

 

弱々しく出た言葉と裏腹に、その目には力強い光が宿っていた。

今度は自分が金剛に恩返しをするんだと、雪風は空いている手をぎゅっと握りしめた。

 

そこからの雪風の行動は早かった。

最近現れたという新しい深海棲艦を調査するために呉鎮守府は大本営からの依頼で北方海域調査艦隊を編成中だったので、そこに自分を加えてもらえるように進言した。

雪風の練度に不満を言う者もいたが、いつになく真剣に頼み込む雪風の姿に驚く者が大半だった。

最終的には調査が主な目的であり、戦闘は極力避けるようにするつもりであったこともあって雪風は調査艦隊の一員として出撃することができた。

 

金剛を救うために北方棲姫と離島棲鬼を探す。

雪風の真の目的はこれだ。彼女達を探し出し、北方棲姫から指輪を返してもらう。

特殊な深海棲艦である彼女達は金剛が所属する岩川鎮守府と自分しかその存在を詳しく知らない。下手に情報を広めれば攻撃対象と誤認される可能性もある。

彼女達のことは秘密にしつつ、一人でその任務を行わなければならない。

呉鎮守府の仲間達を信頼していないとも言われかねない重たい選択であったが、雪風は迷いなくそれを選んだ。

もし自分が艦隊から逸れたあの日、金剛が縁を結んでいた彼女達に出会えなかったらきっと今の自分はいなかった筈なのだ。

一人で寂しく誰もいない島でその二度目の生涯を終えたり、他の深海棲艦に攻撃された可能性だってあったのだ。

 

今の自分は金剛のおかげで生きている。

ありがとう、ありがとう…。

また仲間の所へ帰してくれて、新しい友達にも会わせてくれて、この二度目の生を生きる時間をもっと与えてくれて、本当にありがとう。

何度言っても足りない感謝の言葉と親愛の証として、雪風は海へ出ることにしたのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

こっそりと耳にあてた通信機に意識を向ける。

金剛と北方棲姫と自分だけが持つ特殊な通信機。そこからはノイズが絶え間無く聞こえてくる。

 

「やっぱり、反応がない…」

 

鈴音提督から金剛の話を聞いた直後、雪風は真っ先にこの通信機を使用していた。

こっそりと北方棲姫や離島棲鬼と話ができるこの特殊な通信機は金剛とはじめて出会った時に渡されたものだ。

傍受されることを危惧して頻繁には使っていないが、他愛のない話や海域の様子を確認するのに使用していて通信が繋がらなかったことは一度もない。それが今は不穏なノイズの音しか発していない。

通信を妨害されているのか、それとも相手が通信に出ることができないのか……詳しくはわからないが後者の場合は彼女達の身に何かあった可能性が高い。

焦る気持ちを冷静な気持ちで押さえつけた。

落ち着け、と自らに言い聞かせる。今自分が取り乱しても何も変わらない。無駄な時間を使うだけだ。それなら、その時間は少しでも前に進むために使う方がいい。

深呼吸して息を整える。艦隊の仲間はそんな雪風を不思議そうに見ていたが、すぐに前方へと視線を戻した。

 

「………ん?」

 

その時だった。

瑞鶴の偵察機に乗る妖精さんからの通信が入った。

 

『ーーーっ!!ーーーーーー!?』

 

「……え?今、何て言って……ちょっと、どうしたの!?」

 

しかし、その様子はあきらかにおかしく、言葉は支離滅裂で要領を得ないものばかり。

最後にはいきなり回線が遮断された。異常な雰囲気を瑞鶴は感じ取っていた。

隣にいた翔鶴がその様子に気付いたのか瑞鶴の肩に手を置いた。

 

「瑞鶴、どうしたの?」

 

「わからない、急に通信が来たと思ったら……え?」

 

瑞鶴の感覚は偵察機が1機喪失したことを感じ取った。

最後に送られてきた妖精さんからの通信はたったの一言だけ。

 

『ーーー異常事態発生』

 

ぞくり、と背中に嫌な感覚が走ったのを瑞鶴は感じ取った。

すぐに全ての偵察機を呼び戻す指示を出すと、艦隊の仲間へと振り返る。

 

「全員、戦闘準備!!偵察機が1機落とされた、北東の方角よ!!」

 

「ーーっ、了解!!」

 

「り、了解です!!」

 

瑞鶴の声に雪風達は艤装の動力の稼働率を上げる。

すぐにでも戦闘が始められる様に弾薬等の最終チェックを始めた。

 

「翔鶴姉は偵察機の半分を北東の方角に向かわせて!!私の偵察機は一度戻して戦闘機に換装するわ!!」

 

「瑞鶴、何か見つけたの?」

 

「わからない、でも嫌な予感がするの」

 

「……わかったわ」

 

瑞鶴の不安げな顔に翔鶴もすぐさま行動に移った。

自らの偵察機に指示を出して半分の数を北東方向へと向かわせる。

同時に護衛の駆逐艦のメンバーに敵の潜水艦を警戒したソナーによる探索の指示も行っておく。

 

「敵の艦隊との戦闘が予測されます。駆逐艦のみんなは潜水艦を警戒して海中への索敵もお願いね!!」

 

「了解!!」

 

「水中用の探索艤装は雪風が持ってきてたわよね?」

 

「は、はい……既に起動してますけど今のところは反応ありません!!」

 

艤装から顔を出した妖精さんが首を左右に振って敵影なしと報告してきたのを確認した雪風が瑞鶴に頷いてみせた。

 

「わかった、そのまま警戒は続けてちょうだい」

 

「はい、了解です!!」

 

「……さて、と」

 

手元に帰ってきた偵察機を着陸させた瑞鶴が手を振ると偵察機達が一瞬で矢の姿に変化した。

それを矢筒へと戻した後に戦闘機と爆撃機へと装備を切り替えて引き抜くとすぐさま空へと放つ。

 

「みんな、休みなしの再出撃になっちゃうけど頑張って!!」

 

飛び立った艦載機達へと声をかけた瑞鶴の横で翔鶴の偵察機からの報告が入る。

 

「……北東の方角に敵艦隊発見よ。距離はまだ遠いけど駆逐艦3隻に軽巡2隻、通常の空母ヲ級が1隻ね」

 

「空母がいるのね。でも通常個体1隻だけなら私達の方が有利ね、さっき撃墜してきたのはこのヲ級かしら……翔鶴姉も最低限の偵察機を残して残りは換装しましょう」

 

「……ちょっと待って」

 

制空権の心配はないと一安心した瑞鶴へと翔鶴が静止の合図を出す。

訝しむ瑞鶴を静止したまま翔鶴は真剣な顔のまま偵察機からの報告を聞いていた。

 

「この艦隊、動きがおかしいわ。瑞鶴の偵察機を撃墜したならこちらの存在を警戒して向こうも艦載機を飛ばしている筈よ。それなのにその艦載機は見当たらず、こちらへの警戒はまったく無いし陣形も組んでいない……ただ一直線に進んでいるだけね。まるでーーー」

 

「……何かから逃げてる?」

 

翔鶴の言葉の続きを瑞鶴が呟く。

陣形も組まず、一目散に海上を移動する深海棲艦達の姿は明らかに逃走中と表現できるような動きだった。

 

「別の鎮守府の艦隊かしら?」

 

「でもそんな報告は受けてませんよ?」

 

「この海域で今日は私達以外の出撃はないと司令も言ってましたし……あれ?」

 

訝しむ艦隊のメンバーを横目に雪風のソナーに僅かだが反応があった。

反応は小さいが徐々にこちらに近づいているように感じる。

雪風の顔がサッと青くなる。

 

「す、水中に反応ありです!敵の潜水艦かも!」

 

「まさか、さっきの艦隊は囮?……雪風、反応の数は?」

 

「小さな反応が1つだけですけど、こっちに近づいて来てます!!」

 

ソナーの反応が徐々に近づいてくるのを感じながら、雪風は潜水艦用の対潜水装備の艤装を展開した。

他の駆逐艦達も装備を切り替えて水面を睨み付ける。

 

「今回は偵察が主な任務だったから対潜装備は万全じゃないけど、敵が1隻なら余裕ね」

 

「陽炎、油断は禁物よ。フラグシップ級の潜水艦だったらどうするの?」

 

「……う、ごめんなさい」

 

隣で会話している姉妹達の声を聞きながら雪風はソナーに集中していた。

距離はまだ射程外だが独特の気配から深海棲艦の潜水艦だと確信する。

敵の魚雷の射程は相手が通常個体か強化個体なのかで変わってくるがそろそろ回避行動の準備をしておかなければならない。

 

「みんな、そろそろ敵の攻撃がーーー」

 

仲間達への警告の為に声を出した瞬間、ソナーから敵の反応が消失した。

 

「……あれ?反応が消えて……え?」

 

そして、すぐに別の反応が現れる。

しかし、その反応があまりにもおかしくて雪風は言葉を無くしてしまった。

 

「な、なんなの……これ…っ!?」

 

「雪風?どうしたの?」

 

「み、みんな……撤退…撤退しよう。……だって、だっておかしい……こんな反応があるなんておかしい…っ!?」

 

「ちょっと、雪風!?どうしたの!?」

 

雪風のソナーを担当していた妖精さんのモニターには消失した反応があった場所に突然別の反応が現れていた。

通常、潜水艦を発見した場合、その反応を表す小さな点がソナーには表示される。そこから深度や大きさを読み取っていく。

 

しかし、今ソナーに映る点は〝巨大〟だった。

 

通常の反応の3倍以上はあるかという巨大な点が映し出されていた。

それはそれだけの大きさをもつ物体がそこにいるということ。

その大きさは姫級や鬼級と比べても大きすぎる。

 

「こんな大きな深海棲艦見たことない!!絶対に戦っちゃだめ!!撤退しよう!!」

 

「ちょっとその画面見せなさい!!……嘘でしょ、故障じゃないわよね、この反応!?」

 

横から覗き込んできた陽炎もサッと顔色を変える。

彼女達だけでなく、これまでの作戦記録のどこにもこんなサイズの敵艦を記録した資料は無かった。

 

「総員撤退!!これ以上は危険よ。翔鶴姉もそれでいいわよね?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

その後、雪風達はすぐさま撤退して鎮守府に帰還。その詳細を報告した。

その内容から目撃情報がある新型の深海棲艦の可能性が高いと判断され、全ての鎮守府へと連絡が伝わった。

 

その3日後、別の艦隊が目撃情報があった近海を調査したが新型の深海棲艦の姿は発見されなかった。

そのかわり、大量の通常個体の深海棲艦の残骸が浮いているのが発見された。

そのどれもが食いちぎられたかの様な無残なものであり、全ての鎮守府へと不安を残すことになった。

 

その残骸の中に瑞鶴の艦載機の残骸も混ざっていたことに気がつく者はいなかった。

 

 

 

 

 


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